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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第5章 特級冒険者編

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92.領主を巻き込む

 ひょんなことから孤児に関わった俺は、彼らの救済を思いついた。

 この街の孤児を集めて、ねぐらと食事を与え、さらに職まで斡旋あっせんしようという計画だ。

 そこまでやるからには、俺たちだけではダメだ。


 そこでまずは冒険者ギルドへ行き、受付け嬢のステラを口説いた。

 根が善人な彼女は、想定どおりに話に乗ってくる。

 彼女を経由してギルド長まで話を通すと、今度は領主様に相談しようということになった。

 かくして俺は、またギルド長と共に子爵邸へ赴いた。


「ふうむ、孤児の救済、か」

「ええ、偶然、孤児と知り合うことになりまして、調べてみると、親を失くして浮浪児やってるのが、この街だけで30人近くはいるらしいんですよ」


 オデロやニグンの協力を得て、ルーアンたちが調べると、この数字が出てきた。

 それを受けて書面化した孤児の救済計画を、子爵に提出したところだ。

 幸いにも子爵は、聞く耳を持たない様子でもない。


「その子供たちを集めて、ねぐらと食事を与えたい、と。さらに職まで斡旋しようとは、ずいぶん情け深いではないか?」


 子爵が呆れたような視線を向けてくるが、その声音はどこか優しい。

 俺は隣に座るニケの頭をなでながら、答えを返す。


「実はこの子も、つい半年ほど前までは、孤児だったんですよ」

「タケしゃまに、ひろわれたでしゅ」

「ほほう……」


 ニケの言葉に、子爵が相好そうごうを崩す。

 彼女のかわいさは、反則級だからな。

 説得に役立つだろうと、一緒に連れてきたが、その狙いは当たったようだ。


「たまたま俺が彼女を助けることになって、その後は一緒に迷宮探索をしてきました。12層の攻略には、彼女の力が欠かせなかったほどです。こう見えて、特級冒険者の名に恥じない力を持ってるんですよ」

「この子が、以前言っていた子供か? とても戦闘力が高いとは、思えん見かけだな」

「そう思われるのも、当然でしょう。しかし彼女は潜在能力がとても高い存在で、その戦闘力は大人にもひけは取りません。だけどそんな彼女も、つい半年前には飢え死にしかけてたんです」

「ふむ、何があったのだ?」

「彼女の両親が、迷宮で亡くなったんだそうです。当然、宿は追い出され、しばらくは近所の大人に助けてもらってました。もちろんお手伝いをする対価に、寝場所や食料をもらってたんですけど、そのうち別の孤児グループに目をつけられちゃって……」

「どうなったのだ?」

「ニケを助けようとする大人に、様々な妨害行為が入ったおかげで、誰も彼女を助けなくなりました」

「むう……けしからんな」


 その話に憤る子爵だが、俺は正直に打ち明ける。


「実はその悪ガキどもが、ニケが特級冒険者になったのをねたんで、石を投げてきたんですよ」

「なんだと? それでどうした?」

「飯を食わせて、話し合ってみると、謝ってきましたよ」

「なんだ、つまらん。大体、なぜその話の流れで、孤児を助けたいという話になるのだ?」

「あいつらを見ていて、もうニケみたいな子供を、増やしたくないと思ったんですよ。飢え死にこそしなくても、子供が世をはかなんで犯罪者になる未来とか、嫌じゃないですか」


 すると子爵は、苦い顔で答える。


「……むう、それはこの街の領主として、耳の痛い話だな。そしてそういう話であれば、領主である儂が動かんわけにはいかんか。しかしそう簡単にいくかな?」

「もちろん、そう楽でないことは承知していますよ。ガキどもも、どれくらいがんばってくれるか、未知数ですしね。でも俺たちが率先して動けば、他の冒険者も協力してくれるだろうし、ガキどものやる気も上がるでしょう?」


 するとギルド長も、援護射撃をしてくれた。


「この件には、冒険者ギルドも全面的に協力する予定です。あまりお金は掛けられませんが、新人冒険者をバックアップする体制は、しっかり整えようと考えています」

「むう……その資金として、”女神の翼”が金貨50枚を寄付するだと? お前ら、金もっとるのう?」


 資料にある数字を見て、子爵が呆れている。


「仮にも俺たちは、特級冒険者ですからね。それにうちには腕のいい職人がいて、装備や消耗品にあまり金が掛からないんですよ」


 強い敵と戦うには、高価な防具や武器が必要であるばかりでなく、そのメンテナンスにも金が掛かる。

 その点、ガルバッドという職人を抱えるうちは、かなり有利だった。

 さらに植物魔法を使うレーネリーアは、薬草や医療にも詳しく、治癒ポーションなどを自作できたりする。


 そのうえでミノタウロスなんかを倒していれば、金が貯まるのも道理だ。

 おかげで無理のない範囲で、金貨50枚を捻出できる。

 子爵は少し迷ったあげく、また口を開いた。


「よかろう。この計画を承認し、儂も金貨50枚を出そうではないか。長い目で見れば、この街の魔石産出量も上がるであろうし、人も増える。その代わり、計画はしっかりと進めてくれよ」

「ありがとうございます」

「はい、ギルドも全力でサポートします」


 こうして子爵の協力と寄付金を、もぎ取ることに成功した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 子爵の説得に成功した後は、孤児たちの勧誘だ。

 俺たちはニグンの案内で貧民街へ来ると、準備してきた材料で汁物を作り、孤児たちに呼び掛けた。


「俺たちは特級冒険者の、”女神の翼”だ。今から食事を配るから、食いたい奴は集まれ~!」

「この人たちは本物だぞ~。俺たちに話があるそうだから、集まれ~!」

「そうだ。この人たちは迷宮の到達階層を更新した、英雄だぞ~!」


 ニグンやオデロも協力して呼び掛けていると、やがてぼちぼちと人が集まってくる。

 孤児以外にも、落ちぶれた大人も集まってきたが、そこは差別せずに食事を振る舞った。

 そしてある程度、人が集まったところで、救済計画を公表する。


「ちょっと聞いてくれ。俺たちは今後、この街の孤児を支援したいと考えている。君たちにねぐらと食事を与え、職まで斡旋するつもりだ。この話に乗りたい奴は、こちらへ集まってくれ」


 すると周囲の大人が騒ぎだした。


「おい、子供だけなのか? 俺たちだって困ってるんだぞ」

「う~ん、だけどあんたらは大人だろ? 見たとこ体もちゃんとしてるんだから、自分自身の力で生きてくれよ」

「そ、そんなこと言うなよ。俺たちだって、困ってるんだ。な、助けてくれよ」

「「そうだそうだ!」」


 見るからにたちの悪そうな男たちが、自分も助けろと騒ぐ。

 するとルーアンが前に出て、そいつらをあしらった。


「おいおい、勘違いするなよ。俺たちは生活能力の乏しい子供たちを、救いたいだけだ。あんたたちには体も頭もあるだろう。まずは自力でやってみろや」

「あだだだだっ!」


 ルーアンが肩をつかんで力を強めると、男が痛みに声を上げる。

 強化度が8にもなる俺たちの握力は、ハンパじゃないので、並みの人間に耐えられるものじゃない。

 ギリギリけがをさせない程度にあしらうと、大人からの不満の声は消えた。


 しかし当の子供たちは、なかなか動かない。

 もちろん食うのに忙しいというのもあるが、俺たちが何を言っているのか、分からないという感じだ。

 やがて15歳くらいの、人族の男子が口を開いた。


「モグモグ……なんであんたらが、そんなことしてくれるんだ? 俺たちを奴隷商にでも、売るつもりじゃねえだろうな。モグモグ」


 その正直な物言いに、思わず苦笑する。


「ハハハ、まあ、そう考えるのも、仕方ないな。実はこの子も、半年前までは孤児だったんだ。それも誰かさんに意地悪をされて、飢え死にしかけてた」

「ウッ……ほんと、すいませんっす」


 俺の言葉に、オデロが恐縮して謝る。


「ハハハ、まあ、それはいいんだ。だけどこの子は、俺と一緒に迷宮探索をして、特級冒険者にまで成り上がった。こっちの2人だって、故郷で疎まれてたんだけど、俺たちと一緒に行動するようになって、やっぱり強くなったんだ」

「ふ~ん、それで俺たちにも、冒険者をやれってのか? モグモグ……だけど、誰でもそんなに強くなれるわけじゃねえだろ?」

「ああ、そのとおりだ。この子たちは希少種っていって、特に潜在能力の高いタイプらしい。だけど誰でも努力すれば、それなりのことはできるだろ? 俺はその手助けを、したいと思うんだ」

「ふ~ん、そいつは酔狂っていうか、おせっかいな人だな。ぶっちゃけ話がうますぎて、信用できねえぞ。モグモグ」


 なんの遠慮もなく懸念を口にする男の子に、ガルバッドが苦笑しながらフォローしてくれた。


「フハハッ、正直なことを言うのう。しかしな、たまには人を信じても、いいのではないか? 何しろ儂らは、特級冒険者じゃ。へたなことはできんし、これは領主様にも話を通してあるんじゃぞ」

「ふ~ん、領主様公認かぁ……まあ、だまされそうになったら、逃げればいいんだしな。いいぜ、話に乗ってやるよ」

「お、俺も……」

「わ、私も……」


 どうやらその子供はリーダー格だったらしく、彼が乗ると言えば、他も動きだした。


「お前、名前はなんていうんだ?」

「俺か? 俺はレヴィンってんだ。そういえば、あんたは?」

「俺はタケアキだ。ここで会ったのも、何かの縁だ。せっかくだから、いろいろ協力してくれよ、レヴィン」

「う~ん、いまだに信じられないんだけど、まあいいや。よろしくな、タケアキさん」


 こうして孤児の救済計画が、実際に動きだしたのだ。

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