【短編版】彼は「使ったら死ぬから使うなよ系の力」をすぐ使うので、私たちはあの馬鹿野郎を全力で拘束します。~2nd SEASON~
宇宙開拓機構NUMEカンパニー。
超国際連合に承認され、事実上その直轄組織として扱われる地球性人類公営企業。
他惑星の調査・開拓・整備・移民事業、そしてそれに必要な技術の研究・開発事業、更には地球外から襲い来る脅威への対策までもを担うウルトラ組織である。
そんなNUMEカンパニー地球外性脅威対策室オフィスにて。
弱冠二五歳にして当室の室長を務める天才女史、アーリエンデ・カラミスはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた。
「……どうしたんですか、室長。日々の疲れのせいか性格の悪さがついに表情に出ていますよ」
「あら、室長補佐官。どうしたの、日々の疲れのせいか荒唐無稽な妄言が垂れ流しになっているわよ」
アーリエンデは椅子を回して少しだけ振り返ると、補佐官男子の憎まれ口に嘲りを返した。
「で、真面目な話。何を見ているんですか? もう定時は過ぎているのに」
アーリエンデは天才だ。
たった五秒ほどならば時間を止め、かつ使用者だけはその止まった時の中で活動できる装置を私的に開発する程度には。
故に、彼女は仕事効率も至極優秀。
定時内でその日にこなすべき作業を終える。
と言うか、常に前倒しで諸々の作業にあたっているまである。
アーリエンデの人生に残業と言う概念は存在しない。
つまり、彼女が定時後もデスクでモニターと向かい合っていると言うのは少し珍しい光景なのだ。
「仕事じゃあないわよ。もらっている給料以上の仕事なんてしないわ。これは私的な研究のためよ」
「私的な研究……? 【JOKER】関係の資料か何かですか?」
アーリエンデが何かを開発しようとしている。
それはつまり――NUMEカンパニーが誇るスーパーヒーローであり、彼女の幼馴染であるJOKERことジョウ・ジョレークのため。
これはもう、地球外性脅威対策室どころかNUME全社の共通認識となっていた。
「ええ。その通り。あのバカが次に暴走した時に備えた新兵器開発のプラン。それを固めるための最終確認みたいなものね」
――カラミティ・ブレイカーとも謳われるスーパーヒーロー。
JOKERことジョウ・ジョレーク。
彼の体には重大な欠陥がある。
それは、スーパーヒーローとしての力を使う度、凄まじい勢いで生命力が消耗され、肉体も損耗していく事。
ついに先日「あと一回、スーパーヒーローに変身すれば死ぬ」と言う宣告まで受けた。
だがしかし、彼の溢れる正義の心は尽きる事なく。
自らの命も顧みず、地球の危機へ果敢に立ち向かおうとするのだ。
皆の命を守るため、と言うのは勿論。
この青い星に暮らす大切な幼馴染の未来を守るため。
ジョウは命を賭す事を躊躇わない。
そんな彼の猛烈な自己犠牲行為をどんな悪辣な手段を用いてでも妨害し、彼の未来を守るべく。アーリエンデは日々全力を尽くしているのだ。
「熱心すねぇ……(さっさと結婚すれば良いのにまだ付き合ってすらいないんだよなこのベストバカップル)」
「……何か言った?」
「いえ、何も……」
「そう。なら良いわ」
「……つぅか、これ以上、何を作るんすか? 前回、見事なくらい完封したでしょうに」
前回、と言うのは、地球に巨大隕石が接近し、それを破壊に向かったジョウをアーリエンデが時止め装置&愛のディープキスで沈……鎮めた一件である
「どうせあのバカの事よ。次はもう、時の止まった世界に平然と入門してくるに決まっているわ。脳みそは腐ったカボチャでもスーパーヒーローの肉体は伊達じゃあないって事」
「あー……」
一度は負けても二度目は華麗に勝利する。それもスーパーヒーローの御約束。
想像余裕だぁ……と補佐官男子は呆れた笑いを浮かべる。
「ふむ……ですが、今更JOKER関連で室長が見返す必要のある資料なんてあるんです?」
補佐官は「全部記憶しているでしょう、あんた……」とつぶやきながら、興味本位からアーリエンデが見ていたモニターを覗き込んでみた。
「……なんですか、これ」
「あいつが謹慎中の特設謹慎部屋のカメラ映像、リアルタイム中継よ」
モニターに映っていたのは、人類の英雄ジョウ・ジョレーク。
何やら一冊の本を前にして非常に狼狽えているようだが……。
「特設謹慎部屋って、もう半ばJOKERの私室みたいなもんだって事で監視カメラは設置していないはずですよね?」
「監視カメラは、ね」
監視カメラ……防犯・計測等の目的のために個人または組織によって設置され、その設置が公にされている映像撮影機器。
盗撮カメラ……公にはできないような目的で個人または組織が秘密裏に仕掛ける犯罪装置。
「…………………………」
「重要な検証よ。あのバカに対し、現状【これ】がどの程度、有効なのか。それを測定して過去データを更新するの」
「これ……と言いますと……」
モニターの向こうで、ジョウが非常にそわそわしながらチラチラと様子を伺っている本の事だろう。
補佐官がよく目を凝らして本の表紙を確認してみると……。
「…………って、ポルノ本!?」
「あら、ロリコンでも大人の女の裸体が表紙の雑誌をポルノと認識できるのね」
「誰がロリコンだ! 僕は小学生の頃からずっと小学生が好きなだけだい! って、何をやってんですか! あんたなら当然に知っているでしょうが、JOKERは――」
「思春期こじらせたの男子中学生以下のエロ耐性よ」
そう……ジョウはすごくピュアと言うか、スケベへの抵抗が強めの男子ッ!!
少年雑誌の巻頭グラビア水着写真ですら人目を憚って読むレベル!!
アーリエンデがちょっと胸を押し付ければもうまともに動けなくなる!!
「でもね、エロスへの受容耐性が低いだけで、興味が無い訳では無いのよ。あいつだって」
現に、ジョウはポルノ本を警戒しているが、排除に向けての行動は見せない!
興味はある! だけどスケベなものに飛びつくと言うのはすごく恥ずかしいなぁと言う思春期男子特有の意味不明な感情!!
ピュアな男子は揺れ動く……リビドーとプライドの狭間で!!
「ふむふむ。やっぱり未だにエロ耐性はこのレベルね。わかり切った事でも確認する事には大きな意味がある。有意義な検証だったわ。普段のあいつは何でもハキハキしていて真っ直ぐなナイスガイだけど、たまにはこう小動物のようにくよくよしている姿と言うか愛らしい少年のように恥じらいと葛藤している姿を見るのも悪くは無いわ。あいつはカッコいい上に癒し系ね」
「本音と性格の悪さが漏れてますよ」
「あらやだ不覚」
ウフフと笑いつつもアーリエンデ、胸ポケットから何やらスイッチを取り出した。
そして、ジョウが手を伸ばすべきか伸ばさずべきかとプルプルし始めたのを見計らい、その謎スイッチをポチっとな。するとジョウの目の前の床がパカッと開いて、ポルノを奈落の底へと誘った。
ジョウは「ぁああッ!?」と大きく反応してしまうが、やはり取りにはいけず。
床に両手をついてがっくりとうなだれる。
「……惨い……」
「スケベに翻弄される姿はカワイイけれど、私以外の存在で本格的に発情するジョウとか解釈違いよ。さて、ともかく。次の手は決まったわ」
「……まさか、JOKERの前で室長が脱ぐとかですか?」
「あら、それも良いアイデアね、あははは……」
アーリエンデはひとしきり笑うと、ふぅ、と溜息。
唐突にガッ! っとデスクを叩いた。
そして呪詛めいた声で、
「そんな事をする勇気が私にあるのならもうヤる事ヤってアーリエンデ・ジョレークになってるわよッッッ……!!」
誰か殺しそうなマジ顔でデスクに爪を立てるアーリエンデ。意気地無しな自分に殺意マックスといったご様子。
補佐官は「何かごめんなさい……」としか言えない。
「でーもーねッ! 私が脱がなくても同等の効果を得る方法はあるのよ!」
気を取り直したアーリエンデは勢い良く立ち上がり、闘志を漲らせた拳を握りしめる。
「見てなさいジョウ……そう、よぉく見るが良いわジョォォォ……!! 私に勇気が無いのなら、あんたからグイグイ来るように仕向けるまでよ!! 私の事をそう言う目でしか見れない眼球にしてやる……むしろ私以外はそう言う目で見れないようにしてやるんだからね……フフフ……フハハハハハハハハハハ!!」
(恋に一途な乙女の笑い方じゃあないなぁ……)
◆
前回の暴走による謹慎が解除され、ジョウは一週間ぶりに特設謹慎部屋を出た。
「ふむ……最近はもう実家よりこの部屋にいる時間の方が長い気がするな」
それはともかく。返却されたスマホの電源を入れる。
すると早速、スマホの画面に通知が浮かび上がった!
「むむッ……これは……!」
緊急災害速報!!
なんと、かつてジョウが撃破した宇宙からの侵略者コーレイ・グゥス星人の残党が現れ、地球に宣戦布告、攻撃を開始したと言う!!
NUMEカンパニーの特殊防衛部隊を中心に超国連軍が出動。
現在迎撃にあたっているとの事だが……。
「コーレイ・グゥス星人は変身した俺ですら悶絶するほどの謎の辛い液体を噴射する奴らだ……! 普通の人間が喰らったら……!」
某カレー屋の十辛を口に流し込まれる程度のダメージでは済まない!!
もしもNUMEカンパニーの防衛部隊と超国連軍が突破され、連中の辛み汁が大事な、大切な、かけがえなどあろうはずもない幼馴染にふりかかってしまったら――
「俺も行かなければ……!」
走り出そうとしたジョウ。
しかし、一瞬だけ足が止まる。
(変身せずに勝てる相手だろうか……)
次に変身すれば、死ぬ。
死ぬのなんて恐くない……訳が、あるか。
恐いに決まっている。
だって、自分が死んだらきっと――彼女が、泣いてしまう。
ジョウはこれまで、何度も死にかけた事がある。
その度に、通信機越しに彼女の悲痛な叫びを聞いた。
どうにか生きて帰ってくる度、すがりついて泣く彼女の姿に胸をえぐられた。
あの痛みが、恐ろしい。
嫌だ。二度と体験したくなどない。
でも、想像してしまう。
自分がここで立ち止まったがために、彼女に危害が及んでしまったら?
……過去に一度だけ、あった。
その時は、なんとか間に合った。助ける事ができた。
でも、あの時の焦燥……苦しみは、彼女が泣き崩れる姿を見るよりも痛烈だった。
彼女がいなくなってしまう。
彼女の未来が絶たれてしまう。
それは、想像するだけでこの世のどんな恐怖にも勝る。
だから、
「俺が、行くんだ!!」
躊躇いを踏み潰して走り出す……ジョウが、JOKERが行く!!
(きっと今回も、みんなが止めてくれるだろう……)
それは、嬉しい事だ。
みんなが、自分に「生きてくれ」と言ってくれる。
嬉しくないはずがあるか、そんな事。
でも、止まるつもりはない。
生きろと言ってくれる愛すべきみんなのために、誰か一人でも多くを救うために。
そして、億が一だとしても彼女に危害が及ぶ可能性を排除するために。
「…………ん?」
しかし、ジョウは異変に気付いた。
いつもなら、走り出した数秒後には対JOKERオペレーションが発令され、妨害が始まるはずなのだが……今日はその気配が無い。
(諦めてくれた……? いや、有り得ない。みんなは俺なんかよりずっと心が強い素晴らしい人たちだ……そう簡単に諦めてくれるはずがない……!)
だとすれば……この静けさも作戦の内!
「……!」
警戒し始めたジョウの鼻に、異臭。
嫌な匂いではない……むしろ、不思議と好意的な感情を抱く匂いだが……不自然さを覚える。
ジョウが持つスーパーヒーロー的嗅覚が察知したのだ。
この臭素は、明らかに人工的に合成されたものだと!!
匂いは前方の曲がり角から!
(何か薬物的なトラップか……!?)
角の寸前、ジョウはギリギリで停止。
亜音速で走っていたため、床にはくっきりブレーキ痕が刻まれ、周囲に焦げ臭さが充満する!
「……やっぱり気付いたわね、ジョウ」
「ッ! アーちゃん……!」
廊下の曲がり角から姿を現したのは、ジョウの幼馴染・アーリエンデ!!
「……アーちゃん、香水でも変えたのかい?」
不自然な匂いの発生源は、アーリエンデだ!
「香水じゃあないわ」
悪戯っ子のように可愛らしく(※ジョウにはそう見えている!)笑うアーリエンデ。
「さて、この匂いを私の匂いだと認識したと言う事は、そろそろ効き始めるんじゃあないかしら?」
「何を言って……ッッッ!?!!?!?!?」
ジョウが激しく狼狽えるのも無理は無いッ!!
なんと、突然に……アーリエンデの服がゆっくりと透け始めたのだ!!
秒も経たずに、アーリエンデの服は下着すらもスケスケに!!
即ち――全裸!!
「えッッッッッ、ば、は、アーちゃッ、ちょッッっ!?!?!??」
「安心しなさい。私は全裸になんてなっていないわ」
「嘘だ! アーちゃんは今、平然と嘘を吐いているゥ!!」
ジョウは咄嗟に手で両目を覆い隠し、こっそりあけた指の隙間からしっかりアーリエンデの様子をうかがう!
一糸まとわぬ裸体! まぎれもなく全裸!
対JOKERに備えて徹底的に鍛えられつつも、しかして女性的曲線を損なわない程度に浮き出た筋肉!
大きさは程よく形は美しい胸部の双丘!
安産を約束されたヒップ!
全 裸 で し か な い ! !
「フフフ……効果てきめんのようね。ハッキリ言っておくわ。私は本当に服を一枚も脱いではいないの。むしろ今日は少し冷えを感じたから普段よりシャツを一枚多く着込んできたけれど社内はしっかり暖かくて薄っすら汗ばんでいるくらいよ」
「そんなバカな! じゃあ、一体これは……ま、まさか……!」
「大体の察しはついたようね」
ジョウから見れば全裸で仁王立ちと言うとんでもない恰好のアーリエンデが不敵に口角を上げた!!
「これぞ新兵器【自分の事を好きな人にしか効かない誘惑フェロモン分泌薬】の効果よ!!」
「じ、自分の事を好きな人にしか効かない誘惑フェロモン分泌薬だってェェェーー!?」
「説明が必要みたいね!!」
「いや、君の発明品はいつも名前で大方の効果が把握できると言うまるで昨今のジャパニメーション作品みたいに親切仕様だがうんまぁ語りたそうだからどうぞ!!」
「それでは説明しましょう!!」
と言う訳で、アーリエンデは胸ポケットの辺りから目薬のようなものを取り出した。
ジョウからすると、胸あたりの虚空からいきなり目薬が出現した形だ!
さながら不思議なイリュージョン!!
「この点眼タイプの薬品一滴であら不思議! 粘膜から摂取した特殊成分が一瞬にして体質を変化させ、特殊なフェロモンを発する事ができるようになるのよ!!」
特殊なフェロモン……先ほどジョウが感じ取った妙に好意的な印象を抱く異臭の正体!!
「そのフェロモンとは……『使用者に対し、【とある方向性において一定以上の好意】――具体的に言うと【恋愛感情】を持つ者に対して、使用者が全裸になって誘惑してきている幻覚をみせる催淫系フェロモン』よ!! 私は何も脱いでいないから何も恥ずかしくなんてない!!」
「うん、やはり大方は名前の通りの効果だったか……」
「で、あんたには今、私が全裸に見えているのね?」
「ああ、それはもち――はッ!!」
ここでジョウ、気付いてしまう! だが遅かった!!
アーリエンデがニィィィィッと笑みを濃くする!!
「ほうほう、へぇ~……そうかぁ。そうなんだぁ。あんたは今ぁー……私が、全裸に見えているんだぁ? ちゃァァァんと服を着ているこの私が――私に対して恋愛感情を持っていない人には別に何の作用もしないから当然全裸になんて見えないはずの私が、しっかりばっちりこの上なく全裸に見えている訳だぁぁぁ?」
「ッ……!」
アーリエンデ、攻める!
至極、楽し気かつ嬉しそうに二ヤつきながらジョウとの距離を詰めていく!!
ジョウは耳まで真っ赤にして激しく狼狽!!
言い訳を考えようにも、ほぼほぼ好意をカミングアウトしたに等しいと言う気恥ずかしさと何より全裸のアーリエンデが迫ってくる興奮で脳が茹で上がる!!
「でも待って。最後まで言い切ってなかったわねぇ? それはもち……何? ねぇねぇ、私を好きな人にしか全裸に見えないはずの私が全裸に見えているかって質問に対して、あんたは何て答えようとしたのか……ハッキリ言ってごらんなさいよ。ほらほら。それはもち……ろん? ろんかなぁ、残りの二文字はさぁ~? その後は何て言ってくれるのかしら。気になるわねぇ……? どうしてそんな風に答えたのかをしっかり説明してくれるのよねぇきっと……フフフ……ウフフ、フハハハ、アァーッハッハッハッハッ!!」
水を得た魚か、はたまた封印を解かれし魔王か!!
実は自分から告白しようとすると赤面してプルプルするばかりで動けなくなってしまうくらいシャイガールのくせに、相手から告白ワードを引き出すだけならばここまで強気で出られる二五歳、アーリエンデ・カラミスッ!!
「ぅ、お、ぅおおおぅ、ぁ、おおおぉぉお……」
「ほらほら、何を唸っているの? と言うかそんな風に目を隠して一体どうしたって言うのかしら? 奇妙ねぇ? ああ、もしかしてー……私が全裸に見えているから、手で目を覆っているとかぁ?」
「ッ、その、これは……」
「違うって言うのなら、その手を退けて真っ直ぐこっちを見れるわよねぇ……?」
「ッッッ……!!」
アーリエンデが更に手を打った!
黙秘を殺す、追い打ちの一手!
このままでは、言葉で否定したとしても……ジョウがアーリエンデを直視できない限り、ジョウがアーリエンデ大好き男である事は否定できないと言う状況を作り出した!!
「ほら、こっちを見なさいよ。あんたはいつだって、ちゃあんと相手の目を見て会話するじゃあないの」
「ぐ、ぐああああぁぁぁ……!!」
更に、アーリエンデは自身の胸を強調するように!!
組んだ腕に乗せる形で自らの下乳を押し上げる!!
将棋で言えば詰みになった相手の玉将の前に金将を置くような行為だ!!
完全なオーバーキル……!!
仕留めてなお終わりなき追撃ッッッ!!
(どうすれば……どうすれば良いんだ俺は……!?)
ジョウは狼狽、圧倒的狼狽の極致ッ……!!
しかし混乱の渦中にあってもどうにか現状打破の術を探る精神力はまさにスーパーヒーロー!!
(そうだ! そうか! 簡単な話だ! アーちゃんの素敵な部分が見えなければ良い、何か服の代わりになるもので隠してしまえば良い!! ただそれだけの事だ!!)
自らの服を脱いで被せる……と言うのをまず考えたが、おそらく無駄だ。
きっと、アーリエンデに被せた途端にアーリエンデの着衣物と認識して幻覚が上書きされる。アーリエンデは裸のままだろう。
であれば、服ではないもので、隠す!!
そう、今、ジョウが自らの手で自らの目を覆い隠しているように!!
「つまりこれで、どうだァァァァァァァーーーッ!!」
「フフフ、苦し紛れに何をしようって――」
ふにん、ぽやん、と、アーリエンデの両乳が弾む。
何故かと言えば――ジョウが大胆にもワシ掴みにしたからだ。
「――――――」
(よし、これでアーちゃんの方を見ても大丈夫だ!!)
乳を掌で覆い隠し、更に伸ばした腕の陰にする事で胸から下も視界に入れない!!
ジョウは思う――我ながら、なんて完璧な作戦なんだ!!
「ふ、ふふん、どうだい。アーちゃん。ほら、俺は今、君を直視しているよ? だからそのつまり――ん? あれ? アーちゃん? 何か急に顔が真っ赤になって涙目でプルプルと――あッ」
そして気付く。
己の指に伝う感触。見えはしないが確かにある布の感触と、その上からでもわかる柔らかな――
「何すんのよこのドスケベドッコイがぁぁぁッッッ!!」
「ごめんなさいでしたぁぁぁぁぁッッッ!!」
乙女が発揮できるあらん限りのパワーが乗った肘打ちが、ジョウの顎を強襲ッ!!
痛快なクリーン・ヒット!!
ジョウの体はまるで暴風に薙ぎ払われたかのように浮き上がり、ノーバウンドで何メートルも吹き飛ばされるッ!!
「はぁーッ……はぁーッ、自分から押し付けるのは平気だけどその、そっちから、それもぃ、いきなりは……いきなりはその……ちょっと……あ、いや待って、しくった。今のチャンスだった!? やば……起きなさいジョウ! やっぱ揉んで良いから! もう一回揉めェェェ!!」
「……きゅぅ……」
「気絶してるーーッ!? 何で!? いつもは肘打ちどころか脳天の重機をぶつけてもけろっとしているでしょうあんた!?」
※肘打ちのダメージではなく「アーちゃんのおっぱ、おぱ……」と言う過剰興奮で意識が飛んでいます。
「起きなさい! ジョウ! 揉め! 揉みなさいよジョォォォォォオオオオオッッッ!!」
第四八次JOKER制圧作戦――人間側は勝ったがアーリエンデはチャンスを逃した。
ちなみにコーレイ・グゥス星人は普通に撃退できたそうな。