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マタギvs呪いの石その2

翌朝、ボクは森の上をグリフォンの背中に乗って飛んでいた。

頭の中ではまだ理解が追いついていないが、軽トラックほどのイノシシが出てきたり、半分鳥で半分ライオンの生き物、今自分はその背中に乗っているのだが、が出てきている時点で、自分の理解を超えているため、今更何に驚けばいいのか分からない。

マタギ小屋も、カモフラージュの背負子も猟銃も鉈や鎌も全部あいてむぼっくすに収納してしまえば、空身一つだし、シラカミも中型犬くらいの大きさなので、グリフォンが背中に乗せて飛ぶのは何ら問題ないらしかった。

森の上を飛び、山の中腹に向かうとき、森を抜けた先に人工の建造物が見えた。町があるのだろう。自分たちの居た泉のほとりは森の中心近くだったが、森はかなり大きかったので、目印もなく闇雲に歩いたら、そのまま遭難していただろう。偶然なのか、シラカミには分かるのか知らないけれど、最初にシラカミの後をついて、飲み水を確保出来たのは大きかった。

今はまず、泉の汚染の原因となっているらしいその石をどうやって撤去するかが先決であろう。

しばらくすると、高度が下がった。着陸間近なのだろうか。

そもそも行き先はグリフォンしか知らないので、目的地につくまでお任せでしかない。

地面が近づいてくると、グリフォンは、直前で数回羽ばたく。

その巨体に似合わないほど静かに着地した。羽があるので、正座を崩したような乗り方しか出来なかったのだが、バランスを崩して落ちそうになる、などということもなく、空を飛ぶ驚きを横に置いておけば、とても楽しかった。

グリフォンから降りたボクの目の前には小さな崖があり、崖の途中からしみ出すように流れるわき水が、地面でまた吸い込まれていくような場所だった。

そして、そのわき水が染み出る口の真下、水が通過するように、黒光りし、どす黒い気を纏った石がはめ込まれていた。

衝動的に石を取り出せないか試そうと近づくボクを後ろからシラカミが服を加え、グリフォンが羽を出してボクの前を遮る。

「何を考えているかしらんが、あの石に触れば先ほどの泉など問題にならないほどの穢れた魔力が流れ込むのだぞ、お主とて耐えられまい。」

グリフォンが抑えた声で、それがかえって威圧的に聞こえるように諫める。

「・・・分かった。ならば、あの石をたたき割ることが出来ないか,試して見る。」

ボクはアイテムボックスから、鉈を取り出す。破壊不能とあったし、思い切りたたきつけても、鉈が壊れることはないだろう。

渾身の力を込めて、鉈を石にたたきつける。

しかし、高い金属音を残して,鉈は弾かれた。手がしびれる。

ボクは鉈を落としてしまい、しびれる右手を慌ててさする。

そのとき、シラカミがボクの横を抜けて石飛びかかり、前足を不利あえげて、爪で石を割こうとした。しかし、同じような金属音と共に、シラカミの爪にもキズ一つ入ることなく、石は不気味な光を放ったままだった。

シラカミは、心なしか気落ちしているようだった。

グリフォンはそれを見て寂しそうに、「我の嘴の一撃でも駄目だったのだ、そこのフェンリルが完全な状態なら、期待も出来たのだが。」

「仕方あるまい、泉が綺麗になっただけでも感謝している。」

グリフォンが諦めて、僕たちを乗せ泉に戻ろうと石に背を向ける。

「まあ、もうちょっと試してみよう。」

ボクは、グリフォンに乗せてもらうためにあいてむぼっくすに仕舞っていたじっちゃの形見の銃を取り出す。

今まで思い通りに使いこなせなかった銃だが、こういう時は大体主人公補正が掛かってうまくいくはずである。これ以上言うと変なフラグになりかねないので言わないけど。

ボクは銃を取り出して大きく深呼吸をし、ゆっくり銃を構える。

静かによどみのない動作で、獣を体の真正面に水平に構えると、左手を銃身に添え、脇を締めて、顔を獣の真上に持ってくる。

スコープを除きこむ。標的までの距離はおよそ10m、風向きや重力による誤差はこの距離ならば考慮に入れる必要はない。

全ての準備動作が完了すると、ボクはもう一度大きく深呼吸をする。

息を吐いた後で、呼吸を止めるその瞬間、引き金を引くように右手の人差し指に意識を集中させる。

一筋の閃光が銃口から放たれ、真っ直ぐ黒い石に向かっていったと思った瞬間、閃光は跳ね返り、横に居たシラカミの頬をかすめるように,そのひげの先端3ミリくらいを打ち抜いていた。

シラカミは硬直したまま動かなくなった。慌てて振り返り、気まずい空気の中、おそろうおそる目で誤るボクと目があったかと思うと、シラカミはボクに飛びかかり、地面に倒れたボクのお腹に頭を「怖かったよー」と押しつけてきた。


あー、なんか今日もシリアスさんは有給休暇を取ってしまっているらしい。


あわてて、ボクはそのままシラカミを抱いてなだめながら「ごめんよー」と落ち着くまで撫でていた。

横で引き攣った笑いを浮かべながらグリフォンが「我は一体何を見せられているのだ」とつぶやいていたことは、忘れることにしよう。


それでも、魔力を固めた弾が当たったところに弾痕が残っていたのを見つけ、一人と二匹は、一縷の望みを見いだすことが出来た。

今まではキズ一つ付かなかったのだから、ちりも積もれば山となるかもしれない。

ただ、その都度命を危険に晒す訳にはいかない。

そのリスクを徹底的に除去するために,僕たちは相談して、まず、塹壕を作ることにした。

グリフォンが地面にボクが頭だけを出せるほどの深さに穴を掘り、前面に石を積み上げて、銃を固定すると共に跳弾の射線から、頭部を守る防壁を作る。シラカミが一緒に穴に入りたがらなければもう少し穴は小さく速く完成したが、そこはグリフォンにとって誤差の範囲内で。

グリフォンまで入る穴だととてつもなく時間が掛かるので、完成した後、グリフォンには跳弾が間違って飛んでこないように、少し離れてもらうことにした。

これで、全ての準備が整った。

願わくばシリアスさんが有給を消化して、出勤してきてくれますように。

ボクは、先ほどの手順を思い出すように、ゆっくり深呼吸をして、そして・・・

一度や二度で石が割れるなどとは思っていない。最初の感じからは、何度も、同じところへ弾を集中しなければ、石を砕くことなど出来ない。

連射機能はないし、あったとしても、発射の反動で銃口がずれてしまう。

大切なのは、同じ精神状態を維持しながら、射撃を繰り返すことだ。集中力が最も重要になる。

静寂な空気の中で深呼吸の落としか耳に入ってこない。

もう何度同じ作業を繰り返したか、分からないボクの耳に初めて深呼吸以外の音が入ってきた。

それはあの石が割れる音だった。

石は限界値を超えた衝撃を継続的に与えられたことで、その耐久値を超えた衝撃によってガラスが砕けるように細かい破片に変わっていった。

そして破砕の瞬間光沢を失い、路傍の石ころと変わらぬ姿となった。

体中の力が一度に抜けた感じと共に、その場にへたり込んだが、嬉しそうに駆け寄ってくるグリフォンがボクの首根っこを嘴でつまみ上げて、それはあたかも子猫が親猫に運ばれているように地面に下ろされた。

うん、知ってた。ボクはイケメンヒーローのキャラじゃないってことは。


しばらく膝が笑って立っていることも座ることも出来ないような中途半端な姿勢だったが、少し気持ちが落ち着いたことで、冷静になり、次の石に向かう前にお昼ご飯にすることにした。

食材は初日に狩ったイノシシのほかは、二日目のブラッディウルフがあるのだが、正直肉食のウルフの肉が美味しいとも思えなかった。鑑定先生によれば、食用可ではあるようだが。

そこで、イノシシの臑のゼラチン質でスープをとって、肉を煮込み、昨日森の動物たちがお礼にといってくれた野草から、鑑定先生が食用になると教えてくれたものを併せて鍋仕立てにした料理を作った。せめて醤油や味噌があれば、調理の幅も広がるのだが。

味付けは塩だけだが、イノシシの臑のゼラチン質が良い仕事をしてくれたので、それなりに美味しく頂ける料理に仕上がった。グリフォンによれば魔物は魔力を食料とするそうだが、人間と同じ食べ物も問題ないらしい。

こういうのは気分の問題だからと、一緒に食べることにした。

食事が終わる頃には、呪いの石の破砕のために使い果たした魔力がほぼ完全回復していた。

泉の魔素を全部吸収して浄化出来る魔力の容量を持ちながら、それが枯渇するまで,凝縮した魔力を打ち続け、それをこの短時間で回復させるなど、信じられんとはグリフォンの談だが、空気中の魔素を取り込んで体内で使用する魔力に返還するのは心肺の機能の強弱によるらしい。ボクはどうやら幼少の頃から山を舞台として駆け回っていた歳月が心肺機能を尋常ならざるほどに高め、魔力の膨大な容量へとつながっているらしい。そのほかにもなんでも「しゅじんこうちーと」というものもあるだろうとのことだが、こちらのほうが意味が理解できなかった。

隊長が元通りになったところで、今日のうちにもう一つの石も破壊しておこうということになった。

何でも最後の一つはもしかして今のままでは無理かもしれないが、二つ目までは期待が持てるとのことだった。


二つ目の石も同じような場所に存在していたが、わき出る水の量が多かったこともあって、設置されていた石も一つ目よりも大きかった。

同じように塹壕を設置するところから始めて、石に向かって弾を撃ち始めた。

大きさこそ何倍もあるが、強度が変わる訳でもなく、表面を少しずつ削り落として行く作業は変わらない。もちろん、大きさの分だけ、破砕まで、3倍の時間を要したが、魔力枯渇によりしばらく動けなくなったこと以外、最初と変わらなかった。

こうして3つあるらしい呪いの石のうち2つまでは破砕することが出来た。これだけでも十分感謝に耐えないとのことだったが、ここまで来たなら、最後までやってみるという選択肢以外は読者が許さないだろう。

グリフォンは、シローの力は十分驚愕に値するのは分かった、それでも最後の一つは、と元気がなさそうだったが、いずれにしても最後の一つは空からではたどり着けないので、ここから歩いていくらしい。

いずれにしても、もう今日は日も沈むことなので、ここで一晩過ごすことにしよう。

ボクは小屋を収納から出すと、グリフォンも中に招いた。

グリフォンは、自分の体の5分の1くらいの大きさのツェルトの中に入れとか、何を馬鹿なことをと取り合わないが、まあ騙されたと思ってとボクはグリフォンに後を付いてきてとシラカミと小屋の中に入っていく。小屋はボクとボクがその都度許可した者しか入れないようになっているとのことだった。

直後にグリフォンが入って来て三和土の土間一杯に場所を取るが、グリフォンは、自分の体が全部入ったことに驚いて声を失っていた。

それでも窮屈そうにはしていたが、外気を防ぎ、夜露をしのぐばかりか、魔物の襲撃を気にせずに休める場所というのがこの世界に住む魔物にしてみれば、希有というか皆無のことなので、驚きながらも、喜んでいた。

土間に併設された床板の部屋に、今日は僕たちも寝ることにして、奥の部屋から布団を運び出し、土間にもグリフォン用に敷いてあげる。

汚れてもどうせ、生活魔法の「綺麗にすんべ」があるので、全く問題ない。

今日は中身の濃い一日だったので、お昼の残りを食べた。シラカミもグリフォンも本来の食事は魔力で、特に従魔のシラカミは主であるボクの魔力が供給元らしい。魔力を込めた手で撫でて上げるのが、食事も兼ねたスキンシップだとのことであり、まあ特に知らなかったけど、普通するよね、という状況だったので今まで問題なく食事が出来ていたらしい。一緒にイノシシの串焼きを食べていたのは、なんとなくその場の空気を読んでおつきあいみたいなものだったらしい。

グリフォンもそういうことなので、ちょっと休憩して魔力が回復した頃を見計らい、撫でてあげると、「お主の魔力は優しく流れるのだな。そこのグリフォンが主と慕うのも無理はない。非常に心地よい」と嬉しそうに目を細める。

すると、シラカミが嫉妬して背中に体当たりした後、頭をこすりつけ、「こっちも撫でろ」と言って来る。

ひとしきり撫でて、ボクもイヤされた後、みんな固まってその日の夜は寝た。



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