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JunkParts  作者: 千桑千牧
誤称

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21/21

誰でもない


 僕じゃない誰かになりたかった。


 父さんが捕まってから、母さんはおかしくなった。あの家には、居たくなかった。

 けれど頼る大人がいるわけでもなく。寒空の中彷徨った末に、目に入ったみすぼらしい店舗へ侵入した。


「不法侵入とはいい度胸じゃねえかクソガキ」


 やがて戻ってきた店主らしき人に捕まり、質素なソファーの上に座らされた。


「お前名前は?」

「……言いたくない」

「……訳ありか。まあ、そりゃそうだな。こんな所に忍び込んじまうようじゃ」


 その人は、自虐も込められているような乾いた笑いを見せた。


「ゴミ屋敷みたいに見えるかもだけどな、こりゃ宝の山だからな」

「……これはなに?」


 おずおずと尋ねると、一つの段ボールを持ってきて、箱を開けて見せてくれた。けれどその中身は、何かの部品としかわからない謎のパーツがびっしりと詰まっているだけだった。


「ジャンクパーツ」

「ジャンクパーツ……?」

「動かねえ機械から使える部品を抜いたもんだ。他の機械を直すのに使えるからな」

「……僕も、死んだらパーツになれる?」

「お前、なんか病気してんの?」

「ううん……でも、きっと僕は死んだほうがいい。みんなそう言ってる。だから……死んで、誰かの役に立つほうが……」


 みんなが僕に死ねって言っているのを知ってる。お父さんも、僕を殺してくれなかった。いらない子。


「あー……まあ、お前がそう感じてるなら、そう思ってるやつもいるのかもしんねえな」

「でも、俺はそう思わねえ」

「お前が死んでも嬉しくねえやつがここにいる。それだけは覚えとけ」


 そう言われても理解は出来なく、ぼんやりとしたままでいると、その人はテーブルの上に置いていたレジ袋から、おにぎりを取り出した。


「そうだ、これ。食っていいぞ」

「……ありがとう、ございます」

「んだよ、今更畏まんなって。気にすんな。あんま好きじゃねえんだそれ」

 自分が食べるために買っただろうに、そんな訳がない。僕に遠慮せず食べさせたいがための嘘だ。この人は僕の味方だ。そう安堵した瞬間に、ボロボロと涙が溢れ出た。


「夜也」

 ひとしきり泣いたあと、おにぎりをほおばる僕を見つめながら、その人は呟いた。


「――え」

「名前ねえんじゃ不便だろ。俺はお前をそう呼ぶ。いいな」

「……うん」


 ――僕は、僕じゃない誰かになりたかった。だから、その名前を受け入れた。でもそれが、その人の息子の名前だったことは、あの手紙を見つけた時に知ることになる。


 ◇


「俺死ぬんだって。すぐってわけでもねえけど、治るわけでもないんだと」

 父さんの病院通いが習慣になりだした頃。本人からサラリと告げられた。

「何年……」

「十年はもたねえらしい。でもま、まだピンピンしてるし、今のうちにやれる事いっぱいあるな」


 そうして、前から交流のあった愁と間敷先生を誘って狂餐会を作った。父さんが言うには、二人には“素質”があるらしい。その意味は、愁が同級生の女の子を殺した時に分かった。


「お前には才能がある。好きなことやっていいんだ」


 気づけばあの時から。父さんは愁を誘導していた。


 ◇


心逆言シンニィイェン


 玲香はカルテに目線を落としたまま、そう呟く。

「――と名乗ってます。名乗っているだけです。不法入国か不法滞在かの親が無責任に産んだ子。当然、本名なんて、戸籍なんて無い。それで、親が居なくなるなり死ぬなりでどうにもならなくなり、彷徨っていたところを遺塵うちの悪い大人たちに捕まった。――つまり、彼が居なくなっても探す人間はいません」


「きみ、誰でもないんだ」

 横たわる彼に近づく。彼は一言も発しない。目線が向けられるだけ。

「誰でもないなら、誰にでもなれる。そうでしょ?」

 僕がそうなったように。

「――君は、亜形夕雉になるんだ」


 父さんが動かなくなったら、この男に父さんの心臓パーツを入れる。


 ◇


「……複雑なんだよね。僕の心境もさ。だって、あの人は……君をこの街に呼ぶ手紙を書いていた。君の言う通り、内容はだいぶ違ってるけどね」

「その手紙は……!」

「捨てたよ」


 手首の赤い数珠に触れながら会長は言う。


「……不思議だね。君は君の言う叔父さんの事は聞いてこない。僕がなにかやったと思ってるなら、先に安否や所在を聞くものじゃない?」


 分かっている。叔父さんはきっと、もう死んでいる。でも、違う。彼にとっては。


「……貴方が匿っているんでしょう」

「正解」


 数珠に触れていない。会長のその言葉は、嘘ではなかった。叔父さんは会長の中では生きている事になっている。


――誰かのパーツになりたい。


 実行したんだ。かつて叔父さんが言っていたことを、本当に。


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