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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第5章 特級冒険者編

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96.魔法の訓練

「キャーッ、やめて~!」

「いぃやぁ~、勘弁して~!」

「グギャッ、グゲェッ!」


 迷宮内に、かよわそうな少女の声が響き渡る。

 彼女たちは勤め先でオイタをした、シャロンとネイだ。

 こいつら、勤め先の商店で、店の商品やお釣りをちょろまかしやがった。

 おかげで出禁をくらったので、その罰として強制的に連れてきたわけだ。


 そして1層でゴブリンと遭遇して今に至るのだが、その行動は予想の斜め上を行くものだった。

 彼女たちは悲鳴を上げながらも前に出て、ゴブリンに戦棍メイスを振るったのだ。

 それもメチャクチャに。

 哀れゴブリンは、ほとんど反撃できぬままに倒されてしまう。


「なんか、最初の俺たちよりも強くねえか?」

「うん、そんな気がする……」


 泣きながら魔石を回収する女の子たちを見ながら、レヴィンとオデロがぼやいている。

 たしかに当初のヘタレ男子より、強いかもしれない。

 そう思って見ていたら、シャロンとネイが泣き言を言ってきた。


「ひ~ん、こんなの無理ですぅ。地上へ返してください~」

「今度はまじめに働きますから~」

「そうか? けっこう戦えてるぞ。意外に冒険者稼業、向いてるんじゃないか?」


 そう返したら、彼女たちはキッとまなじりをつり上げ、さらに抗議してきた。


「ひどいですっ! これはいじめです! 断固抗議します!」

「そうだ、いじめ反対!」


 ぎゃあぎゃあ喚く少女たちがうっとうしいなと思っていたら、その前に幼女が立ちふさがった。


「じごうじとく、でしゅ」


 ニケが剣を突きつけながらそう言うと、今度は矛先がそちらへ向いた。


「な、なんなのよ~。あんたは強いからいいわよ。だけどあたしたちは、かよわいのよ~」

「そうよ。人には向き不向きってものがあるんだから!」


 するとニケは、不思議そうな顔で問うた。


「でもちじょうのしごと、できなかったんでしょ? じぶんでしんよう、なくしたんでしょ?」

「グッ、それは……」

「あれはちょっと、魔が差したっていうか……」

「タケしゃまたちが、あたまさげてやとってもらったのに、それうらぎった。あたしはそれが、ゆるせない」

「だからそれは悪かったと、思ってるわよ~。ビエ~ン」

「私たちだって、反省してるんだから。ヒ~ン」


 幼女に淡々と詰問されて、とうとうシャロンとネイが泣き出した。

 するとニケは困惑し、不思議そうな顔で彼女たちを見つめる。

 そんな彼女の頭に手を乗せながら、俺は仲裁に入った。


「それぐらいにしておけ、ニケ。お前の言いたいことも分かるけど、人間ってのは弱いもんなんだ。魔が差すってこともある」

「タケしゃまは、くやしくないんでしゅか?」

「ん~……悔しいというか、歯がゆくはあるな。だけどついこの間まで、まったくの他人だったんだ。すれ違いはあるさ。なんにしろ、俺をかばってくれて、ありがとな」

「……やくにたったなら、うれしいでしゅ」


 彼女の金色の髪をなでてやると、ニケは嬉しそうに笑った。

 彼女なりに俺の役に立とうと、いろいろ考えてくれているらしい。


 その後はシャロンとネイをなだめすかし、3層まで行ったのだが、彼女たちは意外な積極性を見せるようになった。

 おそらく今までの不遇や、ふがいない自分たちへのストレスを発散しているのであろう。

 その攻撃の激しさは、本来の探索組を上回るほどだ。


 結局、十分に反省した彼女たちは、地上での勤務に復帰し、まじめに働くようになる。

 それでいてたまには迷宮に潜り、ストレスを発散するようになるのは、また別の話。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「『ウインド』……あっ、できた」

「ふむ、やはり適性があったようですね」


 ところ変わって今日は、地上で訓練をしていた。

 子供たちはまだ人狼ワーウルフとの戦闘に苦労しているが、そればかりではストレスも溜まるだろうと、外へ連れ出したのだ。

 そしてついでとばかりに、魔力の使い方を教え、魔法適性の有無を確認してみた。


 一応、精霊術の適性も見てみたのだが、さすがにこちらは誰も使えなかった。

 やはり俺は珍しい例になるのだろう。

 俺の場合、迷い人という特殊条件もあると思うのだが。


 そして魔術の適性を検査してみると、オデロとニールに適性が見られたのだ。

 あいにくと獣人種は全滅で、人族も女子には検査自体を拒否された。

 もし適性のあることが判明したら、迷宮に送られるとでも思っているのだろう。


「よし、それじゃあ、オデロとニールは、アルトゥリアスから魔術の手ほどきを受けてくれ。それ以外は強化魔法の練習な」

「「「うい~っす」」」


 かくして屋外での魔法教室が始まった。

 俺は興味があったので、アルトゥリアスから魔術の講義を聞かせてもらった。

 何しろ俺は最初から精霊術が使えたので、魔術についてはほとんど知らないのだ。


 彼によれば、魔術とは精霊術の使えない人族が、模倣したものなんだそうだ。

 何をどうやったのか分からないが、エルフが精霊を介して実現する事象改変を、独自に再現したのだ。

 おそらく相当に才能のある人が、人生を懸けて取り組んだんじゃなかろうか。


 結果、精霊術の劣化版とでもいうべき魔術は、独立した魔法体系として確立された。

 劣化版といってもそれは規模的な話であって、行使速度はむしろ優れるほどだ。

 そして使い手の魔力量によってその威力は決まるので、魔力の多い家系が台頭した。


 魔力量はある程度、遺伝するからだ。

 そのため魔術使いは、貴族や資産家に多く、一般市民とは縁の薄い存在である。

 とはいえ貴族や資産家には物好きもいるもので、そんな奴らが冒険者として活動していたりもする。


「なるほど……でもそれなら俺たちみたいな貧民が魔術を習っても、あまり意味ないんじゃないですかね?」

「いいえ、そんなことはありませんよ。むしろ少しの指導だけで魔術を発動できたのは、才能豊かと言ってよいほどです。ある程度以上の魔力がないと、できないことですからね」

「ほ、本当ですか? 俺、なんか初めて、才能あるって言われたような気がする」

「ええ、その点は自信を持っていいですよ。ただし、その才能は磨かねば光らないので、厳しく指導はしますが」

「それは望むところです。ニールもがんばろうな」

「う、うん」


 オデロがなんかやる気出してる。

 それに引きずられて、ニールも意欲を見せていた。

 その後は簡単な魔術の講義が続けられた。


 その横ではそれ以外の子供たちが、身体強化魔法の練習をしている。

 いまだ満足に発動できてはいないが、いずれものになるだろう。

 というのも俺やレーネリーアのような魔法使いがいると、魔力の使い方を覚えさせやすいからだ。


 身体に手を当てて魔力を注入してやることで、その存在を意識しやすくなる。

 そのおかげでルーアンやメシャも、わりと簡単に強化魔法を身に着けていた。

 そんな指導が一段落したところで、ガルバッドが話しかけてきた。


「とりあえず魔法が使える子供がいて、よかったのう」

「うん、そうだね。これで多少は戦力に厚みが持たせられるから、攻略も進むかもしれない」

「うむ、才能のある者をまとめれば、それなりに探索も進むであろう」

「そうだね。いずれは攻略組と、稼ぎ重視組に分けた方がよさそうだ。いずれにしても、3層は突破させるけどね」

「ふむ……しかしそれでは、手が足りんのではないか?」

「それはおいおい、外から集めるよ。大人の冒険者でも、はぐれてる人とかいるでしょ」

「しかし信用できるかのう?」


 俺の提案に、ガルバッドが心配そうな顔をする。


「そりゃ、完全に信用はできないけど、俺たちの後ろ盾がある子供に、ひどいことはできないんじゃない?」

「ふむ……まあ、それはそうじゃな。いずれにしろ彼らが自立できればいいんじゃから、そう無理する必要もないか」

「ああ、そうだろ」


 それなりに成長している子供たちだが、まだまだ自立には程遠い。

 それまではまだまだ手がかかりそうなのだが、俺たちもいずれ探索に戻らねばならない。

 そしてそのためには、俺たちの力を高める必要もあるのだから、あまりのんびりもしていられないのだ。

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