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008:幕間 王国の思惑①


 ~王国サイド~



 目の前で起きた予想以上に思い通りの展開に、国王イーヨ514世は笑いをこらえるのに必死だった。


 自分の仲間が悪者にでっち上げられているのに、誰もそれを疑わない。


 素直な奴らだ。

 哀れすぎて泣けてくる。


 おかげ様で厄介な異物を排除する事が出来た。


 イーヨもその男がまさかあの試練を乗り越えて生還するとは思わなかったが、さらにその状態でイーヨの攻撃を防ぐほどの力を残していたのはもう人間の域を超えているとしか思えなかった。


 だが結果的は上出来だ。


 ノデラマ・クモル……規格外のスキルを与えられた真の勇者。


 それを自然な形で、しかも勇者たち意思によって自主的に追放できたのは実に幸運だった。


 無理やり追放すればイーヨが勇者たちから不信感を持たれる可能性があり、それは後で面倒事に繋がりかねない。


 本音を言えばノデラマには試練で命を落としてもらえるのが最も自然で穏便に済む展開だったのだが、今はこれで良しとする。


 勇者たちは律義にノデラマを追って城から飛び出していった。

 自分たちの仲間が悪に落ちたと信じ、その責任を感じているようだ。


 全くもって好都合だった。


 恐らくノデラマは仲間を返り討ちにするような真似ができる性格ではない。

 ザコ勇者たちが追撃した所で大きな損失は起こらないだろう。


 国の守護者たる騎士団にもすでに指名手配の通達を出している。

 もうこの国にはノデラマの居場所などないハズだ。


 これで時間は十分に稼げる。


「ふぅー……」


 イーヨは崩壊した部屋の中で一人、立ち上がった。


 それにしても本当に恐ろしい力だった。

 イーヨはノデラマとのわずかな攻防を思い出す。


 最後に放った【雷錐】(ギムレット)は今までどんな敵が相手でも通用してきた文字通りの必殺技だった。


 普通だったら、イーヨが放った雷撃はノデラマの身体を消し飛ばし、城の背後にあった山脈にすらも大穴を貫通させていただろう。

 ノデラマは極限に近い疲労状態でそんな攻撃を防いで見せたのだ。


「ははは……」


 笑えるほどに規格外な力のスキルである。

 イーヨはあの瞬間、生まれて初めて恐怖というものを感じたのだった。


 もしもノデラマが万全の状態だったら……最初の衝撃波で騎士達もろとも消し飛ばされていたのは間違いなく自分の方だったに違いない。


「さて、まずは後始末か」


 つまらない想像を振り切って、イーヨは思考を切り替えた。


 やるべきことは山ほどある。

 狂った計画には修正が必要だ。


 イーヨは自らの手で切り落とした腕を拾い上げると、ポイと投げ捨てた。


「ぎゃ、ぎゃあああああ!?」


 代わりに気絶したままの【行巫女】の少女から腕を引きちぎって自分の傷口に押し付ける。


 上質な魔力の通った体は良く馴染む。

 くっつけた腕やその指先を数回動かしてみて、問題なく結合できた事を確認した。


「よし」


 バチンとイーヨの身体から電気が発生し、部屋中を伝った。

 騎士も巫女も、部屋に残っていた全ての人間が一瞬にして感電して炭のようになって死んだ。


「これで目撃者は0だ」


 少なくとも国内に秘密を知る者はいなくなった。


 しかし事のついでに厄介者をもう一人片付けようとしたのは失敗だったと反省する。

 ノデラマが逃走の際にわざわざあの巨体を連れ去った事を考えると、かなり情が移っていると推測できる。


(アイツに借りでもできたか?)


 結果としてまとめて追放する事はできたが、アイツがノデラマを手助けした可能性もある。

 与えた試練の難易度を考えれば一人筋肉達磨が増えたところで影響はないと思ったのだが、どういうワケか上手く協力したのだろう。


 別々に、もっと確実な方法を取っても良かったかもしれない。

 そうすれば失った人員の補充はもっと少なくて済んだかも知れない。


 イーヨはいつものように面倒くさそうに頭を掻いた。


「やれやれ、先代の置き土産にも困ったものです。ねぇ、我らが女神様?」


 いつの間にそこに居たのか、イーヨの背後に少女がいた。


 神を名乗る悪魔のようなその少女はただニヤリと笑うわらうだけだった。


 暗闇その物のような黒い髪をなびかせた少女の燃えるような赤い瞳は、新しいオモチャを手に入れた子供のように好奇心に揺れている。

 その表情にイーヨは心の中で溜め息をついた。


 やれやれ、また厄介な事になりそうだ……と。

少し長くなりましたがここまでが序章になります。

明日からは【第一話:呪われた森】編を引き続き毎日投稿がんばります!


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