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マタギvs呪われた石その3

朝、一人と一匹シラカミ一頭グリフォンが起きたのはほとんど同時だった。

ふわふわの毛に挟まれて極上の寝心地を堪能したボクは、名残惜しげに起き上がる。

「おはよう。」

シラカミとフェンリルの声を掛ける。

「襲撃の心配もなく眠ることが出来るというのはこれほどまでに幸せな気分になれるのだな。」

感慨深げにグリフォンはつぶやく。

シラカミはあくびをしながら「いつものことだけどねー」という顔をしている。

ここのところ、毎日疲れ果てて死んだように寝ているので、極上の毛布を堪能した記憶もないが、そのおかげで、今朝も体調は悪くない。

最後の一つ、森の動物たちが待っている。

支度を調え、といっても全てあいてむぼっくすに仕舞ってあるので、外に出て小屋を収納すれば、すぐにでも出発出来る。

外に出た直後に襲われないように、シラカミが周囲に気を配りながら、一番最初に外に出る。来賓のグリフォンを危険な目に遭わせる訳には、招いた者として出来る訳がない。

シラカミが進んでその役を買って出てくれる。

続いて、グリフォンが出るのを見届けてから、最後にボクが出る。

あいてむぼっくすに入れてしまうため、囲炉裏の火が燃え残っていたところで、何の心配もないが、こればかりは長年の習慣で、燃え残る薪が囲炉裏に残って居れば埋火にしておく。

今日はここから最後のポイントまで歩いていくしかない。木々が覆い被さり、空からは接近出来ない場所にあるとのこと。

これまで2箇所、無事に石を破壊出来たのを目の当たりにしたグリフォンをもってしても、最後の一つは難しいかもしれないとのこと、なぜそのように考えるのかについては、言葉で説明するのが難しいので、実際に見てもらえば分かるのだそう。

広葉樹の森は新緑がまぶしい。針葉樹の森と違って、木々の感覚は広く、光も差し込みやすくなっており、全体的に明るいが、馬ほどの大きさのあるグリフォンにすれば、ようやく木々の間を通り抜けられる位の幅を前に進んでいく。山菜の季節だろうか。前の世界ではもうすぐ冬になろうかという季節だったが、こちらの世界は季節も違うようだ。もっとも地球と同じように地軸が傾いて,太陽のような光を注ぐ惑星の周りを回ることで季節が変わるのかどうかも、まだ分からない。北半球と南半球があるなら、それだけで季節画家悪こともあり、一概に時間軸がずれたとも決めることは出来ない。

まあ、難しいことはさておいて、

先ほどから足元付近に見知った山菜のような気になる植物があるのだが、さすがに今は抱えているミッションが重大なため、お気楽に山菜を摘みながら行きましょうという訳にもいかない。

一番身近なブナとは違うけど、それでも広葉樹は秋には紅葉し、冬には枯れて葉を落とし、積もった彼はは腐葉土になって、多種多様な山菜やキノコをはぐくむ。

恵み豊かな森はそれだけで嬉しくなってしまう。やはりマタギは自分の転職なんだと思う。

そんな気持ちで、足元に注意が取られながら歩いていたからだろうか。

いつも真っ先に気配を察知するシラカミ、先頭を歩き道案内するグリフォンとタイミングを同じくして、斜め前の茂みの中に何かが居るのに気付く。

危険は感じないことから、シラカミも、特段構えた様子はない。ボクはシラカミとグリフォンを制し、ゆっくりと動く茂みへと近づいた。

ボクが近づく間、草藪はその後揺れることもなかったのだが、最後に揺れた場所までたどり着き、最後の藪をかき分けたその先に、それは居た。

突然羽ばたこうとしたかと思うと「ピィイイイ」と悲痛な鳴き声を上げてのたうち回っていたのは、フクロウの雛だった。

フクロウは、幼体とは言えフェンリルとグリフォンの気配を間近に感じて、パニックに陥っていた。

しかも、そののたうち回る様子から、右の羽を痛めていることがすぐに見て取れた。どうやら骨まえ折れているらしい。原因は分からないが、このままでは、捕食者の多いこの森で生き残ることは不可能だろう。

もはやゆっくり近づくのは事態を悪化させると判断し、素早く捕まえ、痛めている右の羽を動かさないように押さえつけた。フクロウは逃れようと手の中でもがくが、その震動が右の羽に伝わらないようにと神経を集中させた結果、右の羽と胴体以外の部分への意識がおろそかになる。

次の瞬間、ボクの左手はフクロウに噛み付かれていた。雛とはいえ、猛禽類のフクロウの鈎状の嘴に噛み付かれ、肉に食い込んでいく。

脇から血がにじんでいるのが自分にも見える。

とりあえず「綺麗になあれ」ここ最近で最も使って得意技の一つになった浄化の魔法で、地べたを這い回っていたフクロウ、噛み付かれて血が出ている自分の左手、を綺麗にする。

自分に掛けられた魔法が自分に害をなすものではないことをしって、フクロウは少し落ち着いたようだ。

けど、ここからが佳境、フクロウの右羽を固定したまま、ボクはあいてむぼっくすから、アストラがボクと一緒に運んで来たマタギシリーズの中から救急セットの中の包帯を取り出す。

フクロウの右羽は羽の外郭をなす骨が折れて、そのまま収縮した羽の筋肉に押し込まれ、ねじれて、折れた骨の切断部分が羽に突き刺さるように当たっていた。これでは、動かすたびに、神経に干渉し、激痛が走るだろう。

「辛かったなあ。」そう話しかけながら、心を鬼にする。この後の処置は、激痛を伴うものになるのが分かっていたから。

ボクは折れた骨を接ぐために、フクロウを股で挟み込んで羽を固定し、折れている骨の断裂部分を引っ張って、つなぎ合わせる。

「ピィイイイイイイイ」耳をつんざく一段戸大きな悲鳴が森に響き渡る。

分かっている。麻酔なしでのこの処置が激痛を伴うことは。

けど掘っておくと、折れた骨が突き刺さったところから壊死して、羽が腐ってしまい、そのまま死を迎えるしかなくなってしまう。辛くても今強引に骨をつなげるしか行きのっこる道がないのだ。

つないだ骨が再度ずれないように、添え木を充てて、包帯で固定していく。マタギは一人で山の中に入ることもある。捻挫しても骨折しても、一人で応急処置が出来なければそのまま遭難し、捜索が間に合わなければそのまま死ぬ。

骨折の処置は、自他共に何度も繰り返した動作である。相手が鳥でも中身は変わらない。

あとはフクロウの自然治癒力、体力に望みを託すしかない。

麻酔なしの処置の間ずっと我慢し耐えたフクロウによくがんばったと、心を込めて撫でてあげる。

メカニズムはよく分からないが、手の中にいるフクロウも魔物の一種らしく、ボクの手から流れる魔力に安らぎを感じているのだというのは、グリフォンの弁だった。

少し落ち着いたらしい。

揺らさないように気をつけて、背負子にぶら下がっている袋の中に顔だけ出して入れる。

あいてむぼっくすのカモフラージュで付けている袋で、あいてむぼっくすではないので、生きた状態で入れることができる。どうやら、おとなしくしてくれているようだった。


一段落して先に進むことにした。

今日は歩いての移動になるので、順調にいけば、昼過ぎに、遅くとも日没までに目的の場所に移動するというスケジュールだった。昼ご飯という時間だったが、先に進むことを優先し、ハプニングがあったものの、日没まではまだ少しあるというところで、目的の場所についた。


そこは滝壺の前だった。落差の大きな、そして圧倒的な水量の滝が滝壺に向かって容赦なき右降り注いでいた。

グリフォンによれば、目の前の滝の裏側に石があるのだとか。

降り注ぐ滝には直接呪いの石の魔素は染み出さないものの、その奥にわき水の流れるところがあって、その水に魔素が溶け込み、滝壺の水が一部、そのわき水が地下にしみこむところに合流して、他の2箇所よりも多くの水が汚染さっれて最終的にあの泉に流れ込むのだという。

つまり、大きな落差と水量によってとてつもない巨大なエネルギーを持つ滝をぶち抜いてその裏側にある石を破壊しなければならないのだという。一秒間に何百万キロリットルという水量で流れる滝は、全てのものを叩き伏せ、裏側へたどり着くことすら出来ない。グリフォンの強大な力をもってしても、滝の裏側にたどり着くことが出来なかったというものであり、まさに打つ手なしということだったのだ。

そこで、日没までまだ時間があることもあって、石の破砕を試みることにしたが、まずは遅めのお昼ご飯にしようと小屋を滝壺の前に出して全員で入る。

そろそろ飽きてきたが、他に選択肢もないので、イノシシのスープ仕立てである。

フクロウも魔力が食事になるようだが、暖かいものを食べることでまずは、気持ちも落ち着き、療養にもプラスになるだろうと、フクロウを膝におおいて、スプーンでスープを掬い、吹いて冷ましてから、フクロウの口元に運んで食べさせてみた。

まるで赤ちゃんに離乳食を食べさせているみたいで、ちょとt母性をくすぐられる。

フクロウはおとなしくスープを飲んでいた。いつもは嫉妬で邪魔をしてくるシラカミも、今日ばかりはおとなしくしている。フクロウを心配してくれているのだろう。

ずっとそんな時間を過ごしていたい衝動にも駆られるが、本来の目的を忘れるわけにもいかないので、小屋を出る。フクロウは小屋に残したままで、シラカミにお守りをしてもらう。ボクが小屋を離れているときに、小屋に残ることが出来るのはシラカミだけなので、反対の姿勢を示していたが最終的には理解してくれた。

滝壺に向けて射撃する間の周囲の警戒と警護はグリフォンが任せろとシラカミを説得し、シラカミも了承することになった。

今回は、滝壺をぶち抜いて、その先の石を破壊しなければならない一方、跳弾の心配はないので、スタンディングポジションから狙うことになった。

過去2回の石破砕の経験もあって、意図したとおりに銃を操ることは出来るようになっていたので、魔力の結集した弾は狙った軌道を描いて滝壺に吸い込まれていく。

ただ、自分ではその先が分からないのだが、滝に吸い込まれていく魔力の銃弾は、グリフォンによればm、裏に到達することなく、滝に押し流されて消えてしまうとのことだった。

失敗という結果を突きつけられて、「落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。」とかいう元気もなかったが、それだけで諦める訳でもなく、戦略の練り直しを迫られ、一旦小屋に戻ることにした。

小屋に戻ると、フクロウの雛の呼吸は速くうなされていた。

骨がずれて、内側から、当たっていた場所が痛んだ体を治癒しようと血肉を修復する作業で、発熱するのである。

この痛みと発熱に耐えられなければ、雛は朝を迎えることが出来ない。

ボクはそっと手を添えて、痛みが和らぎますように、と祈ることしか出来なかった。

どこぞのラノベみたいな「ヒール」一声で、あら不思議、すっかり元通り、などという都合のいい展開など起きるはずもない。

朝起きたとき、雛は元気であって欲しい。ただそれだけだった。


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