第15羽 方向音痴、シブヤダンジョン完全攻略!! ──えっ、ダンジョンコアでスキルが暴走!?
〜シブヤダンジョン深層・ボスのいるフロア〜
≪バリアシールドドラゴンから
ミスリルブレードを獲得したにゃ♪
これも爪研ぎするのによさそうにゃ!≫
あの銀色のドラゴン、バリアシールドドラゴンって名前だったのか。どうりで攻撃を反射してきたわけだ。
──あいつも、紛れもない強敵だったな。
俺は少しだけ礼をする。
▽『あとはダンジョンコアの封印を残すのみか』
▽『他のダンジョンと同じなら深層クリアでダンジョンコアに辿り着ける筈なのだ』
▽『迷子になるなよカラスくんw』
▽『おいフラグ立てんな』
「心配すんなって。俺にはクロネと、お前達リスナーがついてる。だろ?」
▽『泣けること言ってくれるじゃん』
▽『これもまたひとつのてぇてぇだな』
心からの言葉だ。
実際初めての場所にも関わらず、クロネとリスナーのおかげでダンジョンコアのある部屋までは迷わず辿り着けた。
円形のドーム状の部屋。
サイズも丁度、トーキョードームくらいだ。
ドームの端には数匹のモンスターが居たが、襲ってくることもないため無視する。
そのドームの中央、純白の台座の上に、怪しい光を放つ水晶が浮いている。
「これがダンジョンコアにゃ?」
「実物を見るのは俺も初めてだけどな」
「なんだか見てると吸い込まれそうな不思議な感じだにゃ……」
「うん」
「でも綺麗だにゃ」
「そうだな」
▽『俺もダンジョンコア生配信で見るの初めて』
▽『なかなか見られるもんじゃないよね』
▽『ほんとに綺麗だよな』
▽『でも少し不気味さというか怖さもある』
▽『そこがまた魅力的なんだよ』
俺達は暫くの間、そのなんともいえない美しさに魅入っていた。心が惹きつけられる、心地良い光だ。
この光を永遠に見ながら感慨に耽っていたかった気さえするが、そうも言ってられない。俺達はこのダンジョンをクリアしにきたのだから。
「それで、どうやって封印するにゃ?」
「他のダンジョンクリア者の動画だと、コアを台座に押し込めればいいみたいだ」
コアを台座に封印するとダンジョンクリア。倒したモンスターも復活しなくなる。トラップもすべて停止し、ダンジョン内の資源も安全に回収できるようになるってわけだ。
▽『ダンジョンマスターになるのもいいぞ!』
▽『それもあったか』
▽『魔王プレイとかできるもんね』
▽『カラスくんはどうしたい?』
コアに血と魔力を注ぎ込めば、ダンジョンマスターになれる。ダンジョンに対する支配力はこちらが上だが、他のダンジョンに入る事ができなくなるというデメリットがある。
「俺はダンジョンマスターは遠慮しとくよ。まだまだ他のダンジョンに挑みたいし、方向音痴がマスターやってるダンジョンなんて怖くて誰も来たくないだろ」
そういうわけで、俺はダンジョンコア封印を進めることにした。台座の横に立ち、コアに触れる。ひんやりとして冷たい。が、その奥に途方もないエネルギーを感じる。
「一緒にやろう、クロネ」
「いいのにゃ、ご主人?」
「あたりまえだろ。俺達はパートナーなんだから」
「にゃるふふっ、わかったにゃ♪」
▽『こんなのもうケーキ入刀じゃん』
▽『てぇてぇだな…』
▽『イチャイチャ助かる』
▽『しかしマジでクリアかあ』
▽『トップニュースでしょこれ』
▽『とっくにトレンド一位だぞ』
▽『つか友達起こしたわ』
▽『ここか、祭りの場所は?』
▽『ダンジョンクリアの瞬間なんてなかなか見れないからな』
▽『教科書載るかもなあ』
▽『教科書をなんだと思ってるんだ』
リスナーがワイワイと騒ぐ中、クロネは俺の隣に立つ。そして俺の手に少し重なるように、ダンジョンコアに触れた。
≪ダンジョンコアを獲得したにゃ♪
転がして遊んだら楽しそうにゃ!≫
「え、あれ? 猫の霊さん?」
「にゃらはははっ、みんな、コレはアイテムじゃないから拾えないにゃよ〜w」
びっくりした。どうやら猫の霊さんが勘違いしてしまったようだ。鑑定スキルでも間違える事があるなんて、かわいいな。
──そう思ったのも束の間。
ダンジョンコアはコロリと転がって地面に落ち、パリンとガラス玉のように砕け散った。
「は」
「にゃ?」
▽『えっ』
▽『えっ』
▽『え?』
▽『え……?』
▽『あれ? コア落ちた?』
▽『コア砕けてね?』
▽『あーあ、やっちまったなカラスくん……』
「いやいやいやいや、これ絶対に俺のせいじゃないよね!? 俺は悪くないよねぇ!?」
「…………もしかして、うちのせいでにゃ…………?」
「ハッ────!? い、いやいや、俺が力入れ過ぎたのかも……うん、きっとそうだ!」
いくら力を入れても、ダンジョンコアが台座からズレるなんて話は聞いたことが無い。タイミングからいって猫の霊がコアに何かしらの影響を与えてしまったのだろう。
しかし迷惑をかけてしまったのかとしょんぼりしているクロネに、そんな事は口が裂けても言えない!!!
「ほら! ダンジョンコアだって未知のことが多いし、これでクリアになるかもよ?」
「にゃあ……」
「あっホラ、あそこ見てクロネ! モンスターが次々と消えてる! きっとクリアしたからだよ!」
ドームの端にいたモンスター達が、霧となって消えていく。正規のやり方ではないが、きっとダンジョンをクリアしたから────────
────いや違うぞ!?
ダンジョンをクリアしただけならモンスターは消えるのではなく、復活しなくなるだけの筈だ! それが何故か、撃破されたときと同じように消えている。
▽『なんでモンスター消えてるの!?』
▽『これって倒された扱いになってるのか?』
▽『コアが壊れたせいでエネルギーが失われてる?』
▽『この部屋だけ?』
▽『いまシブヤダンジョン潜ってる他の探索者とか居る?』
▽『俺潜ってたよ。中層だけど目の前でモンスターが勝手に死んでる』
▽『コアが壊れるとこうなるのか』
リスナーも予想外の事態にどう反応したらいいか困っている。微妙な空気になってしまったが、クライマックスは深層ボスのドラゴン撃破だったしそこは勘弁してもらおう。
俺達の仕事は、まだ残っている。リスナーに向かって頭を下げる。
「え〜と。少し予想とは違う感じになってしまいましたが、シブヤダンジョンクリアです! 昨日から明け方まで応援してくれたみんな、本当に、本当にありがとうございましたっ!」
「ありがとうございましたにゃ!」
▽『クリアでいいの?』
▽『モンスターが消えてるならむしろクリアより上かもよ』
▽『難しいことはダンジョン協会に任せていまは祝おうぜ!』
▽『そうだな、おめでとう!!」
▼『クリアおめ!!』50000円
▼『888888』50000円
▼『おめ』8888円
▼『いいもの見れたよ!』50000円
▼『ダンジョンコアの弁償代』50000円
「それではみなさん、次回の配信で────」
しかし予想外の事態は、まだ続いた。俺が配信終了の挨拶をしようとしたとき、再び猫の霊の声が聞こえたのだ。
≪キューカンバースライムから
きゅうりポーションを獲得したにゃ♪
……飲みたくないにゃ!≫
…………ん?
キューカンバースライム? きゅうりポーション?
今度はどうしたんだ??
そんなの倒してないし、拾ってもいないぞ──?
念のためアイテムボックスを確認した俺は、遅れて衝撃を受けることになる。
きゅうりポーションは、アイテムボックスに入っていた。
当然、自分で買ったわけでも、道中で獲得したわけでもない。首を傾げていると、1匹の猫の霊がふわふわと去っていくのが見えた。
ひょっとしてきゅうりポーションは、あの子が持ってきてくれたのか──?
≪さまよう鎧から
銅の盾を獲得したにゃ♪
これは座布団にするにゃ!≫
えっ。
≪宝箱から
鉄のまきびしを獲得したにゃ♪
……チクチクするからいらないにゃ!≫
えっ。
えっ?????
▽『これなにが起きてるの?』
▽『いまアイテム拾った?』
▽『いや二人とも動いてない』
▽『クロネちゃんのスキル暴走してない?』
▽『ダンジョンコアに触った影響?』
ま、まさかこれ、シブヤダンジョンにあるアイテムを、根こそぎ回収してきてるんじゃ────!?
クロネの顔を見ると、俺と同じようにきょとんとしている。
「大丈夫かクロネ? 身体に不調とか無い?」
「う、うん。……うち、なにかやっちゃいましたかにゃ……?」
「いや、いいんだ! お前が元気ならそれで! うん!」
≪ロックゴーレムから
ロックハンマーを獲得したにゃ♪
お月様みたいにまんまるだにゃ!≫
≪ゴールデンベアーから
パワーリボンを獲得したにゃ♪
赤くてキレイだにゃ!≫
≪宝箱から
クイックハーブを獲得したにゃ♪
葉っぱよりもお魚がいいにゃ!≫
≪ソードシュリンプから
鋭い攻殻を獲得したにゃ♪
つまみ食いしたのはナイショにゃ!≫
≪黒い宝箱から──────
──────
────
……
…
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