82.ゼロスの戦力化
12層で3体もの牛頭戦鬼に遭遇した俺たちは、ゼロスの戦力化に動いた。
ガルバッドがゼロス用の防具を製作し、さらにミノタウロス戦の立ち回りを訓練すると、だいぶ頼もしくなる。
ある程度、目処がついた俺たちは、再び12層へ潜った。
その途中で、まずはオークとオーガとの戦闘になったのだが、さっそくゼロスは役に立ってくれた。
「よし、ご苦労だったな、ゼロス」
「クエ~」
「後は任せとけ」
ゼロスが足止めしていたオーガを引き取ると、仲間たちがさっさとトドメを刺し、わりと早期に戦闘が終結する。
さすがに単体でオーガを倒すには至らないが、ゼロスが1体を足止めしてくれるだけで、その分戦力が集中できて、効率が良かった。
おかげで敵の殲滅速度が向上し、みんなの負担が減ったのは、予想以上だった。
「フウッ、ゼロスの戦力化は、大正解だったな。仕事が楽だぜ」
「ああ、ほんとだな。こんなことなら、もっと早くやってればよかったよ」
「フフフ、それは言っても仕方ないですよ」
「まあ、そうだけどね」
「ゼロス、いいこでしゅ」
「クエ~」
当のゼロスもニケに頭を撫でられて、ご満悦である。
その後も快調に敵を倒し続け、その日のうちに12層へ侵入できた。
さらにある程度すすんでから夜営をし、翌日に備える。
比較的らくに探索できたので、その日はゆっくり眠ることができた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして翌日はいよいよ、3体のミノタウロスと戦うべく動きだす。
以前、3体のミノタウロスに遭遇した場所へ行ってみると、やはり奴らはいた。
「よし、1体はゼロスに足止めしてもらうから、俺たちは残りを倒すぞ。他の攻撃が、ゼロスに行かないよう、注意な」
「おう、いよいよだな」
「がんばるっす」
「僕もがんばります!」
みんなやる気満々で、頼もしい限りである。
「それじゃあ、戦闘開始!」
「「「おうっ」」」
「クエ~」
開始の合図と共に、仲間たちが部屋になだれ込んだ。
ゼロスも斧を持つミノタウロスに、一直線に向かっていく。
そして俺とレーネリーアは、剣と槍を持つ個体に、足止めを掛けた。
『大地拘束』
『茨棘締結』
「グアッ」
土と茨の2段仕立ての拘束に、まず剣を持ったミノタウロスが足を取られる。
最初は簡単に破られた技だが、最近はミノタウロス用に工夫をして、それなりに効果を発揮している。
すかさずその個体に、前衛陣が斬りかかった。
「グアッ……グオオオオッ!」
主に足を狙った仲間の攻撃は、多少は通っているものの、逆に敵を怒らせた。
しかし仲間たちはすかさず距離を取り、ちょこまかとヒット・アンド・アウェイを繰り返す。
その間に俺とレーネリーアは、槍を持つ個体の足止めをしていた。
ゼロスの方もしっかりと斧の個体を引きつけており、これで3体の連携を封じたことになる。
おかげで前衛陣は剣の個体に集中することができ、俺とレーネリーアは槍個体の足止めに集中した。
さらにアルトゥリアスが弓と風魔法を使い、前衛やゼロスが危なくなると介入する。
そうやって粘っていると、ようやく剣の個体の動きが鈍ってきた。
「アルトゥリアス、やるよ。『氷槍生成』」
「了解です。『流風投射』」
その隙を逃さず、俺たちは特大の氷槍を、剣のミノタウロスに撃ちはなった。
それは見事に目標の胸部を貫いて、敵に血を吐かせる。
やがてそいつは地面に倒れ伏し、動かなくなった。
「さすがだぜ、タケアキ。よし、次は槍のやつだ」
「うす」
「はいっ」
前衛が今度は槍の個体を攻撃しはじめたが、その時ゼロスにも危機が迫っていた。
「グエ~ッ」
「ゼロスっ! 『疾風迅雷』」
なんとか敵の動きを封じていたゼロスだが、とうとう胴体に攻撃をくらってしまった。
鎖帷子で致命傷は防いでいるものの、彼が苦しそうな悲鳴を漏らす。
それを聞いたニケが、強化魔法を使って駆けつけた。
そしてミノタウロスの足に斬りつけると、敵がわずかにひるみ、ゼロスへの攻撃がゆるむ。
「よし! ニケはそのまま、ゼロスを援護しててくれ」
「あい、タケしゃま」
ニケはそのまま斧の個体に張りついて、ヒット・アンド・アウェイを繰り返した。
それまで単独で相手をしていたゼロスも、がぜん元気になり、角先の武器を振り回している。
さすがに魔力をまとっていないので、大きく傷つけるほどでもないが、敵はやりにくそうにしていた。
その間に俺たちは、槍のミノタウロスに集中する。
俺とレーネリーアで足止めした敵に、ニケ以外の前衛が総攻撃を掛ける。
すると集中的に足を傷つけられたミノタウロスの動きが、徐々に鈍ってきた。
「またいくよ。『氷槍生成』」
「了解。『流風投射』」
そこへ再びの氷槍攻撃で、槍の個体も腹部に致命傷を負う。
敵がガクリと膝を着いたところで、バタルがその喉をかき切った。
かくして槍のミノタウロスも、地響きを立てて倒れ、絶命する。
「よし、残りは斧の個体だけだ。全員、総攻撃」
「「「おうっ!」」」
ニケとゼロスに足止めされていた斧の個体に、仲間が総掛かりになる。
さすがにみんな疲れていたが、最後だと思えば体も動くものだ。
実際にそう掛からないうちに、ミノタウロスの動きは鈍ってきた。
「これで終わりにしよう。『氷槍生成』」
「ええ、当てますよ。『流風投射』」
アルトゥリアスは魔力不足で苦しそうにしつつも、最後の氷槍を打ち出した。
それは見事に敵の胸部を貫き、最後のミノタウロスも膝を着く。
それでもあがこうとする敵に、ニケがとどめを刺した。
『鋭刃金剛』
「グアアッ……ガァ……」
魔法で強化した武器が、ミノタウロスの喉をかき切ると、それが致命傷となった敵は地に倒れ、2度と動かなくなる。
「ハアッ、ハアッ……やった~」
「フウッ、フウッ……勝ったっす」
「きゃ~、とうとうやったわ~!」
歓声を上げる年少組に、レーネリーアが駆け寄って抱きしめている。
他の大人たちも肩で息をしているが、その顔は誇らしげだった。
そして俺は、疲労困憊なアルトゥリアスに手を差しのべる。
「お疲れ、アルトゥリアス」
「……フウッ、本当に疲れましたよ。まだまだこの魔法も、改良が必要ですね」
「ああ、だけどこうして、勝てたじゃないか」
「ええ、今はそれを喜びましょう」
俺の手を取って立ち上がるアルトゥリアスも、誇らしそうだった。
いろいろと改良はしているものの、短時間に何発も氷槍を撃つのは大変だ。
そこで敵を仕留め損ねないよう、速度と威力を高めた成果がこれなので、十分に誇っていいだろう。
そこで仲間たちに目を向けてみると、ニケが心配そうにゼロスを撫でているのが目に入った。
俺は彼女たちに近寄りながら、声を掛ける。
「ゼロス、大丈夫か?」
「ちょっと、ケガしてるでしゅ」
「そっか。斧で殴られてたもんな。ちょっと見せてみろ」
「クエ~」
確認してみると、ゼロスの左肩辺りが、ちょっと腫れていた。
鎖帷子のおかげでひどい傷にはなっていないが、強い衝撃を受けたのだから、それも当然だろう。
「ゼロスがケガしてるんだけど、治癒ポーションって効くんだっけ?」
「効くはずですよ。ゼロスのような魔物は、人間と大して変わらないですからね」
「そっか。それじゃあ、治療して様子を見よう。まずは鎖帷子を外そうか」
「あい」
ニケと協力して鎖帷子を外すと、ゼロスのケガに治癒ポーションを塗ってみる。
すると完全に腫れが引くまではいかなかったが、ゼロスの表情がやわらいだ。
「うん、一応、効いたみたいだな。それじゃあ少し休んでから、今日は帰ろう」
「あい。ゼロス、やすませるでしゅ」
「ああ、今日はがんばったからな。今度はいっそ、最初からニケとゼロスを組ませた方が、いいかもな」
「それがいいでしゅ。ゼロスだけだと、たいへんだから」
「そうだな。だけど彼のおかげで、3体ものミノタウロスを倒すことができたんだ。それは誇っていいぞ」
「あい。ゼロス、よくやったでしゅ」
「クエ~」
ちょっとしたトラブルはあったが、3体のミノタウロス討伐には成功した。
この先どうなるかは分からないが、みんなと力を合わせれば、まだまだ先へ進めそうだ。




