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025:カトレアちゃんファンクラブのモロウ

「そのカードはお前にはふさわしくない! それは俺に寄越せ!」


 モロウが顔を怒りで顔を真っ赤にして吠える。


 はぁ?

 意味が分からないな。


「誰がふさわしいのかを決めるのはお前じゃない。カトレアさんだろ?」


 このカードはカトレアさんの善意から与えられたものだ。

 そしてその善意はあくまでも俺に向けられたものだったはずだ。

 それを否定して誰かに渡すなんてあまりにも失礼だと思う。


 気持ちの悪い提案だ。


「な、なんだとぉ!? 俺様の言う事が聞けねぇのか!!」


「どこのどいつか知らないが、命令される筋合いはない」


 付き合いきれないので要求を突っぱねる。

 言ってることが低レベル過ぎるからな。


「おいおい、やめとけって! 悪い事は言わねぇ! 大人しく言う事を聞いた方がいいぞ!」


「そうそう! モロウはギルドの中でも腕っぷしだけなら最強クラスの冒険者なんだぞ!」


 なるほど、腕に自信があるから力で解決しようとするのか。

 だが、それならもっとその力を正しく使うべきだろう。


「だったらその腕っぷしでカトレアさんからカード貰えば良いんじゃないのか? これは冒険者としての実力を認められたらもらえる物なんだろう?」


 俺の言葉に冒険者たちがざわついた。


「おい、それ以上はヤバイぞ! モロウはカトレアちゃんのレセプトカードが欲しくてずっとアピールしてるのにまだもらえてないんだ!! それは禁句だぞ!?」


「カトレアちゃんの名前を出すのもやめとけ! モロウは照れてしまってカトレアちゃんの名前も呼べないんだぞ!? 本当は呼び捨てにしたいんだ! だけど照れてしまうんだ!!」


 どうやらモロウの逆鱗に触れる内容だったらしい。

 いわゆる図星ってやつだな。


「テメェ、もう許さねぇぞ!!!! 力ずくで奪ってやる!!!!」


「いや、やめといた方が良いと思うぞ。ケガさせたくないし」


 腕っぷしが強いらしいが、こいつと比べるならブラックベアの方が強そうだな。


 ブラックベアの方が巨大で、そして素早かった。

 なによりその動きにも無駄がなかったように思える。

 狩りのため、戦うために洗練されていた。


 目の前の男はそうは見えない。

 モロウは今この瞬間にも、いつでも倒せるくらい隙だらけだ。


 そんなモロウを見ても何も脅威には感じなかった。


 体格には恵まれているのだろうが、スキルや魔法が存在するこの世界ではあまり意味がないんじゃないだろうか。


「な、なんだとぉ…………?」


 モロウの血管はもはや限界を突破したようにビキビキと浮き出ていた。


「おいおいおい」


「死ぬわアイツ」


「いや、殺すつもりはないけど」


 ただのケンカで大げさ過ぎるだろう。


「えっ!? いやいやいやいや!?」


「心配しているのは新入りの兄ちゃんの方だよ!?」


 心配されているのは俺の方だった。

 そんな心配はいらないと思うんだけどな。


「このガキがぁあああ!! ナメやがってええええ!! 無理やりにでもそのカードを返品させてやるぜええええええええ!!」


 忠告は聞き入れてもらえなかったようだ。


「やれやれ……」


 俺はモロウの踏み込みにあわせ、その足元に軽めの「ドン!」を放った。

 体制を崩したモロウは勢いのままに転がり、空を見上げる事になる。


 よし、上手く手加減できた。

 殺してしまったりしたら本当に犯罪者になってしまうから気を付けないとな。


「これで満足か?」


「……は?」


 モロウは何が起こったのかも理解できていないようだ。

 俺の「ドン!」は目に見えない衝撃波だから仕方ないかもしれないが。


「い、今のは転んだだけだろうが!! ふざけんじゃねぇ!!!」


 モロウは健気にも起き上がって突進してくる。

 まるでイノシシだな。


「うおおおおおお!!」


 もう少し分かりやすくしないといけないようだ。

 手加減しつつ、そのうえで戦力差を理解させるというのは難しいな。


 今度はモロウの拳を正面から受け止める事にした。

 普通に殴られたら痛いからそれを防ぐため、相手の拳の威力を相殺する威力だけで「ドン!」を使うように調整する。


「ぐはぁああああ!?」


 振り下ろされた拳が俺の手の平に触れた瞬間、攻撃したはずのモロウが逆に吹っ飛んでいた。


「あ」


 しまった、やりすぎた。


 威力を相殺してピタリと止めるくらいを狙ったのだが、さすがに難しかった。

 少し強すぎたようでモロウを吹き飛ばしてしまったのだ。


 やれやれ、目立ちたくなかったのだが。

 なにせ指名手配犯なんだから、目立つと困るに決まっている。


「……な、なにが起きたんだ!? カトレアちゃんファンクラブのモロウがやられた!?」


「カトレアちゃんファンクラブの中でも武闘派で知られるあのモロウが負けたのか!?」


「なんだ!? なにが起こったか見えなかったぞ!?」


「ケンカだけならモロウはAランク級だぞ!? 兄ちゃん、いったい何者なんだ!?」


 モロウは空を見上げたまま泡を吹いて気絶している。

 このくらいの威力でこれか。


「別に、俺はただの新米冒険者だよ。ちょっとスキルを使っただけだ」


 魔物が相手なら良かったが、人に使うには少し練習が必要かもしれないな。


「いやいやいやいや!?」


「ただの新米が強すぎるだろ!?」


 とりあえずやっかいなチンピラを黙らせることはできた。

 騒ぎになる前にこの場を離れるとしよう。

「面白かった!」

「続きが気になる!」

「やれやれ……」

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