78.複合魔法の開発
初めて踏み込んだ12層には、牛頭戦鬼がいた。
しかしその硬そうな巨体には、俺たちの攻撃はあまり効きそうにない。
新たな戦法が必要だと考えていたところへ、アルトゥリアスから複合魔法の提案があった。
そこで俺たちは11層へ取って返し、新魔法の開発に勤しむこととなる。
『氷槍生成』
『流風投射』
俺が水精霊の力を借りて氷槍を作れば、アルトゥリアスが風精霊の力を借りてそれを飛ばす。
しかもそれは”減圧回廊”を応用したもので、威力も命中率も高い。
最初こそ手間取ったが、じきに2人の息も合ってきて、すばやく術を行使できるようになってきた。
深々と迷宮の壁に突き刺さった槍を見て、ルーアンが呆れた声を出す。
「おいおい、呆れた威力だな。たしか迷宮の壁ってのは、破壊不能なんじゃなかったか?」
「いや、絶対に不可能というわけでもないんじゃろう。おそらく魔力をまとった攻撃ならば、多少は壊せるということじゃ。あまり割に合わんがのう」
「まあ~。ということは、氷槍に魔力をまとわせる試みは、成功しているのね~」
「さすがは、タケしゃまでしゅ」
彼らの言うように、俺は氷槍に魔力をまとわせるよう、努力していた。
そうでもしなければ、ミノタウロスには通用しないと思ったからだ。
幸いにもテティスは非常に有能で、自ら生み出した氷槍なら、魔力を付与できるらしい。
ガルバッドが作った魔眼鏡でも確認してみたが、ちゃんと先端部分に魔力が集まっていた。
「ふう、とりあえずはこんなところかな?」
「ええ、これならミノタウロスにも、通用しそうです。ひと晩やすんでから、オーガで試してみましょうか」
「ああ、それがいいだろうね」
さすがにアルトゥリアスの魔力消耗が激しかったので、その日は11層で夜営をした。
そして翌日、試し撃ち用にオーガの群れを探す。
しかしその群れは幸か不幸か、10体もの大群だった。
「せっかくだから、部屋の外からぶち込んで、数を減らそうか」
「ええ、それがいいでしょう」
「オーガがかわいそうに思える日が来るなんて、考えたこともなかったぜ……」
俺とアルトゥリアスが気軽に数を減らすと言えば、ルーアンがオーガがかわいそうに見えてきたとぼやく。
その考えも分からないではないが、より上を目指すなら当然のことだ。
今までだって、ゴブリンやオークを踏み台にしてきたのだから。
「それじゃ、行くよ。『氷槍生成』」
「了解。『流風投射』」
その瞬間、目にも留まらぬスピードで、氷の槍が宙を走った。
そしてそれは見事に、1体のオーガを貫いた。
「ウガアッ!」
「よし、次。『氷槍生成』」
「はい、『流風投射』」
「グボウッ!」
結局、氷槍によってオーガを3体仕留めたが、一方的な攻撃はそこまでだった。
「魔力切れです、タケアキ」
「……ちょっと早いけど、仕方ないか。今後の課題だね」
「ええ。さあ、来ましたよ、皆さん」
「おう、3体も減ったんだから、余裕だろ」
「だよね~」
申し訳なさそうな顔をするアルトゥリアスに、ルーアンやメシャが軽く応じて、前に出る。
その後は今までどおりの攻撃で、オーガを殲滅した。
「フウッ、予想どおり、大したことなかったな」
「あい、タケしゃまと、アルトゥリアスの、おかげでしゅ」
「うむ。さっきの氷槍はすごかったのう」
「だよね~、魔法ってすご~い」
ルーアンとニケがそんなことを言えば、新人たちも追従する。
「うす、あんなに強いオーガが、一発だなんて……」
「さすがはタケアキさんと、アルトゥリアスさんです」
「同じ精霊術師として、私もがんばらなくっちゃ~」
そんな感じで絶賛されていたのだが、アルトゥリアスは浮かない顔である。
「う~む、とはいえ、たったの3発しか撃てないのでは、心細いですね」
アルトゥリアスの”流風投射”にはかなりの魔力を使うのか、1回の戦闘では3発しか撃てない。
ギリギリまで絞れば、まだ多少はいけるようだが、後のことを考えると余裕は必要だ。
はたして3発の氷槍で、ミノタウロスとどれほど戦えるだろうか。
「たしかに。ミノタウロスがどれぐらい強いか、分からないからね」
「……ちょっと残念ですが、今回はここで引き上げませんか?」
元々、慎重なアルトゥリアスだが、今回はいつにも増して慎重な提案をしてくる。
しかし俺は、それを妥当なものだと考えた。
「……うん、俺もそれがいいと思う。みんなも、いいかな?」
「アルトゥリアスとタケアキがそう言うんなら、かまわねえぜ。それだけヤバい敵ってことだろ?」
「だよね~」
「儂もかまわんぞ」
「さんせい、でしゅ」
「私も~」
「従うっす」
「僕もいいです!」
「クエ~」
なんと驚きの、全員一致である。
「よし、それじゃあ、地上へ戻ろう」
「「おうっ」」
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無事に自宅へ戻った俺たちだが、1日だけ休んでから早々に迷宮へと舞い戻った。
ちなみに俺たちが12層へ至ったことは、他にはまだ伏せてある。
新しい魔物を確認して、そのまま戻りましたでは、かっこがつかないからだ。
せっかくならミノタウロスの魔石を持ち帰り、堂々と報告してやろうと、意見が一致した。
まず10層へ跳んでから、まっしぐらに12層を目指す。
その間、10層のオークはもちろん、11層のオーガですら、それほど苦戦しなくなっていた。
俺たちの地力は、着実に向上している。
そんな実感も得ながら、とうとう12層に下りる階段前へとたどり着く。
「さて、とうとう着いたけど、今日中にやる?」
「いえ、もう夕刻ですから、今日は休養しましょう。体力も魔力も消耗していますからね」
アルトゥリアスが冒険者証を見ながら、そう提案する。
俺も確認すると、たしかに月のマークが出ていた。
ここは休養するのが吉であろう。
「まあ、そうだね。それじゃあ、夜営場所を探そうか」
「あい、やすむでしゅ」
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そして一夜明けると、俺たちは準備万端で12層へ侵入する。
以前と同じ道を進むと、ミノタウロスの待つ場所へとたどり着いた。
「それじゃあ、いくよ。『氷槍生成』」
「はい、『流風投射』」
部屋の外から精霊術を行使すると、またもや目にも留まらぬスピードで氷槍が空間を駆け抜けた。
それは見事に、ミノタウロスの体を貫くだろうと期待していたのだが、それは裏切られる。
――カーンッ!
「ゲッ、はね返した!」
「うそだろ?!」
なんと、ミノタウロスはその斧で、氷槍を弾き飛ばしたのだ。
どうやらオーガよりも、よほどいい目を持っているらしい。
俺はうろたえる仲間たちに、指示を出す。
「今のは予想外だったけど、まだチャンスはある。多少は敵を弱らせないと、通じないだろう。俺たちで足を止めるから、前衛はみんなで攻撃してくれ」
「了解」
「おう」
「うす」
「はいっ」
「やるでしゅ」
前衛陣が元気よく駆けていく。
それを見送りながら、後衛も支援を始めた。
かつてない強敵との戦いが、今はじまった。




