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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第4章 上級冒険者編

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76.テティスの力

 その日、ベルデン迷宮の11層に、強烈な精霊術が荒れ狂った。

 俺の行使した”氷槍乱舞”により、空中に何本もの氷の槍が形成されたのだ。

 上位の水精霊であるテティスの力は凄まじく、直径3センチほどの氷槍が、枝状にニョキニョキと分岐・成長し、複数の1角餓鬼オーガを貫いていく。


「グアアアッッッ!」

「グギャアアアッ!」

「グゴオオオッ!」

「ガアアアアッ!」


 その攻撃は4体のオーガを貫き、大きなダメージを与えていた。


「おいおい、あのオーガが簡単に……」

「すごい、でしゅ」

「うわあ……」


 それを見た仲間たちも、予想以上に強力な魔法に驚愕する。

 本来、オーガの魔力防御はひどく堅固で、よほど上手く魔力をまとわせた武器でなければ、傷つけられないからだ。

 しかし現実に4体のオーガは目の前で串刺しになり、息絶えようとしている。


 こうなると、残り4体しかいないオーガなど、さほどの脅威とはならなかった。

 俺たちはゼロスを含め、10人のフルメンバーを揃え、さらに聖銀鋼の武器を使いこなしているのだ。

 その後10分ほどの戦闘で、オーガの殲滅に成功する。


「いや~、8体も出てきた時は、どうなるかと思ったが、なんとかなったな」

「なんとかなったどころでは、ないですよ。以前より、はるかに簡単に殲滅できました」

「うむ、それもこれも、タケアキのおかげじゃの」

「うす、すごかったっす」

「タケアキさん、かっこよかったです」

「フフン、タケしゃま、すごいでしゅ」


 皆が口々に褒めてくれる中、相変わらずニケだけはドヤ顔だった。

 俺のことを誇らしく思ってくれる、そんな彼女もかわいいのだが。

 しかしテティスの精霊術は、いいことばかりではなかった。


「あ、テティスしゃん、きえるでしゅ」

「ああ、魔力を使い過ぎたみたいだな」


 テティスがちょっと悲しそうな顔で、手を振りながら消えていく。

 なんとなく伝わってくる情報から、彼女が魔力不足に陥っているのが分かる。

 どうやら張り切って術を行使したら、やり過ぎてしまったようだ。

 しばらくは精霊界に戻って、魔力を回復するのだろう。

 それを聞いたアルトゥリアスが、興味深そうに言う。


「ふむ、いかに強力な精霊術だとしても、改良の余地は多そうですね。まあ、それはおいおい、模索すればいいでしょう」

「そうね~。でも上位の精霊術って、本当にすごかったわ~。複数のオーガを、串刺しにしちゃうんだもの~」

「アハハ、そうだね。水の準備が必要なのが、ちょっと面倒だけど」


 実は今回の”氷槍乱舞”を使うに当たり、革袋に入れた水を宙にまいていた。

 というのも、元になる水があるのと無いのとでは、術の速度や必要魔力量が、大きく違ってくるからだ。

 一応、空中から水をかき集めて魔法を使うこともできるのだが、これがまたひどく効率が悪い。

 時間は掛かるわ、魔力は使うわで、まったく実戦的ではなかった。


 その点、少量でも水があれば、それを核にして魔法がぐっと使いやすくなる。

 それがテティスについて、エルフの里で検証した結果である。

 そのため今回は水魔法を行使しやすくするよう、水を革袋に入れて、ゼロスに積んできたというわけだ。


 この点、荷物持ちをしてくれるゼロスがいることは、非常に助かる。

 今のゼロスは体高1.2メートル、体重600キロほどに成長し、夜営道具や予備の武器などを運んでくれる。

 しかもいざという時には、スタンピードブルとやり合えるほど強いので、後衛を守る盾にもなってくれるのだ。

 おかげで彼は、俺たちと対等の仲間として、認められつつあったりする。


「タケしゃま、ませきでしゅ」

「お、ありがとうな。ニケも大活躍だったな」

「タケしゃまにまけないよう、がんばったでしゅ」

「そっかそっか。でも無理はするなよ」

「あい」


 目をキラキラさせ、尻尾をフリフリしている彼女が、とてもかわいらしい。

 俺が上位の精霊術を使い、大きな力を示したのが、誇らしいのだろう。

 そんな彼女の期待を裏切らないよう、俺もがんばらなきゃな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


氷槍乱舞タルジュ・ラクス

「グアアアッ!」

減圧回廊カリル・タリク

「グオオオッ!」


 氷の槍が複数のオーガを貫いたところへ、アルトゥリアスが強化された矢で、とどめを刺していく。

 その矢はエルフの里から持ち帰ったもので、やじりに魔力を籠められる特別品だ。

 おかげで魔力で強化されたオーガの皮膚も、容易に貫いてしまう。


「か~、さすがだな。俺たちも行くぜ、『疾風迅雷ハラカ・タザリ』」

「あい、『疾風迅雷ハラカ・タザリ』」

「うす、『疾風迅雷ハラカ・タザリ』」

「はいっ、『疾風迅雷ハラカ・タザリ』」


 魔法の先制攻撃で、ほぼ半減した敵に、ルーアンたちが飛びかかっていく。

 彼らは身体強化魔法を駆使し、蝶のように舞っては、蜂のように刺す。

 さらにはレーネリーアも、上機嫌で敵を拘束していた。


「私も負けないわよ~、『茨棘締結ワキザ・ラッド』」

「姉さん、感謝するっす」


 バタルに反撃しようとしていたオーガに、いばらが巻きついた。

 それによって窮地を脱したバタルが、逆にオーガを深く傷つける。

 俺やアルトゥリアスも彼らを支援することで、さして経たずにオーガの群れは殲滅された。


「うひゃ~、10体ものオーガが出てきた時は、どうなるかと思ったが、なんとかなったな?」

「ええ、もちろんタケアキの魔法の効果は大きいですが、バタルたちが加わった意味は大きいですね。はたから見ていても、余裕が感じられましたよ」

「うむ、そうじゃのう。以前は手が足りなくて、大変じゃったからな。それにルーアンとメシャの槍も、うまく噛み合っておるのではないか?」

「アハハ~、そうだよね~。剣とは間合いが違うから、連携しやすいんだ~」


 ガルバッドの指摘に、メシャが嬉しそうに同意する。

 今回、ルーアンとメシャに槍を持たせたため、彼らは少し遠くから攻撃できるようになった。

 それが剣や斧などの近接武器と絡み合い、攻撃に幅が出るようになったのだ。

 そのため、人数が増えた以上に、前衛に余裕ができていた。


「テティスしゃんも、きえなくなったでしゅ」

「ああ、そうだな。今回はうまく調整できたみたいだ」


 ニケが指摘するように、今回はテティスが消えずに残っている。

 これも”氷槍乱舞”の威力と範囲を調整したおかげで、何回かの試行錯誤の成果である。

 しかしテティスが復活するのを待ったりしたため、あまり戦闘はこなせていなかった。


「もういい時間じゃのう。今日は上に戻るんか?」


 ガルバッドが冒険者証を見ながら、皆に問う。

 実は冒険者証には、簡単な時計機能が付いているのだ。

 プレートの一部に、昼なら太陽のマーク、夜なら月のマークが出るようになっている。


 この表示を目安にして、夜は休むのが探索の常識だ。

 あまりむやみに探索をしていても、危険になるからだ。

 これも迷宮と冒険の神 ヌベルダスの恩恵らしい。


「う~ん、どうしようか。まだ食料や水には余裕があるから、もう1泊したいとこだけど」

「ああ、いいんじゃねえか。今日は戦闘回数は少ないから、それほど疲れてねえし」

「そうだね。それじゃあ、夜営する場所を探そうか」

「おう」


 その後、適当な場所を見つけると、結界を張って夜営の準備をする。

 そしてガルバッドの作ってくれた料理をつつきながら、話をした。


「それにしても、けっこう奥まで来たよな?」

「うむ、今までのパターンなら、そろそろ下への階段が見つかる頃じゃな」

「だよな~。一体なにが出てくるかな? 12層は」


 12層へ思いを馳せるルーアンに、アルトゥリアスが応じる。


「そうですね。オーク、オーガと来ているので、おそらく人型の魔物の何かでしょう」

「やっぱそうだよね~? でも、オーガより強い人型の魔物って、どんなのだろ~?」

「それなら単眼巨人サイクロプスとか、牛頭戦鬼ミノタウロスなどが考えられますね。いずれにしろ、とんでもない強敵となるのは、間違いないでしょう」

「うへ~、ちょっと怖いね~……だけどさ、それを確認するのは、私たちが初めてになるんだよね~?」


 メシャは怖いと言いながらも、ワクワクした顔をしている。

 新しい魔物を確認するということは、このベルデン迷宮の階層を更新するということだ。

 それはこの街の冒険者にとって、とても大きな栄誉となる。

 すると新人たちが、目を輝かせて希望を語る。


「まあまあ~、すごいことになりそうね~」

「うす、またやる気が出てきたっす」

「そっか~、僕たちが、記録を作るんですね~」


 その晩はまだ見ぬ12階層の話で、盛り上がった。

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