表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/83

第1羽 方向音痴、ダンジョンで迷子になって有名配信者の猫イジメ現場を暴露配信!?

 〜シブヤダンジョン〜


「え〜、シブヤダンジョンの攻略開始からそろそろ20時間経過しているわけなんですけどもぉ……」


 深夜3時のダンジョン。


 俺は配信用ドローンに向かって呟く。

 返事はない。そりゃあない。だって同接5とかだもん。

 過っ疎過疎だもん。かっそかそ。

 この5人も複数窓で見てる勢か適当な配信をBGMにしてる勢だろどうせ。


「付き合ってくれてるリスナーの皆さんにはホント感謝しかないです、ええ」


 返事はない。そりゃあない。


 これ配信する意味ある?ないね。

 じゃあドローン飛ばす意味ある?ないね。

 じゃあさ、ブンブン飛んでるだけのうるせえおもちゃじゃんこれ。


 ……いや、ドローンに八つ当たりするのはよそう。

 虚しくなるだけだ。


「そろそろこのダンジョンも攻略できると思うんで! しっかり見てくださいね!」


▽『寝てた』


 3時間ぶりに返事あった!

 俺の近くの空間にコメントが投影される。

 すごいなあ、ドローンの技術。


「コメントありがとうございます! それからおはようございます! 俺の活躍をしっかり見ててくださいね!」


 ……あ。同接が3になった。

 もう笑うしかないわ。


「ははっ!」


 笑ったわ。






 この世界は残酷だと、俺は思う。

 誰もがなにかを奪い合って生きている。


 金銭を 資源を 生命を 夢を

 時間を 地位を 恋人を リスナーを


 しかし奪う事は悪ではない。

 まして奪われる事は正義ではない。




 俺の名前は骸屍(くろばね)鴉守(からす)

 年齢16歳。カラスというニックネームで配信者をやっている。


 ネット評価での探索者ランクはC。

 今日は朝からシブヤダンジョンを絶賛攻略中だ。


 ダンジョンというのは、十数年前からこの世界の各地に発生し始めた異常災害だ。ダンジョン内はまるでゲームの世界のようだ。危険なモンスターが出現し、宝箱からはアイテムを手に入れることができる。


 モンスターなんてどうやって倒すのかだって? ダンジョンに入った者はその加護により、ステータスやスキルを得ることができる。といっても多くはハズレの加護だ。まともにダンジョンを探索できるような人間は全体の1割にも満たない。


 そんな中で優れた加護に選ばれた若者は、ダンジョンに夢を見る。モンスターを倒し、アイテムを手に入れて、英雄になってやるという夢を。


 社会は若者を止めたりはしない。モンスターは放っておけば徐々に増え、やがてダンジョンから溢れ出す。つまりスタンピードが起こるのだ。

 警察や自衛隊も加護がなければまともにモンスターとは戦えない。だから若者がダンジョンでモンスターを倒してくれないと困るのだ。


 さらにダンチューブという動画配信サイトで、その活躍の様子を配信する事で収益を得ることもできる。配信者はダンチューバーと呼ばれ、いまや小学生のなりたい職業ナンバーワンだ。


 しかしどんなものにも、光と陰は存在する。

 俺はダンジョン配信者の陰──

 オブラートに包まず言うと、超絶不人気配信者だ。

 


 まあ、リスナーが少ない原因はわかっている。

 俺は昔からコミュ症でトークがつまらない。さらに超がつくほどの方向音痴だ。

 延々と同じ場所を行ったり来たり、剣を倒して進む方向を決めたりする様子を見続けるのは、リスナー達にとってはさぞかし苦痛だろう。しかもいまどれくらい進んでるのかわからないのだから、終わりも見えない。まさに無限地獄。



 ハッキリ言って探索者なんて向いてない。

 俺が知人ならさっさと諦めるべきと言うだろう。


 だけど──


「なりたいよなあ……人気ダンチューバーによお……!」


 バズりたい。認められたい。人気者になりたい。居場所が欲しい。

 夢はそう簡単には諦められないのが人間の愚かな所であり、愛おしい所でもある。


 くそっ、こうなったらなにがなんでも今日こそはクリアしてこいつらを見返してやる! アイテムボックスからチョコレートバーを取り出して齧り付く。


 さっきボスっぽいでかい赤ゴーレムを倒したし、少なくとも下層くらいまでは来ているはずだ! 頑張ろう! 

 俺が曲がり角に向かって一歩を踏み出した時だった。




「──ッザけんなマジで!! どうなってんだよ!!」


 ダンジョン内に怒声が響き渡り、慌てて身を隠す。

 ビックリしたな、他の配信者か。


 物陰からこっそりと様子を伺う。

 あの顔、どっかで見たこと──


▽『タイガーアドベンチャーのシンゴか?』


 え!? "タイガーアドベンチャー"のシンゴ!? 同接10万オーバー当たり前の、5人組の超人気配信者だ! すげー、初めて生で見たよ!

 ……けどなんか揉めてるし、関わらない方がいいか?


「お、落ち着いてくださいシンゴさん! 誰かに聞かれたら──」

「こんな上層の端の端まで来る馬鹿がいるわけねえだろ!」


 えっ。

 なんて言ったの?


 ここが上層の端だって──?

 じゃあ俺、20時間もずっと上層で彷徨ってたってコト!?


「それよりどうなってんだよ!! 下層の中ボスのレッドギガントゴーレムがよお!? 先に誰かに倒されてるじゃねえか!? おかげで何ヶ月も前から準備してた今回の企画が大コケだ!!」


 下層の中ボスといえばAランク探索者がパーティーを組んで、それでもギリギリ倒せるかどうかというレベルと聞いている。

 倒してしまった探索者も、挑もうとしたタイガーアドベンチャーも、とんでもない実力ということだろう。


 ……上層で行ったり来たりしてはしゃいでいた自分の現状を考えると情けなくなるな……。


「俺様の獲物を横取りしやがって! 犯人は見つけ次第ブッッ殺してやる!!」

「まあまあシンゴさん、ボスモンスターは数日で復活しますから、再トライすれば……」

「この俺様におとなしく待てつうのか!!?」

「まあまあシンゴさん……まあまあ……」


 ……ん? そういやさっき俺が倒したボスもでかい赤ゴーレムだったな。アレはそこまで強くなかったし、ただの偶然だよな?


「かぁ〜っ、ストレス溜まるぜマジでよお! あ〜スッキリしてえ……おい! いつものヤツちゃんと持ってきたか!?」

「はっ、はい!」


 シンゴの仲間は汚い袋を取り出すと、その口を広げて逆さまに振る。すると袋の中からは、なにか黒いふわふわした物体がドサリと落ちた。


 なんだアレ、ぬいぐるみか……?


「必殺シュゥウウウウウトォ!!!」


 シンゴは、まるでサッカーボールのように黒いふわふわを蹴り飛ばす。ふわふわはダンジョンの岩壁に叩きつけられて、地面に落ちた。




    ギニャッ




 黒いふわふわは苦しそうに呻き声をあげて、真っ赤な血を吐き出した。


 それを見た俺はようやく、その黒いふわふわの正体に気づいた。


 アレはぬいぐるみじゃない。

 生き物(・・・)だ。


 小さな、動物だ。



▽『え? あれ猫じゃね?』

▽『画面見てなかったけどどうしたのだ?』

▽『タイガーアドベンチャーのシンゴが猫蹴った』

▽『はぁ!? ありえないのだ!!』


「ゴォ〜〜〜〜〜ッル!! やっぱストレス解消には猫イジメだぜ!! モンスターじゃ血も出ないし、死んだら消えちまうもんなあ〜っ!」

「ッなにしてんだテメエエエエエエエええええ!!!」

「ぶげっ!?」


 俺は岩陰から飛び出すと、シンゴを思い切り蹴り飛ばす。シンゴは反対側の壁に激突し、ゴミのように情けなく地面に落ちた。


▽『いいぞやっちまえ!』

▽『愛猫飼ってる身としては絶対に許せないのだ! 拡散してくるのだ!!』

▽『SNSで拡散されてきたけどなにこれ?』

▽『タイガーアドベンチャーのシンゴがボコられてる』

▽『なんで?』

▽『猫虐待してた。切り抜きしたよ俺』

▽『嘘だよなシンゴ……』

▽『シンゴよ。お前はすべての猫好きを敵に回した』

▽『おいおい今日は祭りか!?』


 全身の血が怒りで沸々と湧き立つ。なにやら忙しなくコメントが表示されてるが、血が上った俺の頭では読んでいる余裕はないッ!


「──べつに俺も捨て猫を保護してやったりとか、寄付をしてやったりだとか、そーゆー立派なコトをして生きてる人間ってわけじゃあないけどよお……てめえの行為が人としてやっちゃあいけねえことだってのはよくわかるぜッ! なんの罪もねえ生き物に! ましてや小さな仔猫にッ!! 暴力を振るうなんて、許されていいわけがないだろうがッ! この外道ども、覚悟はできてんだろうなあ!!」


 俺はシンゴに向かって静かに拳を構える。


「……………………ぐへっ」

「シンゴ!? おいシンゴ!?」

「しっかりしろシンゴ!!」


 あん? 向かってこないのかよ、こいつら……?

 というかもしかしてシンゴ、もう意識失ってる?


▽『シンゴ達ってAランクだったよな』

▽『不意打ちとはいえ武器無しで一撃とか』

▽『もしかしてシンゴって雑魚?』

▽『いやこの子が強い』

▽『この子なんて名前?』

▽『かわいい顔してるね。中学生くらいかな』


「くそっ、くそっ! このガキぃ!」


 クズの仲間のひとりが、俺に向かって吠える。


「ガキじゃあねえ! 高校生だ!!」

「黙れチビ!」

「は? ち、チビじゃあねえッ!! これから伸びるんだよ!!」

「よくもシンゴをオ!! 許せねええ! シンゴの親はなァ! 有名な政治家なんだぞ!!」

「いや知るかボケ!!」

「僕達の絆パワーをぉ思い知れぇえあああああ!!」


 タイガーアドベンチャーの──ええと──4人のカスどもが手に手に武器を持ち、前後左右から襲いかかってくる。ネット評価Cランクの俺に、Aランク4人がかりかよ!?


 戦力差は歴然。

 誰が見ても絶望的な状況だろう。


 ──だからどうした?

 舐めるんじゃあないッ!!

 ここで諦めるヤツは、探索者じゃあねえ!


 俺の背中には、小さな命が横たわっているんだッ!


「"鴉羽根"ッ!!」


 黒いからすの羽根が舞い、4人のクズの視界を塞ぐ。


「ぐわっ!? な、なんだあ!?」

「邪魔くせえ羽根だッ!」

「いてて!? この羽根、刃物みたいに尖ってやがる!?」


 俺はダンジョンスキルで鴉の力を使う事ができる。

 これはそのひとつ。からすの黒羽根を自分の周囲に舞わせることができる。

 殺傷能力は無いが、撹乱には十分だ。


「回転蹴りィ!!」

「「「「ぐわああああああッ!!?」」」」


 動きが止まった4人を、一発の蹴りで無駄なく吹き飛ばす。


▽『えっ』

▽『えっ』

▽『えっ』

▽『えっ』

▽『えっ』

▽『なにが起きた?』

▽『4人同時に吹っ飛んだぞ』

▽『蹴りの残像が見えたんだけど』


 実力差があってもスキルさえうまく使えばこんなもんだ。これで()は全滅した。


▽『カラス強過ぎだろ。これでネット評価Cランクとか』

▽『活躍が少ないとランク上がりにくいからな』

▽『なんでこんなとんでもない化け物がいままで埋もれてたんだ?』

▽『なんかすごい方向音痴らしい』


 俺はすぐに黒猫に駆け寄り抱きあげる。


「みゃ……みゃぁ…………」


 良かった、まだ息はある。だけど酷い怪我だ。

 すぐに動物病院に連れて行かないとマズい。

 回復魔法は使えないし──こんなことならケチケチせずにポーション買っとくんだった!


「──"鴉帰り"」



     ぎゃあっ



      ギャアッ



       ぎゃあっ



 後ろの方向から、からすの鳴き声が聞こえる。


 俺のダンジョンスキルのひとつ"鴉帰り"だ。

 ただ出口への最短ルートがわかるというだけのスキル。一般的にはハズレ扱いだろうが、方向音痴の俺にとっては命綱に等しい。


 声の大きさからして出口はだいぶ近そうだ。最初はここが上層でがっかりしたが、むしろ良かった。


「おい」


 帰り際に、シンゴに蹴りを入れて起こす。


「んあ──ヒッ!?」

「俺はいまからこの子を病院に連れて行く。モンスターが来たときにお前らが全員寝てたらマジで死ぬかもだから、一応起こしてやったぞ」

「??」

「そこの気を失ってるクズ4人はリーダーのテメエが面倒見ろ。Aランクなんだし、それくらい問題ねえよな?」「あ? え??」

「返事は"ハイ"だろうがッ!!!」

「は、ハイいいっ!!!」


▽『シンゴのやつ、高校生のガキにボコられて命助けられて説教されてやがる』

▽『てか睨まれて失禁してない?w』

▽『ダサすぎィ!』

▽『シンゴの人生終わったわ』

▽『チャンネル登録解除しました』

▽『代わりにカラスくんのチャンネル登録しました』

▽『俺も』


 俺はシンゴが返事したのを確認すると、ダンジョンの出口に向かって脇目も振らずに走り出した。

面白いと思ってくれた方や続きが気になった方は、チャンネル登録・高評価・メンバーシップ・ブクマ・評価・感想・レビューなどお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >有名な政治家なんだぞ 配信されてる以上下手に庇うと政治家生命にダメージ来るけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ