94.迷宮探索訓練
孤児たちの装備を整えると、さっそく翌日から迷宮に潜り、訓練を始めた。
そのため俺たち経験者を3人ずつに分け、そこへガキどもを3グループに分けて付ける。
俺たちの編成はそれぞれの役割を考慮して、以下のように分けた。
第1班:タケアキ、ニケ、ガルバッド、(ゼロス)
第2班:アルトゥリアス、ルーアン、ザンテ
第3班:レーネリーア、バタル、メシャ
これに人族と獣人族を適度に混ぜた5人ずつの子供を付け、1階層へ潜るのだ。
ちなみに人族の子供たちは、獣人族と組むのを嫌がる傾向にあったのだが、そこはあえて我がままを言わせず、強引に組ませた。
これから一緒にやってく仲間なのだし、他種族への偏見を少しでも無くすためだ。
そのうえで1層へ分け入り、ゴブリンを探していると、懐かしい奴らに遭遇する。
「ゲギャギャギャギャッ」
「グワガガ、グワガガ」
「うわっ、出た」
「あれがゴブリンか……」
2匹のゴブリンに出迎えられて、子供たちが驚きの声を上げる。
ちなみに今一緒にいるガキは、レヴィン、オデロ、ガノン、バルウ、シアで、驚いているのはオデロとバルウだ。
他はわりと落ち着いたもので、最年少のシアちゃんも平然としている。
シアは猫人族で、年はニケと同じ10歳。
茶色の髪に、ネコ耳がかわいらしい幼女である。
最初はニケのことを怖がっていたが、だいぶ打ち解けたのか、最近は仲良くしている。
「さあ、まずは戦ってみろ。危なければフォローするから」
「よし、やろうぜ」
「お、おう」
「は~い」
俺の指示に従い、子供たちがゴブリンを囲む。
やがてリーダー格のレヴィンが、片方のゴブリンに斬りかかった。
「やあっ」
「ギギッ」
しかしへっぴり腰の攻撃はかわされてしまい、レヴィンがたたらを踏む。
するとネコ耳のシアちゃんが前に出て、武器の戦棍を振った。
「えい!」
「グギャッ」
「よくやった、シア。みんなも見てないで、手伝え!」
「「「おう」」」
シアに態勢を崩されたゴブリンに、他の子供も攻撃を始める。
ほとんど袋叩きのようにされて、2匹のゴブリンは絶命した。
「フウッ、フウッ……ようやくかよ」
「うわ~、敵を切った感触が、手に残ってるよ~」
「なんか気持ち悪~い」
一部の子供が、初めて動物を殺した感触を恐れている。
まあ、俺も最初は吐いたからな。
いずれ慣れるだろう。
そんな彼らに、ニケが声を掛けた。
「まもの、たおしたら、ませき、とるでしゅ。こうやって」
「あっ、そうだった。へ~、そうやるんだ? こっちは俺がやるよ」
「あい」
ニケの手本を見て、レヴィンがもう1匹を解体する。
ゴブリンから取り出した魔石を彼が掲げると、他の子供がそれを誇らしそうに見上げていた。
俺もそこへ近寄ると、魔石の価値を教えてやる。
「ちなみにこの魔石が、大銅貨2枚になるんだ。さらに強い魔物になるほど、買取額は上がっていくぞ」
「ほえ~、これが大銅貨2枚ねえ。それだけあれば、2日は食いつなげるな。こんなことなら、もっと早く迷宮に潜ればよかったぜ」
「ろくな装備も無いのに潜っても、命を落とすだけだぞ」
「ヘヘッ、ちげえねえ」
レヴィンの軽口に対して忠告すると、彼は苦笑いしてそれを認めた。
その後もチョコチョコ出てくるゴブリンを倒しながら、ズンズン奥へ進む。
子供たちもずいぶんと狩りに慣れ、余裕が出てきた感じだ。
やがて5匹のゴブリンに遭遇したので、子供たちを1対1で戦わせてみる。
「よしみんな、1匹ずつゴブリンと向かい合って、倒すんだ。もちろん俺たちがフォローするから、そんなに緊張しなくてもいいぞ」
「うへ~、マジかよ……だけど、これぐらいやれなきゃな」
「ううっ……怖いよ~」
「こんなの、へいきだよ~」
少し気後れしている男子をよそに、シアはさっさとゴブリンに襲いかかる。
もちろん俺やニケ、ガルバッドが脇に控え、いざとなったら助けるのだが、なかなかに怖いもの知らずだ。
しかし獣人らしい強靭な体もあって、シアは難なくゴブリンを倒してしまった。
「ほら、お前らも行け。女の子に負けてもいいのか?」
「くそ、やってやらあ!」
「お、俺も!」
「ま、負けないぞ!」
「うわ~!」
俺が叱咤すると、4人の男子もつっこんだ。
しかしみんなガムシャラで、型も何もあったものではない。
一応、子供たちにはひと通りの武器の使い方は教えているものの、そう簡単に身に着くはずもなかった。
日々の鍛錬と実戦を、積み重ねるしかないのだろう。
それでもゴブリンは迷宮最弱だけあって、子供でもなんとか戦えている。
やがて1匹また1匹とゴブリンが倒れ、シアの次に年少のバルウを最後に戦闘は終わる。
「よ~し、よくやったぞ、みんな。魔石を取るのも、忘れないようにな」
「うう、気持ち悪いよ~」
バルウが泣き言を言っているが、それでもゴブリンの体にナイフを入れている。
するとシアがトコトコと歩いてきて、魔石を自慢げに掲げる。
「おじちゃん、わたし、やったよ」
「お~、がんばったな。偉いぞ~」
「キャハハ」
俺が頭をなでながら褒めてやると、シアはネコ耳をピクピクさせながら、明るく笑う。
そしたらニケが、なんかムッとしていたので、そっちもなでてやった。
するとニケはすました顔で、尻尾をフリフリさせていた。
ケンカするなよ。
子供じゃないんだし。
いや、ニケは子供か。
彼女には後で、”ニケは経験者なんだから、大目に見てやれ”と言っておいた。
その後も順調にゴブリン狩りを続け、夕方には地上へ舞い戻った。
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その晩は、迷宮初探索の慰労会を開いた。
孤児たちの拠点に料理を運びこんで、みんなで乾杯をする。
「それじゃあ、迷宮の初探索成功に乾杯!」
「「「かんぱ~い!」」」
俺の音頭に、子供たちが明るい声で応える。
彼らはジュースや酒の入ったカップを空けると、目の前の料理にかぶりつきはじめた。
「うめえ、うめえ」
「ああ、なんか夢みてえ」
「それより、そっちの探索はどうだった?」
「へっ、俺なんか今日、5匹もゴブリン倒したんだぜ」
「俺なんか6匹だ」
子供らしい会話を、仲間たちが微笑ましく眺めている。
そんな中で、俺は他の班の様子を訊いてみた。
「そっちの方はどうだった? 順調?」
「おう、それなりだな。やっぱり獣人種の方が積極的な感じだ」
「うちも~。人族の子は、少し怖がりかな~」
「へ~、でもこっちはバルウの方が怖がってたぞ。ちなみに一番積極的だったのは、シアだ」
「マジかよ……女の子なのに、すげえな」
するとアルトゥリアスが、俺に問う。
「それにしても、いつまで彼らの面倒を見るのですか? 我々も深層の探索をしないと、特級としての示しがつかないでしょう」
「うん、そうだね。だけど今日見た感じだと、少し鍛えれば見習い卒業できそうな子もいたんだ。だから3層の守護者突破が、当面の目標かな」
「ふむ……まあ、それぐらいなら、問題ないでしょう。さっさと鍛えて、昇格させましょう」
「おう、ビシバシ鍛えようぜ」
こうして当面の目標は立てたが、新人冒険者の育成は、まだ始まったばかりだった。




