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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第5章 特級冒険者編

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97.進化する精霊術

 子供たちに魔法を教える傍ら、俺はアルトゥリアス、レーネリーアを呼んで状況を確認した。


「それで、話というのは我らの精霊術のことですか?」

「うん、そう。何か案はまとまった?」

「ええ、まあ、それなりに」

「私も考えたわ~」


 前回の守護者戦において、ほとんどの仲間は無力感を味わされた。

 特にアルトゥリアスとレーネリーアは、百年以上も生きてるにもかかわらず、術士になったばかりの俺に救われたのが不本意だったらしい。

 そこで彼らは発奮し、自身の精霊術を強化すると宣言していた。

 それから2週間ほど経っているので、そろそろ何か進展があると思っての確認だ。


「それは何より。じゃあ、まずはアルトゥリアスの案を教えてもらえる?」

「ええ……ご存知のように私の使う風属性は、その密度の薄さから、強い攻撃力が得られませんでした」

「まあ、そうだね。何かそれを補う方法は、見つかった?」


 するとアルトゥリアスは、自信ありげにニヤリと笑う。


「フフフ。いろいろと考えたのですが、魔力でそれを補おうと考えました」

「ふ~ん……どうやるかは別として、それが妥当かな。だけどあまり、効率は良くないんじゃない?」

「今までのやり方ならば、そのとおりですね。そこで少し考え方を変えてみたのです」

「へ~。どうやって?」


 するとアルトゥリアスは、地面に絵を描く。

 それは俺が教えた空気分子の概念図で、この概念を知ることによって、アルトゥリアスの風魔法は確実に進化していた。

 そしてその概念をもとに、さらに踏み込んだのだろう。


「今まではこのように、風を操ることしか、考えていませんでした。『リアーフ』」


 ヒュンという音と共に、周囲に風が巻き起こる。


「しかしこれでは、風の基となる空気密度の薄さは補えません。ならば魔力自体で、空気分子を補強できないかと考えたのです。タケアキ、こちらへ手のひらを向けてください」

「ああ、こんな感じ?」

「ええ……『リアーフ』」


 アルトゥリアスが先程と同じ風魔法を使うと、俺の手のひらを見えない何かが打った。

 それは軽い打撃ではあったが、今までとは違って、何か実体を伴ったもののように感じられたのだ。


「うわっ! 今、何をやったの? アルトゥリアス」

「フフフ、ですから、魔力で補強した風ですよ。イメージはこんな感じですね」


 そう言ってアルトゥリアスが地面に描いたのは、空気分子の間を魔力という接着剤で埋め、なかば実体化させるという発想だ。

 これによって風の密度は何倍にも増し、敵に対する打撃力は飛躍的に増すだろう。


「すごいじゃないか、アルトゥリアス。さすが、暴風の賢者と言われるだけはあるね……だけど、魔力消費は大丈夫なのかな?」

「もちろん、それなりに魔力は消費しますよ。しかし使いどころを限定すれば、効果的な使い方ができるでしょう。今は風精霊シェールと一緒に、いろいろと練習しているところです」

「さすがだね。それに目処がついたら、また披露してよ」

「ええ、もちろんです」


 どうやらアルトゥリアスの風魔法の強化は、順調なようだ。

 そこでレーネリーアに目をやると、彼女も自信ありげにニンマリと笑った。


「その様子だと、レーネリーアも何か考えていそうだね?」

「うふふ、もちろんよ~。私の新しい植物魔法を、見せてあげるわ~」


 そう言ってレーネリーアは、ポイッとドングリのような種を地面に放った。

 そしてその上に手を当てながらしばし集中し、古代語を唱えたのだ。


木枷拘束シャガル・エンタズ


 すると彼女が手を放した地面から、メキメキと木が生え出し、螺旋らせんを描くように立ち上がった。

 それが大人の身長ほどに達すると、レーネリーアはその横で胸を張る。


「ウフフ~、どう~? これならミノタウロスも、拘束できると思わない~」

「へ~、すごいじゃないか。これなら上手くやれば、上位の魔物でも動きを止められそうだね。これはどうやったの?」

「使う種を変えただけよ~。ただ、茨ほどに早く成長させるのに苦労したわ~。これを離れた場所で、効率よく実行するのが、今後の課題ね~」


 まだ未完成なためか、レーネリーアはちょっと恥ずかしそうに言う。

 するとアルトゥリアスが、彼女にアドバイスをしはじめた。


「ふむ、急激に植物を育てるために、大地の養分が多く必要なのでしょうね……それなら、養分を魔力で補ってはいかがですか?」

「え~、そんなことできるの~?」

「できますよ。そもそも魔力とは――」


 そこからアルトゥリアスの魔力の解説が始まった。

 彼によれば、魔力とは万能性の高い存在で、それを使いこなすことで、いろんなものを代用できるんだとか。

 たしかに俺も水魔法を使う時は、タネになる水を元手に、何十倍にも増やしている。

 それはつまり、魔力を水に変換しているようなものだ。

 しかしレーネリーアは、いまいち合点がてんがいかないようだ。


「う~ん、なんとなくできそうな気もするけど、ちょっとイメージが湧かないわね~」

「そんなに難しく考えなくても、いいんじゃないかな。木を育てたいっていう意志を木精霊アーデに伝えて、後は彼女に任せればいいんだ。俺もガイアやテティスには、そんな感じでお願いしてるよ」

「ふ~ん……タケアキがそう言うなら、やってみようかしら~」


 俺の助言に半信半疑ながら、レーネリーアはアーデを呼び出して対話を始める。

 やがて話がついたのか、再びドングリを地面に置き、”木枷拘束”を行使した。


「『木枷拘束シャガル・エンタズ』……あら? あらあらあら~」


 するとさっきより何倍も速く、ブナの木が成長したのだ。

 先程は背丈ほどになるのに10秒ほど掛かっていたのが、2秒ほどに短縮された感じだ。

 予想外の成果に、レーネリーアが歓喜の声を上げる。


「キャーッ、本当にできたわ~。私って、天才ね~」

「フフフ、いかに助言を受けたとはいえ、即座にものにしたのは、さすがと言ってよいでしょう。その調子で開発を進めてください。できれば攻撃もできるといいですね」

「あら、攻撃なら、こんなのはどうかしら~。『木槍刺突シャガル・イジャ』」


 レーネリーアが再びドングリを地に撒き、新たな古代語を唱えた。

 すると今度は太めの木がまっすぐに伸びて、槍のように地面から突き出した。


「ほほう、これならある程度の魔物になら、ダメージを与えられるかもしれませんね」

「えへへ、そうでしょ~? これぐらい大きな槍なら、深層でも戦えると思わない~?」

「ふむ……しかしこれでは、さすがにミノタウロス級は難しいでしょう」

「ええ~、そうかしら~」


 すかさずアルトゥリアスに指摘され、不満な顔をするレーネリーアだが、その表情には自信のなさが見て取れた。

 彼女自身、威力の低さを認識しているのだろう。

 そこで俺は、前向きな提案をしてみる。


「まあまあ、それは改善すればいいって。さっきアルトゥリアスが言ってたように、魔力で強度を上げてみたらどうかな?」

「う~ん、そうね~……分かったわ~、試してみる~」


 最初、迷っていたレーネリーアだが、何か思いついたのか、顔が明るくなった。

 そんな話をしていたら、俺もちょっと思いついた。


「そうだ。それなら俺の魔法にも、応用できるかもしれないな」

「何がですか?」

「アルトゥリアスの言った、魔力による構造強化さ」


 そう言いながら俺は、普段から持ち歩いている水筒から、手のひらに水を出した。

 それに魔力を籠めてから、ヒョイッと手前に放る。


氷槍屹立タルジュ・アガマト


 キインッという澄んだ音を立てながら、氷の槍が立ち上がった。

 それはいつになくすばやい生成であり、出来上がった氷の槍も、どこか神々しい光を放っている。


「ふむ、これは何をやったのですか?」

「水の中に存在する魔力を意識して、スピードと強度を増してみたんだ。さらに先端に魔力を集めてるから、威力も高いと思う。今までは力技でやってたけど、やっぱり意識すると違うね」

「ほほう、それは興味深いですね」


 ぶっつけ本番だったが、意外に上手くできた。

 今まではテティスの能力任せで、多めに魔力を突っこむだけだったが、その構造をイメージしながらやると、行使速度が速く、魔力消費も少ないように感じた。

 さらに先端付近に魔力を集中させるだけでなく、水分子を補強するようなイメージでやったので、攻撃力も増しているだろう。

 その威力のほどは、実際に試してみればいい。


 当初はアルトゥリアスやレーネリーアを強化できれば御の字だと思っていたが、彼らの発想を応用すれば、俺の強化にもつなげられそうだ。

 この調子なら、さらなる深層の探索を、より有利に進められるかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルトゥリアスさん空気中の分子を操れるようになったんなら酸欠攻撃とか出来るのでは?
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