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1プロローグ

宜しくお願いします!

「うぅっ、すまないっ。こんなに不甲斐ない親で。モア」

「……お父様。これで家が存続出来るというのなら私は喜んで嫁ぎます」


 私はウルダード伯爵家の長女モア。もうすぐ十五歳になるわ。何故父が泣いているのかというと、今日は私の結婚式。


 相手は王家と所縁の深いノア・クリストフェッル伯爵子息、十九歳。彼はとても優秀で国一番とも言われているほどの見目麗しい人。彼の女性遍歴は華々しく、数多の恋愛話がいつもお茶会の話題となっている。


ノア様と一夜だけでも、と望む令嬢は多いのだとか。


私は話題に上る彼に全く興味はなかったし、むしろそんなノア様に嫌悪感さえ抱いていた。


 何故そんな彼と婚姻に至ったのかというと、我が家は貿易関連の事業をしていたのだが、貿易船が相次いで沈没、莫大な借金を抱えて伯爵家の存続が危うくなったの。


その借金を帳消しにする代わりに私がクリストフェッル家に嫁ぐ事になった。父は娘を売るような事はしたくないと拒否したけれど、相手は国王から王命を出させる形で父にノア様との婚姻を迫ってきたようだ。


父は伯爵家存続のために泣く泣く受け入れるしかなかったみたい。以前の我が家は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、貴族の中でも一、二を争うほどの裕福な家庭だったわ。そこに生まれた私、モアは他の令息や令嬢達から羨望の的だった。


どうやら私は他の人からの評価では金持ちの娘という以外に国一番の美女だと言われているらしい。私自身はそこまで美人だとは思っていないけれど、いつも周りが褒めてくれるのでそうなのかしら?程度には思っている。


そんな事もあって幼少期から釣書が我が家に沢山送られてきていたのだが、父も母も慎重になるあまり、全てを断わり、私には婚約者がいなかった。


今思えば、そこを狙われたのだと思う。


 控室で父と母は泣いていた。私だって望まない結婚。けれど、これも伯爵家を存続させるため。


グッと涙を堪えながら父のエスコートで式場に入る。


式場には既に親族以外にも沢山の参列者がいる。そして皆、今日の主役である私に視線を向けている。その視線は好意からくるものもあったけれど、冷たい悪意のある視線も多かったわ。


今日の式もきっとまたお茶会や舞踏会でご婦人方の話の種になるのだろうと思う。


私は怖くて父の腕をギュッと掴んだ。


父も参列者の視線に気づいているようで、小さく『大丈夫だ』と私を安心させるように呟いた。駄目ね、もう涙が出そう。一歩、また一歩とゆっくりノア様の元に近づいていく。そうして緊張しながらノア様の隣に並び立った。


「モア、世界一美しい」

「あ、ありがとうございます」


 ノア様はそう一言だけ言って神父の方へと身体を向けた。よく見ると神父ではなく、神父の格好をした国王陛下であった。私は驚いていたのにノア様は平然としているわ。一国の王が伯爵の結婚式に出席する事がどれほどの事か。


私は冷静を努めながらも内心パニック状態だった。


「国一番の美男美女の婚姻が出来た事、誇りに思う。これからも王家に尽くす様に」


国王陛下がそう告げ、婚姻式は滞りなく進み参列者の方に身体を向けた途端。


「ノア様!私を選ぶって言ったじゃない!」


どこからか叫ぶ声が聞こえてきた。


 令嬢の一人が泣きながら大声で叫んでいる。その様子にノア様は取り乱す様子はない。叫んでいた令嬢はすぐに取り押さえられて会場を出て行った。その様子に感化されたのか何人かの令嬢達も立ち上がり、不満を言いながら会場を後にする。


……なんて後味の悪い結婚式なのかしら。


私は泣きたくなった。こんな混乱を招くノア様に恨み言の一つでも言いたいくらいに。でも、ウルダード家の将来が私の行動に懸かっていると思うと黙っているしかなかった。


家族もグッと我慢しているような表情をしている。対照的にクリストフェッル家の方々は全く気にしていない様子。むしろにこやかに微笑んでいるわ。


その事に違和感を覚えてしまう。


「さぁ、モア。私達も行きましょう」


ノア様にエスコートされ、私達は会場を後にした。




 そこからはクリストフェッル家で晩餐が行われ、ノア様は親族と飲んでいる間、私は早々に夫婦の部屋へと案内された。


「モア様、結婚式お疲れ様でした。これから初夜を行う用意を致します」


 伯爵家の侍女が三人ほど私を取り囲み、ドレスを脱がせた後、湯浴みをした。頭の天辺から足の先まで磨き上げられ、マッサージを受ける。薄いナイトウェアに身を包むと侍女達は一礼をして部屋を出て行った。もうすぐノア様が来るのだろう。



「モア、ようやく君を私の妻に迎える事が出来た。待ち望んだ私の花嫁。一生涯大切にします」


 ノア様の甘い言葉に解かされるような熱い初夜を迎えた。私はノア様が本当に私を大切にしてくれているのだなと感じはしたけれど、手慣れた様子からやはり過去の人達との交際は噂だけではなかったのだと心は深く沈み込むばかりだった。


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