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第一章  使命

まだまだ未熟な者ですがどうぞよろしくお願いします。




 刹那・・・一迅の風が闇に桃色の花びらを踊らせた。

悲しく光るその闇に、今にも吸い込まれそうな少女は、数多降るその桃色の花びらのような長髪を風になびかせ佇んでいた。

怜太朗の瞳はその少女に釘打たれたように固まった。思わず唇が動き、気づいた頃には


「誰・・・?」


と聞こえるはずもない声で呟いていた。

少女は桃色の長髪を揺らしこちらを向いた。白い肌にふっくらと浮かぶ紅色の唇は僅かに動いた。

声こそは聞こえなかったが、言葉を読み取るのには怜太朗にとって十分だった。

怜太朗が瞬きをした頃には、既に少女は極僅かに花びらの舞を乱し消えていた。

怜太朗は少女が残した言葉を呟いた。


「サクラ・・・」




「たぁぁああ!!」


パーーン・・・という音が館内にこだました。


「ありがとうございましたっ!」


試合終了の合図とともに袴姿の青年たちは互いに一礼した。

負けてしまったのか一方の青年はがっくりとうなだれ膝を床につけている。

もう一方の青年・・・怜太朗は、悠々と仲間たちの歓喜の中に入っていった。


 怜太朗の通う市立渡橋高校は都市街から遠く離れた田舎に建っている。

彼の所属する渡橋高校剣道部は昨年まで廃部寸前の弱小部であった。部員人数は最低限度ぎりぎりの5人。しかもうち2人は6ヶ月程前から一度も活動に参加していない。また、部長以外の部員は剣道の『け』の字もわからない全くの初心者であったため、渡橋高校の職員及び全校生徒が彼らに一切の期待を寄せていなかった。

ところが今年、今世紀最大とでも言うべきスーパールーキーがこの弱小剣道部に入部した。本堂怜太朗ほんどうれいたろうである。彼の家は高校からしばらく歩いたところの渡橋黒和寺とばしこくわでらにあり、彼の先祖は代々この寺の住職をしていた。

幼い頃から和というものを身近に触れているだけあって武術などに長け、得意とするものが多い。その中の一つが剣道であり、彼は渡橋高校入学時に剣道部の存在を知り、すぐさま練習場へと向かったのだった。

しかしそこにあるのは剣道特有の緊迫感でもなく部員たちの必死に汗を流す姿でもなかった。投げ捨てられた道着や袴、あからさまに手入れされていない竹刀。そして、一人虚しく険しい顔で精神統一している部長の姿だった。

怜太朗は半信半疑で入部したが、部長や部員たちに支えられ、確実に試合経験を積んだ。そして今に至る訳である。


 ところで今はというと、年に一度行われる剣道の全国大会《高校生の部》決勝終了の瞬間である。

部長をはじめ部員たちは怜太朗の勝利を心から祝した。


「本堂!よくやった!!」

「すげーよ、お前!!!」

「もはや敵なしだな!」


怜太朗は竹刀を置き、ゆっくりと面を取った。


「武道の道進みたる者、敵がいないのは喜ばしい事ではない。」


彼の銀色の瞳が部員たちを見てそう言った。

 銀色の瞳・・・怜太朗の目の色だ。彼の目は幼いころから武芸や武術に関わる行為をすると瞳の色が黒から銀色に変化する。瞳の色だけでなく、性格もだ。その銀色のように冷徹な性格へとかわるのだ。勿論、普段はごく普通のどこにでもいる高校生であり、おどけてみせたり、時にはふざけて教師に怒られる事もある。

 彼の瞳の色については周囲の人たちはあまり何かを感じる事はないようだ。人によっては光の加減だとかクォーターだとか考えるようだがその時の彼に、瞳について聞いても、冷たく突き放されるだけであろう。事実今の彼は銀色の瞳をしているため部員たちへの返答が冷たい。


 怜太朗はインタビューやマスコミなどの取材を終えると荷物をまとめて会場をあとにした。


 「ふぅぅ・・・」


ゆっくりとため息をついた。怜太朗は『また知らないうちに勝っちゃったよ』と思っていた。

銀色の瞳の間はあまり意識的に動いていないのだ。体が勝手に自分を支配しているような感覚になる。幼い頃はその感覚を怖いと感じていたが、気づいた頃には元の自分に戻っているため今ではもう何も感じなくなっていた。



 怜太朗は家・・・つまり黒和寺につくと冷たい板の間に身を投げた。

入り口から流れてくる風が気持ちいい。自分の道着や竹刀を片付けた後、彼は仏壇の前に正座し、

「父さん、母さん、爺ちゃん。剣道の試合に勝つことができました。俺は今のところ元気にやってます。一人でできる事も多くなったよ。」

と合掌しながら言った。

 怜太朗の両親は彼が幼いころに亡くなった。といっても彼自身に両親の記憶は無く、物心ついた頃には既に祖父、幻司郎げんしろうのもとに居た。しかし、つい三週間程前に幻司郎もこの世を去ってしまったのだった。

「それから・・・爺ちゃん、俺は爺ちゃんのあとを継ぎます。やっと決意しました。・・・だからあの書を開きます。」

怜太朗はそう付け加えた。

 幻司郎は偉大な人物だった。怜太朗自身あまりよくわかっていなかったが、幻司郎が死去する直後、すべてを語ってくれた。『すべて』とは幻司郎が創設した黒和剣霊会こくわけんれいかいのことだった。



『・・・この世界には二つの彷徨える魂がある。

一方はまだ肉体が存在していたとき大きな憎しみや悲しみを背負い続けそのまま死去した者の魂。そしてもう一方は肉体が存在していたとき大きな可能性を秘め、世間体がその力を知ることなく死去した者の魂。

彷徨える魂は死後もなお、この世界で何かを求め彷徨い続けている。

ところが人間たちはこの魂を忘れていった。

何者かの死の直後、人間は悲しみにうたれ嘆きあわよくば他人を呪った。

しかし時とともに記憶は薄れ悲しんだ事さえも忘れていく。

魂はそれを知ったとき、自らの身を自己再生しこの世に形あるものとしてよみがえる。 

人間に我が身を思い出してもらうがために・・・。

再生した魂は大きな力を得る。

憎しみを宿した魂は醜き姿となって欲望の限り暴れ、世を乱す。可能性を宿した魂は人並みはずれた体力・知力を持ち、憎しみを宿した魂を浄化する。

・・・ここ渡橋は太古から死した者の魂の死後の世界への架け橋とされている。名前の由来がそれである。

黒和寺はその架け橋の入り口であり、そこに住む我らはその魂たちのため常に寺を解放しなければならない。ただし、もしこの世に残り続ける魂が有るのなら、私たちは浄化に専念しなければならない。それが我ら本堂家の使命である。

ただ、浄化にあたっては可能性を宿した魂・・・[ブレイド]が我らの助けになろう。』



・・・幻司郎は他にもブレイドと共に憎しみを宿した魂を浄化するための組織、『黒和剣霊会』を創設した事と、怜太朗がその総統を継ぐことになるかもしれないため、十分な覚悟をしておくということ、そして覚悟ができたときすべてが記された遺言書を読めということだった。

幻司郎はそれだけ言うと息絶え、目を閉じた。

その時点の怜太朗には祖父の死の悲しみが大きく、自らの使命などという事について考える余裕もなかった。

だが、生活に慣れた今、考えるべき時が訪れていることについて彼は十分承知していたのだった。

だから今、遺言書を開き、祖父のあとを継ごうとしているのである。

 

 怜太朗はそっと仏壇の上に保管してある遺言書に手をのばした。

白く厚い紙に祖父の震えた字で『遺言書』と書かれている。

____緊張のあまり手が震える。

紙を開くとそこには本堂家の家系図が延々と書かれていた。そして一番下に行ったところに『怜太朗』と書かれていた。

家系図の中に一カ所だけ墨で黒く塗りつぶされている箇所がある。

《___俺からすると叔父にあたる人だ・・・なんでだ・・・?》

その先には祖父の字で怜太朗の使命が綴られていた。

『この書を開いてから三ヶ月以内にティアを見つけ出し、放浪魂浄化につとめる事。』

・・・ティア・・・? 放浪魂・・・?

なんのことだ???

そして最後に

『何かわからないことがあったらこの人たちを頼りなさい。

 黒和剣霊会ワシントン支局 エリック=アボルスキー、李=東香 

                     1ー800ー△△△△ー□□□』

と書かれていた。

怜太朗は首を傾げつつこの遺言書にかかれた番号でダイヤルを回した。

つたない、誤字脱字の多い文章ですが読んでいただきありがとうございます。今後もがんばります。

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