最後の集会
久しぶりに、僕の方から実家に連絡した。
僕と叔父さんの関係を問うために。
最初に、叔父さんの店に来ている事を謝った。大学の課題に必要な取材と観光だと嘘をついて家を出たから。
次に、僕が問いかける。ここで知った事。叔父さんが僕の父親なのかと。暫く時間が空いてから、やっと父さんはポツリポツリと答えはじめた。
僕は父さんと母さんの実の息子ではない。本当の両親は、叔父さんとその妻だった。僕が生まれてすぐに妻が亡くなり、子供を一人で育てるのが困難だという叔父さんから、僕を預かり養子にしたのだと。
父さんと母さんは、代わる代わる僕に謝った。ずっと隠していて、騙していてごめんなさいと。
けれど、僕には、僕にとっては、父さんと母さんが、かけがえのない父親と母親であることに変わりはない。それを話すと、しまいには二人ともわんわんと泣き出して、収拾がつかなくなってしまった。そんなところも大好きだと伝えて、電話を切った。
叔父さんが僕の本当の父親だろうと関係ない。叔父さんは叔父さんなんだ。たまに遊びに来て、僕が遊びに行って、そんな叔父と甥の関係が好きだった。
だからこそ、知らなきゃならない。
あのメッセージの意味を。
◇
「なんだか空席が多いね」
会長は室内を見回して寂しげに呟く。
鉄ちゃん。鉄子。プロデューサー。先生。メイドさん。五人の席には座るべき人間がいない。そして、やはりモブさんもいない。僕が最初に立ち会った集会にいた幹部は、今や半数以下になってしまった。
そうしたのは――そうなるように誘導したのは、会長だというのに。
「でも、珍しいね。教授が出てくるなんて」
会長は教授の席へ視線を移して微笑む。対する教授は眉一つ動かさない。
「最後の集会だからな。最後くらい出てやるさ」
「最後?」
「枯金会が狂餐会の息がかかってるお偉いさん方を包囲した。やつらはじきに席から降ろされる。狂餐会が好き勝手できるのも終わりだ」
教授が会長を鋭くにらみつけるが、会長はどこ吹く風といったように動じない。
「ふふ。どうかなあ。狂餐会を支持する人間なんてすぐに生み出せるよ。ずっとイタチごっこでもする?」
不敵に笑う会長に対して、教授のポーカーフェイスが歪む。
「いえ。終わりにしましょう、会長」
息の詰まるような空気の中、次に口を開いたのは嬢だった。
「私、狂餐会抜けます。……会長。私、会長に利用されてたんですよね」
「そんなこと無いよ」
「……良いです。もう、嘘は」
嬢がそう言うと、会長は手首の数珠から手を離した。
「そうだね。実際のところ、僕が必要としてたのは助手。彼女の技術があればそれでよかった。嬢はあくまで表向きの……そうだな、権力者達に仕事してるアピールする為の存在。客寄せパンダってやつかな。君は、居てくれるだけでいい。君に何も期待なんてしてないからさ」
嘘偽り無い会長の言葉を聞いて、嬢は俯く。離れようとはしていても、かつて依存していた、もしくは今でも断ち切り難い相手にああまで言われれば無理もないだろう。
「――なら、その大事な助手さんをなぜモブさんは殺したんですか」
「……さあ。彼の勝手な行動だよ。僕が知る由もない」
「貴方とモブさんはかなり親しい存在のはずですが。それでも、知らないと」
「知るわけ無いだろう!」
会長は声を荒げる。普段は飄々としている彼の、初めて見る剣幕だった。
嘘ではない。会長は本当に、モブさんの行動の真意を知らない。いや、知らないというよりそれは、あの表情は。――知ることを恐れている。
「モブさんは今どこにいますか。会わせてください」
「会わせるわけない……今、彼は……」
会長は視線を泳がせ、不明瞭に何かを呟いたあと、フッと顔を上げて晴れやかな笑顔を見せる。今の一瞬で、まるで人が変わったように。
「……ふ、ふふ。そうだね。じゃあ、君がどこまで理解してるか……それを話してくれたら会わせるよ」
その会長の相貌の奥に、どことなく僕への敵意を感じた。




