マタギvsヒャッハー
どこかの名探偵じゃあるまいし、行く先々で事件が起こるはずがない。
拝啓、村のみんな、お元気ですか。
僕は今絶賛逃走中です。
ローリングストーンからローリングフラワーの町へ、のどかな田舎道をのんびりと歩いていくはずでした。一日頑張ってあるけば、なんとか日没までにたどり着く、日の出と共に町を出た僕たちは、ローリングフラワーまでの道のりちょうど半分というところでお昼を迎え、峠の茶店・・・はないので峠の一本松の根元でお昼にしようと腰を下ろしたところで、一本道の街道を二手に分かれてそろそろと近づいてくる気配をシラカミが察知しました。
どこかから、「フラグ折りてー」という声が聞こえてきたような気がするのですが、二手に分かれてこちらに向かって来たのは、この辺りに出没するらしい山賊のようです。
いずれにしても、峠では隠れる場所がありません。
僕は、周囲を見渡し、近づいてくる気配がただの通行人の場合、敵意のある相手方の場合、いずれでも対応出来る拠点を確保しようと、瞬時に地形を把握します。
昔じっちゃと山に狩りに行ったとき、じっちゃが教えてくれました。
「いーか、史朗、銃は決して水平に構えて撃っちゃなんねえだ。必ず、獲物よりも高いところから、見下ろすようにして撃たにゃなんねえだ。なぜだかわかっぺか。」
「なんでだ。」
弾丸ちゅうのはな、飛んでいるときに空気の抵抗だけでなく重力の影響も受けんだあ。見上げる角度で撃つと、弾丸が受ける重力の影響が大きすぎて、狙いと違うところに行くんだべさ。水平射撃が駄目なんは、標的を外したときに、逸れた弾丸が人に当たったら取り返しのつかねえことになんだ。弾丸がどこにいくか分からね場合に、危険を生じさせたらなんねだ。
「せば、獲物より高い場所を目指さねばなんねえべ。」「んだ。なんでもバンデージなんちゃら言うだ。」じっちゃはどや顔で、銃の扱いを教えてくれた。
特に標的に対するポジションの重要性は耳にタコができるくらいに聞かされたマタギの基本だ。
この辺りでのバンデージはと、僕は街道を外れて林に入り、その林を抜けたところに小さなピークがあり、岩場になっているのを見つけた。
「よしあそこまで行くべ。」
僕はすぐに立ち上がり、街道を真っ直ぐ横切り、林の中に駆け込む。
シラカミは僕のすぐ後ろを付いてくる。
ツガルは木の間を素早く飛ぶのは難しいので、シラカミの背中に乗ってシラカミが駆け抜ける。
僕たちが突然走り出したのを見て、接近してきていた気配も急速に峠に集まってくる。
残念だけど、やはり僕たちをターゲットにしていたらしい。
僕は出来るだけ頭をかがめながらひたすら林の出口を目指す。
次の瞬間、目の前の避けた木に後ろから飛んで来た雷撃が辺り、焦げた臭いが横を通り過ぎる僕の鼻を掠める。
奴らの中には少なくとも一人魔法を使う奴がいる。
それも、林の木の間を縫うように走り抜ける僕らに向かって速度が早く、外しても自分たちの追走の邪魔をしない雷魔法を選択するあたり、地の利があるようだ。
「ツガル、通り抜けた後、木を倒して邪魔できるか?」
僕は横を走るシラカミの背に居るツガルに、林の木をツガルの風魔法で倒し,通路を封鎖することで、追っ手をブロックしようと考えた。
ツガルは僕の言葉がなんとなく分かるようで、戦闘中のこちらからの指示に応える。
「ホーホー」
ツガルは成鳥になったことで鳴き声が「ピー」から「ホー」になったらしい。
すぐ後ろで風が巻き起こる。
木の枝が相互にぶつかり合う音がするが、後ろを振り向いている余裕はない。
僕とシラカミは見えてきた林の出口に向かって木を縫うように走り続ける。
後ろから、雷が飛んできたが、今度は明後日の方向だった。
ツガルがうまく倒木で追撃の邪魔をしたらしい。木が道をふさぐ直前に腹いせに撃ってきた魔法らしく、当たらなかった。
僕たちは追っ手が体勢を整える前に、バンデージを確保すべく、林を抜けた後、真っ直ぐ小ピークを目指す。
岩場を超えていく時、どうしても背中が晒される、奴らの射線に入る前に、そのデスゾーンを抜けないといけない。
マタギとしての長い山中生活は、重心が岩の上に残っている瞬間に次の岩に飛び移ることで、不安定な岩の上を飛び跳ねるように移動する技術を体に覚え込ませていた。
後ろから声が聞こえることもなく、岩場をクリアし、その先の大きな木の裏に回り込む。
僕は、岩を飛び越えるときに、着地の感触から、浮き石になっている箇所を見つけ出していた。
そして、一つの作戦を思いつく。
僕は木の裏側に回り込むと、姿勢を低くし、下から上がってくる盗賊が全員、落石のコースに入るのを待つ。僕の合図で、僕は不安定になっている浮き石の根元を打ち抜いて、そこから落石を起こし、ツガルは、追っ手が登ってくるコースの左側に貼りだした岩を、反対側に回り込んで風で吹き飛ばし、盗賊を上から押しつぶし、シラカミは逆に右から大きな岩を押して、盗賊達の上に落とす作戦である。
名付けて「三方向から岩が来たら、逃げ場は来た道だけだけど、逃げる速度より、落石の方が早いから多分押しつぶされるよ作戦」である。
この作戦名の長所は、名前だけで内容が分かることだが、短所は長すぎることだろう。
僕は、銃を構えゆっくり目の前の岩の根元に狙いをつける。ここから、30mくらいだろうか。標的の大きさは、岩のバランスを崩して、盗賊の方へ落下させようと思えば、中心の上下左右で10cmまでだろう。結構小さい。
まあ、外れてもツガルとシラカミが頑張ってくれるだろう。
僕が構えるのを待っていたかのように下から足音が近づいてくる。時々カラカラという小さな石が崩れ落ちる音も聞こえる。山登りへたくそなんだな。
落石しないように登らないと下の登山者が落石の被害を受けることになる。
そんなどうでもいいことを考えていると、足音が止まる。
「おい、小僧、そこらへんに隠れているのは分かっているんだ。大人しく金と連れている鳥と狼を引き渡せば、命だけは助けてやるぞ。狼は毛皮にして高く売るけどな。ひゃっはー。」
ひゃっはーって何語だ?
「そんなこといって、本当は断るって言わせて,僕がどこに居るか確認しようってのが目的なんだろ、その手には乗らないからな。」
うん、我ながらバカっぽい。答えねえって言って答えてんじゃんか、って話だよな。まあ、相手に侮ってもらって、ついでに落石のコースを真っ直ぐこちらに来てもらうための布石だから。ただ、ここまでバカっぽいとちょっとストレスたまるけどね。
「ひゃははは、アイツバカじゃねえの。答えねえって言いながら答えているぜ。お前の居場所は突き止めた。そこで待っとけ、聞き分けのないガキは殺して、その後でもらうもんもらってやる。」
あーあ。
5、4、3、2、1
僕は銃を構えて魔法弾を撃つ、魔力の結晶である銃弾は真っ直ぐ岩に向かって・・・あ、威力が強すぎて岩が微動だにせず、根元に直径1cmの穴が空いた。
けど僕の魔法銃発射に合わせてシラカミがぷにぷにの肉球を岩に添えて体重を掛けて、岩を突き落とし、ツガルが風魔法で、岩を吹き飛ばし、それぞれ、落ちたところで、次の岩も巻き込んで、岩雪崩になって、盗賊の頭に降り注ぐ。
後ろの方ははね飛ばされて岩にぶつかりながら滑落した程度で済んだが、前に居た奴は、頭が豆腐みたいにぐちゃってつぶれていた。
即死らしい。まあ状況的に盗賊であることは間違いないし、シラカミを毛皮にするって言ってたから、この結果もやむを得ない。けどじっちゃ、僕はじっちゃの言いつけをちゃんと守って銃を人に向けたり、銃で人に危害を加えたりしなかったよ。
盗賊は全部で8人居た。3人は一応生きていたが、腕や,脚が滑落中に岩に挟まれ,ねじ切れていた。
マタギは遭難救助もするから、滑落する遭難者の遺体も四肢を失っている人を背負って運ぶこともあるんだよね。
まさか転生してもこんなことするとは。
天寿を全うされてしまった方々については、ちょっと生理的に嫌悪感あるけど、魔物の死体と同じなので、あいてむぼっくすに収納して片付ける。
生きているのは、あいてむぼっくすに入らないので、マタギの背負子に結わえ付けて、一体ずつ、街道まで運ぶ。
当然逃げられないようにロープで縛っておくけどね。
ツガルが成鳥になって、森の賢者とかいう仰々しいニックネームと共に聖魔法とかいうものが使えるようになったらしく、怪我が治せるらしい。
手足がちぎれて出血多量でこの後死んじゃうのも寝覚め悪いので、ツガルに3人の盗賊については止血してもらった。当然無くなった手足が生えてくるなんてそんなファンタジーな展開はありませんが、それが何か?
街道まで出て、生きている方の3人をどうするか悩んだけど、捨てていくと街道に魔物を呼び寄せてしまうので、仕方なく、首領っぽいやつを背負子に結わえ付けて,僕が担ぐことにして、残りの二人はシラカミが引き摺ってローリングフラワーの町を目指すことにした。
ロックハンドとパレスキャッスルの町を結ぶ街道で馬車なんかも結構通る道なので、そこそこ平らだから、引き摺っていっても、擦り傷が増えるだけで死にはしないだろう、別に死んでも仕方ないと思うけど。人の命を狙った以上、自分が相手に命を狙われる覚悟もあるということだから。マタギというのはそういう職業である。熊やイノシシの命を奪うからには、熊やイノシシに命を奪われることも受け入れなければならない。
ただ、一生懸命歩いても、ローリングストーンとローリングフラワーの間は日の出から日没まで掛かるんだよね。当たり前だけど、寄り道させられた上に、人二人を引き摺って歩いているので、さらに時間がかかる。
かといって野営も、この状況じゃ出来ないし。
僕とシラカミは夜通し歩いて、ローリングフラワーの町の門の前に着いたのは、明け方になる前だった。一晩くらいなら徹夜も大丈夫。
まあ、血のべっとりついたけが人以上死体未満を引き摺っていくと、ちょっとした魔物トローリングになるんだよね。
道中街道沿いに出てくる狼の群れに何度か、足止めされましたが、シラカミにくくりつけたロープを外して、シラカミに瞬殺してもらいました。
僕は一応近くまで来た分は銃で仕留めましたが、夜間に動いている狼を銃で仕留めるなんて、まあ無理ゲー、ここはシラカミさんに頑張ってもらうということで。
残念ながらツガルはフクロウなんだけど、昼行性のため、夜間は鳥目で何も出来ませんでした。夜行性だと格好いいんだけどね。モデルになっているシロフクロウが昼行性なんでその辺は忠実にね、え、この説明は誰が誰にしているの?
町の門は当然まだ開いてないので、日の出と共に開くのを門の前で待つ。盗賊は逃げられないように門に吊しておいて、シラカミに寄りかかり、仮眠をとった。
シラカミも僕を支えながら目を閉じて、休んでいる。僕も気配があれば起きると思うけど、シラカミは間違いなく敵が接近すれば起きる。
ツガルは・・・期待してないけど、頑張れ
幸い朝まで門の前に魔物が来ることはなかった。町の周辺でシラカミの気配に向かってくる知能が低いか危険度が高い魔物は居なかった。
朝になって門が開く。
門番にはちょっとしたドッキリになったようだが、事情を説明し、門に吊していた盗賊を下ろして検問を受け、道中で盗賊の襲撃にあったこと、5人は遺体なので、マジックバッグに収容してきたこと、3人は生きたまま連れてきたことを告げて、町への入場検査を受けている間に、衛兵を呼びに行ってもらった。
かろうじて息をしているだけ、という盗賊の一人がこの辺りを荒らし回っている盗賊団の一人であることが確認され、ロープに縛り付けたまま荷車に乗せてどこかに運んでいく。
身体障害者にしてしまったことで、こっちにもお咎めがあるかちょっとだけ警戒していたけど、盗賊は殺人・強盗・強姦の被害例が両手両足でも足りない件数報告されており、殺した状態でも何の問題もなかったらしい。ただ、どこかに拠点があって、盗品が保管されているであろうこと、被害に遭って行方不明になっている女性が捕らわれている可能性があるということで、生かして連れてきた盗賊が居るのはお手柄だということだった。
まあここでも盗賊に懸賞金が掛けられていた、一人につき金貨20枚、首領級、といっても、実行部隊のリーダーのほかに、集団の本当のリーダーは別に居るらしい、については金貨30枚だそうだ。で盗賊団のリーダーは金貨50枚だが、アジトが分かったら、討伐隊を組織するが参加するかと尋ねられた。
今は宿で寝たい、それしか考えられない、そう答えると、盗賊の討伐は、最初にその情報を入手したものに権利があり、この場合、僕が盗賊の一部を単独討伐し、情報入手出来る生け捕りもしたことで、このまま衛兵や町の冒険者で討伐隊を組織した場合、アジトに残っていた盗品の半分は僕の権利になるらしいが、アジトへの襲撃もまずは、僕に権利があるらしい。別にそこまでがめつくはない。
「取り逃がして被害が拡大するより、皆さんで慎重に対応すればいいんじゃないですか?拠点にある盗品などについても、決まりがあるなら、それでいいです。とりあえず、今は寝たいので、起きたときまでに拠点が分からなければそのとき考えますが、盗品は被害者に戻すのが私の希望です。決まりなら、他の人が拠点を制圧したときに,その方の分についてはその方が決めればいいと思いますが、僕の分については被害者に返還して上げてください」
僕はそういって、宿の場所を聞いて、その場を失礼し、夕方まで起きることはなかった。
ずっと寝ていたツガルだけは僕とシラカミが寝ていて相手をしてくれないのが不満だったみたいだが、疲れて寝ている僕たちを起こすような無粋な真似はしなかった。
大変よく出来たフクロウである。




