87.守護者突破の報告
お待たせしました。
第5章の開幕です。
12層の守護者部屋に挑んだ俺たちは、辛くも守護ミノタウロスを打倒した。
それはまたもやニケが負傷し、ギリギリまで追い込まれての勝利だったが、勝ったことに違いはない。
俺たちは地上へ戻ると、堂々と勝利を宣言した。
「12階層の守護者を、討伐した」
そう言って卓上に守護者の魔石を出すと、当然のように担当者は凍りついた。
しかし彼はうろたえながらも、比較的すばやく立ち直り、事実を確認してくる。
「……は? こ、今度は、守護者、ですか?」
「そうだ。ひと際おおきな、ミノタウロスだったよ」
すると担当者は血相を変えながらも、動きだす。
「しょ、少々お待ちください……おい、所長とギルド長に連絡だ。12層の守護者が討伐された、と」
「ははは、はいぃ!」
その頃には周りで聞きつけた冒険者たちも、騒ぎはじめていた。
ほんの2週間ほど前に階層を更新した俺たちは、すでに注目の的になっているのだ。
「おい、とうとう守護者まで倒したらしいぞ」
「マジかよ……どんだけ強いんだ? あいつら」
「あんなにかわいい子供、連れてんのにな……」
「よせ、自分たちが情けなくなってくる……」
そんな言葉を聞き流していると、やがてドタバタと人が集まってきた。
「タケアキ殿、守護者を突破したというのは、本当か?」
「あ、ギルド長。もちろん本当ですよ。苦労しましたが、なんとかやりとげました」
「おおっ、そうか。そうか。おい、会議室を準備しろ」
「は、はいっ!」
最初に駆けつけたのは、冒険者ギルドの長ガイエンだった。
血相を変えて問い質す彼に、にこやかに応えてやると、即座に事情聴取の準備を始める。
するとちょっと遅れて、魔石の研究者が駆けつけてきた。
「12層の守護者の魔石はどこだ?! どんな魔石だ?!」
「これです、先生!」
「ふおおっ! なんとすばらしい魔石じゃ! すぐに研究室に持って帰って――」
「いや、すぐには無理ですって」
またぞろ魔石について、騒ぎはじめた。
同時に冒険者も続々と集まってくる中、ギルド長から誘いがある。
「まったく、騒がしいな。とりあえず会議室へ移動しよう。そこで話を聞かせてくれるか?」
「ええ、もちろん」
俺たちは野次馬の視線を尻目に、そそくさと管理棟の中の会議室へと移動する。
そこに主要な関係者が集まると、またガイエンが口を開いた。
「それでは12層の守護者について、教えてもらえるかな?」
「はい。俺たちが12層の守護者部屋で遭遇したのは、巨大なミノタウロスでした。それは1体だけでしたが、その体格は通常の2倍以上もある、強力な個体でした」
「むう……珍しいパターンじゃな。それで、その強さはどんなものじゃ?」
そう訊かれると、俺は思わず苦笑してしまった。
「どうもこうも、でたらめな強さでしたよ。体はでかいくせに、すばやさは変わらないし、皮がメチャクチャ硬いんです。普通のミノタウロスに通じた攻撃を、簡単に跳ね返された時は、絶望しましたね」
「……しかしこうしてここにいるということは、なんとかなったんじゃろう?」
「ええ、即興で新たな魔法を作り出して、なんとかダメージを与えました。その後は仲間たちが、とどめを刺してくれましたよ」
すると即座にルーアンが口を挟んだ。
「たしかに俺たちも加勢はしたが、敵の足を止めたのも、致命傷を与えたのも、タケアキだ。あれは並みの冒険者に、どうこうできる相手じゃねえ」
「ほほう、さすがはリーダーといったところか?」
「いや、仲間の助けがあってのものですよ」
「フフン、タケしゃま、すごいでしゅ」
俺が照れ隠しに謙遜すれば、ニケはドヤ顔で自慢をする。
その尻尾はフリフリしていて、かなり上機嫌そうだ。
そんな彼女を微笑ましそうに眺めながら、ガイエンは先を促す。
「ホッホッホ、そうかそうか。とにかくタケアキ殿を中心にして、見事、守護者を討ち取ったと、そういうことじゃな……ところで討伐後に何か、変わったことはなかったかな?」
「……そう聞くってことは、過去に何かあったんですね?」
俺が逆に訊き返せば、ガイエンはうなずきを返す。
「うむ、この迷宮では守護者を最初に倒した時のみ、なんらかの武器が残されてきた。今回もやはり、出たのか?」
念のため仲間に確認を取ると、皆がうなずいてくれたため、俺はナタ剣を取り出して、机の上に置く。
「守護ミノタウロスの遺骸が消え去った跡に、これが残りました。詳細は不明ですが、おそらくアダマンタイトの剣だと考えています」
「な、なんと! アダマンタイトだとぅ!」
管理棟の職員らしき男が、大声を上げた。
そいつはギルド長を押しのけるようにして、ナタ剣に手を伸ばす。
「おっと、勝手にさわられては、困りますね」
「こら、素直に見せんか! 迷宮から出たものは、国家の管理下にあるのだぞ!」
「へ~、本当ですか?」
妙に強気な言い分について確認すれば、ギルド長は苦笑しながら首を横に振った。
「魔石については強制的に買い取ることになっているが、その他の産出品については、そんな規定は無い。あまり勝手なことは、言わないことじゃな」
「グッ、しかし……」
「しかしもくそもない。国に務める者が、率先して法を破ってどうする!……とはいえ、モノを確認するぐらいは、させてくれんか?」
官僚を叱りつつも、ギルド長はナタ剣の確認を要請してきた。
俺もそれを断るつもりはなかったので、快くそれに応じる。
「ええ、いいですよ。さっきはなんだか取られそうな勢いだったんで、引き戻しただけです」
「うむ、感謝する」
俺が再びナタ剣をテーブルの上に置くと、皆の視線が集中する。
やがてギルド長は静かにそれを持ち上げると、しげしげとそれを観察した。
「ふ~む……すばらしい輝きじゃ。この青みの掛かった白銀色は、たしかにアダマンタイトの可能性があるのう」
「ぎ、ギルド長! 私にも見せてください!」
「わ、私にも!」
その後はほとんどの者が、ナタ剣を見ようと群がった。
何しろアダマンタイトの剣といえば、伝説級のシロモノらしく、ほとんどの人間は見たことがないはずだ。
まだわいわいと見物人が騒ぐ中、ギルド長は感慨深げに息を吐いた。
「ふ~~~~っ……儂の在任期間中に、このような逸品が出るとはな。良いものを見せてもらった。これは売りに出すのか?」
「いえ、まだ決めてませんが、自分たちで使いたいと思ってます」
「うむ、その方がより探索も進むじゃろうからな。しかしその分、身の周りには注意を払えよ」
「それはもちろん……しかしその様子では、過去に騒動が起きたようですね?」
「ああ、10年前にはミスリルの槍が出てな。一応、箝口令は敷いたが、なかなか隠し通せるものでもない。その槍を巡った争いが絶えず、彼らはこの街を去ってしまった。おかげで階層の更新も進まず、10年も経ったというわけじゃ」
ギルド長はそう言いながら、残念そうに首を振る。
「なるほど。守護者を最初に倒した時だけ、武器が残るっていう認識でいいんですよね?」
「うむ、最初の1回こっきりじゃ」
「こういうのは、他の迷宮でも出るんですか?」
「いや、そうでもない。どちらかというと、珍しいのではないかな。こういうものが出る迷宮は、攻略の難易度も高いというのが定説じゃ」
「そうなんですか……まあ、俺たちも死ぬかと思いましたけどね」
「フハハッ、さもあらん。何はともあれ、無事に戻ってくれて、感謝するぞ。さっそく特級冒険者への昇格申請を出そう」
それを聞くと、仲間たちも色めき立つ。
「ありがとうございます。昇格が決まるまで、どれくらい掛かるんですかね?」
「それは領主様しだいじゃが、10年ぶりの守護者突破じゃ。すぐに対応してくれるじゃろう。吉報を待っておれ」
「はい、よろしくお願いします」
その後、いくつかやり取りをして、俺たちは会議室を後にした。
外に出ると、騒ぎを聞きつけて集まった冒険者たちから、祝福を受けた。
そのまま宴会に連れて行かれそうになるが、疲れているからと断った。
その代わりに後日、祝勝会を開くことを約束させられ、俺たちは自宅へ戻ったのだった。
実は3週たっても、あまり書き溜めができてなかったりして。
そのうち投稿ペースを落とすかもしれません。
うぐぐ、筆が進まないでござる。
そんな作者に応援をいただければ嬉しいです。




