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わだつみの姫巫女  作者: 乙羽
姫巫女の舞
10/12

1 舞姫

 わたしを呼ぶ声がする。

 闇に近い藍色のみなそこに、ぽうっと淡く輝くなにかが、少しずつ浮かび上がるように見えてくる。

 近付くにつれ、巨大な岩があるのがわかった。輪郭を明瞭にしているのは、ぐるりとかけわたされたしめ縄だった。白い紙垂が水の流れにゆらめいている。

 さざなみのような流れをうみだしているのは、ひとりの人魚だった。彼女自身が内側からほのかな光を発しているように見えた。

 長い黒髪をふたつに編みおろし、装飾のない白い着物をまとい、桜色のひれが優雅にひらめく。しめ縄の岩を中心に円を描くように、すうっと泳いでは止まり、目を閉じて一心に舞っている。彼女が動きを止めるとき、手にしている銀の鈴が、しゃん、しゃん、と澄んだ音をたてた。三つの鈴は舞扇と同じようなものだろうか。

 鈴についた紐のように細い白絹と、白い袖と、三つ編みが水中でたなびく。水の抵抗を知り尽くして舞う人魚の、もっとも美しい曲線は、流麗な尾ひれが描いていた。

 彼女が、わたしを呼んでいる。

 ぽうっと暖かな思いが灯る。同時に、はっとしたように、お神楽を舞っていた人魚が目を開けた。

桜夜(さくや)!』

 鈴を持ったまま、顔を輝かせて、両手をさしのべてくる。懐かしい黒目がちな瞳が、とがめるように、嬉しそうに、にじんでいく。

『桜夜、待っていたのよ、わたくし、ずっと待っていたのよ……!』

 泣かないで、お姉さま。わたしは、もう、どこへも行かない、ずっとそばにいる。

『……おかえりなさい』

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