第14羽 方向音痴、シブヤダンジョン深層を攻略!! 深層ボスとの決戦、そしてついにダンジョンクリア!?
〜シブヤダンジョン深層・ボスのいるフロア〜
アカリさんを弔った俺達は、リスナーに道を教えてもらいつつボスのいるフロア前まで戻ってきた。マッピングに協力してくれるリスナー達に、そして午前4時を過ぎても応援してくれるリスナー達には感謝しかない。
彼等に報いるためにも、この戦い負けられないな。
いよいよシブヤダンジョン攻略も大詰めだ。
深層ボスは誰も挑んだことのない未知の敵。これまで戦闘面では苦戦も少なかったが、今回ばかりは激戦の予感に武者震いがする。
「さあ、行くぞ!」
俺達は満を持して扉を開いた。
グルォォオオオオオオオ
威嚇するような咆哮に思わず耳を塞ぐ。
巨大な翼とトカゲのような胴体。鋼を思わせる鱗。
俺の背丈ほどもある爪。獰猛に裂けた口。岩ほどの牙。
間違いない。
これまでで最大最強のモンスターだ。
▽『深層ボスきちゃ!』
▽『ドラゴン!?』
▽『でかいって!!』
▽『威圧感やばい』
▽『でも美しいな……』
▽『全身銀色で鏡みたい』
▽『まさにラスボスって感じ』
▽『耐性はあるの?』
▽『なんもわからん!!』
▽『単純に強そう』
▽『戦いながら情報を集めるしかないのだ』
銀のドラゴンは大口を開いて仰け反ると、空気を思い切り吸い込む。嫌な予感がした俺は、クロネを抱えると"鴉翼"で跳躍力を上げて飛び退いた。
ゴバァアアアアアアッ
直後、俺達の足元にドラゴンブレスが放たれる。
飛び上がっていても感じるほどのすごい熱気だ。地面が燃え、岩が溶けている。あんなもん食らったら骨も残らないだろう。
▽『火力やべえな』
▽『こんなの避けなきゃ即死じゃん!?』
▽『怪獣映画かよ……』
▽『あっちゅ! あっちゅ!』
▽『ブレスは危険、覚えた』
▽『よくダンジョン壊れないな』
だがその高過ぎる威力が仇となったか、俺達の事は見失ったらしい。無理もない。向こうからすれば爪ひとつ分のサイズだからな。
俺とクロネは壁を蹴り、悠々とドラゴンの背に着地する。まるで小型のジェット機だ。だが、ここならブレスも爪も牙も届かない。
「瓦割り&発勁!!!」
足元のドラゴンに拳を叩きつける。リトルクラーケンを一撃で葬り去った、防御貫通の打撃だ。狙いは心臓。
しかし──
「うわっ!?」
「ご主人っ」
俺の拳は勢いよく弾き返される。バランスを崩して落ちそうになった俺を、クロネが慌てて掴んで止めてくれる。
▽『あれ!?』
▽『打撃効かないのか!?』
▽『でもなんでカラスくんが吹っ飛ばされたんだ?』
▽『またしても物理無効!?』
「わからない……けど、殴った瞬間、同じ力で吹き飛ばされたような気がする」
「うちも試してみるにゃ、ネコノタタリ!!」
にゃあー!
にゃあー!
にゃあー!
にゃあー!
猫の姿をした青い炎が、銀色の鱗に着弾した。
しかし次の瞬間、俺の攻撃と同じように弾き飛ばされてしまう。
にゃあ……
にゃあ……
にゃあ……
にゃあ……
「ああっ、みんな、ごめんにゃあ!」
猫の炎は少し悲しそうな鳴き声をあげて消滅した。ちょっと可哀想だったな……。銀の鱗は相変わらず傷ひとつなく、鏡のように周囲の景色を反射している。
反射────か。
「もしかしてこいつの鱗、俺達の攻撃を反射するんじゃ……」
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シブヤダンジョン深層ボス
バリアシールドドラゴン
能力:攻撃反射・ブレス
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もしそうだとすれば、銀の鱗の無い箇所、例えば一か八か口にでも飛び込んで倒すしかない。そんな事を考えていた時だった。
グルォォオオオオオオオ
ついに恐れていたことが起こった。ドラゴンが俺達に気づき、背中から振り落とそうと激しく飛び回り始めたのである!
俺とクロネはなんとか背中の鱗に捕まり、落とされないように耐える。まるで絶叫マシン。まともに動くことすらままならない。
▽『やばいやばいやばい』
▽『落ちたら死ぬぞこれ!?』
▽『絶対手離さないで!!』
5分ほどロデオに耐えたところで、ドラゴンは穏やかに旋回し始めた。疲れたのか、それとも俺達が落ちたか分からないので探しているのか?
……どちらにせよ、こんな不安定な場所にクロネを置いて、頭部まで行くのは……。
▽『やっぱ鱗を貫くしかないか』
▽『けど攻撃は反射されるぞ』
▽『ドラゴンスレイヤーならダメージ通ったりしない?』
▽『さっきドロップしてたよね』
▽『それに掛けてみるか──』
「いや。せっかくの提案はありがたいけど、それはできない」
▽『えっ!?』
▽『なんでや』
▽『ドラゴンスレイヤーでドラゴン斬らなくてどうするんだよ』
▽『多分アカリさんの遺品だから壊したくないってことなのだ』
リスナーのひとりが俺の心を汲んでくれた。
「そうだ。あの剣は既にボロボロだった。一回使えば折れてしまうだろう。あれは、彼女のパートナーだったリスナーに渡さなきゃいけないものだ」
▽『俺はそんなもの受け取らないぞ。それはそのドラゴンを倒すのに使うべきだ』
「お前、なに言って────うわっ!?」
悠長に話していると、ドラゴンがまたロデオ飛行を再開した。俺はなんとか背中にしがみつきながら、リスナーに反論する。
「ドラゴンはまだ、他に倒す手があるかもしれないだろうが!!」
▽『いいからはやく使え! 背中から振り落とされるぞ!』
「アカリさんは死体も、鎧も、霧になって消えちまった! このダンジョンで生きていた痕跡は、跡形もなく消えたんだ! 彼女の遺品と呼べるものは、あれだけしか残ってねえんだよ!」
▽『アカリはそんなこと望んでいない』
「そんなのわかんねえだろ!? 剣だけでもお前のところに帰りたがっているかもしれないじゃあないか!!」
▽『いいやわかるさ。あいつは致命傷を受けて逃げ帰るときでさえ、ダンジョンに止まれない事を悔しがっていた。誰よりもこのシブヤダンジョンを攻略したがっていたんだ』
背中の揺れが、少しだけ静かになる。
彼の言葉で、ようやく俺も理解できた。
アカリさんは悲劇のヒロインなんかじゃあない。俺達と同じだ。危険を承知で自ら命懸けの冒険に挑んだ、探索者だ。
▽『頼む。アカリも一緒に戦わせてやってくれ』
「わかったよ。──アカリさん、力を貸して貰うぞ!!」
やるなら揺れが再開する前だ。アイテムボックスからドラゴンスレイヤーを取り出し、巻いてあった上着を投げ捨てる。
俺は両手でグリップを握り、剣先を下に向ける。狙うのは鱗の隙間だ。
しくじれば終わりだ。無駄に剣を失い、怒ったドラゴンが暴れて今度こそ俺達も振り落とされるだろう。足元は不安定で揺れも大きい。
チャンスは一度きり。外すわけにはいかない。緊張で手が震え、冷や汗が額から流れ落ちる。
「ご主人」
「クロネ……」
クロネの小さな手が、俺の両手に添えられる。
温かい。自然と手の震えがおさまった。
「うちも一緒にゃ」
「ああ。いくぞ!!」
「にゃんっ!!」
銀色に光る鱗の隙間に狙いを定め、一気に振り下ろす。
反射は、されなかった。重たい感触と共に、ドラゴンスレイヤーの刀身は巨大な肉に沈み込む。
ギャァアアアアアアアア
呻き声をあげて暴れるドラゴンの背にしがみつく。
ドラゴンスレイヤーは根元まで突き刺さっている。ドラゴンの巨体からみれば小さな鉛筆が刺さった程度のサイズ比だろうが、ドクドクと血が噴き出し鱗を赤く染めている。太い血管を貫いたのだろう。
竜殺しの剣という名や伝承が剣に特殊な力を与えているのか、それとも、アカリさんの執念がドラゴンに届いたのか、あるいはその両方か。
致命傷には至っていないが、成果は充分だ。
俺は両足を踏ん張って仁王立ちになる。突き刺さったままの剣。そのグリップの背に向けて、拳を構える。
「これで──トドメだァアッ!!」
▽『うおおおおおおおおお』
▽『いっけええええ!!』
▽『頼む! これで倒れてくれ!!』
▽『いっけえええええええ!!』
▽『ぶちかませええええええええ』
▽『やっちゃえ!!!』
▽『っしゃあああああああああ』
▽『やったれええええええ!!』
グリップの背めがけて、全身全霊の発勁を叩き込む。拳の衝撃は剣を通して、ドラゴンの皮膚の内側、血管の内部に放たれる。
ドラゴンスレイヤーは──粉々に砕け散った。
グギャガアアアアアアアッ
銀のドラゴンは苦しそうに血を吐き、頭から地に落ちる。俺とクロネは鴉翼で素早く危険地帯を脱出した。
グガアアア……アァ…………
ドラゴンは地面の上でしばらく暴れていたが、やがて動かなくなり、輝く霧となって消滅した。
勝った。
俺達はついに、深層ボスを撃破した。
「終わったよ。クロネ、リスナーのみんな、アカリさん」
「にゃ」
「────勝ったぞおおおおおおおおおおおおッ!!!」
「にゃああああああああああああああッッ!!」
▽『よっしゃああああああああああああ!!』
▽『おめ!!』
▼『おめでとおおおおおおおお』50000円
▽『8888888』
▽『888888888888』
▽『すげええええええ!!』
▼『SUGEEEEEEEEE』50000円
▽『ありがとおおおおお!』
▽『ありがとう』
▼『感動で画面が見えねえ…』50000円
▼『つハンカチ』50000円




