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第11羽 方向音痴、クロネの活躍を応援する! 必殺魔法ネコノタタリ!?

 〜シブヤダンジョン下層〜


 カミテッドに鉄拳制裁をした俺達は、ダンジョンの下層を進んでいた。中層ボスのリトルクラーケンは先に倒しているから、ボスフロアはフリーパスだ。レアアイテムも無くなってしまったけどな。


▽『下層からは経験者も少ないから注意して』

▽『でも逆に未開封の宝箱があったりするかも』

▽『カラスくんなら下層の敵くらい余裕でしょ』

▽『戦闘の面での心配は誰もしてないと思うぞ…』

▽『フロアマップ作りながら気長に攻略するのだ』


 下層からはリスナーの皆も把握していないルートやトラップが増える。俺の迷子を放置し過ぎると本気で遭難しかねない。最悪の場合は"鴉帰り"での帰還も視野に入れとかないとな。


「ご主人、ここ怪我してますにゃ」

「あ、ほんとだ」


 クロネに指摘されて見ると、右の手首に切り傷のようなものができていた。なんでこんな場所に──濁流からユウヤ達を助けたときに瓦礫かなんかにぶつけたのか?

 ……っていうか、アイツらのこと思い出したら、なんかまた腹が立ってきたな。


「ポーション飲んでくださいにゃ」

「もったいないからいいよ、こんなの舐めときゃ治るし」

「ごめんにゃさい」

「なんでクロネが謝るんだよ。クロネは、なにも悪いことしてないだろ?」

「………………。」


 返事をする代わりに彼女は俺の右腕を持ち上げると、ぺろりと傷口を舐める。猫の舌はざらついてるっていうけど、美少女モードならそんなことは無いようだ。ぞわぞわするけど、少し気持ちいい。


 ──って、恥ずかしいんだけど!?

 リスナーのみんながバッチリ見てるんだけど!?


「…………ご主人に聞きたいことがあるにゃ」

「聞きたいことって?」

「ご主人はどうしてユウヤ達の事を助けたんだにゃ? あんなに酷いことを言われたのに」

「え?」

「シンゴ達のことも、モンスターに襲われないようにわざわざ起こしてたにゃ。……どうしてにゃ?」


 クロネは、じっ──と、真っ直ぐに俺の瞳を見る。

 いつになく真剣なようで、困っているような、そんな目だ。

 

「イヤだったか? あいつら、お前に非道いことをした最低の奴らなのに。俺が助けてしまったから」

「いえっ、そんなことはありませんにゃ! ただ、ご主人のお考えを知りたいだけですにゃ」

「そう、だな……なんでかな」


 あんな奴らでも救われるべきなんて、そんな高尚なポリシーがあるわけがない。俺はそんな立派なことを言える人間じゃないしな。

 むしろ正直、あんな奴らは死んだ方がいいんじゃないかとすら思ってる。だが実際に死にそうな場面に遭遇して、見捨てるという選択肢もない。


 いざ説明しようとすると、なかなか難しいな……。


「……目の前で誰かが死ぬとさ、なんかこう、嫌な気持ちになるんだよ」

「それだけですかにゃ?」

「それだけだ。たいした理由じゃなくてごめんな」

「いえっ、たったそれだけのコトで身体を張れるご主人は素晴らしい方ですにゃ!」


▽『それな』

▽『説明下手か!でもそれが本心ってことだよな』

▽『損得とか善悪じゃないんよな。なんも考えられなくなる』

▽『いざってときに人間性が出るのだ』

▽『理由は無いけど助けるとか一番かっこいいやつ』


 ──けど、俺の中でも優先順位はちゃんと決まってる。それでクロネに危害が及んでしまうなら、俺はクロネを護るために、きっと自分の心も殺すだろう。


「こっちこそ、イジワルな質問しちゃってゴメンだにゃ」

「クロネが気になるのは当たり前だって。────さて、重たい話はここまでにしようぜ! 目指せ、シブヤダンジョン下層フロア攻略ッ!!」

「おーっ! にゃ!」


▽『おー!』

▽『おーっ!』

▽『おー!』

▽『応!』

▽『おーっ』

▽『おーっ』

▽『おおおおおおッ!!』


 俺達は拳を高く突き上げた。





「……目の前ではダメ、か」

「? なんか言ったか?」

「なんでもないにゃっ! あと、やっぱりポーションはちゃんと飲んでくださいにゃ!」

「わ、わかったよ……」




 ────

 ──




 〜シブヤダンジョン下層・ボスのいるフロア〜



「な、なんとかここまで辿り着いたな」

「にゃっ!」


 下層に踏み込んでから約3時間、ようやく俺達は下層ボスのフロアに辿り着いた。経験豊富なリスナーに適宜頼りつつ、クロネにトラップを避けて貰って進んだが、それでも苦戦させられた。

 かなり手間取ったが、遭難して帰還というオチにはならなくて済んだ。皆のおかげだ。


 ちなみに下層ではモンスターのバリエーションも増えていて、特定の属性魔法に耐性のあるものが出始めた。例えばレッドギガントゴーレムも炎耐性のあるゴーレムだ。

 俺は基本物理攻撃だからあまり関係ない話だと思っていたが──ここに来てその"耐性"の壁に阻まれる。



   ピュイィィィイ


 

▽『下層ボスのファントムスライムだ!』

▽『でけー』

▽『物理完全無効だっけ?』

▽『カラスくんって物理以外の攻撃ある?』


「ない」


 巨大で半透明な銀色のスライムに拳を叩き込む。普通のスライムならこれで弾け飛ぶだろう。殴った箇所がぶにょんと歪む。が、すぐに元通りになった。

 なんていうか、ねっとりと重い空気の塊に手を突っ込んだような感覚だ。


 はじめてワンパンで倒せなかった敵だ。というか、何度攻撃しても倒せる気がまるでしない。俺は少し距離を取る。中に踏み込み過ぎれば、途端に窒息してしまうだろう。


▽『カラスくんの攻撃に耐えるとかすごい』

▽『耐えるっていうか煙みたいにフワってなるっていうか』

▽『なあこれどうしようもなくね?』

▽『いまから別の道探す?』

▽『流石に救済措置とか隠しルートあるはずなのだ』


 確かにボスを全て倒さなければいけないという縛りはない。けどちょっと勿体無いな、他の敵は全部一撃だったし。あと攻撃は包み込むだけみたいだから、機動力の高い俺とクロネならそこまで危険じゃないしなあ……。

 俺が迷っていると、ずいっとクロネが前に出る。


「にゃるっふっふっふ♪ ようやくうちの出番ですにゃ!」

「クロネ──もしかして魔術が?」

「そう、シブヤの黒き魔術師とはうちのことですにゃ!」

「初耳だぞ」


 そういえば俺もクロネが戦うのを見るのは初めてだ。

方向音痴で足を引っ張ってる分、戦闘は俺が引き受けさせてもらってたからな。

 魔術攻撃ができるなら、ここは俺より適任かもしれない。離れた場所から魔術を撃つなら、クロネに及ぶ危険も少ない筈だ。


「わかった、クロネ。やってみせてくれるか?」

「かしこまりましたにゃ!」


 クロネは両手の平をファントムスライムの方に向ける。すると紫色の光が集まって、猫をあしらった魔法陣が空中に浮かび上がる。

 おおっ、なんかカッコいいぞ!

 魔法発動のシーンは年齢関係なくワクワクしてしまう!

 属性はなんだ? 雷か? 炎か?


「"ネコノタタリ"!」




    にゃあー!


         にゃあー!

  にゃあー!


       にゃあー!




 スライムに向かって、猫の形をした青い炎の塊が飛んでいく。そして着弾と同時に肉球の形に爆発した。

 なにこれ"猫属性"魔法!?


「どんどんいくにゃっ!」




    にゃあー!


         にゃあー!

  にゃあー!


       にゃあー!




 かわいい。


▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▼『かわいい』3000円

▽『かわいい』

▽『1匹ください』


「クロネ! スライムにだいぶ接近されてる! 一旦距離を取ろう!」

「かしこまりましたにゃ、ご主人!」


 逃げ回りながらネコノタタリを13回ほど放ったところで、ファントムスライムは撃沈した。物理無効の代わりに、魔術攻撃への耐性はそこまで高くないらしい。特殊ギミックボスってとこか。

 俺ひとりじゃ倒せなかったな。


「みんなありがとにゃー!」



    にゃあ


         にゃあ

  にゃあ


       にゃあ



 猫の霊達が手や尻尾を振りながら、フワフワと天井に吸い込まれていく。すごいぞこの技、どこまでもかわいい。リスナー達からも大好評だ。


▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『かわいい』

▽『アンコール! アンコール!』

▼『アンコール! アンコール!』50000円


「アンコール!? もっかい撃ったほうがいいかにゃ!?」

「やめとけ魔力尽きるぞ。けどほんと、クロネが居てくれて良かった」

「みゃあん……♪」

「深層からは戦闘のサポートも頼む」

「みゃっ!」


 さて、アイテムドロップはあるかとスライム跡地を探る。──と、見慣れた青いリボンが落ちていた。


  ≪ファントムスライムから

   プロテクトリボンを獲得したにゃ♪

        とってもキレイだにゃ!≫


 やっぱり。これ2本目のプロテクトリボンだ。

 被ってしまったな。


 1本目はクロネにあげたけど、う〜ん、2本目はどうしたものか……。ダンジョン協会に売るっていう手もあるけど、せっかくクロネが初めて倒したボスだしなあ。

 けど俺は防御する機会あんまないし……いっそクロネが2本つけるとか……?


「あれ? これうちがご主人にいただいたリボンと同じですにゃ!」

「そうなんだよね。どうする? クロネの力で手に入れたんだし、好きにするといいと思うけど……」

「にゃふふっ♪♪♪」


 クロネは渡されたリボンを見て顔を綻ばせる。被りアイテムの使い道に頭を悩ませる俺とは対照的に、クロネはなんだか凄くご機嫌だ。もしかして2本付けたかったのか?


「ご主人。手、出してくださいにゃ♪」

「え? こう?」


 彼女に促されて左腕を前に出す。

 クロネは俺の手を取ると、しゅるしゅると手首にリボンを巻いた。


「これ、ご主人が付けててくださいにゃ♪」

「俺が?」

「今度はうちからプレゼントですにゃ、おそろいだにゃ♥」


 両手で俺の指を握って微笑むクロネ。

 少しだけ頬が紅潮している。

 お、おそろいって! そんな言い方をされたらこっちまで赤くなるだろうが!


「あっ、ありがとう──クロネ!」

「みゃっ!」


▽『隙あらばいちゃつくやんけ!』

▽『ご馳走様です』

▽『イチャイチャ助かる』

▽『階層降りるごとにいちゃいちゃするノルマでもあるのか? もっとやっていいぞ!』

▽『糖分過多』

▽『初々しい……』

▽『いまが一番楽しい時期だよね、わかるよ』

▽『空気が読めるドロップアイテムさん』

▽『このままカップルがやるイベントコンプリートしてったら笑う』

▽『じゃあそろそろ喧嘩イベントかな?』

▽『それは好みの分かれるところであろう』


 くっ。

 好き勝手言って!

 さてはこいつら浮かれてるな!?

 俺も浮かれてるけどな!


「さあ、次はいよいよシブヤダンジョンの深層だ。気合い入れ直すぞ!」

「おーっ! にゃ!」


▽『応っ!』

▽『おーっ!』

▽『おー!』

▽『応!』

▽『おーなのだ』

▽『おー!』

▽『おー』

▽『おおおおおおオオッ!!』

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