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マタギの正月その2

正月くらいは家で過ごすというのはマタギであると否とを問わず、日本人の風習といっていいだろう。

そして、昨年秋にロックハンドの町で米と一緒に餅米も入手した僕にとって、お正月にお餅をつくのは態様が東から昇るくらい当たり前のこととして認識されている。

米と餅米を手に入れた僕はブルーフォレストの町に戻ってすぐに竈用の羽釜と杵と臼を手に入れた。羽釜は鉄鍋を注文制作してもらったことで、鍛冶師のお店とコネが出来たので、普通の鉄釜ではなく、竈で使うための羽釜というちょっと面倒くさい注文だったが、図入りで説明し、すぐに理解してもらい、年内のうちに完成してもらっていた。もう何度か竈で炊いたご飯も食卓に並んでいる。日本人のアイデンティティとして譲れないところだ。

そして、臼と杵。杵はこの世界にもウォーハンマーという戦闘用の武器があるため、木で作るものだが、簡単に理解してもらえた。注文を武器屋でするのはなんとなく違和感を感じてしまうが。臼はもう説明のしようがないので、木工の工房に入り浸り、細かく注文した。いやな客だが、迷惑を掛けることは承知の上なので、迷惑料も含めて、製造中完成までの職人の日当を全て補償する形でお願いした結果、家具よりも高い値段になったが、僕としては満足だった。餅米が手に入ったのに、餅が食べられないなんて選択肢はあり得ない。

僕は早速、一晩水につけた餅米を蒸して、臼に移し、杵でつき始めた。最初から大きく振り下ろすと餅米が臼から飛び出て散らばってしまうので、押しつぶすように、糊状にひとまとまりになるように、ゆっくりと臼の周りを回りながら均一にすりつぶしていく。

頃合いを見計らって、杵を振り上げてつき始める。

悲しいのは、杵でつくのに併せて、臼の中の餅を手早く手水を加えながらひっくり返す役割がいないことだ。

言葉が話せるようになったシラカミをちょっとだけ見たけど、地面についた足で餅をこねられても、口に入れるものだし。

仕方がないので、水の入った桶を用意し、時折杵の先端をおけの水につけ、ひっくり返すのは何遍かに一回杵の手を止めて自分でやった。

本当は杵でつく方が簡単で、餅をこねるほうが熟練の技を要するのだが、この際贅沢は言えない。

それでも、餅つきなんて毎年の行事、頭ではなく体が覚えているので、何度かやっているうちにすぐに勘を取り戻すことが出来た。

一度に蒸すことが出来る餅米は2kgくらいで、僕は白い餅と草餅を2kgずつついた。

以前組み合いの薬草採取の依頼を受けたことで、この世界に「与マギ草」という何でも魔力を回復するための薬草があることを知ったのだが、どう見てもヨモギにしか見えなかったのである。試しに口に入れてみたけど、まんまヨモギだった。強いて言えば苦みはさらに強いかもしれない。

この薬草を蒸留水と混ぜて、錬金術師がなんちゃら~って呪文を唱えるとMPポーションという名前の魔力を回復する薬になって、この世界の魔法を使う組合員さんにはなくてはならないものらしい。

ただ、材料が当然草と水なので、ひたすら苦いらしく、魔法使いさんには不評なんだとか。それでも肝心なところで魔法が使えないとなると命に関わるらしく、背に腹は替えられないらしいけど。

そんな大事な薬の材料だけど、やっぱり草餅はおいしいので作らないという選択肢はない。

小豆も昨年大豆と一緒に見つけて大量に買っているので、餡子も作り放題だった。

僕は昨年お世話になったのでと、組合と修道院に出来たばかりの大福とヨモギ大福をもって新年の挨拶にいく。

ところで、この世界での新年の挨拶って「あけましておめでとうございます」でいいんだろうか。

まあ、なんとなく意図は伝わるだろう。

組合では受付にラーナさんが居た。休んでいるところを見たことがないけど、休日とかないんだろうか。意外と組合ってブラックなんだろうか。

「おはようございます。」新年おめでとうございます。ラーナさん。本年もよろしくお願いします。」

「あら、シローさんお久しぶりです。最近はお見えにならず、よその町に行ったのかと。あ、それと年が明けたことをお祝いする習慣がシローさんの故郷ではあるんですね。」

あ、新年明けましておめでとうございますってこっちの世界ではないんだ。

「これ、故郷の食べ物なんですが。新年のお祝いに食べるものなんです。よかったら皆さんでどうぞ。」ぼくはそういって大福とヨモギ大福を10個ずつ出してラーナさんに渡す。

「暁の狩人さんがお見えになったら、いつぞやのお礼にとお渡し下さい。」と組合員になりたての僕にクエストの内容とかを教えてくれたガンツさんたちへももし会ったらでいいのでと多めに渡した。

「それより、シローさん、最近は組合の依頼を受けておられないようですが、どうされたのですか?シローさんの持ってくる素材は処理が丁寧なんで、結構人気があるんです。組合としても納品もそうですが、是非もっと難易度の高い依頼設けて頂きたいと思っているのですが。」

「今は山や森が雪に覆われていて、野草もないし、熊やイノシシも見つけにくいので、春になったらまた。」僕はそういって組合を後に、修道院に向かった。

修道院では、昨年の院長の治癒から、その後王女を治療してそのお礼の半分を各地の修道院のために使って欲しいと寄付して以降、初めて訪問したので、テレーザさんとマリアさんに、ずーーーーっと頭を下げられてかえって居心地が悪くなってしまい、頭を上げてくれないと帰りますという逆脅迫でようやく話が出来るようになった。

来訪の趣旨と修道院の全員に、と大福とヨモギ大福を人数分一つずつ渡した。

初めて見る食べ物を不思議そうに受け取ったが、一口食べて目を大きく見開き、おいしいと喜んでもらえたので、作った甲斐があるあるというものだ。

急いで食べるとのどに詰まらせて危険だからと説明して、特に小さい子供には気をつけて食べるようにと伝えてもらい、その場を後にした。

このときはまだヨモギによくにた与マギの大福が国中ひっくり返すような大騒ぎになるとは思っていなかった。



短いですが、正月ネタの残りです。

前から薬草をポーションにしたら青汁って、草餅にしたらおいしく摂取できると思うんですよね。

戦闘途中だと咀嚼している時間ないかもしれないけど携行食としてはとても優秀

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