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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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80.階層更新の衝撃

 12層からミノタウロスの魔石と素材を持ち帰ったら、大騒ぎになってしまった。

 あれよあれよという間に冒険者が集まってきては騒ぎ、迷宮管理棟や冒険者ギルドの職員も集まってくる。

 そして今、俺たちは管理棟の中の会議室で、管理棟やギルドの職員を前にしていた。


「ふおおっ、すばらしい魔石だ! 早く研究所へ持って帰って、調べねば!」

「落ち着いてください、先生。まずはこの魔石の等級をですね……」


 何やら魔石関係の学者と、官僚らしき人物が騒いでいる。

 その横では冒険者ギルドの職員が、ミノタウロスのつの大斧だいふを見ながら、うなっていた。


「う~む、この角の硬度と魔力量は、たしかに未知の物ですね」

「しかもこの大斧ときたら、魔鉄鋼みたいだぞ。これだけで大層な価値になる」


 そんな彼らの話を横目にしつつ、中央の偉そうなおっさんが口を開いた。


「オホン。儂はこのベルデンの冒険者ギルドの長で、ガイエンじゃ。おぬしらが初めてたどり着いたという、12階層について話してくれるかな?」

「はい。俺は”女神の翼”のリーダーで、タケアキといいます。俺たちは今日、12層へ到達しました。そして――」

「待て待て! 11層にはオーガの群れがいるんだぞ? それはどうしたんだ?」


 ギルド長の横に座っていたおっさんが、俺の話をさえぎる。

 俺はそれを不快に思いながらも、その問いに答えた。


「そんなの倒したに決まっているでしょう。すでにオーガの討伐実績はあって、魔石や素材は出回ってるんだから、それほど不思議でもないと思いますがね」

「むう……それはそうだが、ある程度以上の数が出てくれば、とても太刀打ちできんと聞いておるぞ」

「それは従来の戦い方のままなら、でしょ? 戦法や戦力は、変わりますからね」

「なっ! 何を生意気な」


 おっさんが気色けしきばんだが、それをギルド長がいさめる。


「それくらいにしておけ。話が進まんであろうが」

「は、申し訳ありません」


 おっさんが渋々引き下がると、ギルド長が詫びを入れた。


「すまんな。何しろ、ここ10年はなかった階層の更新ゆえな」

「いえ、それはお察しします」

「うむ、それで、貴殿らはオーガの群れをもなぎ倒し、12階層へ至ったと、そういうことじゃな?」

「ええ、最大で10体の群れを、討伐しています」

「むう、やはりそれほどか……」


 ギルド長が言葉を失うと、周りの人々も驚愕の表情を浮かべている。

 やがて気を取り直したギルド長が、続きを促した。


「それで12層の様子は、どのようなものじゃ?」

「基本的に11層と変わりませんね。木や草が生えていて、広さも同じぐらいです」

「ほう、そして部屋の中には、ミノタウロスがいたと……1体だけか?」

「ええ、今のところは」


 その言葉にギルド長はうなずきながら、さらに先を促す。


「うむ、先のことは分からんからな。それで、ミノタウロスの強さは、いかほどじゃ?」

「そうですね……オーガ10体よりも、厄介じゃないかと。何しろでかくて硬いですから、並みの攻撃手段では、仕留めるのは難しいと思いますよ」


 するとまた横のおっさんが割り込んだ。


「お、お前らはどうやって倒したんだ?」

「それはまあ、精霊術と武器を使って」

「それだけでは分からん! もっと具体的に言わんかっ!」


 なぜか強圧的に迫るおっさんに呆れながら、俺はギルド長へ視線を向けた。


「答える義務、あります?」

「……できれば教えて欲しいが、強制はせんぞ」

「何を甘いことを! ここで情報を吐き出させて、さらなる階層の更新を――」


 その瞬間、ギルド長がスパーンとおっさんの頭をはたいた。

 おっさんの頭はそのまま机にぶち当たり、さらに大きな音を立てる。


「馬鹿もんっ! 冒険者の戦闘力に関する情報は、彼らの生命線じゃ。それを無理に聞き出そうなどと、言葉を控えんか!」

「お、おごっ……」


 悶絶するおっさんを無視して、ギルド長が頭を下げてきた。


「すまんな。こやつは官僚出身なため、冒険者の事情にはうといんじゃ。具体的な戦法は別として、もう少し詳しく教えてくれるか?」

「……え、ええ」


 その後はミノタウロスを倒した際の説明に、時間を要した。

 ミノタウロスの大きさ、その硬さと動きなど、敵の情報については思いつく限り話す。

 一方で俺たちの戦い方については、意識的にぼかした。


 せいぜい精霊術で足止めして、魔闘術で斬りつけたって感じだ。

 もちろんミノタウロスの強さから、俺たちの力量はある程度、計れるだろうが、具体的な内容までは分からない。

 自分たちの実力を、隠すに越したことはないのだ。


 なんと言ったって、俺たちは一躍トップパーティーにのし上がってしまった。

 その事実は、同業者の羨望せんぼうだけでなく、嫉妬しっとも招くだろう。

 ”宵闇の爪”の時のように、迷宮内で襲ってくる奴らも、出るかもしれない。

 その点についてはギルド長も分かっているようで、しつこい追求もなかった。


「ふむ、今日はこんなところか。ただし資料をまとめるうえで、聞きたいことも出るかもしれん。その時はまた頼むぞ」

「ええ、可能な限りは」

「ああ、頼む……ところで、12層の奥へは、進めそうか?」

「もちろん、そのつもりですよ。今すぐにとは言えませんが、徐々に探索を進め、可能であれば守護者を倒したいと思ってます」


 そう言ってのけると、ギルド長はあごをなでながらつぶやく。


「ふむ、そうであれば、今しばらく待つか」

「何を待つんです?」


 意味ありげに言ったので、俺が問うと、ギルド長はニヤリと笑った。


「特級冒険者の認定申請じゃ。特級の認定には、並外れた功績が必要でな、さらに領主様の認可も必要になる。今回の階層更新だけでも、申請は通るかもしれんが、守護者討伐までいけば、より確実じゃ。ぜひがんばってくれよ」

「なるほど。保証はできませんが、努力してみます」

「うむ、期待しておるぞ。しかし間違っても、命は落とさんようにな」

「ええ、気をつけますよ」


 こうして関係者との会議は、友好的に終わった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それじゃあ、ミノタウロスの撃破を記念して、乾杯」

「「「かんぱ~い」」」


 その晩はもちろん、自宅で祝宴だ。

 みんなで乾杯をすると、年少組が元気に料理を食べはじめる。


「今日もガルバッドさんの料理、美味おいしいです! ハグハグ」

「あい、ごきげんでしゅ。モグモグ」

「いつも美味うまいっす。バクバク」

「フハハッ、そうかそうか」


 食いしん坊たちが料理を褒めれば、ガルバッドもご機嫌だ。

 やがて話は、今日の会議の話になる。


「それにしても、特級冒険者の話が出るとはな~」

「うん、私たちがその候補だなんて、信じられないよね~」

「ええ、何しろ特級とは、冒険者の頂点ですからね」


 ここでふと気になっていたことを訊いてみる。


「そういえば、今日の話だと、特級冒険者になる条件って、あいまいみたいだよね?」

「ああ、そういえばそうだな。階層更新だけでも、いけそうだって話だったし」


 ルーアンがその問いに同調すれば、冒険者稼業の長いアルトゥリアスが、その辺の事情を教えてくれた。


「それは特級冒険者が、文字どおりに特別だからです。本来なら上級までのところを、特別な功績を残した者が、特級になれるんですね」

「ああ、なるほど。それゆえに特級の昇格基準には、明確な条件が決まってないってのか」

「まあ、そんなところです。今までの昇格例は、やはり行き詰まっていた迷宮の攻略を成し遂げた者が多いですね。それから災害級の魔物を退治した場合とか」

「へ~……今、この国には何人くらいいるの?」

「たしか、王都にひとつだけ、特級のパーティーがいるのではないですか」


 するとガルバッドがそれを補足した。


「うむ、そうじゃ。”天覇てんはの槍”というパーティーじゃな。たしか、王都近くの迷宮の探索を、進めたんじゃなかったかのう」

「ええ、センデロ迷宮の12階層を、攻略した功績ですね」

「ふ~ん、俺たちの目標と一緒だね。ここと比べて、どうだったのかな?」

「たしかあそこは、竜種が出る迷宮でしたね。かなり手強いと思いますが、一概に比較は難しいでしょう」


 するとルーアンが驚きの声を上げる。


「マジかよ。竜種を倒したパーティーと、同じになるのか?」

「気が早いって、兄貴~。まだ1体倒しただけだから、この先のことなんか分かんないよ~」

「そりゃそうだけどさ、お前。ちくしょう、なんかたぎってきたな」

「フフフ、あまりはりきり過ぎないほうが、いいですよ」

「そうは言ってもさ」


 ミノタウロスがどれだけ出てくるかも分からない現状で、特級の話など取らぬ狸の皮算用であろう。

 しかしそれでも、俺たちが特級に手が届きそうなところまで来たのは、事実だ。

 願わくば、誰も欠くことなく、成し遂げたいものだが。

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