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第12羽 方向音痴、シブヤダンジョン深層を攻略!! 挫折、そして、再び立ち上がる!

 〜シブヤダンジョン深層〜


 ファントムスライムを倒した俺達は、シブヤダンジョンの深層に挑んでいた。深層からはさらに経験者も少なくなる。


▽『深層ってどうなの?』

▽『マジでわからん』

▽『ネットに出ている限りの情報では、踏破した探索者は0人だ。つまり未知の領域が増える』

▽『武者震いしてきた』

▽『カラスくん達はそんな未知の領域を攻略する最初の探索者になるわけか』

▽『俺達が、だろ?』

▽『だな、全員でクリア目指すぞ!』


 とんでもなく困難なことを成し遂げようとしている。だがリスナーの皆は尻込みするどころか、気合い充分だ。そして勿論、クロネも。


「ご主人っ! モンスターが3体、囲まれていますにゃ!」

「ああ!」



       ガシャン


   ガシャンッ

           ガシャン




 黒い鎧を丸く固めたような物体が、金属音を鳴らしながら接近してくる。鎧は所々が歪に変形し、鋭い刃のようになっている。


▽『なにこれ!?』

▽『亀か??』

▽『あれはスクラップスライムなのだ』

▽『聞いたことない』

▽『めんどくさい敵だよな確か』

▽『鎧はクソ硬いし内部は物理無効だぞ』


 流石は深層だ。

 モンスターも一筋縄ではいかないってわけか。


「カラスキック、3連!!!」


 素早く移動しながら、刃の隙間に3連蹴りを放つ。カァンと心地良い金属音を鳴らし、スクラップスライムの鎧が弾け飛んだ。柔らかい中身が剥き出しになる。


「いまだ、クロネッ!」

「ネコノタタリ!!」



    にゃあー!


         にゃあー!

  にゃあー!


       にゃあー!



 かわいい。

 猫型の青い炎に焼かれて、スクラップスライムは消滅した。俺とクロネはニッと笑い合ってハイタッチを交わす。


▽『すげえな深層モンスターも圧倒じゃん』

▽『コンビネーション完璧じゃん』

▽『初めての共同作業』

▽『息ピッタリだな』

▽『むしろコンビで戦い始めてキレが増したよね』

▽『戦闘は不安要素ないな』


 滑り出しは好調に見えた。

 この階層のトラップも、クロネとリスナーのおかげで殆ど回避できた。まあたまに矢でいられたり岩が転がってきたりしたが、矢は叩き落としたし、岩は砕いてやった。

 下層だけあり、レアアイテムもいくつか入手した。その度にリスナーからは歓声が上がった。


 改めて思った。

 俺達なら、どんな迷宮だって攻略できると。



 そして俺達は迷宮を進み──




      ──戦って勝利し──




   ──罠を突破し──




   ──進んで──




     ──進んで──





 

      ──そして、ついに──









          ──6時間が経過した。







▽『深夜0時…』

▽『日付変わったな…』

▽『これ本当にルートあるのか…?』


 ミスは無かった。

 クロネもリスナーも、最高の仕事をしてくれた。

 俺も最善を尽くし戦ったつもりだ。


▽『ごめん落ちるわ、明日仕事あるんだ』

▽『乙』

▽『乙なのだ』

▽『布団の中で応援してるから!』


 しかし現実は非情。深層の隅々まで確認したが、先へ進むルートも、ダンジョンコアも見つける事ができなかった。


▽『なにか見落としがあるはずだよな』

▽『もっかいルート回ってみる?』

▽『録画見てるけど怪しいところは全部見たぞ』

▽『何箇所か壁の色がちょっと薄いとこあったよね』

▽『薄い色の壁は調べたけど何もなかった』

▽『もうさ右手を壁につけて進んでみようぜ』

▽『それ入り口からやらないと意味ないやつな』

▽『ファントムスライムがハズレボスって可能性がある。例えば下層に他にボスが居て、正解ルート行くにはそっち倒さないとダメなのかも』

▽『そこからやり直しなの!?』


「ごめん……みんな……」


 俺はリスナーに頭を下げる。深層攻略を楽しみにしてくれていただろうに、自分の不甲斐無さに腹が立つ。だけど今から下層に戻ってルート確認なんてしていたら、それこそ何時間掛かるかわからない。


「期待に沿えなくて、ごめん」


▽『カラスくんは悪くないよ!』

▽『頭上げてくれ』

▽『こんな事もあるって』

▽『ここまで来れただけですげーよ』

▽『そもそもここ前人未踏破の階層だし』

▽『今日の探索は無駄じゃなかったよ』

▽『楽しかった!』


 温かい言葉に目頭が熱くなる。

 だけど、泣くのはまだ早い。


 俺は配信者だ。

 配信は笑顔で終わるものだ。

 俺の配信を見たリスナーの皆が、晴れやかな気分で、それぞれの明日を頑張れるように。


「俺の心は折れてませんッ! また日を改めて、シブヤダンジョンを攻略してみせますッ!」


▽『おう!』

▽『よく言った!』

▽『リベンジ楽しみだな』

▽『俺達も一緒にリベンジするぞ!』

▽『今度こそクリアしてやるのだ!』


「今日はほんとうに、ありがとうございましたッッッ!!!」

「ありがとうございましたにゃ♪」


▽『8888』

▽『8888888』

▼『88888』50000円

▼『どういたしまして!』3000円

▽『こちらこそありがとう』

▼『ありがとうカラスくん! クロネちゃん!』50000円

▼『チャンネル登録しました!』10000円


 攻略失敗なんて、いつもの事だ。

 なんの成果も得られず帰ることに、俺は慣れている。

 その筈だった。


 ──なのに今日は、こんなにも悔しい──!!


 それはきっと、本気で挑戦したからだ。

 皆で挑み、皆で負けたからだ。

 仲間がいたからだ。


 涙腺が落ち着くのを待って、顔をあげる。

 この経験を、悔しさを、必ず次に活かしてやる!





「クロネも、疲れたろ? 肩に乗ってくか?」

「にゃるふふふっ、うちはもともと夜行性! まだまだ元気イッパイですにゃ!」

「そっか。ありがとうな、クロネ」

「いえいえ! こちらこそありがとうですにゃ!」




「──────── "鴉帰り"」


 俺は"鴉帰り"を発動する。

 鴉帰りはダンジョンの"出口への最短経路"を示すスキルだ。鴉の鳴く方向へ進めば、迷いなくダンジョンを脱出する事ができる。


     ぎゃあっ


      ギャアッ


       ぎゃあっ



 ──鴉の鳴く方向へ、進めば──。



     ギャアッ


      ギャアッ


       ぎゃあっ



▽『どうしたのカラスくん?』

▽『壁見つめて動かなくなっちゃった』

▽『もしかして泣いてる?』

▽『よしよししてあげたい』

▽『いや……違うぞ。なんか戸惑ってる感じ』


「壁だ。壁の中から聞こえてくる」


▽『えっ』

▽『えっ』

▽『え?』

▽『は?』

▽『ドユコト?』


 ぎゃあぎゃあという鴉の鳴き声は、壁の方から聞こえてくる。

 こんなことは初めてだ。というか、あり得ない。

 ダンジョンは入り組んでいて、ただ出口の方角がわかるだけでは脱出できない。そのため鴉帰りは、俺が現在の地点から進める方向にしか誘導しない筈だ。


 つまり。

 進めるのだ!

 この壁のある方向には!


 俺は鴉帰りを解除し、軽く壁に触れてみる。

 まるでなにもないかのように、手が壁を通り抜けた。

 そのまま進むと、身体全体が壁を通り抜ける。


「にゃ!?」


▽『え!?』

▽『ぎゃっ!?』

▽『カラスくんが壁に吸い込まれた!?』

▽『というか、通過した?』


 壁の向こうに、通路があった。

 俺は元いた地点に戻り、リスナーとクロネに報告する。


▽『これってもしかして──』

▽『隠し通路きちゃ!?』


 隠し通路。

 といっても、この通路は出口の方向へ行くルートだ。

 だけど、もしかしたら──!


 いましがた壊した壁とは反対の壁に触れてみる。

 なにも起こらない。

 手をついたまましばらく進んでみる。

 十数メートル歩いた地点で、また身体が壁に吸い込まれた。

 その先には未知の通路が続いている。


 そうか。

 この深層には──幻影(フェイク)の壁が存在するんだ──!!


「ごめん! みんな!!」


 俺はリスナーに向かって、再び頭を下げる。


 俺は腐っても探索者だ。

 こんな発見をしてしまって、このまま帰るなんてできるだろうか? 

 いや、ない!!


 こうなったら、行けるところまでいってやる!


「まだ、この配信を、終われそうにない!」



▽『ああ!』

▽『あたりまえだよなあ?』

▽『こんな凄いもん見て寝れるかっての!』

▽『いまのルートマップに書き加えておいたのだ』

▽『燃えてきた』

▽『やっぱ気になって戻ってきた。明日有給申請するわ』

▽『今夜は祭りか!?』



「シブヤダンジョン攻略、このまま続行させてくれッ!!」

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