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JunkParts  作者: 千桑千牧
支障

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15/21

盗聴


 早朝の事。ジャンク屋にやって来た嬢が「見て」と言いながら、中途半端に分解されたコンセントを渡してきた。その中には、明らかにコンセント部品としては必要のない基盤が取り付けられている。


「これ、盗聴器?」

「こういうのも分かんのねアンタ」


 それが何と教えられずともすぐさま理解した僕に対して、嬢は目を丸くした。


「え、うん。どうしたのこれ」

「助手の研究室で見つけたの。ほら、モブが何であのタイミングで来たのか、妙だったでしょ。これで盗聴してたんだと思うわ」


 そういえば。プロデューサーを殺しに来た巡査も、あの事務所の中を盗聴していたようだった。この街の人たちはさも当たり前かのごとく盗聴を謀るものなのか。ジャンク屋も一度調べてみるべきだろうか。


「けど、なんの為に……」

「知らないわよ。でも、助手って結構狂餐会に対して反抗的……会長やプロデューサーの事好きじゃなかったみたいだし、だから監視されてたのかも」


 そういうことなら、盗聴されていた理由としては理解できる。けれど、それが何故会長ではなくモブさんだったのか。モブだなんて名乗って人畜無害を装っておきながら、あの人は狂餐会の中心にいるのかもしれない。そんな懐疑心がうまれた。


「で。そうよ、アイツ。モブ。旦那見た?」

「ううん」

「雲隠れしてんのね……今までは探さなくともその辺村人Aよろしくウロウロしてたのに……」


 あの一件以来、僕はモブさんを探しているが一向に見つからない。そして嬢もモブさんを探す為に協力をしてくれている。こんな共同戦線を張っていると、なんだか嬢と一緒に探偵業でもやっているような錯覚をしてしまう。この街で最初に会った時は、変わり者で強気な女の子という近寄りがたい雰囲気をしていたし、嬢も僕に「あんた頼りなさそうね」なんて言っていた。けれど、今では結構お互いを信用している。と僕は思っているし思いたい。


「……なんとなく分かってたのよ。私達が不老不死だの権力者の望みに手を貸してるから、その見返りで狂餐会が好き勝手しても見逃してもらえてるって。私も好きな事したいし、自分が良ければそれで良いって思ってた。……でも、だから今も警察がモブを探してくれないの。……私のせいだわ」


 今の嬢は精神的に弱っているらしく、なんでも自分のせいにして自分を責めてしまう。でもだからといって、心配されたり気遣ったりされるのを嬢は嫌う。だから僕は気にもとめないフリをする。


「モブさんって普段何してる人なの」

「さあ。本当は劇団員みたいだけど……それすら劇団員って役を演じてるかもしれないし。得体が知れないのよアイツ」

「役……」


 あの時、モブさんは僕に対して『子供を守る』と呟いた。つまり僕の父を演じていた、という可能性がある。けれどそれがどういう意図であったのかは理解し難い。そもそも父さんは今も鳥取にいるはずで、モブさんが会った事もない僕の父を知っているわけがない。モブさん自身が鳥取に出向いた事があるなら話は別だけれど、それにしても本名すら教えていない僕と親子だと結び付ける根拠は何だという話に変わる。

 何にしても、モブさんの立場や言動は不可解であり不気味だ。


「会長には会えないの?」


 モブさんが見つからないなら会長に聞けばいいのでは、と思い嬢に問いかけてみるが、嬢は一瞬眉をひそめてバツの悪そうな顔をする。


「……会長なら、集会所があるビルの二階に住んでる。けど、あそこは入っちゃいけない決まりだから」

「なら連絡とか取れない?嬢なら連絡先知ってるんじゃ」

「……どんな顔して話せばいいのよ」


 そう言われてやっと気づいた。助手さんの件で不老の研究を投げ出した嬢だが、その研究は元々狂餐会を通して、狂餐会へ権力を与えているであろう権力者から依頼されていたもの。つまりそれは、会長に反旗を翻したともいえる。半ば会長を盲信していた嬢にとっては、会長を裏切ったような後ろめたさがあるのだろう。


「どのみち、定期集会が来週あるから……そこで会えるわ」


 会長にはモブさんの事以外でも聞きたいことが山ほどある。不信感や疑惑なんてものじゃない。ほとんど確信に近い。沢山の人を誑かして、凶行に走らせたり、追い詰めていること。


「そうだね。そこで色々話が聞ければいいけど……僕もそろそろ鳥取に帰らなきゃだし」

「ねえ、もしこのまま旦那が見つからなかったら……この店継ぐ気は無いの?」

「そうだね。一旦学校卒業してからなら、またここに来てもいいかも。僕ジャンクアートやってるからさ、結構ここの環境理想的なんだよね」

「ほんと?なら、私……」


 そこまで言いかけて嬢は、視線を横に、下にとそらした。


「なんでもない。……じゃあ。帰るわ私」

「うん。ありがとう、嬢」


 それから嬢は一度も僕と視線を合わせようとせずに、ジャンク屋を出ていった。


 ◇


 僕は教授の研究室の前で足を止めた。教授と話をしに来たが、どうやら先客がいるらしい。教授の声と共に、知らない声も聞こえる。少年か、もしくは若い男の人だろう。教授と言い争っているようにも感じる。そんな状況ではどうも入りづらい。


「駄目だ。何もするな」

「何もするなってなんだよ。まだ遠くから指咥えて見てろってのか」

「そうだ。こちらも狂餐会の息のかかってない者を選別しながら手を広げている所だ。もう少しあればその影響範囲を覆せる。余計な事はするな。監視役の立場を弁えろ。それに……君には妻子がいるだろう」

「……くそ」


 それからすこし静寂の時間があって、入るなら今か、とドアノブに手をかけようとした。けれど、それよりも先にノブが下がり、扉が開く。出てきたのは小柄な少年だった。すれ違う瞬間にだけ合った視線は、左右の色が違っていた。会長の青と緑の目が脳裏によぎって、体が強張る。少年は僕の反応を気にも留めないように、足早に去っていった。


「……旦那。もしかして聞いてたのか」

「すいません。盗み聞きするつもりは無かったんですけど……入りにくくて」

「いや、良い」

「今のは……」

「あいつもカラスだ。詳しくは聞くな」


 カラス――枯金会のスパイ。なら当然、僕が彼の素性をあれこれ詮索すべきではない。あんな若い子がスパイだなんて、という興味はもちろんあるが、枯金会は狂餐会と対峙している、間接的な味方と言える存在だ。下手に藪蛇を突かないようにしよう。


「それで、何か用か」


 そう言いながら、教授はコーヒーカップを僕に差し出す。「あいつに出したが、一口も手つけてないんだ。処分してくれ」と苦笑いを見せた。


「教授、モブさんの事なにか知らないですか」

「……またなにか首突っ込もうとしてるのか」

「きっと……叔父さんが消えた事に繋がってると思うんです」

「どうしてそこまでアイツに拘る?言っちゃ悪いが、実の親でも育ての親でもない、ただの親戚のおっさんだろ」

「……叔父さんは――」


 コーヒーの黒い水面に、ぼんやりした記憶を映写する。僕が子供の頃、叔父さんは僕の家の近くに住んでいた。叔父さんがうちに来たり、僕が叔父さんの家に行ったりして、よく遊び相手になってくれていた。そんな日々。


 叔父さんはメカニックだった。機械が動く仕組みなんかに興味があった僕に、色んな機器ジャンクをバラしたり組み立てたりする方法、機械を動かす部品パーツについて教えてくれた。そんなわけだから当然、僕は相当に叔父さんに懐いていた。


 ある日、僕は傷だらけでうちに帰った。母さんには「転んで怪我をした」と嘘をついた。けれど、それを見ていた叔父さんに、後でこっそりと呼び出された。僕の身長に合わせて正面に膝立ちになって、俯く僕をじっとみつめる。


『いいか夜也。嘘はだめなんて言ってもな、男には嘘をつかなきゃならない時もある。お前みたいに、母ちゃんに心配させない為にとかな。……でも、俺には嘘をつかなくていい。親戚のおっちゃんくらいの距離感の方が言いやすい事もあるだろ。……そうだ、こうしよう。これから嘘をつく時は必ず――――。そうすれば、俺はお前の嘘に気づいてやれる』


 それから僕と叔父さんは、嘘をついたりつかれたりする関係になった。元々天の邪鬼でイタズラ好きな叔父さんの、僕をからかう嘘も開け透けになってしまったけど、僕はそれがとても心地よかった。あの日が来るまでは。


「叔父さんは、僕の本心を理解してくれる人だったから。あの人にだけは嘘をつく必要がない。それで何度も救われてました。僕の中でとても大きな存在だった。今でも……大好きなんです」


 叔父さんは僕のせいで、僕の元から去ってしまったけど。あれから僕はいい子でいつづけようとした。もし許されるなら、叔父さんが僕を受け入れてくれるなら、また会いたい。会って話がしたい。


「……そうかい」


 教授は、それ以上僕を試すような事を聞くのはやめたらしい。机に片肘をついて、僕から視線を外した。


「まあ、俺も遠くから見てるだけだ。詳しくは知らねえ。ただ、モブ……アイツはどうも会長のお気に入りらしい」

「……やっぱり、そうですよね」

「ああ。けど、前はそうじゃなかったんだよ。幹部ですら無かったしな。それがいつの間にか、会長の側近みてえな位置にいやがる」

「何かきっかけが?」

「それが分からねえ。が、強いて言うなら……旦那、お前の叔父が消える前後だな。それまで会長と仲の良かった旦那と、まるで立場が入れ替わるように……つうか……いや、まさかそんなわけねえよな」


 教授は含みを持たせた言い方をして、すぐさまそれを自分で否定した。


「……まあ、そんなとこだ。悪いな。本部から止められてる以上、俺が得てる情報は少ないんだ」

「いえ。ありがとうございます」

「……無茶はするなよ」

「はい」


 僕はポケットの中のクシャクシャの紙に、更に深い皺を刻んだ。



『――その傷、どうした?』


 一度思い出した記憶が、また再生される。あの時の僕は、お気に入りの赤いマフラーを握りしめていた。


『転んだんだよ』

『……そうか。誰かにやられたのか?』

『ちがうよ』

『……辛かったな』

『大丈夫』


 叔父さんは僕を抱きしめた。


『……ごめんな、夜也。俺は、お前の味方だからな』


 ――嘘つき。



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