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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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77.12層に棲むもの

 2晩の夜営を経て、俺たちはとうとう12層へと至る階段を発見した。

 これはこのベルデン迷宮が発見されてから初めてのことであり、最高到達階層の更新となる快挙である。


「やったぜ、タケアキ。これで俺たちが、このベルデンのトップ冒険者ってことだな」

「ああ、そうなるんだな。なんかあまり、実感ないけど」

「フフフ、タケアキらしいですね。でも実感がわかないという気持ちも、分かりますよ」

「うむ、そうじゃのう。しかし階段を見つけただけで浮かれていては、大ケガをするかもしれんぞ。ここはひとつ、気を引き締めて――」


 せっかくガルバッドが引き締めようとしたところへ、レーネリーアの脳天気な声が割り込んだ。


「あらあら、何いってるのよ~。これってすごいことじゃな~い」

「いや、姉さん、空気を――」

「さあ、階段を降りるわよ~」


 勝手に話を進め、今にも階段を降りそうなレーネリーアに、みんなが苦笑する。

 しかしここでもったいぶっていても仕方ないので、さっさと階段を降りることにした。


「それじゃあ、バタルが先頭で降りていこうか。異常があったら、すぐに知らせてくれ」

「うす、任せるっす」


 バタルはそう言いながら、勇んで先頭に立つ。

 彼とザンテはさすが希少種といったところか、ニケ以上に感覚が鋭かった。

 おかげで以前にも増して、不意打ちをくらう恐れが減ったのは、予想外の効果である。


 バタルを先頭に階段を降りていくと、その先には今までと同じような空間が広がっていた。

 基本的に洞窟なのだが、それなりに明るく、まばらに草木が生える不思議空間だ。

 最初の分岐点を左に進み、ズンズン歩いていくと、バタルから声が掛かった。


「この先に、何かいるっす」

「了解。みんな、武器を出して」

「「「おう」」」


 みんなが武器を取り出してジリジリと進めば、やがて魔物がいるであろう大きな空間が見えてきた。

 そしてその空間の中央にいたのは、ひと際大きな影だ。


「……牛頭戦鬼ミノタウロスではないですか。私も見るのは初めてですが、大きいですね」

「大きいどころじゃねえぜ……しかもあれ、斧を持ってるぞ」


 アルトゥリアスとルーアンが言うように、そこで俺たちを待ち受けていたのは、ミノタウロスだった。

 身長は3メートルを超える巨体で、その頭部は角の生えた牛という魔物だ。

 腰ミノだけを着けたその身体はムキムキで、鋼のような筋肉に包まれている

 しかもその手には両刃の斧を持ち、かつてない攻撃力が予想された。


 俺たちはその空間には入らず、遠巻きに見ながら策を練った。


「とりあえず、”大地拘束”と”茨棘締結”で足を止めて、斬りつける感じかな?」

「いや、そんなんじゃ足りねえだろ。タケアキが氷の槍、ぶちこんだらどうだ?」

「う~ん、そんな余裕、あるかな? 足を止めるだけでも、精一杯な気がするんだけど……」


 この状況で土魔法と水魔法を同時に使えと言うのは、かなりな無茶ぶりに思えた。

 テティスは上位精霊だけあって、ガイアよりも自律性が高いが、術の制御にはそれなりのリソースを必要とする。

 そんな俺の懸念に、ガルバッドも同調する。


「タケアキの勘はたぶん当たっているじゃろう。中途半端に術を多用しても、失敗する可能性が高いのではないかな?」

「なら、どうすんだよ? たぶんあれ、メチャクチャ硬いぞ。俺たちの武器であれが傷つけられるとは、ちょっと思えねえけどな」

「むう。たしかに、その可能性は高そうじゃな……」


 ミノタウロスの肌は褐色のようだが、何やら金属的な輝きも見て取れる。

 少なくともオーガより柔らかいとは思えなかった。


「う~ん、やってみないと分からないのも事実だけど、安易に攻めるのはリスクが高いよね」


 俺が慎重論をほのめかすと、アルトゥリアスから提案があった。


「それでは、まずはタケアキとレーネリーアが足を止めて、前衛で足を攻撃すればどうでしょうか? そしてタケアキに余裕ができた時点で、大きな氷の槍を放つのです」

「う~ん、大きな槍かぁ。作るのはできるけど、問題はどうやって撃ち込むか、なんだよな」


 オーガを攻撃した時は、手元から枝状に氷を伸ばしていった。

 しかしその分、魔力は多くいるし、威力もさほどではない。

 するとアルトゥリアスは、自信ありげな笑みを浮かべながら、その役を買って出る。


「フフフ、それをやるのは、私に任せてもらえませんか? 風魔法で槍を飛ばすのですよ」

「ッ! そうか、その手があった!」


 さすがは、アルトゥリアス。

 俺だけで攻撃するのではなく、複数の精霊術を組み合わせるとは、目からウロコである。

 しかしそう簡単に実現できるものだろうか?


「だけどさ、いきなり実戦てのは難しくない?」

「ええ、当然です。ですから一度上へ戻って、練習してみましょう」

「だよね~」


 アルトゥリアスの提案は、どこまでも現実的だった。

 未知の魔物に初めての術をぶつけるなど、危険きわまりない。

 他のメンバーにも確認を取ると、誰からも異論は出なかったので、俺たちは元来た道を引き返し、11層でまたオーガを狩った。

 そうして広い空間を確保してから、新しい精霊術の練習だ。


「それじゃあ、俺とアルトゥリアスは複合魔法の実験をするから。みんなはくつろいでていいよ」

「おう、見物させてもらうぜ」

「おうえん、してるでしゅ」


 オーガを狩ったばかりの空間に、仲間たちは腰を下ろすと、めいめいにくつろぎはじめた。

 そして俺とアルトゥリアスは向き合って、実験を始める。


「それじゃあ、氷の槍を作るけど、どれくらいの大きさがいい?」

「そうですね……まずはタケアキが使っている槍の、半分くらいでどうでしょうか?」

「了解。テティス」


 俺は水精霊テティスを呼び出すと、これぐらいの槍を作ってくれとお願いする。

 ちょっと透き通った妖艶な美女は、快くそれに応じてくれた。

 俺がその場で革袋から水をまくと、テティスがそれに手をかざす。


「♪」


 するとたちまちのうちに水がかさを増し、槍の形で凍りついた。

 その氷の槍はテティスの魔力を受け、宙に浮いている。


「フフッ、さすがですね。それでは私も。シェール」

「♪」


 今度は風精霊シェールが現れて、氷槍に手をかざした。

 すると槍の周辺に風が渦巻いて、ヒュウヒュウ、ゴウゴウと音を立てはじめる。

 アルトゥリアスは狙いをつけるために集中してから、古代語を詠唱した。


流風投射マジュラ・ラマー


 ボヒュッという音と共に、氷槍が目の前から消えた。

 そしてそれは、次の瞬間には前方の壁に当たり、粉々になる。

 それを見ると、仲間たちが騒ぎだした。


「おいおい、すげえじゃねえか。とんでもない威力だぞ」

「う~む、さすがはアルトゥリアスじゃのう」

「きゃ~、すごいじゃな~い、アルトゥリアス。どうやったの~?」


 レーネリーアに問われ、アルトゥリアスはまんざらでもない顔で答える。


「フフフ、やってることは『減圧回廊カリル・タリク』と、似たようなものですよ。あれをより大規模にして、威力を増した感じですね。まあ、弓がない分、発射には苦労しますけど」

「さすがはアルトゥリアス。だけどその口ぶりだと、だいぶ練習したみたいだね?」

「ええ、以前から風魔法の非力さを、痛感していましたから」

「ああ、なるほどね……」


 それについて彼が悩んでいたのは、俺たちも気づいていた。

 何しろもう50年も精霊術を使っているわりに、その攻撃力は微妙だったからだ。

 もちろん、シェールとの親和度が上がってからは、格段にやれることは増えている。


 弓をまじえた”減圧回廊”の攻撃力も、なかなかのものだ。

 しかし俺の土属性に比べると、風属性は攻守ともに見劣りがしてしまう。

 それは風、つまり空気の密度が薄いからであり、そこから威力を上げるのには、多大な魔力が必要とされる。


 これが普通なら、仕方ないで済ますところだが、アルトゥリアスは考え続けたらしい。

 風に実体がないのなら、実体のあるものを飛ばせばいいのではないか。

 そして身近には上位精霊テティスと契約した俺がいる、って感じだ。


 結果、俺とアルトゥリアスの協力により、強力な攻撃魔法が生み出せそうだ。

 これはミノタウロスという新たな強敵に対抗するのに、有効であろう。

 そんな期待に俺たちは、心を踊らせていた。

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