46 マティアスside
「おい、見てみろよ。王太后様の後ろに付いている侍女。飛び切りの美少女だな!お近づきになりてぇ」
先輩騎士の一人がそう呟くと一斉に王太后様の後ろに付いている侍女に視線が集まった。俺も彼女に視線を向けて顔をよく見てみる。
……なんて美しいんだ。
これが俺のモアに対しての最初の印象だった。
華奢に見える体格。しっかりと結い上げられた髪。凛として佇む侍女にしてはどこか幼く見える。十歳位だろうか?よく見てみると王太后様に面影が似ている。親戚なのだろうか。
本来王族に付く従者や侍女は粗相があってはいけないため学院を出た後、王宮でしっかりと教育された者が側に付くため二十代以上の者が多い。
やはり親戚と考えた方がいいかもしれない。それに王太后様が側に置くほどだ。よほど大切にしているのだろう。
俺は親父が騎士団長をしている為に小さな頃から騎士として腕を磨き、伯爵家の跡取りとしても領主になって恥じないように、と勉学も励んでいた。
親父は気晴らしに、といつも王宮騎士団の訓練場に俺を連れてきては他の騎士達と一緒に剣の稽古を付けてくれていた。学院に入る頃には親父や他の騎士達からも褒められる程の腕前になった。
そのおかげか俺は王族の視察に親父と共に同行する事が何度かあった。
その時に初めてモアを見つけたんだ。
一目見るなり皆、名も知らぬ王太后の侍女に釘付けとなっていた。
それは俺も同じ。どうにかして彼女の名前を知りたいと思い、親父に恥ずかしながら聞いてみた。だが、親父はガハハと豪快に笑いながら『残念ながら彼女は王太后の掌中の珠であり、名前を教える事は出来ない』と言われてしまった。
そしてまだまだ弱いお前には知る権利もないと。親父の言葉に苛立った。
「親父!勝負だ!俺は強いんだ」
この時までの俺は驕り高ぶっていたのだと知らされた。剣では負けていないと思っていたのにあっさりと親父に負けてしまった。悔しくて悔しくて仕方がなかった。
俺はもっと強くなり、もっと賢くなれば親父のように王族の警護に付ける。王太后様の離宮に配属されれば彼女に近づける。
そんな単純な理由で俺は強く、賢くなろうと思った。今思うと恥ずかしい理由だが、その一途な思いが今に繋がっていると思うと自分を褒めたくなる。
そうして俺は今までよりもずっと剣の稽古も勉学にも励んだ。一目見ようと親父の視察には必ず付いていった。親父にはいつも笑われていたのだが気にしている程の余裕はなかった。
不誠実だと言われたらそれまでなのだが、俺には二年ほど婚約者がいた。もちろん騎士団内で勝手にまとまった婚約。いつも訓練場に押しかけてくる令嬢達避けという理由で決められた。
もちろんお互いに好きな人が出来れば解消するのだと親父から聞いていたので俺は気にしていなかったが、婚約者はそう思っていなかったようだ。
婚約者はいつも訓練場に来ては街へ出よう、宝石が欲しい、ドレスが欲しいと強請られてばかりで俺は鬱陶しいとさえ思っていたんだ。
訓練ばかりで婚約者に興味がない俺。最初は俺を追いかけていた婚約者もだんだんと俺と街に出掛けてもつまらないとぼやいていた。
婚約白紙が噂され、俺の知らぬ所で令嬢たちの諍いまで起こっていたようだ。
俺がいつまで経っても振り向かない事に苛立った彼女は学院に入学してすぐ他の令息を捕まえた。俺は舞踏会で婚約破棄を突きつけられた。『真実の愛を見つけた』のだとか。
彼女の言葉にぼんやりと浮かんだのはモアの顔だったのは今でも忘れない。




