アストラ先生のアストレア講座2
「続きはまだあるのじゃ。
どうした?魔物にでも襲われたか?
お約束なら、お主が元に居た世界で死んだ後、今の世界に転生させる前に、一通りレクチャーしてから転生させるんじゃがの。此度はフェンリルの転移のついでじゃったからの。
「異世界召還?ひゃっはー、チートスキルじゃん」とかいうのはなしじゃ。
まあ、それでも異世界転移というだけで、鑑定とか亜空間収納とか結構便利な技能がもれなく付いてくるから、十分他の人よりアドバンテージはあると思うぞ。
ただ、魔物に襲われたら普通に死ねるから、くれぐれも気をつけるようにの。
それでは、一応今お主の居る世界について一般常識の範疇に属する説明はしておくぞ。
まず、お主の今いる世界をアストレアという。まあワシが創った世界じゃからな。ワシの名を取っておるのじゃ。
大きさは、まあお主の居た地球という星と同じくらいと思ってもらってよいじゃろ。パラレルワールドというやつで、お主の居た世界とは相互に接点がないのじゃが、よく似た社会構造だったりする。
当然いくつかの国もあるので、余裕が出来たら見て回るのもよいじゃろ。国毎に通貨の単位は異なるのじゃが、貨幣の鋳造技術を国毎に用意するのが難しい関係で、貨幣は共通しておる。
その貨幣は安い方から銅貨、銀貨、金貨、聖銀貨となっており、それぞれ100枚で一つ上の貨幣と同じ価値となる。つまり1銀貨は100銅貨、1金貨は100銀貨となる。
聖銀貨はまあ普通に生活している分には使うこともなかろう。
それぞれがいくらになるのかはお主の居る国の通貨政策によるが、とりあえず、お主が農協に預けていた預金3000万円、それにしても孤児のマタギ見習いにしては大金を持っているのう、をとりあえず、アストレアの平均的な貨幣価値に換算して両替しておいたぞい。お主が異世界から持ってきた背負子に革袋が吊してあるじゃろ。その袋はカモフラージュで、実際には中に無限に物を入れることが出来るようになっておる。お主がもうすこしラノベというものに精通しておると、インベントリとかアイテムボックスとか言えば分かるんじゃろうが、まあ何でも入る物置と覚えておいてくれ。
生きているものは入れることはできんが、死んでしまえば、たとえば倒した魔物なんかも、そのまま収納出来るぞ。方法も、「収納したい」「取り出したい」と思うだけで出来るようになっておる。
その異空間収納は袋に見せかけてあるだけで、実際はお主の技能の一部じゃから、お主にしか使えん。安心して貴重品を入れて置くがいいの。農協の預金3000万円はざっくり言うと、金貨300枚じゃが、金貨などそうそう使う貨幣ではないので、金貨は250枚、銀貨を5000枚で入れて置いた。
まずは、アイテムボックスの使い方から練習してみるがよい。
そのまま手のひらを上に向けて、銀貨1枚を取り出すと念じてみよ。」
俺は半信半疑だが、騙されても何の損もないと、手のひらを前に出して「銀貨1枚を取り出す。」と心の中でつぶやく。
すると、自分の手のひらに銀色の貨幣が突然現れた。
「うぉぉ」俺は驚いて後ろに飛び退き,尻餅をついてしまった。
地面に転がる貨幣の音が、目の錯覚ではなく現実だということを示していた。
俺は手紙の続きを読む。
「どうじゃうまく出来たか?亜空間収納じゃが、これからはあいてむぼっくすと言うことにするぞ。そのあいてむぼっくすは、転生者は当たり前に所有している技能じゃが、本来は非常に高度な魔法によるもので、お主のいる世界では非常に珍しい技能とされている。あまり他人に知られるのはよくないぞ。すぐに気付くと思うがそのあいてむぼっくすは、使い方によっては犯罪にも利用できる。お主を利用しようとするものも出てくるぞ。お主のいる世界にも、あいてむぼっくすによく似たまじっくばっぐというアイテムがあるのじゃ。どうしても人前で使うのであれば、そのマジックアイテムを使うふりをすればよいじゃろう。まじっくばっぐはあいてむぼっくすほど珍しいものではないが、それでもたくさん入るものはその分非常に高い値段になるので、やはり貴重品として狙われる原因にはなるので、取り出す物の大きさもよく考えて使う場所に慎重になるのじゃ
あいてむぼっくすからお金を取り出すことが出来たら次のすてっぷじゃ。
お主のいる世界は、剣と魔法のふぁんたじーな世界と言えば分かるかの?やったことはなくてもそういうゲームやアニメや映画があるのは知っておるじゃろ。まあおおむねそんな感じじゃと思ってもらったら当たらずとも遠からずじゃ。お主の居る世界には人間の他に、人間似よく似た種族の生き物が済んでいる。その中には魔族と呼ばれる人種もあるのじゃが、魔族は決して人間と敵対している訳ではないのじゃ。お互いがそれぞれ自分の国に棲み分けていれば、何の問題も起こらないのじゃが、時に政治家というものは自分の権力の増強と国民の不満の矛先を逸らすために、仮装敵国を用意することがあっての、そんなときに文化的民族的商業的交流のない魔族はうってつけらしくての、魔族の長である魔王は人間に仇をなすと称しては、戦力増強を図ろうとするのじゃ。その旗印に利用されるのが『勇者』と呼ばれる人間で、時にはお主のように転移者を利用することもあるのじゃ。じゃが、お主は自分の目で、耳で頭で、何が正しいのか判断して欲しいのじゃ。本当に世界の危機が訪れることがあれば、そのときはお主の横にいるフェンリルともう一体、そんなケースのために用意されている古龍が邪悪な存在を滅ぼすことになっておるから安心するがいい・・・」
・・・いや、いや、今の話に安心出来るところが1ミリも見当たらないんだが。
「話の腰を折るでない。」
・・・え?なんで手紙の中で普通に会話出来ているの?
「ワシは神じゃぞ、それくらいはお見通しじゃ。それより話が進まなくなるでの、続けるぞ。
次のすてっぷは、あいてむぼっくすを事由に使いこなせるようになることじゃ。先ほどは貨幣も指定して取り出す方法も事細かく指示したが、今度は自分で取り出したいものを選んで取り出す訓練じゃ。
まず、あいてむぼっくすから物を取り出すというイメージを頭の中に思い描く。
そうすると、あいてむぼっくすの中に入っているものが頭の中に浮かんでくるはずじゃ。あと、今は物が少ないからいいかもしれんが、無限に収納できるあいてむぼっくすの便利さにおぼれると、そのうち何が入っているかわからなくなるくらい物を入れっぱなしにしてしまうことになるぞい。あいてむぼっくすには検索機能もついているので、たとえば魔物の素材とか、薬草とか、食料とか、収納されている物があまりにも多い場合には、ジャンルを絞ってイメージすることで、頭に浮かぶものを限定することもできるのじゃ、いずれ練習して出来るようにしておけよ。そこで、今はあいてむぼっくすに入っている物を取り出すイメージを思い浮かべてみるのじゃ。何が入っておる?」
ボクは、さっき銀貨を手のひらに出したときのことを思い出しながら、今度は頭の中で、山に入るときのバックパックの中身を整理するときのようなイメージで、「あいてむぼっくす」とつぶやいた。すると、頭の中に、竹の皮に包んだおにぎり3つ、獲物を解体するときに使うナイフ、雪の上を歩くときにつかうワカン、水筒が2つ、登山用ガスストーブ、コッヘル、ヘッドランプ、コンパス、たき火台と、最後に何故か山の中での簡易住居であるマタギ小屋なるものが浮かび上がった。
「あいてむぼっくすの中に何が入っているか確認できたか?ならば、その中からマタギ後やを取り出してみい。あいてむぼっくすを説明するにはうってつけじゃ。」
正直、意味が全く分からなかったが、ボクは「マタギ小屋」とつぶやいてみた。
すると目の前に、木の枝で枠組みして、茅を敷き詰めるだけの簡易テントであるマタギ小屋が現れたのである。
貨幣のときも手品にしか見えなかったが、そもそもいくらテントくらいのサイズとは言え、小屋なんて袋に入るサイズですらない。
あわてて、手紙の続きを読む。
「まあおどろくのも無理はないじゃろ。お主の居た世界では説明出来ない話じゃ。今言う世界はふぁんたじーな世界でな、ちょっとだけ都合がよく出来ているのじゃ。時空にちょこっと細工をしてな、別の空間と現在の空間を接続させることで、物を空間事移動させるのじゃ。だから物だけを取り出すというより、物を空間ごと移動させるというイメージのほうがしっくりくるじゃろ。
このあいてむぼっくすは、どんな大きな物でも収納できる。それこそお主の居る世界にあるものならなんでもな。但し、生きているものはだめじゃ。動物はもちろん、植物も根のついた状態では収納できん。刈り取ったものであれば物として収納可じゃ。動物なんぞも、食べるために狩りによって死んでいる場合はおーけーじゃ。魔物なんか、倒したその場で解体が出来る訳じゃないことも多い。そのときは丸ごと収納して後で取り出して解体することも出来るぞ。
あいてむぼっくすのもう一つの重要な機能は、収納から取り出すまで時間が経過しないということじゃ。ふぁんたじーの世界では時間停止などとも言われておるんじゃが、まあ正確には今居る世界から、異次元の世界の時間経過にまで干渉出来ないので、収納した状態でしか取り出せないというのが本当のところじゃ。これを今おる世界側から見れば時間が止まっているように見えるということになるのじゃ。じゃが、これにはめりっとしかなくて、たとえば、熱々の食べ物を収納しておくと、取り出したときも熱々のままじゃ。狩りの獲物なんかも、ずーっと収納しておいても腐らない。いいことばかりじゃ。
まだまだ話すことは長くなる。続きは小屋に入ってからじゃ、今日はゆっくり小屋の中で休むがよい。後、お供のフェンリルもちゃんと小屋の中で休ませてやるのじゃぞ。」
小屋といったって、一人用のテントくらいしかないサイズなのに、ボクとシラカミが入ったら身動きとれないくらいの大きさしかない。
まあ、森の中だし、夜露をしのぐには便利か。
あ、まずは、先ほどのイノシシを・・・
「収納」
覚え立てのあいてむぼっくすの中に入れるイメージで収納とつぶやくと、軽トラックくらいの大きさはあろうかというイノシシが吸い込まれるように消えていった。
引き続き、あいてむぼっくすから取り出すイメージと・・・
あ、イノシシが追加されている。ジャイアントボアとなっている。青のイノシシの名前かな?
ボクは、足元にすり寄っていたシラカミを抱き上げると小屋の入り口に置いた。
シラカミはすぐに入っていく。ボクも後に続いた。
ところが、その中には。