029:朝チュン
チュンチュン。
「…………ん、朝か」
俺は宿の窓から差し込む朝日で目を覚ました。
かわいい小鳥の声がきこえてくる。
この世界にもスズメがいるのだろうか。
よく似た魔物かもしれないな。
「ふぁ~……」
あくびと共に大きく伸びをした。
「……すっかり夜更かししてしまったな」
となりではサンが幸せそうな寝顔を見せている。
まだ寝かせておこう。
昨晩はめちゃくちゃ盛り上がってしまった。
若い男女、一つ屋根の下、同じ部屋。何も起きないはずがなく……。
やってしまった。
それはもちろん、トランプである。
この世界には俺の大好きなコンピュータゲームはない。
だがその代わりにアナログなゲームはたくさん存在しているらしかった。
そしてサンが持っているゲームの中にトランプがあった。
元の世界と全く同じトランプがこの世界にも存在することには驚いたが、そもそも昔の勇者が伝えた物がはじまりらしい。
つまりは俺たちより昔にこの世界に召喚された地球の人間がトランプをこの世界に伝えたのだ。
俺のよく知るトランプと似ているのではなく、本当に俺の知っているトランプだったわけである。
そしてそこにこの世界に存在する魔法の概念が加わり、トランプは更に進化した魔法カードゲームとなった。
俺とサンが夜明けまで遊んだのは「マジックスピード」というこの世界で最も遊ばれているゲームらしい。
通称マジスピだ。
ベースは地球で遊ばれていたスピードというトランプゲームで、そこに魔術によるトリックが加えられている。
カードその物に魔法がかけられているため魔力をもたない俺やサン、子供たちでも問題なく遊ぶことができる。
俺の知っているスピードは反射神経と判断力が求められるゲームだったが、魔法の要素が加わったマジスピはさらにそこに心理戦の要素も追加されていた。
カードの1枚1枚にそれぞれ特殊な動きが指定されているため、それを分かりやすくするためにトランプというよりはタロットみたいなカードになっているが、ルールの基本は同じだ。
ただしカードの効果で手札をストックしたり山を入れ替えたりそもそも移動させたりと、普通のトランプにはないかなりトリッキーな戦いができる。
これはハマる。
というか実際に朝までハマっていた。
すごいゲームだ。
朝まで二人で遊んだ結果、戦績は俺が1敗分負け越している。
ゲーム好きを自負する身としてはめちゃくちゃ悔しい。
マジで。
今夜にでもリベンジしてやろう。
俺はそっとサンから離れてベッドから出る。
あらためて背中を伸ばしてみて、腰がまったく痛くない事に感動した。
宿のベッドは普通のシンプルな木製ベッドだったが、ボロ小屋での生活に比べるとこのベッドは超高級フカフカベッドのように思える。
習慣的に起きてしまったが、このベッドならまだまだ寝ていたい。
寝付いてからまだ数時間だろう。
サンはしばらく起きない気がする。
あいかわらず、年頃の男としては目のやり場に困るのに視線が吸い寄せられるような、そんな悪魔的な光景だ。
サンの愛らしい顔と美しい肢体が朝日にさらされている。
布団はめくれ、本人はなぜかいつも下着姿でまるで無防備。
寝ている間に服を脱ぐのはクセなのだろうか。
「やれやれ。そんな恰好ではいつ襲われても文句を言えないぞ?」
そう思うのだが、逆に言えば、それだけ俺を信用してくれているのだろう。
その信用を裏切るような真似はしたくなかった。
俺は大きなため息と一緒に煩悩を捨て去る。
サンに布団をかけなおしてやり、朝食の準備をすることにした。
いつも作ってもらう立場だからな。
こういうのもたまには良いだろう。
今日は冒険者ギルドで初めてのクエストに挑戦する予定だが、朝からやらないといけない決まりもないためアセる必要もない。
せっかくなので、のんびりとした時間を楽しもう。
「さて、バハムート草ってどれだ……?」
決して中毒症状などではない。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「俺なら襲う……!」
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