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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第5章 特級冒険者編

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90.ベルデンの浮浪児

 冒険者ギルドで特級昇格の手続きを終えた後、なぜか浮浪児たちに絡まれた。

 ギルドを出たところで、石を投げてきやがったのだ。

 どうやら奴らは、浮浪児時代のニケと関わりがあるらしい。

 そしてニセモノ呼ばわりをされたニケが、浮浪児の1人に剣を突きつける。


「あたしは、とっきゅうぼうけんしゃ」


 ニケは浮浪児の1人に剣を向けつつ、きっぱりと言いきった。

 多少は距離があるとはいえ、真剣を向けられた浮浪児の顔がひきつっている。

 すると周りの子供が、必死でとりなそうとしはじめた。


「お、オデロ。これ以上、刺激しない方がいいって。この人たち、本当に特級冒険者なんだぞ」

「そうだよ。ほとんど貴族みたいなもんなんだから。すみません。俺たち、特級に昇格した人たちがいるって聞いて、見にきただけなんです。そしたら見知った顔があったんで、オデロが……」


 どうやら個人の暴走らしいので、俺は仲裁を試みる。


「ふむ、まあ子供のいたずらってことで、このままにしても構わないんだが、ニケはどうだ?」

「あたしは、べつにきにしないでしゅ。あとで、からんでこなければ」


 ニケが大して興味なさそうに言うと、逆にオデロというガキがキレた。


「なんだよっ、偉そうに! 獣人のくせしやがって!」

「やめなよ、オデロ。まずいって。帰ろうよ」


 オデロは顔を真っ赤にして立ち上がると、ニケにつかみかかろうとする。

 それを他の子供が押さえようとして、もみ合いになる。

 するとそこへ不機嫌な声が割り込んだ。


「ほ~、獣人のくせにとは、聞き捨てならねえな。俺たちだって命を張って、ここまで成り上がったんだ。人種で差別されるいわれはねえぞ」


 近づいたルーアンが、姿勢を低くしてオデロの肩をつかみ、正面から彼を見据えた。

 するとオデロは怯えながらも、なおも食ってかかる。


「な、なんだよ。あんたも俺たちのことを、たかが浮浪児とか、馬鹿にしてんだろ? 俺たちだって、チャンスがあればな――」

「あれば、なんだって?」

「い、いてえよ。離せよ」


 どうやらルーアンに肩を強くつかまれ、苦痛を感じているようだ。

 その様は哀れを誘うが、奴のやってることは無茶苦茶だ。

 俺たちを特級冒険者と知りながら石を投げ、さらに食ってかかるだなんて、馬鹿と言うしかない。

 しかしその胸にくすぶる彼らの哀しみや悔しさも、分からないでもなかった。


「ルーアン、それくらいにしとけよ」

「ああん? だってこいつら、堂々と俺らにケンカ売ってんだぞ。このままじゃ俺たち、舐められちまうだろうが」

「だからってこんな往来で、子供をいじめるのはまずい。ちょっとその辺の飯屋にでも入って、話をつけよう」

「飯屋って、こいつらに飯おごるのか?」


 ルーアンが信じられないといった顔で、俺に問う。

 しかし俺は大真面目でそれに答えた。


「ああ、腹が減ってるから、つまんないことで絡んでくるんだ。なんか食って、じっくり話せば分かるよ。もちろん、ニケに詫びは入れさせるけどな」

「だけどそれじゃあ、示しが――」

「私も賛成ですね。せっかく特級に昇格した、めでたい日ではありませんか。大人の度量を、見せてやりましょう」

「アルトゥリアス、お前もかよ……」


 幸いにもアルトゥリアスが同調すると、周りも賛成してくれた。

 思わぬ流れに戸惑う子供たちに、俺は号令を掛ける。


「よし、お前ら。飯をおごってやるからついてこい。説教はその後だ」

「……ええ、そんなこと」

「信じられない」

「さすがは特級冒険者、なのかな?」


 なおも戸惑うガキどもを連れて、俺たちは近くの飯屋に入った。

 不潔なガキどもを見て、店員が嫌がったが、ちょっと金を握らせて黙らせた。

 そして料理を注文してから、まずは名前を聞く。


「よし、お前ら。まずは名前と年齢を言え」


 最初はみんなで押し付けあっていがた、やがてオデロを抑えようとしていたガキが、おずおずとしゃべりはじめる。


「……俺は、ニグンっていいます。年は13です」

「そうか。次は?」

「あ、俺はケイルです。俺も13歳」


 その後も次々と申告が続き、6人中5人がしゃべった。

 最後はオデロに視線が集中すると、奴も嫌そうに口を開く。


「お、俺はオデロだ。年は14」


 いまだにふてぶてしい態度を崩さないオデロに、ちょっと感心しつつ、俺が応じる。


「ふむ、そうか。俺はタケアキ。この特級冒険者パーティー、”女神の翼”のリーダーをやってる」


 そう言うと、ニグンがおずおずと口を開いた。


「あ、あの、本当にご飯、おごってくれるだけですか? その後、何かしたり、しませんよね?」

「何かって、なんだよ?」

「いや……た、例えば、奴隷商に売りつけるとか?」


 するとニケがテーブルをバンッと叩いて、ニグンをにらみつけた。


「タケしゃまのこと、ばかにすんな!」

「ひいっ、すいません、すいません!」


 ニグンはひとにらみですくみあがると、ペコペコと頭を下げた。

 するとちょうどそのタイミングで、料理が届きはじめる。


「あいよ、お待ち」

「お、ありがと……さあ、お前ら、遠慮なく食っていいぞ」

「……本当、ですか?」

「実際、目の前に料理があるだろう? ほら、温かいうちに食え」

「「「……」」」


 ガキどもは俺の真意を探るように、様子をうかがっていたが、やがて食欲に負けたようだ。

 誰かが手を出すと、争うように食いはじめる。

 それはもう、見事な食いっぷりだった。


 そんな光景を見つつ、俺たちも軽いものをつまみながら、飲み物を飲む。

 ちなみに俺はビール風の酒だ。

 そうやってほろ酔い気分を味わっていたら、ニケが複雑な表情でガキどもを見ているのに気づいた。


「どうした? やっぱおもしろくないか?」

「……ん~ん。ちょっとむかしのこと、おもいだしてただけ。ひもじくて、つらかったこと」

「そっか。じゃあ、たまには人に優しくしてやるのも、いいよな」

「あい♪」


 俺が優しく頭をなでてやれば、彼女はにぱーっと笑顔になる。

 その後も仲間たちとのんびり話をしていると、ガキどもがあらかた食べ終え、静かになった。

 そこで俺は表情を改め、彼らに語りかける。


「どうやら腹いっぱいになったようだな。さて、そのうえで俺が望むことはひとつ。まずはニケに謝れ」


 するとみんなの視線がオデロに集まり、彼がバツの悪い顔をする。

 やがておずおずと、口を開いた。


「お、俺は……すみませんでした」


 最初は何か言い訳をしそうだったが、とりあえず彼は素直に頭を下げた。

 決して悪い人間ではないのだろう。

 そこで俺は、さらに踏み込む。


「その謝罪は、さっき石を投げたことだよな? その他に、昔やった意地悪のことはどうなんだ?」

「い、意地悪って……ひょっとして、そいつが縄張りを荒らした時のこと、ですか?」


 予想外のことを言われ、オデロが戸惑っている。

 そんな彼に、俺も訊ねる。


「縄張りって、なんだよ? お前ら、そんなに大した存在なのか?」

「い、いや……たしかに力で仕切ってるような場所じゃないけど、俺たちの活動範囲で、獣人がいい目みてたから、腹が立って……」

「オデロっ!」


 ルーアンやメシャの目がきつくなるのを見て、ニグンが注意する。

 それでようやくオデロは自分の失言に気づいたようだ。

 まあ、ルーアンたちも本気で怒っているわけではないだろうが、ここは少し世話を焼いてやろう。

 なんにでも頭を突っこむつもりはないが、これも乗りかかった船だ。

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