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「お義母様、お待たせして申し訳ございません」

「構わなくてよ。ノアはしっかりと仕事をしているようね。後は貴女に跡継ぎが出来ればいいのよ」

「……はい」


義母は仕事と言っている事に違和感を覚える。


「何も分からず、不安そうな顔をしているわね。いいわ、きっとノアから何も聞いていないのでしょう?貴方達、下がりなさい」


義母はそう言うと、サロンに居た侍女達が部屋を出ていった。出て行った事を確認すると、義母はワインを片手に話を始めた。


「我が家はね、代々王家の闇を担っているのよ」

「……王家の、闇、ですか?」

「えぇ。王家に仇為す者をいち早く見つけて情報を王家に渡す。情報を得るための手段は問わないの。つまり、相手を問わず必要であれば誰とでも閨を共にするの」

「……」


 心の何処かに感じていた違和感は義母の言葉でカチリとはまる。そして必死に蓋をして押さえつけていた耐え難い嫌悪感が体中に広がっていく。


国のためとはいえそこまでする必要がどこにあるのか私には理解出来ない。事情があるとしても。


「驚いたでしょう?私も嫁いで来た時に聞かされて騙されたって思ったわ!いつも夫を恨んでいたわ。でも貴族の中では珍しく恋愛結婚だったから我慢出来たのかもしれないわ、ね」

「……」

「ノアは奥手だけど、優しいでしょう?ふふっ。先代がみっちり教えていたからかしらね」


残念ながら私とノア様は恋愛結婚ではない。元々私自身、浮気性な人自体を嫌悪の対象としていたから家の事が無ければ彼との結婚は絶対にしないし、触れたくもない、視界に入れる事さえ不快感がある。


義母からの言葉で彼に対して好きという気持ちより嫌悪感が勝っている自分に気づく。


「……なぜ、私だったのでしょうか」


呟いた言葉に義母は笑いながら答えた。


「ふふふっ。知りたいわよね?こんな地獄に落とされたんだもの。貴女には知る権利があるわ。昔、そうね、貴女が10歳になった頃かしら?王宮のお茶会に呼ばれた令嬢、令息の中に一際美しい娘がいると噂になったの。


そして陛下がその噂を聞きつけ我が家に取り込んでその娘を使って更なる情報を集める様に仕立て上げろと命令が下されたのよ。馬鹿げているわよね。


人の人生を何だと思っているのかしら。私は勿論反対したわ。この国一、二を争うほどの裕福な伯爵家のご令嬢を娼婦にするだなんてありえないと。でもね、ノアが自分の妻にしたいと望んでしまったのよ。一目ぼれなんですって。


ふふっ。可愛いわよね。王家からの要請もあったからウルダード伯爵にすぐ婚約を打診したの。けれど、当時はウルダード伯爵の返事は駄目だった。ノアだけなら諦めさせても良かったけれど、貴女を諦めきれない王家は伯爵家を陥れることにしたのよ。貴女は王家を恨む権利はあるわよね」


 義母から聞かされる我が家の話に心が強く締め付けられる。嘘、だと言って欲しい。酒に酔って出まかせを言っているのだと。ノア様が私を選んだ結果という事も国に目を付けられていた事も恐ろしい。


「あら、顔色が悪いわ。まぁ、仕方がないわよね。真実を知ってしまったのだから当然よね。恨むなら国を恨みなさいな。でもね、こうして私が貴女に真実を話した理由は分かっているでしょう?」


その言葉に私の背筋はゾクリと寒くなる。逃げ道を義母によって潰されたのだ。


「……」

「真実を知った貴女はこの家の一員となったわ。今はノアが拒否しているし、跡取りを産むのが一番の仕事だけれど、そのうち国からの命令で貴女にも仕事が回ってくるでしょうね。貴女ほどの美女はこの国には居ないもの。鼻を伸ばした殿方はすぐに貴女に言い寄るわ。情報を更に集めやすくなるわね」


義母は機嫌よくワインを呷って事細かに話をしている。もう既に私は嫌悪感で一杯になる。


この場に居たくない。


逃げ出してしまいたい。


自分が夜ごと誰かと閨を共にする?


……ありえない。


血の気が一気に引いていく。


「お義母様、申し訳ありません。体調が優れないため少し早いですが部屋に下がらせていただきます。真実をお話し頂き有難うございます」

「そうね、急なことで色々と気持ちを整理したいわよね。ゆっくり休みなさい」


 私はフラフラとした足取りで部屋に戻った。後から侍女も部屋に入ってきたけれど寝るから下がってもいいと伝えて一人になる。突きつけられた現実に涙も出ない。ソファに力なく腰かけた。


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