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創造神アストラ先生のアストレア講座1

何かがボクの頬を触っている。

ゆっくりと、しかし確実に意識を取り戻していった。

白く明るい部屋での出来事はなんだったのだろう。

それより、ボクは死んだのではなかったのか?

まぶたをゆっくりと開くと眼の中に飛び込んできたのは薄暗い空間

それだけに、記憶に残るまぶしいばかりの白い空間がなんだったのか?まさか天国という訳でもあるまい。

「きゅーん、きゅーん」

耳元で突然鳴き声がした。

驚いて跳ね起きると、白い子犬がいた。いや、犬じゃなくて狼か?

日本にはもう狼は絶滅していないとされている。広大な白神山地のどこかに生息し、遭遇していないだけなのかもしれないが、それにしても目の前の生き物は白すぎる。あれ?熊に襲われていたのはもう少し大きな犬だったはずだが・・・

ボクは記憶が混乱しているのかもしれない。情報を整理しなければ。

まず、ここはホームグラウンドの森の中・・・でいいんだよな?

周りの木々が生い茂り、森の中なのは間違いない。熊に襲われたのも森の中だから、場所はそこであっているのだろうか。

次に目の前の子犬・・・なのか狼?なのかは一体何だろう?

不思議に思いながら、じーっと目の前の犬を見つめると、犬は「ウォン」と鳴いて、飛び起きたまましゃがみ込んでいるボクの腕に体をすり寄せてくる。

とりあえず、襲ってくることはないらしい。

本能的に、頭を撫でると「きゅーん」と吠えて、しっぽが揺れ出した。

さらに、じーっと見つめると、そのサファイアブルーの瞳でボクを見つめ返してくる。

そのとき、頭の中に文字が浮かんだ。

 フェンリル

 神狼とも呼ばれる世界最強生物の一角でドラゴンと双璧をなす。

 成体だが、魔素のない異世界に転移したことで、本来の力を失い、成体時の能力を維持出来ない。生存を優先するため幼体の状態で姿を維持している。

 シロウの従魔

 名前はない。シロウが付けるのを待っている。


 ん?

 フェンリルって何?ドラゴンて?シロウの従魔って?

 一体何のいたずらなんだ、これ?

 ボクは何がなんだか分からない状態でそのままただ目の前の犬を見続けていた。頭の中になぜそのような言葉が浮かんだのかも分からない。

 ボクがその状態で固まっていたら、子犬は小さな足でとてとてと歩きながら、ボクが横たわっていた場所の横にある背負子をのぞき込むように、口を開いて顔を突き出す。

次の瞬間、犬の口には、何かの紙切れがくわえられていた。

犬は再びボクに近づいてきて、口にくわえた紙を差し出してくる。

 ボクはそれを受け取って開いてみた。


「 転生者へ

 あー、本来ならこの世界に送る前に、一通り説明するのじゃが、あいにくその時間がなくての。手紙で一応なんとなく説明しておくから、まあそういうもんだと思って諦めてくれんかの。

 まずは、ワシじゃが、ワシはこの世界を創った創造神のアストラという。この世界はワシの名前にちなんでアストレアと呼ばれておる。・・・」


 なんだ、これ?新手の詐欺?


「・・・言って置くが、詐欺ではないぞ。(うわ、なんでバレた?)。

とりあえず、ワシの眷属であるフェンリルを助けてくれてまずは礼をいう。そこにあるフェンリルは、空間のひずみに巻き込まれて、お主の居た地球という世界に転移させられてしまったのじゃ。運悪く転移先で地球に生息している共謀な生物と遭遇し、交戦となったところへお主が通りかかり、危うきを脱したことで、ワシがこの世界に連れ戻すのが間に合ったのじゃ。

 そのとき、すでに息を引き取っておったお主については、そこのフェンリルが自分の命の恩人だからと懇願するので、元の世界から肉体も取り寄せ、魂を戻して、この世界で新しい人生を送ってもらおうという訳じゃ。

 難しい話じゃが、お主は前世で一度死んでおるので、この世界には転移だけでなく転生もしていることになるのじゃが、まあそれはそれでいいじゃろ。

 この世界は、お主の居た世界と違って、人間は魔物と呼ばれる生き物の脅威にさらされながら生きている。お主は前世でハンターをしていたようなので,比較的慣れるのも速かろう。要は、熊やイノシシなどが普通に生息して人間を襲ってくるだけでなく、人間を食料にもしており、そのテリトリーに足を踏み入れずとも、向こうから襲ってくることもあるという感じじゃ。

 そのため、人間達の中には命を賭けて魔物と戦う騎士や冒険者という役職の者がおる。

騎士は王国に使える、そうじゃのお主の世界の言葉で言えば特殊公務員でまあ警察みたいなものかな。犯罪者のみならず、魔物も相手にするという意味で警察とはちょっと違うのじゃが。

 冒険者は誰でもなろうと思えばなることの出来る職業で、いってしまえば、腕に覚えのあるものが一攫千金を夢見てなる職業じゃが、相手が危険な魔物だけにその生存率はそのほかの職業に比べて圧倒的に低い。冒険者の半数以上が30才になるまでに死んでしまうと言われるくらいである。お主の世界では、熊はよほどのことがないかぎり人間に襲いかかってこないが、この世界の熊は人間をみたら襲いかかってくる。倒すか倒されるかの世界じゃからの。

 まずは、近くの街に行って冒険者として登録する必要があるが、当面は魔物を倒す術を磨くことじゃ。

 そこにあるフェンリルもお主の従魔としてお主と行動を共にするのじゃが、なにぶん伝説の神獣での、人間の中にはよからぬ考えを持つものもおるじゃろう。それに魔力の恩恵のない世界に飛ばされた影響で、著しく力が弱っておるので、しばらくはお主に守ってもらわねばならない。いずれは本来の力を取り戻すじゃろう。そうなれば、もはやお主は立っているだけで世界最強となってしまうじゃろう。いわゆるちーとという奴じゃ。けど、ワシとしては、そういうものに安易に寄りかかることなく、自ら切磋琢磨して第二の人生を謳歌してほいしいと思うのじゃ。

 異世界へ旅立ちお主にはなむけの言葉じゃ。


 ひきつづき、アストラ先生のアストレア講座を開催するので、2枚目以降もちゃんと読めよ。

              お主の神様 アストラ


 なんだこれ?

 フェンリルが世界最強とかドラゴンとか、一体何の話だろう。

 目の前の子犬はとりあえず、このまま放っておけないのは確かだが。

 そう思いながらもう一度子犬を見る。子犬は嬉しそうにこちらを見ながら舌を出してしっぽを揺らしている。

 名前を付けろとかあったな。どっちにしても何時までも子犬と呼ぶわけにも行くまい。

 普通なら、「シロ」なんだけど、ボクの名前と紛らわしいしな。

「シラカミ」今日からお前の名前はシラカミだ。故郷のホームグランド白神山地から付けた名前だが、白いしオオカミらしいし。白いオオカミでシラカミという意味にもなる。・・・なるか?、まあいいや。

シラカミは良い名前だ。

「ワフウ」シラカミが嬉しそうに鳴いて、飛びついてきた。

ボクは両手でシラカミを受け止めるが、その勢いのまま後ろに倒れ込むとシラカミが覆い被さってそのまま顔をなめ回し始めた。


 ボクはようやく起き上がるとシラカミも落ち着きを取り戻す。

 それにしても別の世界とか魔物とかまだ意味が分からない。

 いちど家に戻ろう。そう考えて背負子を取りに行こうとしたそのとき


 背筋に寒気が走ったのと同時に、左前方から今までに感じたことのないくらいの張り詰めた空気、例えるなら早朝の奥山の中で熊のテリトリーに踏み込んで、熊がすぐ側の茂みの中から様子を窺っているような、

 ボクはすぐに背中の銃を取り出して殺気が発せられる方向へと構えた。が、すぐに猟銃免許が得られる年齢、つまり20才までまだ1週間あり、銃刀法違反で検挙されないように祖父の形見だからとマタギとしてのアイデンティティだからと発砲できないように改造した状態で所持していて、猟銃免許を得た後で、使用出来るように戻すはずだったことを思い出した。つまり今は猟銃はただのオブジェでしかない。

 あわてていたボクの目の前で揺れる茂みの中から出てきたのはツキノワグマくらい大きなイノシシだった。眼が赤く光っていて、禍々しい雰囲気を纏っていた。

 イノシシであることは見た目に分かるのだが、サイズからして、こんなイノシシが生息しているはずはなかった。長年マタギをしているが、初めて見る種類のイノシシだった。何よりマタギとしての勘が、目の前に迫る危険を告げていた。

 次の瞬間、イノシシは真っ直ぐボクに向かって突進してきた。

 考えるよりも速く横に飛び退くことが出来たのは,体に染みついた習慣だった。

 猪突猛進という言葉があるが、実際にイノシシは曲がることが出来ないのではなく、その体形と走法から急速に鋭角に進路転換が出来ないというだけで、それを言ってしまえばおよそ全ての獣は猪突猛進するしかない。その中でも特に急速な進行方向が苦手だというのはイノシシは首回りが太く、可動域が狭いことで、視野が極端に狭いことから進路変更を苦手にしているのである。

 ボクはイノシシがすぐに方向転換出来ない隙に体勢を立て直す。それでも目の前の巨大なイノシシに立ち向かうには手元にある弾の出ない銃ではあまりに頼りない。

それでも、他に手段がないので、銃の台尻を鈍器にしてなんとか反撃しようと構えた。

イノシシは再びボクに向かって体勢を整えると、再び突進してきた。ボクは再度半身で躱してそのまま銃の台尻をその頭にめがけて振り下ろそうとしたが、金属を叩いているような音と共に銃ははじかれ、ボクはイノシシに吹き飛ばされた。

イノシシは、飛ばされて地面にたたきつけられたボクを見据えて次でトドメを刺すという意識もあらわに、ゆっくりとボクに向かって歩を進めてきた。

突然横からシラカミがイノシシに噛み付こうとするが、大人と子供の体格差からか、あっさり振り払われ、牙に引っかけられてぼろぞうきんのように飛んで言った。

「よくもシラカミに」

ボクは手に持った銃に、弾が込めてないのを知りながらも、イノシシに銃を向けて強く握りしめる。

そのときだった。

銃口から一筋の閃光が走ると、イノシシの眉間に吸い込まれ、時間が止まったかのようにイノシシが硬直し動きが止まったかと思うと、スローモーションのように、ゆっくりと地面に向かって倒れ込んでいった。

ボクは何が起こったか分からないまま、すぐに牙に引っかけられて飛ばされたシラカミに駆け寄り、キズの有無を確認する。

ボクが駆け寄るとシラカミは悔しさをにじませるように弱々しく鳴いて差し出すボクの手に頭をすり寄せたが、命に別状はないようで、そのことだけでボクは安堵した。

ボクはシラカミを包み込むように抱きかかえると、撫でながらおそるおそるイノシシに近づいていく。

イノシシは、軽自動車はあろうかという巨体を無造作に投げ出して、息絶えていた。その眉間には、小さな穴が空いていた。

弾丸を詰めた覚えもなければ、発射出来る仕様にもなっていない銃から弾が出たことに驚きながらも、正当防衛でなんとか処罰を免れないかな、とそのときは考えていた。

それにしても、目の前の生き物は一体何だろう。間違ったサイズさえ無視すればイノシシであることは間違いないはずなのだが。



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