真っ赤な嘘
その場にいる人達からの視線を集めて、自らの考えを披露する。推理小説の探偵にでもなったようだった。
「まず――、最初に僕宛てに届いた手紙……。あれは叔父さんが書いたものじゃない。そうですよね?」
「どうして?」
会長は否定も肯定もしない。そう考えるに至った根拠を提示しろ、と促されている。
「赤字だからです」
僕が封筒を取り出し見せてみると、嬢が目を丸くする。一度嬢に見せたのは封筒の中身だけだった。だから、差出人の名前を初めてここで見たのだ。赤い文字で書かれた『亜形夕雉』の名前を。
「アッ……それ、なんで……」
「おい……なんだ、赤字って……」
嬢が狼狽え、つられて教授は戸惑った様子を見せる。会長の方を見れば、瞳の奥がずうんと暗くなったような、感情の読めない表情をしていた。
「……やっぱり、知ってたんだね。赤色の意味」
「知ってるも何も。このルールは僕と叔父さんの間で生まれたものです」
そう言うと、会長の瞼が僅かにぴくりと動いた。
「おい! お前ら何か知ってる体で進めるな! なんだルールって」
「教授は色弱だから、知る由もなかったんです。狂餐会の人達は、嘘をつく時に赤いものに触れる……恐らく、暗黙のルールでそうなっています」
この街に来た当初は、その挙動を見せる人を探そうとしていた。しかし想定外のことが起きた。会長や嬢を始め、この街で出会う人々が赤い物に触れつつ嘘をついていた。疑わしい人が一人ではない。「狂餐会」という組織の人達があのルールを尊守している。
「だから、僕は教授を信頼できる人だと思いました。色弱なら、この手紙を書いた人ではないから」
「そういうことか……。いや、だがその手紙の字は間違いなくあの旦那の字だ、それはどうなってる」
教授の言う通り、手紙に並ぶ文字は叔父さんの字に違いない。でもそれは、あくまで叔父さんの字であるというだけの事。
「……多分、叔父さんは元々僕に手紙を出そうとしていた。でも、迷って出さずにいたか、出す前に居なくなった……。その手紙、もしくは封筒を見つけた人が、僕の住所を覚えて別の内容の手紙を書いて送ってきた」
僕は手紙をひらりと裏返す。
「この手紙の裏、文字の裏側が黒いんです」
「黒いインクなんだから、裏に透けるのは普通だよね」
「それなら赤い文字の裏まで黒くなりません」
手紙には所々赤いペンで書かれた文字がある。それなのに、裏面では全ての文字が黒く透けている。――いや、透けているのではない。
「トレースしたんです。叔父さんの文字を下敷きにして。だから下敷きにした文字のインクが移った。その裏付けに、同じ文字同士が異様なほど不自然に同じ形をしている。まるでフォントみたいに。手書きじゃこうはなりません」
ジャンク屋には叔父さんの手書きした書類がいくらでもあった。その中から必要な文字を探し出せば、一通分の手紙を完成させる事も可能だ。
「ずいぶん手間のかかる事をする人がいるんだねえ。……その手紙を君に送った目的って何だと思う?」
会長はわざとらしく、他人事のようにとぼける。
「勿論、僕をこの街に呼ぶことです」
「でも、それじゃあおかしいわよ。だってその手紙は赤字で来いって……」
最初に嬢に手紙を見せた時も、嬢はそこが引っかかっていたようだった。嬢の言う通り、この場所に来いと赤文字で書かれているなら、それは嘘。来るなという意味になる。
「だからこそ……試したんだ。僕が来るかどうか。というより、僕は来るしかなかった。僕が赤色の意味を知らなければ、言われた通りに来る。僕が赤色の意味を知っていれば……叔父さんの名を騙った何者かがいる、そう考えて叔父さんの安否を確かめに来る。……そうでしょう、会長」
僕が呼びかけると、嬢は不安げに、教授は懐疑的に会長の方を見る。
「あなたは僕を呼び出す手紙を書きながら、赤字では……本心では来てほしくなかった。なぜですか」
その問いかけで、酷く落胆したように会長はため息をついた。
「……なんだ、そんな事もまだ分かってなかったんだ。じゃあ全然だめだ」
そして、会長の視線が真っ直ぐに僕へ向く。
「――亜形夜也は二人もいらないから」




