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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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86.逆転勝利

氷結拘束タルジュ・エンタズ


 12層の守護者部屋で窮地に陥った俺は、即興で作った精霊術をぶちかました。

 それは土魔法の”大地拘束”の水魔法版であり、今までにも考えてはいたものだ。

 しかし通常のミノタウロスであれば使う必要もなかったので、開発は先延ばしになっていた。


 それが今回、守護ミノタウロスのあまりの剛力ぶりに、ぶっつけ本番で使うしかなくなった。

 その辺は反省が必要だが、今はやるしかない。

 俺はまず水魔法の材料となる水球に魔力を籠めると、それを敵の足元に放った。

 水球が地面に当たり、弾けると同時に、水精霊テティスがその膨大な力を解放する。


――キインッ!


 その様はまさに、劇的だった。

 守護ミノタウロスの足元が、半径1メートル、厚さ50センチほどの範囲で、瞬間的に凍りついたのだ。

 それは”大地拘束”や”茨棘締結”では、まったく押さえられなかった強敵の足を、いとも簡単に縫いつける。


「グアッ! グオ~~ッ!」


 守護ミノタウロスは必死にもがき、足を引き抜こうとするが、テティスの氷はびくともしない。

 それを見てとった前衛陣は、即座に総攻撃を開始した。


「やったぜ、タケアキ。みんな、全力で攻撃だ。『鋭刃金剛カウィ・サイフ』」

「うす。『剛力無双クアト・カヴィア』」

「僕も。『剛力無双クアト・カヴィア』」

「さすがはタケアキじゃ。『剛力無双クアト・カヴィア』」

「やったね、タケアキ。『鋭刃金剛カウィ・サイフ』」


 彼らは強化魔法を駆使して、果敢に守護ミノタウロスに攻撃を仕掛ける。

 それまでは敵の反撃を警戒して腰がひけていたのが、より大胆に動けるようになっていた。

 おかげで多少は守護ミノタウロスの体にも、傷がつけられるようになる。

 そんな状況を横目に、俺はニケの下へ駆けつけた。

 先に駆けつけていたレーネリーアが、彼女を抱き起こしている。


「大丈夫か? ニケ」

「……タケ、しゃま? ごめんな、しゃい。しっぱい、しちゃったでしゅ」


 ニケは傷を負った腹部から血を流しながらも、弱々しく笑ってみせた。


「そんなことない。お前のおかげで、敵を足止めできるようになった」

「……さすがは、タケしゃま、でしゅ。しゅごしゃ、たおして、くだしゃい」

「ああ、お前はここで待っていろ。レーネリーア、手当ては頼むぞ」

「ええ、任せて~」


 俺はニケをレーネリーアに任せると、再び守護者との戦いへ戻った。

 短時間だったが、前衛陣の奮闘で、守護ミノタウロスに弱体化が見られる。

 そんな敵に、俺はさらなる追い討ちを掛けることにした。

 再び手のひらに作った水球に魔力を籠め、それを敵の足元に投げつける。

 そして俺はテティスに術のイメージを送りながら、新たな古代語を唱えた。


氷槍屹立タルジュ・アガマト


 俺の意を汲んだテティスが、優美な動作で手を振り上げると、守護ミノタウロスの足元から氷槍が立ち上がった。

 それは敵の股間を直撃し、明確なダメージを与える。


「グバアッ!!」


 股間を下から貫かれた守護ミノタウロスが、血を吐いた。

 しかしそれでもなお敵は、謎の強靭さを発揮して、動き回る。

 とはいえ、その動きは明らかに鈍くなっていた。


 その機を逃さず、前衛陣が総攻撃を掛けると、みるみるうちに敵は弱っていく。

 先程までのような鋼鉄の防御力もすでになく、みんなの攻撃が通るようになっていた。

 そして最後にバタルに喉をかき切られると、守護ミノタウロスは大斧を取り落とし、上体を倒して動かなくなる。

 仲間たちの荒い息使いだけが聞こえる中で、バタルが口を開いた。


「ハアッ、ハアッ……やったっすか?」

「フウッ、フウッ……ああ、どうやら、仕留めた、みたいだぞ」

「……勝った、んですか?」


 バタル、ルーアン、ザンテの半信半疑な声に、メシャが答える。


「そうだよっ! 私たち、勝ったんだ。12層の突破だよ~!」

「うむ、どうやら、そのよう、じゃの……フウッ、それにしても、しんどかったわい」


 ガルバッドもそれを認めると、ルーアンたちも歓声を上げる。


「うお~、やった、やったんだ!」

「うす、俺たち、やったっす!」

「すごいすごいっ! 僕たちが勝ったんだ!」


 そんな彼らを見ながら俺は、フラフラで倒れそうだった。

 そんな俺を見かねたアルトゥリアスが、横から肩を貸してくれる。


「大丈夫ですか? タケアキ」

「……あ、ああ、大丈夫。魔力切れのせいか、頭がクラクラするけど」

「あれだけの術を使ったのですから、それも当然でしょう。おかげで守護者を倒すことが、できましたけどね」

「うん、なんとか倒したね。氷槍が弾かれた時は、どうなるかと思ったけど」

「まったくですね。タケアキがいなかったら、今ごろ我々は全滅ですよ」

「いやいや、アルトゥリアスが”精霊暴走”を、止めてくれたからさ」

「フフッ、その点だけは、お役に立てましたかね」


 そんな話をしていると、ルーアンに呼ばれる。


「お~い、タケアキ。この氷を溶かしてくれねえか? 魔石が取れねえんだ」

「ああ、そうだな。テティス、頼む」

「♪」


 テティスが軽く手を振ると、氷の足枷と槍は、きれいに消え去った。

 そこにはわずかばかりの水が残るのみである。

 それと同時に、氷で支えられていた守護ミノタウロスの体が、ズシンと音を立てて倒れた。


「……おう、さすがだな。よし、みんな、仰向けにひっくり返すぞ」

「うす」

「はい、ルーアン兄さん」


 うつ伏せに倒れた守護ミノタウロスの体を、みんなでひっくり返しはじめた。

 その巨体ゆえに苦労はしていたが、強化魔法まで使って、なんとか成功する。

 そうして角と魔石を取るのを横目に、俺は再びニケの様子を見にいった。


「ニケの状態はどう?」

「ポーションで治療したから、もう大丈夫よ~。守護者を倒したのを見てから、眠りに就いたわ~」


 レーネリーアの言うとおり、ニケは出血も止まり、スヤスヤと寝息を立てていた。

 その顔は穏やかでありながらも、どこか誇らしそうだ。


「そっか。ありがとう」

「ウフフ、こちらこそ。あんなおっきなミノタウロスを、倒してくれたんだもの~」

「まあ、みんなで力を合わせた結果だけどね」

「タケアキがいなければ、絶対に無理だったわ~……私ももっと、精霊術を研究しないとね~」


 そう言いながらレーネリーアは、少し悔しそうな顔をする。

 俺より遥かに先輩の精霊術師であるにもかかわらず、大して役に立てなかったのが、悔しいのだろう。

 そんな彼女を励まそうと、共同の研究を申しこんで見る。


「そうだね。これからもっと強い魔物に対抗するためにも、協力して術を開発しないか?」


 するとそれを聞きつけたアルトゥリアスが、話に割りこんだ。


「それはいいですね。レーネリーア、私も術を強化したいので、一緒にやりましょう」

「ええ、分かったわ~。これからもよろしくね~、2人とも」


 そんなことをしているうちに、ルーアンたちが魔石と角を回収していた。

 するとふいに、守護者の下の地面が流動化し、その遺骸を飲みこんでいく。

 しかし今回は不思議なことに、何かがその跡に残されていた。


「おい、タケアキ。なんか武器が残ったぞ!」

「珍しいこともあるもんだな……ひょっとして、初めてこの守護者を倒した、ご褒美とかだったりして」

「あ~、それはありそうだな」


 そう言いながら近寄ると、そこには銀色に輝く剣があった。

 ただしその剣は肉厚で角ばっており、どちらかというとナタのような形状だ。

 まだ誰も触っておらず、ガルバッドが顔を近づけて、じっくりと観察している。


「ガルバッド、どんな感じの武器?」

「…………う~む、はっきりとは分からんが、この青みを帯びた白銀の輝きは、アダマンタイトじゃないかのう。以前、一度だけ見たことがあるんじゃ」

「へ~、アダマンタイトって、凄いの?」


 そんな俺の言葉に、ルーアンがつっこんできた。


「おいおい、タケアキ。アダマンタイトっていえば、伝説の金属だぜ。たしか太古の技術で作られてて、とんでもねえ性能だって話だ」

「うむ、そうじゃ。アダマンタイトは、ミスリルよりも硬く、強靭で、魔力の伝導性に優れると言われておる。今の技術では作れんから、現存するのは太古の遺産のみのはずじゃ」

「ふうん……こいつはますます、守護者を初めて倒した、ご褒美かもしれないな」

「うむ、その可能性は高いのう。ちょっと触ってみるぞ」


 ガルバッドが慎重にその剣を持ち上げると、特に問題もなく持てた。

 彼が軽く振ると、ヒュンヒュンと音がする。


「こいつは見た目以上に軽いし、切れ味も凄そうじゃ」

「へ~、そいつは楽しみだな。誰が使うことになるか、みんなで相談しようぜ」

「ああ、細かいことは上に戻ってから、考えよう……あ、その前にひとつ」

「なんだよ?」


 みんなの視線が俺に集まる。


「みんな本当にありがとう。ここまで来れたのは、みんなのおかげだよ」

「何いってんだよ。最高の殊勲者はおめえじゃねえか、タケアキ」

「いや、そうかもしれないけど、やっぱりみんなで力を合わせた結果だよ。このパーティーで探索できたことを、とても誇らしく思う」


 するとレーネリーアが、ちょっと強がるように応じてきた。


「残念ながら私はほとんど活躍できなかったけどね~。だけどいずれ挽回するわ~」

「おお、その意気だ。俺たちももっと、がんばるぜ」

「うす、タケアキさんなしでも倒せるように、なるっす」

「僕も~」


 そう言うみんなの顔は、とても輝いていた。

 何はともあれ、12層の守護者を倒したのだ。

 それはこの迷宮で初のことであると同時に、俺がこの世界で手に入れた、たしかな何かだった。

以上で第4章は終了です。

引き続き、第5章も投稿しますが、書き溜めに少しお時間をいただきます。

1~2週間ほどで、再開予定ですので、よろしくお願いします。

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