マタギみーつ勇者1
ロックハンドの町では、低ランク組合員向けのテント広場でマタギ小屋の生活をすることにした。
一つは、手に入れたばかりの米を使って調理をしたいからであり、もう一つはシラカミが大きくなってきたので、宿に泊まりにくくなってきたという理由である。
マタギ小屋なら、入る時と出るときだけ小さくなってもらえば済むので、寝るときは元のサイズでゆっくり寝ることができる。
僕は基本的にソロなので、先日の野営のような他の人たちと一緒に野営するということがなかったのだが、この先は小屋以外にテントを準備しておく必要があるかもしれない。
けど、テントの中に居る時に襲われる可能性を考えると、やはり、理由は分からないが、あらゆる攻撃を跳ね返すマタギ小屋は手放せなくなってしまっている。
明日はブルーフォレストの町に向けて出発する予定だ。一旦戻ってから、ゆっくりいろいろな町を回る旅に出てもいい。今は冬になる前に、峠が雪で閉ざされる前に、ブルーフォ
レストの町に戻って慌ただしく王都に行った時の報告をしておかなければならない。
グリフォンにもお礼を言いにいかないと。
今晩はゆっくり寝ようと、買ったばかりの米を、少しばかり石臼で轢いて米粉にしたところで、寝ることにした。
ところが、夜半に、ぽこぽこと小屋の入り口を叩く音がする。
知り合いはいないはずなので、誰なのか見当も付かないが、明らかにノックしている。
ちなみに、外見はテントなので、ノックの音もぽこぽこという音にして怪しまれないようになっている。敵意があれば、始めから結界に弾かれ、ノックも出来ないので、誰にせよ、心配はなさそうだが。
僕は小屋の外に出る。残念なことに、テントの外に首だけ出すということが出来ない。異空間の境界になるので、全部入るか全部出るかしかないのだ。
外に出ると、そこに立っていたのはラーナさんとうり二つの女性だった。
「え?ラーナさんですか?」
僕は思わず尋ねてしまう。
「ああ、そういえばシローさんはブルーフォレストの町からいらしたんですよね。王都にもいってらっしゃったとか。私の姉のラーナと妹のレーナはご存じですね。私はリーナと申します。」
なるほど、ラーナさんの妹でレーナさんのお姉さんか。並んだら誰が誰だか分からないな。
「夜遅くで申し訳ないんだけど、組合長が事務所まで来てくれって。お願いします。」
(こんな夜なのに、よほど緊急なんだな。結構大変なことが起こっているのかもしれないな・・・だが断るっ!)
今僕は組合事務所の組合長室に居ます。
え?断ったんじゃないのかって?
女性が目に涙を浮かべてお願いしているのに、断ることが出来ると思う?
Noと言えない日本人の僕が、そんなことが出来るなら、とうの昔に日本人を辞めているはず。
え?意味が分からない。ご心配なく、言っている僕も意味が分からない。
「そろそろ話始めていいか?」
頭の中の変な妄想が、その一声でかき消され、一気に意識が現実に引き戻される。
「お前達に来てもらったのは他でもない。折角勇者一行がこの街を訪れたんだ、この機会に厄介事を片付けちまおうと思ってな。」
はい、お気づきになりましたか?お前「達」、決して僕とシラカミとツガルのことではありません。
今この部屋には、僕と組合長とリーナさん以外にもう一組の組合員チームがいらっしゃいます。もちろん初対面なんですが、話の流れからすると、どうやら「勇者一行」というのはその方々のようです。
「で、僕たちに何をさせたいんだい。」
僕の前に部屋に居た男性が口を開きました。
長身で180cmくらいあるでしょうか。さらさらの金髪に青い瞳の男性で歯が不自然なくらい白く、全身を白銀のフルプレートの鎧で固めた主人公キャラです。
きっとこの人が勇者さんなんでしょう。
ただ、僕「たち」というのはそちらのグループだけを指した言葉でしょうね?巻き込まないでくださいね?
「あ、ワイバーンの討伐だな。」
部屋の中が突然どよめく。一人ついて行けない僕
ワイバーン?何それ美味しいの?
「ああ、美味しいぞ。もっとも超がつく高級食材だけどな。」
組合長が答えた。知らない間に声に出ていたらしい。
「ちょっと待ってくれないか。そこの組合員はワイバーンを知らないように聞こえるが?」
イケメン風の男が不思議そうに尋ねる。
「知らないと駄目ですか?」僕はおそるおそる答える。
「組合長、何故この場に彼が?あ、まず僕の自己紹介からしておこう。僕はアレン、先日神託で聖剣に勇者と認めてもらったばかりでね、あ、これがその聖剣エクスカリバーね。で、仲間と一緒に,王都に行く途中、この街に立ち寄ったら、呼び止められたのさ。そして、隣にいるのがエレン、聖女さ。マイスイートハートだよ。勇者と聖女は結ばれる運命にあるんだよ。こっちの男が剣聖のクリスで、その隣が賢者のメリーナ、二人も仲の良い恋人同士さ。つまり僕たちはツーカポーのパーティーなんだよ。」
うん、聞いてない。
しかし何だろう、この暑苦しさは。
こういうときは、ご馳走様っていうべきなのか、リア充爆ぜろというべきなのか、ずっと田舎でマタギしてたから、サブカルチャーの流儀ってよくわからないんだよね。
「それで君の名前と職業を教えてくれるかい。
アレンさんが僕に話しかける。
「あ、えと、シローっていいます。職業はマタギです。こっちは相棒のシラカミとツガル」
「マタギって何だい?初めて聞くけどユニークジョブなのかな。」
「えと、マタギちおうのは山に入って熊や猪を狩る職業です。」
「それって普通に猟友会組合員ってだけじゃないのかい。」
「僕がいたところでは、そう呼んでいたので、ここではよくわかりません。」
「君の故郷は離れているのかい。」
「そうですね。遠くです。もう帰ることができないほどに。」
僕の答え方がどこか遠い目をして寂しそうだったらしく、話を変えてきた。
「、あ、まあ詮索するつもりはないよ。ところで、さっきの口ぶりだとワイバーンを知らないようだったのだが、君の組合員ランクは?ワイバーンと戦うだけの実力はあるのかな。」
「僕は雀級です。実力というのはワイバーンが何か知らないので、答えようがないです。でも、危険そうならお断りしたいです。」
アレンさんは組合長に詰め寄る。
「組合長、雀級の組合員にワイバーン討伐とか、死地に行けと言っているような話じゃないか。僕たちだけで対応する。」
「じゃあそれで。」
僕は部屋を出ていこうとする。
「まあ待て。」組合長が止める。「確かにそこの坊主は雀級だが、組合の記録には、ジャイアントボアやブラッディウルフの素材を持ち込み、つい先日は一人で盗賊団の半分を討伐し、さらわれていた女性と盗品の回収に貢献している。まあ、オレがもっとお期待しているのは、そこの坊主というより隣のフェンリルだがな。」
「フェンリル?!組合長の言葉に勇者一行は大声で驚いた。
「私フェンリルなんて初めて見たよ」メリーナが呟く
「ああ、伝説の魔獣でその危険性、攻撃力はドラゴンに匹敵するというフェンリル、なぜそこの坊主に従っているのか知らんが、今なら勇者であるあんたら全員足しても、そっちのフェンリル一匹のほうが強いんじゃないか。」
そういう挑発はいいです。なぜだろう、全員からの視線が痛いです。
「えーと、僕たちは実力不足なので、断っていいですか?」僕がおそるおそる切り出す。
「話を聞いていた炉。坊主くらいはここの勇者さんたちが守るだけの実力はあるよ。それに、ローリングフラワーの組合から聞いているぞ、お前の料理おいしいんだってな。しかも20人分の料理がマジックバッグから出てきたっていうじゃねえか。大きなマジックバッグを持っている奴は貴重だ。現場で解体している時間はねえし、下手に死体を残してちゃ、ほかのが集まってくるからな。」
「要するに荷物持ちとして参加しろということですか?」
「安全には配慮するよ。そっちのフェンリルは戦力で勘定してるんだ。ワイバーンの被害が大きくて町の人が困っているんだ。助けてやってくれないか。ほれ、リーナ。」
組合長の合図でリーナさんが瞳に涙をためて上目遣いに僕を見る。
あざとくないですか?
結局断り切れずに、参加することになった。




