表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/83

第13羽 方向音痴、シブヤダンジョン深層を攻略!! 首を求めて彷徨う亡霊、デュラハンとの死闘!

 〜シブヤダンジョン深層〜


 隠し通路を発見しモチベーションMAXになった俺達は、着々と深層を攻略していた。リスナー達が隠し通路の法則に気づいてくれてからは、驚くほど順調に攻略が進んだ。

 どうやら隠し通路のある幻影(フェイク)壁は、向かい側の壁の色がほんの少しだけ薄くなっているらしい。俺も薄い色の壁は調べていたが、まさか向かい側が幻影(フェイク)壁になっていたとは。いやらしいヒントだが、ノーヒントよりずっとマシだ。


 そして、隠し通路を見つけてから2時間後。


「ついに深層ボスのいるフロアの扉だ!」


▽『おおおおおおおおお!!』

▽『ついにキター!!』

▽『きたあああああ!!』

▽『ここまで長かったなあ……』

▽『まだ終わりじゃないぞ!』


 ここまで長かった。

 一度は挫折し、諦めかけた。

 だけど皆のおかげで、ここまで辿り着けた。


 俺は深呼吸をして、ゆっくりと扉を押す。

 緊張の一瞬────




「ご主人! 危ないにゃっ!!」

「え!?」


 クロネの声に思わず扉から飛び退く。まさに間一髪、頭上から振ってきた人型モンスターの武器が鼻先を掠めた。髪が数本切れ、土埃が舞い上がる。


 こいつ、扉の上で待ち伏せしてやがったのか!?

 心臓がまだバクバクと鳴っている。

 恐ろしく鋭い斬撃だった。まともに食らえば、致命傷は避けられなかっただろう。……寿命が縮むかと思った。


 土煙が晴れ、敵の姿があらわになる。

 両手剣を持つ、真っ赤な、細身の全身鎧(フルアーマー)の騎士。

 そして首から上は、ぽっかりと虚ろな空間が開いている。


 首の無い騎士。

 もしかしてこれが、デュラハンってやつか?

 だけど、ただのデュラハンにしては、なにか違和感が──



   オオオ……オオオ……



 ──って! 流石に悠長に考える時間はくれないか!


「カラスキック!!」


 俺はすぐさま前蹴りを放つ。デュラハンが剣を振るうより先に、鎧を粉々に打ち砕いた。文句なしの一撃。

 しかし、決着はしなかった。



    オオオオオオ……!


 

▽『え!?』

▽『再生してる!?』

▽『また物理無効かよ!?』


 砕けた鉄の欠片が一箇所に集まっていく。

 瞬く間に元のデュラハンの姿に戻ってしまった。


「それならネコノタタリにゃ!!」



    にゃあー!


         にゃあー!

  にゃあー!


       にゃあー!



 デュラハンは青い炎に包まれる。しかしその火炎魔術は、剣のひと薙ぎで振り払われてしまった。デュラハンは涼しい顔で(顔は無いが)立っている。

 こいつまさか、不死身なのか!?


「いったん退くぞ!」

「はいにゃ!」


 俺とクロネは、隠し通路を通ってデュラハンから距離を取る。



   ……ガシャ……


      ……ズル……



 鎧を引きずるように追ってくる。どうやらデュラハンの移動速度はそこまで速くはないらしい。

 俺達はいちど、物陰で息を潜める。


 だけど、どうする? 

 倒せないならこのまま素通りするか?


 ──いや。こいつの斬撃は脅威だ。深層ボスがどんなやつかもわからないのに、このまま放置して進むのはあまりにも危険過ぎる。


 やはりここで倒すしかない。

 だけど、死なない敵をどうやって──?


 思い悩む俺の目に、あるひとつのコメントが留まった。




▽『アカリ、なのか?』




 ────アカリ?

 なんだ、どういう意味だ?

 灯りをつけろ、ってことか??


▽『アカリって?』

▽『光?』

▽『スマホの光とかあててみる?』

▽『ごめん違うんだ』




▽『アカリっていうのはあのデュラハンの事だ』



 ──それからそのリスナーが語ったのは、あまりにも信じがたく、壮絶で、哀しい物語だった──。




▽『アカリは、俺と同い年の少女だった。同じ高校に通っていた俺達はコンビを組んで、シブヤダンジョンを攻略しようとしていたんだ。俺達は気もあったし、コンビネーションも最高だった』


▽『なにより俺は、いつも彼女の笑顔に元気付けられていた。素晴らしいパートナーに出会えたと思った。丁度、いまのカラスくん達みたいに』


▽『配信映えのするスキルでも無かったし、トークも苦手だったから、ネット評価は低かった。だから知ってる人は少ないと思う。けど実力はAランクと遜色なかった。どんな困難にも負ける気はしなかった。俺達はついに下層ボスを倒し、深層に挑んでいた』


▽『だけど神様は、俺達に味方をしなかった。疲労と焦り、緊張と油断、なにがいけなかったのかは今でもわからない。俺達は運悪くトラップに嵌ってしまった。俺はアカリを抱えて脱出しようとしたが、深層を出る直前でモンスターに襲われて、そのまま……』


▽『それからアカリの死体は、発見されていない。だけどあのデュラハンの鎧も、剣も、そのときアカリが身につけていたものと寸分違わず同じなんだ。見間違うはずがない』


▽『彼女は、アカリは、首の無い死体になって、未だ迷宮を彷徨っているのかもしれない』




 ──デュラハンと対峙したときに感じた違和感の正体に、俺はようやく気づいた。

 彼女の鎧には、攻撃を受けたときについたような傷がいくつもあった。モンスターの爪や牙、トラップで傷ついたような痕が。

 この傷が"生前につけられたもの"だとすれば納得はいってしまう。


 じゃあ本当に、死んだ探索者がモンスターになってしまったってことなのか!?




「──ご主人!!」

「なっ──!?」




    オオオオオオ……!



 正面からデュラハンが現れ、息つく間もなく現実に引き戻される。俺はまたギリギリで剣を躱した。


▽『あっぶなぁ!』

▽『いつ近づかれたの!?』

▽『見えなかった……』

▽『鎧重いんじゃなかったのかよ!?』


 リスナーの言う通りだ。重い鎧を着たデュラハンが、ここまで接近しないと気付けないなんておかしい。警戒心の強いクロネもいたのに。


▽『そうだ、アカリは"縮地"スキルを持っていたんだ。瞬間移動で速度をカバーしていた。デュラハンになっても、その戦い方を覚えているのかもしれない』


 先に言ってくれというのも酷な話だ。

 だけどやっぱり、このデュラハンはそのアカリという探索者がモンスターになってしまったと考えて間違いなさそうだ。




 ──だとしたら、それを配信に乗せるのは──




「悪い、みんな! 一回配信切る! また後で再開するから!!」


 勝つにしろ負けるにしろ、こんな戦いは配信で晒すべきじゃあない。俺はデュラハンから少し距離を取り、配信終了のボタンに指を伸ばす。


▽『待ってくれ! 俺の話を聞いてくれ』


 寸前で俺を止めたのは、アカリの話をしてくれたリスナーだった。



▽『アカリは鎧と同じ色の、真っ赤な兜を被っていた』


「真っ赤な兜──それがどうかしたのか?」


▽『デュラハンは、無くした頭を探して迷宮を彷徨うモンスターだ。頭部を見つけて破壊すれば、倒せるかもしれない』


「────っ!! それは──」


▽『アカリが力尽きたのは、深層から下層に上がる直前だった。もしかしたら彼女の頭部も、その近くに』



 俺は理解してしまった。

 このリスナーが、デュラハンになってしまった少女の相棒が、俺になにを言おうとしているのかを。 



▽『頼む。アカリを、眠らせてやってくれ』


「──わかった。約束するよ」



 そう彼に誓った俺は、今度こそ配信を終了する。


 周囲に投影されていたコメントが、消えた。

 それだけで、ここはこんなにも静かで、孤独な場所だったのかと思い出す。

 


「"鴉帰り"!!」


 今日二度目の"鴉帰り"だ。

 一度目は挫折し、立ち上がるため。

 そして二度目は、戦うために!



     ギャアッ


      ぎゃあっ


       ぎゃアッ



「一度下層の直前まで戻る! デュラハンの頭部を探すぞ、クロネ!」

「はいにゃ、ご主人っ!!」


 俺達はデュラハンの奇襲に警戒しながら、カラスの鳴く方向へと全速力で駆ける。鴉帰りなら道に迷う心配はない。さらにトラップの位置はクロネがすべて覚えててくれたため、事前に回避して進める。


「けど、あまり時間はかけられないにゃ。手掛かりはあるのかにゃ?」

「ああ! あのリスナーの言う通り彼女の頭部が下層の近くにあるのだとしたら、心当たりはある!」


 そもそもこの深層に来たとき、6時間かけてくまなく手掛かりを調べ尽くしているのだ。それこそ途方に暮れるまで。もし見える場所に頭部が落ちていたのなら、その時に気づくだろう。


 気づかなかったという事は、彼女の頭部は、そのとき存在を知らなかった隠し通路にあるという事だ。


 最初に隠し通路を見つけたとき、出口に向かう方向だと分かったため、たいして調べずに直ぐに引き返した。

 可能性があるとしたら、下層付近の隠し通路内だ!


「見つけたあッ!!」


 ビンゴだ! 

 俺達は隠し通路内部で、傷ついた真紅の兜を発見した! 拾い上げると見た目より軽い。これなら岩にぶつけるなりすれば、簡単に壊れそうだ。




    オオオオ……オオオオオオ!!



「ご主人、はやくッ! 急ぐにゃ!!」


 俺の背後にデュラハンが現れた。縮地だ。

 彼女は既に両手剣を振りかぶり、斬撃の構えを取っている。だけどこの位置なら、俺が兜を破壊する方が早い!




(──頼む。アカリを、眠らせてやってくれ──)




 ああ。わかってる。

 俺は両手に、ぐっと力を込める。




(──デュラハンは、無くした頭を探して迷宮を彷徨うモンスターだ──)




(──彼女は、アカリは、首の無い死体になって、未だ迷宮を彷徨っているのかもしれない──)




(──なにより俺は、いつも彼女の笑顔に元気付けられていた──)






       ド



「ご主人? ご、ご主人ッッッ!!?」


 やべ。斬られたか。

 背中が、焼けた鉄を押し当てられているかのように熱い。


「なにやってるにゃ!? はやく、はやくその兜を壊すにゃ!」

「来る、な……クロネッ!!」


 俺は片手でクロネを制止し、アカリの方に向き直る。

 噴き出す血で危うく滑りそうになる。これは、配信を切っておいて正解だったかもしれないな。


 再び剣を振り上げようとするアカリの胸に、兜を押し付ける。


「待て、よ……これ、だろ…………アカリ、さんが、ずっと探してたの……」


 ぴたりと、アカリの動きが一瞬止まる。


 剣が、地面に落ちた。

 俺に渡された兜を、両手で確かめるように触っている。


「俺が、見つけてやったからさ……もう、迷宮を、探し回らなくても……いいんじゃあ、ねえのか……?」



    …………オ…………


        

      …………オオ……



 アカリさんは自分の兜をしっかりと胸に抱く。

 彼女はそのまま、霧のようになって消えた。

 血溜まりに崩れ落ちようとする俺の身体を、走り寄ってきたクロネが支えてくれた。


「ご主人、ご主人っ! なんて無茶するにゃ!!」

「……確かに。プロテクトリボンが無かったら、即死だったかも……また、助けられたな」

「いいからはやくポーション飲むにゃ!」


 アイテムボックス(鴉の巣)から取り出したポーションを、クロネは無理矢理俺の口に捩じ込む。ちょっと咽せてしまったが、2本目を飲み終えたところでなんとか傷は塞がった。


「ごめん、心配かけた」

「…………みゃ。もう無茶しないでほしいにゃ」


 そう言ってクロネに思い切り抱き締められる。

 温かい。すこしだけ震えている。俺は彼女の震えが収まるまで、その背中を何度も撫でた。

 

 ……そうだ。

 リスナーにも、心配をかけさせてしまっているかもしれないな。ちゃんと報告しないと。

 俺は配信を再開する。


▽『はじまった?』

▽『カラスくん!? ここ!?』

▽『よかった生きてたのだ』

▽『待ってたよ!!』

▽『おかえり!!』


「ただいま。勝手に配信切ってごめん」


 配信を再開した途端に、コメントのラッシュに出迎えられた。ちょっと全部は読み切れないな。あとからしっかり目を通そう。


▽『アカリは』


「アカリさんは、安らかに眠ったよ」


▽『ありがとう』


 報告を聞いた彼は、ただ一言だけ、そうコメントをくれた。

 大切な人を失ったんだ。すぐには立ち直れないかもしれない。だけど、ほんの少しでも傷が癒えてくれればと願う。


 俺達は少しだけ目を瞑り、彼女の冥福を祈る。

 それから、彼女の"唯一残った遺品"を回収した。




  ≪デュラハンから

   ドラゴンスレイヤーを獲得したにゃ♪

      爪研ぎするのによさそうにゃ!≫




 ドラゴンスレイヤー(竜殺しの剣)は強力なレア武器だ。

 しかしあちこち刃こぼれして脆くなっている。こんなにボロボロでは、竜どころか壁にぶつけただけでも折れてしまいそうだ。


 ダンジョン協会に頼めば、アカリさんのパートナーだった彼に渡してもらえるだろう。俺は剣が傷つかないよう上着で包むと、アイテムボックスに慎重に保管した。



「──さあ、湿っぽいのはここまでだ! 今度こそ、深層ボスに挑むぞ!」


 俺は踵を返し、歩き始めた。

 深層ボスが待つフロアへの扉は、既に見つけている。

 

 いざ、決戦へ!!!





「ご主人、そっちは逆方向にゃ」

「………………ハイ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ