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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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85.守護者との死闘

 12層の守護者は、ひと際大きなミノタウロスだった。

 それは1体しかいないものの、通常の個体とは段違いの迫力を放っていた。


大地拘束トゥルバ・エンタズ

「『茨棘締結ワキザ・ラッド』……あん、もう。全然とまらない~」


 俺とレーネリーアが足止めを試みるも、奴は見た目どおりの怪力で、やすやすと引きちぎってしまう。

 そんな状況でも、前衛陣は果敢に敵に突撃していた。


『『『疾風迅雷ハラカ・タザリ』』』


 まずニケ、バタル、ザンテの年少組が、加速魔法で飛び出し、すれ違いざまに敵の脚に斬りつけた。

 しかし守護ミノタウロスの肌は、まるで本物の鋼鉄であるかのように、金属質の音を立ててはね返す。

 その跡には、毛筋ほどの傷もついていなかった。


「硬すぎるっす」

「ふつうのやりかたじゃ、だめでしゅ」

「でもあんなの、どうすれば……」


 弱音を吐く少年たちに、ルーアンが檄を飛ばす。


「馬鹿野郎っ、そんなこと言ってる間に、少しでも動きやがれ」

「そうだよ、命が掛かってるんだからね~」


 そう言ってルーアンとメシャも加速魔法で飛び出し、槍を突き出すも、やはり刃が立たない。

 ここで少し遅れて、ガルバッドとゼロスが、ミノタウロスに攻めかかった。


「『剛力無双クアト・カヴィア』……どっせい!」

「クエ~ッ!」


 ガルバッドが腕力を強化して戦斧を振るえば、ゼロスは鉄の角剣を掲げて突進する。

 どちらも俊敏性には欠けるが、力の籠もった攻撃はそれなりに効果があったようだ。

 2人の攻撃を受けた守護ミノタウロスが、初めて動揺を見せたのだ。


「グオ~~ッ!」


 しかしそれは敵を怒らせることに他ならず、守護ミノタウロスは巨大な斧を振り上げた。

 そのままではどちらかが致命的な傷を負っていたかもしれないが、そこへ割り込む存在があった。


「やらせないでしゅ!」

「ウガッ」

「ありがとよ、嬢ちゃん」

「クエ~」


 誰よりも早くゼロスの危機を感じ取ったニケが、宙に舞い、敵の顔面に斬りつけた。

 さすがにダメージを与えるほどでないが、それをうるさがって動作を止めた隙に、ガルバッドとゼロスが退避できた。

 するとそれを見ていたルーアンが、ガルバッドたちと連携した攻撃を指示する。


「よし、いいぞ。俺たちも、ガルバッドとゼロスを支援するぞ」

「「はい」」


 それは年少組やルーアン、メシャがすばやさでかき回しているうちに、ガルバッドとゼロスが攻撃する作戦だ。

 事前に似たようなことは相談していたので、それなりに動きはまとまっている。

 やがて敵がれてきたのか、動きが雑になってきたのを見て、俺とアルトゥリアスが複合魔法を繰り出す。


「やるよ、アルトゥリアス。『氷槍生成タルジュ・サナ』」

「はい、タケアキ。『流風投射マジュラ・ラマー』」


 満を持して放たれた氷槍が、目にも留まらぬ速度で宙を駆け抜ける。

 それは狙いあやまたず、ミノタウロスのどてっぱらに命中した。


――カアンッ!


 しかし無情にもその攻撃は、敵の表面で弾かれてしまった。

 魔力をまとった氷槍すら弾くとは、想像以上の硬さだ。


「ウソだろっ! おい」

「信じられないっす」

「頼みの綱が、跳ね返されちゃった……」


 ルーアン、バタル、ザンテが、信じられないといった顔で嘆く。

 しかし今はそんなことを言っている場合でなく、この事態をなんとかしなければならなかった。

 なんとか仲間を奮い立たせようと頭を回転させていると、思わぬところから声が掛かった。


「みんな、てきのきをひくでしゅ。そしたら、タケしゃまが、なんとかしてくれるから」


 ニケが剣を掲げながら、高々と宣言した。

 それは俺のことを信頼してきっている、彼女ならではの言葉だろう。

 しかし目の前で頼みの綱が弾かれた後では、仲間たちも単純にはうなずけない。


「……そんなこと言ったって、今はじかれたばかりじゃないですか」

「いや、どの道、逃げ場所はねえんだ。だったら前のめりで、挑むしかねえ」

「うむ、時間を稼げば、タケアキとアルトゥリアスが、なんとかしてくれるかもしれん」

「……分かったっす。ザンテ、やるぞ」

「はいっ、バタル兄さん。タケアキさんも、お願いします」

「お、おう」


 前衛陣は俺とアルトゥリアスの方を見ると、再び守護者への攻撃を開始した。

 それは傍目にも、絶望的な戦いだった。

 しかし彼らは、俺とアルトゥリアスに後を託し、果敢な攻撃を続けている。

 俺とアルトゥリアスも、彼らを援護するため、2回ほど氷槍を放ったが、やはり大したダメージを与えられなかった。


「くそっ、駄目か……アルトゥリアス。何か敵にダメージを与える方法は、ないかな?」


 なんとか守護者にダメージを与える方法がないかと、アルトゥリアスに問うが、彼は悔しそうに首を横に振った。


「……難しいですね。私の魔力も、もう余裕はありませんし……」

「そんなこと言わずに、何か考えなさいよ~。あ~ん、私も何か手伝えればいいのに~」


 レーネリーアがアルトゥリアスを叱咤しながら、自分も何かできないかと嘆く。

 その思いは嬉しいが、残念ながら植物魔法に有効な術はなさそうだ。

 そうして俺たちが方策を打ち出せないでいるうちも、ニケたち前衛陣は奮闘していた。

 しかし守護ミノタウロスも大暴れしているので、次第に形成が悪くなっていく。

 そしてとうとう、恐れていたことが起こった。


「ウガアッ!」

「ああっ」

「ニケっ!」

「ニケちゃん!」


 守護ミノタウロスの斧がわずかにかすり、ニケの体が吹き飛ばされる。

 その瞬間、俺の中で暴力的な衝動が、湧きおこった。


『ラウフ――』

「駄目です、タケアキ!」


 俺が怒りに任せて”精霊暴走”を起こそうとした矢先、アルトゥリアスが俺の肩をつかんで止めた。

 怒りで頭に血がのぼっていた俺は、アルトゥリアスをにらみつける。


「なんで止める?!」

「いまここで”精霊暴走”を起こしても、敵を倒せる保証がありません。それどころか我々は、切り札を失って全滅するかもしれないのですよ!」

「う……それはそうかもしれないけど……」

「考えるんです、タケアキ。あなたとテティスだけが、我らの希望なのですよ」

「そんなこと言ったって……」


 アルトゥリアスの説教で、急激に頭が冷えた。

 たしかに”精霊暴走”は強力だが、制御はできないし、俺は意識を失う可能性が高い。

 もしそんな術で守護者を仕留め損なえば、後は全滅必至である。


 ニケの方は、レーネリーアが即座に駆けつけて、介抱してくれている。

 幸いにも致命傷は避けられたようで、命の危険はないそうだ。

 ならば今、俺がやるべきは、敵を倒して生き残ることだ。


 そのために俺は、考えねばならない。

 俺の最大の強みは、上位の水精霊テティスと契約していることだ。

 さらに言えば、中位の土精霊ガイアと契約しているのも強みだろう。


 それらを組み合わせて、何かできないだろうか?

 いや、今は複雑なことをやってる暇はないだろう。

 ならばテティスの水魔法でしのぐしかないが、”氷槍乱舞”は威力不足だし、氷槍を飛ばす役のアルトゥリアスは、すでに魔力切れ寸前だ。


 何かテティスだけでやれることは、他にないか?

 俺は手に持っていた革袋から、手のひらに水を垂らしながら考える。

 その水を見ながら、何かできないかと、必死に頭を巡らせた。


 そこでふと前に目をやると、仲間たちが守護者と必死で戦っていた。

 ニケを欠いた彼らは、それでも必死に動き回り、守護ミノタウロスの注意を引いている。

 しかし鈍足ながらも自由に走り回る巨大な敵に、彼らは翻弄ほんろうされていた。


 なんとか奴の足を止められないだろうか?

 ふとそう思った瞬間、連鎖的に打開策をひらめいた。

 本当にできるかどうかは分からないが、今はこれに掛けるしかない。


「タケアキ、何をしているのですか?」


 俺が手のひらの水を凝視しているのを見て、アルトゥリアスが訊ねる。

 しかし俺はそれを無視して、魔力を注いだ水の玉を作り上げた。

 そしてそれを守護者の足元に放りながら、古代語を唱えた。


氷結拘束タルジュ・エンタズ

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