マタギvs呪いの石 ざ、ふぁいなる
夢を見ていた。
夢の中でじっちゃは囲炉裏の前にいた。
自分の命を託す唯一無二の相棒、猟銃の手入れをしていた。
地元の猟友会のメンバーも高齢化すると同時に、良くて兼業、場合によってはハンティングが趣味というだけで猟銃免許を取得し、実際には熊やイノシシではなく、増えすぎた鹿の害獣駆除を片手間にする程度という人がほとんどで、生業として猟師をする人間はいっちゃしかおらんかった。
そうなると、「もはや銃の扱いもゲーム感覚の素人に毛が生えたような者が多くてな。猟銃の手入れは、地道な作業だが、怠ると大変危険なんじゃ。」ボクがじっちゃの後を継ぎたいとマタギの弟子入りを志願したとき、じっちゃは最初猛反対した。動物愛護団体からの猛抗議、時にはエスカレートして直接嫌がらせをしてくる者もいた。
そんな厳しい環境では、およそ安泰とはほど遠い生活になるからと、じっちゃは両親がなくなった後も、自分がなんとかすると、高校への進学を勧めてきた。
けど、「マタギは、生き物を殺めるだけが仕事じゃない。山に感謝して山と共に生きる。熊だってイノシシだって、鹿だって、生態系が崩れるような乱獲をする訳じゃなくて、生きるために必要な限度で他の命を奪う人間の業というものしかそこにはなくて、その純粋な形をそのまま体現した職業なんだ。」じっちゃの口癖をそのまま返して,渋るじっちゃを説き伏せマタギの弟子入りをした。最後は「仕方ないな」と諦めたように弟子入りを許してくれたじっちゃだが、どこか嬉しそうだった。
そのじっちゃが、囲炉裏に向かって銃の手入れをするとき、なぜ銃の手入れ、具体的には、銃を分解して、掃除するのだが、重要なのかということを教えてくれた。
銃口の中を示しながら、ボルトのように渦になっている部分を示して、銃には、このライフリングという渦状の加工がしてあるんじゃが、そのために、この溝に煤がたまりやすいんじゃ、それを放置したまま銃を使い続けると銃が暴発死、場合によってはそれで死ぬこともあるんじゃ。
「どうして危険だと分かっててそんなことするの?」小学生のするような質問にも、じっちゃは優しく教えてくれた。懐から昔の玩具である独楽を取り出して、床の上で回す。
「独楽はな、回っている間は真っ直ぐ立っているじゃろ、」しばらくすると独楽は勢いをなくして、転がり止まってしまう。「で、回転が落ちると、ふらふらして、最後は縁が床について止まってしまう。」
「回っている独楽にも動いていない部分があって、それが真ん中の軸の部分なんじゃ。軸を中心に回転すると、回転するものの力はその軸に集まろうとする性質があるんじゃ。難しい言葉でなんたらの法則というんじゃが、大事なのは、そんな名前を覚えることではなくて、回転するものは軸に向かって力が集まるという事実そのものなんじゃ。」
「どうしてなの?」まだあどけなかったボクが尋ねる。
「弾を独楽に見立ててごらん。回転しながら飛んでいく弾は、その回転の軸に力が集まろう集まろうとして軸がぶれなくなるんだ。つまり空気の抵抗を切り裂いて真っ直ぐ飛ぶために、弾は回転しているほうが都合がいいんだよ。そして、真ん中に真ん中に力が集まろうとするということは、標的に当たったときにも、力がそこで逃げずに留まろうとする結果、威力が何倍にもなるんじゃ。」
夢はそこで途切れ、ボクはハッと目を開けた。
目の前には、フクロウの雛がいて、ボクの顔をのぞき込もうとしていたところで、目が合った。
「うわああああああああああああ」
朝から心臓に悪い寝起きドッキリを仕掛けられたが、ボクの声に飛び上がってもっと驚いたのはフクロウの方だった。あ、元気になったみたいでよかった。
「フクロウの容態も気になるけど、今はそれどころじゃない。」
たった今まで見ていた夢の内容を忘れないうちに。
ボクは猟銃を手に取ると、小屋の外に出た。
何事かと、グリフォンが後に続いてきた。
ボクは、銃を構えると、深呼吸し、精神統一する。
火薬と弾丸が使えなくなって、魔力を弾丸の代わりにすることで、すっかり頭の中から欠け落ちていた、ライフリングの重要性、それを活かすためには、
指先に集めた魔力が、銃身を通って発射されるときに銃口のライフリングにそって高速回転するイメージで。
すーっと息を吸い込んだあと、同じだけの時間を掛けて、細く長く息を吐いていく。
肺の中の空気を全て吐き出したところで、息を止めて、目を見開く。「射」
銃口から空気を切り裂く音と共に、いままでより強い閃光と共に、一筋の光の残映が滝に向かって線を描く。その光の筋は滝にぶつかった瞬間、滝の水が破裂し、それによって出来た空間を進み、奥にあったあの黒光りの石を直撃し、次の瞬間石が割れた。
いままで魔力が枯渇するまでひたすら削り続けた石を滝の水を切り裂いた後にただの一撃で粉砕したのであった。
息を止めたほんの数秒に起きた出来事が陽炎のように薄れていく後には、心を静めるまで制止したまま深呼吸をする一人のマタギが居た。
突破口は自分の中にあったのに、気付かないボクを見かねて、じっちゃが夢の中に教えに来てくれたんだ。
決して、このまま手をこまねいていたら話が進まないけど、かといって何の脈絡もなく、突然強大な魔法をぶっ放して解決するようなストーリー展開で俺TUEEEとかやったら、何このストーリー全然おもろねえ、とかいわれちゃったりするかなー、などという作者の都合のために出来るだけ無理のない展開のために夢枕に出てきてもらったんじゃないぞ、多分。
それはさておき、今までのシリアスが嘘のように、ボクは振り向いて、後を追ってきたシラカミとその頭の上に乗っているフクロウの方を向いた。
「よかった、峠は越えたようだね。」ボクは駆け寄って、フクロウを両手で包み込んで頬摺りした。フクロウも嬉しそうに目を細めている。
どうよ先ほどまでのシリアスさんが自己都合で早退しちゃったかのようなこの変わり身の早さ。
しばらくスリスリしていると、頭の中に聞き覚えのある言葉が響く。
「スノーホワイトアウル(幼体)が従魔になりました。名前を付けてください。」
スノーホワイトアウル?
白雪姫?
メスなのかな?
でも、そういうメルヘンな感じは性に合わないので。
雪と言えば故郷の名峰岩木山なんだが、岩木とかにすると、どっかの野球漫画のアクの強いキャラしか頭に浮かばなくなる。・・・あ、
お前の名前は「津軽」だ。
「ピイイイ」嬉しそうに津軽が声を上げた。
白雪姫と言えばリンゴ、岩木山と言えば津軽富士、この二つがつながったとき、ボクの頭にはもう「津軽」がハードコピーだれてしまい、消去不能だった。
まあ、いくらふぁんたじーとはいえ、一晩そこらで折れた骨がくっつくはずもないので、しばらくは絶対安静にしてもらおう。津軽を両手で抱えながら、目の前にもってくると、津軽もじっとボクの顔をのぞき込む。
そうやっていると当然・・・
鑑定先生が仕事をして、頭の中に津軽の情報が浮かび上がる。
スノーホワイトアウル
名前 津軽
叉木史朗の従魔
体力 そこそこ(今は療養中につきちょっと弱め)
生命力 まあまあ(成鳥になれば結構ある)
攻撃力 成鳥になってからのお楽しみ♪
敏捷性 結構速い,空を飛ぶだけに。
備考 スノーホワイトアウルは一般種ホワイトアウルの特異種
極めて珍しく、目撃例が極めて少ない。ホワイトアウル以上に純白で光沢のある羽は貴族による奪い合いの対象、これが生体となった日には値段が付けrされない。この世界では貴族や富裕層の子女が王都にある魔術学院に通う際に、従魔としてフクロウか黒猫を持参することになっているが、とある有名な魔術師が魔術学院に通うときの従魔が白フクロウだったことから、あこがれの魔術師にあやかろうと、白フクロウの需要が爆発的に増加してしまい、ホワイトアウル自体が希少動物になってしまった。その上でのスノーホワイトアウルなんて100年に一度現れるか否かの希少性、もはや飼い主を殺してでも奪い取ろうとする不埒な輩も居るので、気をつけるように。
何か最後の方が非常に物騒な内容なんだが。
「お取り込み中申し訳ないが。」
横で一部始終を見ていたグリフォンから声がかかる。
「我もお主と一緒に行きたい気持ちはある。お主の魔力はとても心地よいものだったしな。しかし、この森の生態系の頂点に君臨するものとして、この森の秩序を保つ責務が我にあるので、この値を離れる訳にはいかん。しかし、人間よ。此度は、誠に世話になった。感謝に堪えない。この森に生きる全ての生き物に代わり、謝礼を述べる。もし、お主がこの先困ったことがあれば、命を掛けてお主に力を貸そう。」
グリフォンが固い決意をかみしめるように、そう告げた。
それなら、
「じゃあ早速で恐縮なんだが、一昨日森の上を飛んでいたとき、森を出た草原の先に人里があるのを見つけた。近くまで連れて言ってもらうのは騒ぎになるだろうから、せめてその方向に森を出るところまで、乗せていってもらえないだろうか。」
「いや、主が命を賭けて泉の魔素を浄化してくれたことの礼には、こちらも命を賭して望むと告げた決意をそんなに軽く流さなくてもよかろう。そもそも森を出るところまで見送るなど、こちらの都合で手間を願った以上当然のことで、返礼にもならぬ。森の出口まで送り届けるのは当たり前のことだ。」
グリフォンは自分の一大決心の表明をさらっと流されてちょっと寂しそうだった。
「大変だったかもしれないけど、こうして無事にここにいるのだから、過ぎてしまえば過去の一日でしかないし、気にしなくていいよ。」
「お主は本当に気持ちの良い人間なのだな。お主のような者ばかりならよいのだがな。」
それより、森を出るのだな。名残惜しいが、ここでは森の上に飛び立てぬ。ちょっと歩くが、この先に開けたところがあるので、そこから森の上に出て、森を出たところまで送ろう。
こうして、僕たちは森の中を結構歩き、日没寸前に森を出ることが出来た。飛び立ってからはあっという間だったのに、木々が生い茂り、上部に覆い被さるような鬱蒼とした森の不快ところにあの滝はあったようだ。
森の中を歩いている途中も道沿いに森の動物たちが見送りに来てくれて、最後森の出口には、たくさんの動物たちが集まって,最後のお別れに来てくれた。
「必ずまた来るよ」そう告げて、僕たちは草原を人里に向かって歩き出したのだった。