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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第5章 特級冒険者編

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89.特級になった日

 子爵との面談を終えて家に戻ると、皆の視線が集まった。

 そしてちょっと不安そうな声で、ルーアンが訊ねてくる。


「た、タケアキ。どうだった?」

「ああ、無事に終わったよ。特級への昇格が認められた」

「「「やった~!」」」


 その途端、屋内に歓声が弾けた。

 バタルやザンテ、ニケにレーネリーア、ルーアンとメシャが、両手を上げて喜んでいる。

 そんな中、アルトゥリアスとガルバッドだけは、余裕の態度を崩さなかった。


「フフフ、だから言ったではありませんか。あれだけの功績を立てて、昇格を断られることなどないと」

「フハハ、そのとおりじゃ。万一、昇格を認めんなどと言えば、冒険者が暴動を起こすじゃろう」


 しかしルーアンはなおも懸念を口にする。


「だってよう、領主様の承認が必要なんだろう? もしタケアキが失礼なことでもすれば――あいたっ!」

「タケしゃまは、そんなことしないでしゅ」


 ルーアンが変なことを言ったので、ニケにすねを蹴られていた。

 さすがはニケ、ちゃんと分かっている。

 俺も腰を下ろしながら、状況を伝える。


「領主様はけっこう、気さくな方だったよ。いろいろ聞かれたけど、上位精霊と契約してることを話したら、納得してくれた。今後もこの街の冒険者の模範となるよう、がんばれってさ」

「フフフ、領主としても、味方につけた方が得だと考えたのでしょう。まあ、予想の範囲内ですね」

「うむうむ、これで儂らも、晴れて特級冒険者か。めでたいのう」


 するとメシャが、待ちきれないように言う。


「何おちついてんのさ、みんな。さっそく今から、手続きしに行こうよ!」

「おいおい、俺に休息させないつもりかよ」

「別に疲れてなんかいないでしょ? 後でゆっくり休ませてあげるから。さ、いこいこ」

「へいへい。じゃあみんな、ギルドへ行こうか」

「おう、もちろんだぜ」

「やった、昇格だ~」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 こうしてギルドへ赴くと、さっそくステラが出迎えてくれた。

 彼女はすました顔で、話しかけてくる。


「お待ちしておりました、”女神の翼”の皆さま。用件は特級冒険者への昇格、でよろしいですね? ギルド長からは、そのようにうかがっております」

「ああ、そのとおり。手続きを頼む」

「かしこまりました。それでは皆さまの冒険者証を、お預けください」

「ほいほい。みんな出して」


 俺たちがガラガラと冒険者証をカウンターに出すと、担当者がそれを持って奥へ消えた。

 たくさんあるので、裏でまとめてやるのだろう。

 その間にステラが、特級冒険者について説明してくれる。


 特級とは1~2等級の冒険者であり、その頂点に立つ存在である。

 その身分は領主に保証される部分もあり、準貴族的な地位となる。

 例えば、国内の移動であれば都市への入場料はいらなくなるし、望めば貴族用の宿や店も使えるそうだ。

 他にも住居を格安で世話してもらえるし、おいしい依頼も優先的に回してもらえたりする。


 その分、義務が発生して、危険な任務も優先的に回ってくる。

 もちろん拒否権がないでもないが、あまり断ってばかりでは、ギルドを除名される恐れもあるとか。

 まあ、冒険者の模範になれって言われるぐらいだから、それも当然だろう。

 そんなことをつらつら説明されてから、ルーアンが訊ねた。


「1等級に上がるには、どうしたらいいんだ?」

「それについては、明確な基準はございません。一般的には英雄と呼ばれるほどの偉業をなせば、昇格できると言われておりますが、そういったことはなかなかございません。事実、この国には1等級冒険者はおられませんね」

「なんだ、そうなのか。王都にいる特級冒険者も、2級止まりってこと?」

「はい、そのとおりです」


 するとメシャが茶化すように言う。


「もう、ルーアンったら、あまり欲をかくもんじゃないいよ~。2等級になれただけでも、奇跡みたいなもんなんだからさ~」

「それはそうだけど、やっぱ気になるじゃん」

「ならないよ~。ね?」


 メシャが年少組に問えば、彼らはそれぞれの答えを返す。


「あい、きょうみないでしゅ」

「え~と、僕は少し、興味あるかな」

「俺もちょっと、興味あるっす」


 ニケだけは興味ないと言うが、バタルとザンテは興味を示す。

 やはり男の子だな。

 一方、大人たちは冷めた見解を示した。


「フハハッ、今回以上の偉業など、そうそうあるまい。変な色気は出さず、着実にやっていけばよいのではないか」

「そうですね。無謀なことをして命を落とすなど、本末転倒です。できることをやっていけばよいのです」

「アハハ、さすが2人は大人だ」

「そうね~。私も大人よ~」


 アルトゥリアスとガルバッドに続き、レーネリーアも興味ないと言う。

 彼女自身は好奇心が旺盛だが、自己顕示欲はあまりないようだ。


 そんなやり取りをしながらギルドを後にしようとすれば、周りの冒険者に絡まれた。

 今度は昇格祝いをやろうとのお誘いだ。

 しかしそれは、祝勝会をやったばかりだからと言って、断った。


 前回も飲食費のほとんどを俺たちが出したのだ。

 お祝いされるのに、金を出せとか、訳わからん。

 さすがにはっきり言うのははばかられるので、また今度とか言いながら、ギルドを出た。


 しかし外に出て、竜車に乗り込もうとしたら、予想外のことが起こった。


――ヒュン!


「えい!」

「いてえっ!」


 どこからか石が飛んできたと思えば、ニケがそれをはね返した

 それに続いて甲高い悲鳴が聞こえてきたので、そちらへ目をやると、数人の子供たちの中で1人が転んでいる。

 どうやら子供の中の誰かが石を投げ、反撃をくらったようだ。


「おいおい、俺たちが”女神の翼”だって分かってて、石を投げたのか?」


 すかさず仲間たちが動き、子供たちを囲みながら、ルーアンが問い質す。

 すると転んでいる子供が、涙を浮かべながら言い返した。


「ウウッ……なんだよ、お前。俺たちと同じだったくせに、なんでそんなとこにいるんだよ?」


 子供がにらみつけるその先には、ニケがいた。

 最初、彼女はなんのことか分からなかったようだが、やがて何かを思い出したように、ポンと手を叩く。


「こいつら、あたしにいじわる、してたやつらでしゅ」

「意地悪って、どんな?」


 俺の問いにニケが答える前に、さっきの子供が叫ぶ。


「お前、生意気だぞ! 俺たちと同じ浮浪児のくせに、食い物もらったりして。それが最近見ないと思ってたら、なんで冒険者のふりなんかしてんだよ?!」


 それを聞いて、ようやく合点がいった。

 彼らはニケが浮浪児だった頃、彼女の邪魔をして、飢え死にさせかけた奴らだ。

 両親を失くして露頭に迷っていた当初、彼女は近所のお手伝いをしたりして、寝場所や食料を得ていた。


 ところが途中から他の浮浪児に邪魔をされ、その道を絶たれたらしい。

 おかげで危うく飢え死にしそうだったニケを、俺が救った形になる。

 そういう意味ではニケにとって、仇ともいえる存在だが、そのことにはあまり怒ってなさそうだ。

 しかし彼女は、テクテクと彼らの前に歩いていくと、静かに言い放った。


「あたしは、ぼうけんしゃでしゅ。にせものよばわりは、ゆるさないでしゅ」

「な、そんなわけないだろう! お前みたいなチビがなれるんなら、俺たちだってやってるさ」


――ヒュン


 次の瞬間には、ニケの剣が少年の首筋に当てられていた。

 そのうえで彼女は、改めて言い放つ。


「あたしは、とっきゅうぼうけんしゃ」

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