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JunkParts  作者: 千桑千牧
支障

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12/21

拘束


 ――あれ、なんだ…?


 目を開けてるはずなのに何も見えない。この感覚は、目隠しをしている状態だと理解した。おまけに手足も動かない。恐らく、椅子に座った姿勢で背もたれや椅子の足に縛り付けられている。


 どうして――。僕はここに至るまでの記憶を辿る。僕は助手さんと話をする為に、嬢と助手さんの研究所に向かう予定だった。その道中、背後から伸びてきた手に口元を押えられた。それからの記憶がない。もしかすると、俗に言う人を昏睡させる薬品を吸い込ませられたのかもしれない。こんな事になる覚えはないが、この街では不意に事件に巻き込まれる事も、あり得ないわけでもない。


 現状、僕は音もない空間にポツリと置き去りにされている。そして僕を拘束したであろう人物から何のアクションも無いのが更に不安を増幅させる。


「…あの…すいません…誰かいますか…」


 僕は恐る恐る声を出す。


「旦那様…」


 呼びかけに応えたその声は、つい最近聞いた覚えのあるものだった。


「その声、助手さん?」

「…はい。旦那様、縛られてるのわかりますか?」

「うん。そうみたい…て事は助手さんも」

「…これ、誘拐って事になりますよね」

「考えたくはないけど…状況的にはそれっぽいかも」


 前方から聞こえる助手さんの声は、少し疲労感を帯びていた。僕たちを拘束した犯人と思しき人物は僕たちのやり取りにも何も干渉しない。ならば今この場にはいないのだろうか。ここまでがっちりと拘束されてしまえば逃げる事も叶わないし、油断して目を離している可能性も高い。今のうちに何かできないかと、僕は椅子ごと動かす。ガタリ、と大きな音がした。


「…あの、無駄に動かない方が良いですよ。ころ、殺されちゃうかも…しれないので」


 助手さんはそんな警告をする。確かに、相手が何者か分からない、些細な抵抗でも激昂するような人物である可能性を考慮すれば下手に動くと危ないかもしれない。むしろ相手の目的や要求によっては、話をするだけで穏便に済む可能性もある。


 かと言って相手が出てこない以上、現状何もやれる事がない。僕は「こんな状況で聞くのもだけど」と前置きをする。


「プロデューサーの声の一人…橙山ゆうかさんのSNSを見たんです…彼女は助手さんのお姉さんですよね?」

「…はい」

「知ってたんですか…?プロデューサーがお姉さんを殺したって」

「はい」


 助手さんは淡々と、さも当然かのように答えた。


「じゃあ…!どうして何もしてないんですか、あなたが警察に訴えれば…!」

「…して、どうなります?訴えが事実か否かなんて関係ないんです。無かったことにされるだけ。他の声優の身内が訴えたのと同じ事です」


 訴えても無駄。確かにその点ではマオさんと変わらない。けれど助手さんは根本が違う。真実を知っているなら、執念というものが少なからず有るはずなのに。僕が同じ立場なら、警察に取り合ってもらえなかったとしても、絶対に諦めないだろう。


「助手さんは本当に…それで良いんですか…警察じゃなくても、他にいくらでも、事実を明るみに出す方法はあったんじゃ…」

「いいわけないじゃないですか。お姉ちゃんを殺したあの男…何度も殺そうかと思いました」


 助手さんはおとなしい人だと思っていたので、そんな殺気立った言葉を吐露した事に驚く。やはり実姉を手にかけられては、そうやって怒りを顕にすることも当然なのだろう。


「でもあの男は会長のお気に入りです。あの男をどうにかしようものなら、会長が許すはずもないのです。それが、狂餐会に呑まれた者の掟です。好きな事を出来る代わりに、自分が、自分の身内がその好きな事、やりたい事…エゴに巻き込まれても…仕方ないのです。狂餐会全体が無法地帯なんですよ」


 好きな事をできるように支援する。それが狂餐会の目的だと聞いている。プロデューサーのやりたい事は気にいった声の人間を殺し、その声を奪う事。そして狂餐会は、警察に何らかの干渉をして殺人犯であるプロデューサーを庇っていた。他の狂餐会会員も、きっと何かの目的をもっていたり、狂餐会に支援されている事情があるはず。なら、目の前の彼女も――。


「それじゃあ、あなたはあなたのやりたい事の為、お姉さんの死について探求しない…そういう事…」

「そうです。私にはやることがあるので」

「あなたは何を…」


 そこで、鼻で笑ったような、嘲笑の声が聞こえた。そしてふいに目隠しが解かれ、視界が明るくなる。僕がいる空間は見たこともない景色だったが、嬢の研究室と同じような壁や天井と照明、備え付けであろう机や椅子に棚、空間の広さも似ている。つまり、同施設の別の部屋だと想定できた。


「私がやりたい事はね、旦那様。愛する人とずっと一緒にいる事…ですよ」


 目の前をすっと通り、ゆったりと椅子に腰掛けて彼女は、静かに僕をじっと見つめる。


「助手…さん…いつから、拘束解けてたんですか…」

「最初から。拘束されてたのは旦那様だけ。私はずうっと自由でしたよ」


 背もたれ側に向かって座る助手さんは、肘をその背もたれに乗せて頬杖をつく。


「…僕を拘束したのは…助手さん…?」

「はい」

「どうしてこんな事…」

「…あなたがお嬢様と親しくするからです」


 助手さんは冷淡な口調と、冷ややかな視線を僕に送る。


「どういう意味…」

「お嬢様どころか私の気持ちも分からないなんて…アピールしたつもりなんですけど…ほんと鈍感ですね旦那様」


 その語気に、仄かに苛立ちのようなものを感じる。


「なに…いって…」

「貴方を、ここでちゃんと良い子になるまで調教してあげます。私は専門じゃないから…お姉ちゃんみたいには上手くいかないと思うけど…」


 助手さんは椅子から立ち上がって、机の方をごそごそと漁る。その背に隠れて、何をしているのかは分からない。少しの間そうしていた助手さんは、はたと手を止める。


「旦那様はお嬢様の事、好きなんですか?」

「…どうして、今それを」

「いいから答えて!」


 声を荒げながら振り返った助手さんの手には、ナイフが握られていた。


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