75.再び10層へ
とうとう俺たちは、新人を連れて9層を再突破した。
これによりレーネリーアたちが4等級、つまり上級へ昇格する権利を手に入れたので、俺たちは意気揚々と冒険者ギルドへと赴く。
「え~っ、もう9層を突破したの?!」
「ああ、なんせ俺たちが一緒だからな。これくらい、軽い軽い」
「……それだと、上級冒険者に寄生したみたいに聞こえるけど?」
「ちゃんと鍛えてるから、大丈夫だって。彼らの強化度だって、もう5になってるんだぜ」
「う~ん、それなら大丈夫か……」
ステラに昇格の手続きを頼んだら、案の定、寄生を疑われた。
無名の新人が、異例の早さで9層を攻略したのだから、それも仕方ないだろう。
なに、実技試験で結果を見せればいいのだ。
その後、ちゃんと実技試験を乗り越えて、新人たちの昇格が認められた。
「はい、レーネリーアさん、バタルさん、ザンテさん。新しい冒険者証です」
「ありがと~」
「うす、ありがとうございます」
「ありがとうございましたっ!」
4等級に書き換えられた冒険者証を手に入れ、彼らの顔が輝いていた。
そんな彼らを眺めながら、ステラがこっちへ話を振ってくる。
「新人の育成が終わったからには、また10層以下に戻るのよね?」
「ああ、もちろん。できれば、到達階層を更新しようと思ってるんだ」
「アハハ……数多の冒険者がそんなことを言いながら、もう十年も更新されてないのよ。まあでも、あたたたちならできちゃうかもしれないわね」
「そうだろ?」
「でも、ニケちゃんには危険なこと、させちゃダメよ」
「さあ、それは――」
「よけいなこと、いうなでしゅ」
それは保証できないと言おうとしたら、先にニケがステラに文句を言った。
ステラもニケのことを思ってのことだろうが、ニケは立派な戦士なのだ。
彼女の意志で戦っているのに、それを止めることはできない。
まあ、俺には新たな切り札もあるから、なんとかなるだろうとは思うのだが。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
新人の昇格を済ませると、俺たちは王都へ向けて旅立った。
彼らにふさわしい武器を、手に入れるためだ。
また3日ほどで到着すると、さっそくゲイル爺さんの店へ顔を出した。
「やっとるか? 爺さん」
「おう、ガルバッドではないか。久しぶりじゃのう」
「うむ、今日はまた、武器を買いにきたぞ」
「なんじゃ、もう壊したんか?」
「いやいや、新顔を迎え入れてな」
「ほほう?」
ガルバッドと店主の軽妙な掛け合いを経て、俺たちは彼に相談をする。
「こんにちは。新人が3人増えたんで、聖銀鋼の剣と槍を買おうと思うんですよ」
「ふむ、誰が何を使うんじゃ?」
そこで俺たちの構想を店主に説明する。
今回、バタルとザンテに剣を持たせると同時に、ルーアンとメシャには槍を持たせようという話になっていた。
小柄な少年たちは剣を持って走り回り、大人は槍で中距離的な攻撃をするのだ。
似たような武器だけ増やしても、戦いの幅が広がらないと考えてのことだ。
そんな話を伝えると、店主がいくつか武器を持ってきてくれた。
その中からバタルは身の丈に近い大ぶりな剣を選び、ザンテは盾と小剣を選んだ。
そしてルーアンとメシャは、自身の身長を少し超えるぐらいの槍を選ぶ。
もちろん全て聖銀鋼で、槍の柄には魔力を通す塗料が塗ってある。
これにレーネリーア用の短剣を加え、金貨30枚を支払った。
これでも少しまけてもらったぐらいだ。
こうして、俺たちの戦闘準備は、すっかり整った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
また3日掛けて王都から帰還すると、翌日から10層へ潜る。
「ブギイィィッ」
「お出ましだぞ。片方はルーアンとニケ、ザンテ、もう片方はメシャにバタル、ガルバッドで頼む」
「おう、サポートよろしく、ニケ」
「あい」
「行くよ、バタル」
「うす」
2体のオークに遭遇すると、俺の指示に従って前衛が掛けだした。
一方、残された後衛は、状況を見てサポートだ。
幸いにも2体のオークなど大した脅威ではなく、ちょっとした足止めと弓射だけで十分だった。
数分後には、オークを倒した前衛陣が感想を述べ合う。
「どうだった? オークは」
「うす、やっぱり硬いっすね」
「おいおい、これぐらいで硬いなんて言ってたら、次の1角餓鬼には歯が立たねえぞ」
「ほんとですか? もっと修行しないといけないですね」
「おう、オーガには魔闘術が必須だから、しっかりと練習しろよ」
「「はいっ」」
「あらあら、私もがんばらなくっちゃ~」
ルーアンの助言に、少年たちが素直にうなずく。
そしてもう1人の新人であるレーネリーアも、意欲を見せていた。
とりあえず、10層で十分にやれそうなのは分かったので、その後も探索を続け、新人に経験を積ませていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
10層を攻略すること3日で、新人の魔闘術も使えるようになってきた。
そこで俺たちは再びオーガに挑むべく、11層へ足を踏み込んだ。
「グルルルルロロォォォッ!」
久しぶりに遭遇したオーガが、腹に響くような雄叫びを上げる。
さすがは現状で最強の魔物だ。
しかしもっと仲間が少ないときから、対応してきた敵でもある。
仲間たちは少しもひるまず、敵に向かっていった。
「行くぜっ、『疾風迅雷』」
「うす、『疾風迅雷』」
「僕も、『疾風迅雷』」
もちろん後衛陣も黙っていない。
『大地拘束』
『圧空障壁』
『茨棘締結』
土の足かせ、風の障壁、そして茨の触手が、オーガの動きを鈍らせる。
その隙を逃さず、戦士たちが敵に突っ込んだ。
彼らは魔法で加速し、さらに腕力も強化して、敵を斬り、突き刺していく。
やがてその猛攻に、2体のオーガはあっけなく崩れ落ちた。
「やった~、オーガを倒しましたよ!」
「本当に硬かったっすね」
「ああ、だけどまあまあだったぞ」
「ほんと、最初はもっと掛かったもんね~」
「そうだったんですか~」
思っていた以上に早く倒せたので、新人たちも上機嫌だ。
その後は魔石と角を取り、さらに奥へと進めば、予想以上に早く、団体さんが出現した。
「おいおい、8体もいるぞ」
「これはいよいよ、タケアキの出番じゃな」
「ああ、みんなは下がっていて。テティス」
俺は水精霊を呼び出すと、ゼロスの荷物から革袋を取り出した。
その袋を軽く振り回しながら、俺は呪文を唱える。
『氷槍乱舞』
その日、ベルデン迷宮で初めて、上位の精霊術が炸裂した。




