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018:ロードローラー作戦


 地獄の晩餐会を終えて、真夜中になった森を歩く。

 俺の両腕にはサンとアンジュがくっついている。

 まるで両手に花だ。


 今はすっかり定位置になった二人を連れてサンの目的である森の主を探している所だ。

 アンジュの顔色が少し悪い気がするのは晩餐のダメージが残っているからだろう。


「アナタは休んでいても良いわよ? これは私とク、クモルの問題だから」


「いいえ。クモル……クモくんの問題は私の問題。手伝わない理由はない」


「…………クモくんっ!?」


「いや、そもそも顔色わるいけど……」


「それは何を言ってるのかわからない」


 アンジュも意外に頑固な所があるようで、結局こうして三人で森を歩いている。


 夜は魔物が活発になり狂暴性も上がるため、今までは比較的安全な明るいうちに探索をしていたサンだったが、俺が一緒なら大丈夫だろうと夜の探索にもチャレンジする事になった。

 昼間に成果が出ていない事もあり、夜の森に何かしらの発見を期待しての判断だ。


 俺たちは慎重に、そしてまっすぐと森を進んでいる。


 俺はサンが転ばないようにと障害物となりえる物を見つけたら極小の「ドン!」を放ってさりげなく破壊しておく。

 名付けてロードローラー作戦である。


 このロードローラー作戦にはサンの安全確保だけでなく、もう一つの意味がある。


 それは目印だ。


 この森はまるで迷宮で、昼間にサンが探索を進められていない理由もそこにある。


 サンは小屋から近くの川へは迷わずに行ける。

 そして川から小屋へと帰って来るのも同じだ。


 だが森の出口を探したり、森の主を探そうとして探索している時には必ず迷う。

 見たことのない景色を経由していつの間にか小屋へ戻って来てしまっている。


 俺も同じだ。

 主を探してフラフラしているといつの間にか小屋に戻っている事があったが、アンジュ達を助けに向かった時はすぐに声の方へたどり着けた。


 木に傷を残したり、石ころを並べたり、目印を残す作戦はすでにサンが実行したが不発に終わった。

 なので今回は小さな目印ではなく、大きく道その物を作ってしまう作戦にしたのだ。


 小屋からまっすぐに進んでいるのも作戦のためで、これなら普通は迷うはずがない。

 そう、普通なら。


 ほんの一瞬の隙をつくように、振り返ると小屋が消えていた。

 まっすぐだったハズの道がいつの間にか曲がりくねり、その先は見えなくなっている。


「……これが呪い?」


「多分、そうだと思う」


 アンジュの問いかけにサンが歯切れが悪そうに答える。

 それもそのハズで、サンも呪いの詳しい事は知らないからだ。


 サンだけじゃない。

 誰も知らないというのが現状だ。


 なにせ「出られぬの森」である。

 調査に入った者が戻ってこないのだから、誰も詳しい事などわかるはずがなかった。


「……クモくんの力なら森ごと吹き飛ばせそうだけど?」


 アンジュがえげつない事をサラリと言う。

 正直に言えば俺も最初にそう思った。


「さすがに生態系を破壊するようなマネはしたくない」


 可能だとは思うが、この森に棲んでいる生き物にも大ダメージを与えてしまう事になる。

 森に棲んでいるのは魔物だけではないのだし、ブラックベアだって食材としては良い物として認識されている。

 それらは近くの村の人間にも必要な物だと思う。


「それに、そもそも森を吹っ飛ばしたら森の主が見つからない可能性もある」


 目的が「森の主を倒す事」なら問題はないが、今回はその血液を採取する必要がある。

 死体から採取する事も不可能ではないだろうが……そもそも殺す必要がないなら、人ではなくとも無駄な殺しはしたくはない。


「……そう。なら私がやる」


「良い案があるのか?」


「私なら破壊せずに活動を止められる……かも」


 アンジュのまとう空気が変わった。

 ひんやりとした冷気が漂い、それはアンジュの手の平に集まっていく。


 そうして美しい氷細工の剣が出来上がっていた。


「……これが私のスキル、【氷剣姫】。冷気を司る力を持つ聖剣の生成、強化、変質」


「すごい、綺麗……」


 その美しさにサンも視線を奪われていた。


 だが少し肩を震わせている。

 俺も体感温度が下がったのを感じていた。


 サンに上着を貸してあげて、少しでも暖かくなるようにと抱き寄せた。


「~~~~~っ!!」


 サンは耳まで真っ赤になってしまった。

 少し温めすぎたかもしれないな。

 逆にアンジュの視線は氷のように鋭くなったが。


 それにしても、これが勇者のスキルか。

 衝撃波を出すだけの俺とは全く違うな。


 まだ能力を使っているわけでもないのに、存在感がすごい。

 その剣の姿だけでも大きな威圧感を持っているかのようだった。


「それでどうするつもりだ?」


 勇者スキルが本気を出せばこの森くらい吹き飛ばせるだろう。

 ザコ認定された俺にすらできるのだから、アンジュにとっては赤子の手をひねるより簡単かもしれない。

 だがそれでは俺がやるのと同じだ。


「……この森を冬眠させる」


「え?」

「ん?」


 アンジュの答えは予想もしていないものだった。

 そして途方もないその言葉を実現して見せた。


【氷の世界】(ホワイトアウト)


 瞬間、アンジュの氷剣が冷気を放ち森の木々を全て凍り付かせた。

 まるで冬が訪れたように、雪すら舞う世界に森の環境を作り変えてしまったのだ。

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