83.12層の奥へ
俺たちは12層で、3体もの牛頭戦鬼と戦い、勝利した。
ただしゼロスが若干のダメージを受けたので、大事を取って引き返した。
地上へ戻ると、魔石を売ってから、冒険者ギルドを訪れる。
ミノタウロスの討伐を報告した際、こまめに報告を入れるよう、頼まれていたからだ。
「え~っ、3体ものミノタウロスと戦ったの?!」
「声がでかいって」
「あ、ごめんなさい……だけど今までは、ミノタウロスは1体までしか出てこなかったんでしょ? それがいきなり3体だなんて……ニケちゃんが心配だわ」
「心配するとこ、そこかよ? ニケはこれでも、立派な戦士なんだぞ」
「そうでしゅ。しつれいなこと、いうなでしゅ」
「うう、またニケちゃんに怒られた……」
すっかり俺たちの担当になったステラが、ニケに怒られて悲しそうな顔をしている。
しかしすぐに立ち直って、話を続けた。
「それで、他に何か変わったことはあった?」
「いや、ちょくちょく薬草や鉱石が見つかる程度で、大きな変化はないな。せいぜい、俺たちの強化度が上がったぐらいか」
「そうなのよね~。強化度8なんて、初めて見たわ~」
ミノタウロスを10体ほど倒したことにより、とうとう俺たちの強化度が8に上がっていた。
新人も7に上がっており、ミノタウロスを倒して得られる生命力が、いかに大きいかが分かる。
そんな話を済ませると、俺たちは拠点へ帰宅した。
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ゼロスのケガがあったので、1日だけ休息を取ってから、再び12層へ潜った。
前半部分は地図ができているので、すいすいと奥へ進む。
やがてまたミノタウロスが3体いる部屋へ、たどり着いた。
「それじゃあ、今度はニケとゼロスが足止めな。前衛は手が減るけど、打ち合わせどおりにやりくりしてみて。俺たちもバックアップするから」
「おう、2度めだし、なんとかなるだろう。な?」
「間合いを工夫して、封じ込めるっす」
「僕もがんばります!」
前衛がルーアン、メシャ、ガルバッド、ニケ、バタル、ザンテの6人から、ニケが抜けて5人になる。
その分、残った者の負担は増えるため、休養の間にその辺の対策は話し合っていた。
結果、互いの位置関係を工夫して、補おうという話になった。
やってみないと分からない部分もあるが、それほど致命的なことにはならないと判断している。
さらにアルトゥリアスも、それに協力する。
「おそらくニケさんが入れば、斧の個体は安心して任せられるでしょう。その分、私が剣と槍の個体を牽制しますよ」
「ああ、そうだな。よろしく頼むぜ、アルトゥリアス」
アルトゥリアスは戦闘中、弓矢を構えて全体の状況を注視している。
そして危なくなったところに、魔力付きの矢を撃ち込み、牽制しているのだ。
今回はニケがゼロスと協力して斧の個体を押さえ込むので、そちらは以前より安定するだろう。
その余裕を、アルトゥリアスが剣と槍の個体に振り分ける算段だ。
ただし、あくまで予想にすぎないので、あまり過信せず、臨機応変にやる予定ではある。
「よし、みんな準備はいいか?」
「あい、ばんたんでしゅ」
「クエ~」
ニケは荷物を取り払ったゼロスの背に騎乗し、突っこむ気満々だ。
ちなみにゼロスの背に積んでいた荷物は、戦闘前にすばやく外せるような仕組みを取り入れている。
その辺はいつものように、ガルバッドがうまくやってくれた。
優秀な職人が仲間にいると、金銭的にも時間的にも、とても助かることを、改めて実感する話だ。
「よし、戦闘開始!」
「「「おうっ」」」
「いくでしゅ、ゼロス!」
「クエ~」
俺の合図で前衛陣が走りだせば、ニケを乗せたゼロスも突進する。
普段から姉弟のように仲のよい彼らなら、しっかり務めを果たしてくれると信じたい。
そして俺たち後衛も、自身の仕事に取り掛かる。
『大地拘束』
『茨棘締結』
「グオッ」
今回もまず剣の個体を足止めした。
予想外の攻撃にミノタウロスは怒り狂うが、俺たちが工夫した拘束技は、そう簡単には破れない。
足元に気を取られているうちに、バタルとザンテが襲いかかった。
「とうっ!」
「やあっ!」
「うりゃっ!」
「えいっ!」
「どっせい!」
加速魔法で飛ぶように斬りかかった年少組に遅れ、ルーアンとメシャも槍で突きかかる。
さらにちょっと遅れてガルバッドが斧を叩きつけると、ミノタウロスの強靭な足腰も若干の動揺を見せた。
どうやらニケが抜けた影響は、それほど大きくないようだ。
それを横目で確認しつつ、今度は槍の個体に精霊術を仕掛ける。
『大地拘束』
『茨棘締結』
「グウッ」
こちらも足止めに成功したところで、アルトゥリアスが矢を放った。
『減圧回廊』
「グアアッ」
鏃に魔力を籠められたエルフ謹製の矢が、ミノタウロスの魔力防御を貫いた。
敵の胸に突き刺さった矢は、多少のダメージを与えたようだ。
そんな援護も受けつつ、俺とレーネリーアが交互に拘束魔法を槍の個体に掛け、足止めしていた。
その一方で、ニケとゼロスも健闘している。
『疾風迅雷』
「クエ~」
ニケが魔法で加速して飛び出せば、ゼロスは少し遅れて敵に突っこんでいく。
そしてニケが上半身に攻撃してから飛びのけば、ゼロスが下半身を攻撃するといった具合に、連携が取れていた。
さすがは義姉弟というだけあって、息が合っている。
どうやらこちらは安心して任せておけそうだ。
こうして2体のミノタウロスを足止めしているうちに、とうとう剣の個体の動きに、陰りが見えはじめた。
「アルトゥリアス、剣持ちを仕留めるよ。『氷槍生成』」
「了解です。『流風投射』」
俺が氷槍を作り出した数瞬後、目にも留まらぬスピードで、それが発射された。
それは前衛陣に気を取られていたミノタウロスのどてっぱらに、深々と突き刺さる。
「グアッ、グオオオ……」
剣の個体が苦しそうに動きを止めたところへ、年少組が追い討ちを掛ける。
『剛力無双』
『鋭刃金剛』
腕力を増したバタルが敵の腹を切り裂けば、鋭さを増したザンテが、その喉をかき切る。
さしものミノタウロスも、その攻撃には耐えられず、地響きを立てて崩れ落ちた。
「フウッ、まずは1体っす」
「おう、よくやった。次は槍のやつだぞ」
「はいっ」
前衛は休む暇もなく、槍の個体に取り掛かった。
今はレーネリーアが1人で足止めしてる状態で、あまり余裕がないからだ。
しかし前衛が攻撃に入って、ようやくひと息ついていた。
「レーネリーア、お疲れ」
「ほんとですよ~。人使いが荒いのではないですか~」
「そんなことないって。みんな一生懸命やってるだろ?」
「そうですけど~」
そんな彼女の愚痴を聞き流しながら、ニケたちを見ると、相変わらず元気にやっていた。
ニケがピョンコピョンコと跳ね回れば、ゼロスはドスドスと駆け回る。
一見、勝手に動いているようで、彼女たちは互いに助け合っていた。
やがて槍の個体も倒されると、斧の個体に総攻撃が掛けられる。
みんなそれなりに疲れていたが、最後の力を振り絞って、敵に立ち向かった。
やがて最後のミノタウロスも、動きが鈍ってきた。
「これで最後だ。『氷槍生成』」
「はい。『流風投射』」
俺とアルトゥリアスの魔力を振り絞った氷槍が、斧の個体に突き刺さる。
するとそれは当たりどころが良かったのか、一撃で敵を絶命させてしまった。
最後のミノタウロスが、地響きを立てて地面に倒れる。
「「「やった~!」」」
今回はノーダメージで敵を倒せたこともあり、皆が歓声を上げていた。
それなりに苦労も多いが、自身の成長を感じられるのはいいものだ。
願わくば、この調子で12層を突破したいものだが。




