74.新たな上級冒険者
新人を連れて7層を踏破した俺たちは、いよいよ8層の短刀猪と対峙した。
『地草束縛』
「ブギイッ」
レーネリーアの精霊術がボアの足を絡め取れば、敵は暴れて束縛を逃れようとする。
その隙を逃さず、バタルとザンテが飛び出した。
『疾風迅雷』
「僕も、『疾風迅雷』」
身体強化で矢のように飛び出した2人が、動きの止まったナイフボアに斬りかかる。
彼らはその毛皮の硬さに驚きながらも、休まずに攻撃を加えていく。
やがてフラフラになったボアの懐に入り込んだバタルが、致命的な一撃を放つ。
『鋭刃金剛』
「ブギィィッ…………ゴフッ」
切れ味を増した斬撃により、喉を切り裂かれたナイフボアの体が崩れ落ちる。
その瞬間、討伐を確信した少年たちが、雄叫びを上げた。
「うお~っ! やったっす」
「やりましたね、兄さん!」
バタルとザンテは汗まみれになりながらも、その顔は輝いていた。
そんな彼らをねぎらいながら、俺たちは近づいていく。
「お疲れお疲れ、よくやったな、2人とも」
「ちょっと~、私もがんばったのよ~」
「あ~、そうだね、レーネリーアもがんばった、がんばった」
「なんか言い方がなおざり~」
俺がレーネリーアをいなしている間も、ルーアンが少年たちを褒める。
「おう、2人とも魔法が上手くなってきたな」
「うす、だいぶ慣れてきたっす」
「はい、これも兄さんや姉さんのおかげです」
「アハハ~、2人が努力したおかげだって~」
しかしそんな浮かれた雰囲気を、アルトゥリアスが引き締める。
「さあさあ、あまり無駄口を叩いていないで、次に行きますよ。新人たちには、もっと強くなってもらわねばなりませんからね」
「フハハッ、そうじゃそうじゃ。もっと数が増えれば、ナイフボアはさらに厄介になるんじゃぞ」
「うす、気合いれるっす」
「はいっ、がんばります」
「う~ん、私はあまり働きたくないんだけど~」
その後はレーネリーアの願いも空しく、ナイフボアをバンバン狩らせた。
もちろん数が多い時は俺たちも手伝ったが、基本的に新人に狩らせる形だ。
そうして彼らに生命力を取り込ませ、さらに魔石を彼らの実績として売りさばく。
これによって彼らの強化度を上げると同時に、冒険者等級も上げていった。
そんな探索を3日続けただけで、新人たちはずいぶんとたくましくなった。
そこで俺たちは、彼らを次の段階へ放り込むことにしたのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ブモーッ!」
「『地草束縛』……あら~っ」
しかし9層の暴走牛は、やはりひと味ちがった。
奴らはレーネリーアの植物魔法など、紙のように引きちぎってのけたのだ。
仕方ないので、俺が役割を替わる。
「『土壁防御』……『大地拘束』」
「さすがタケアキだ。行くぜ、お前ら。『疾風迅雷』」
「うす、『疾風迅雷』」
「はいっ、『疾風迅雷』」
なんとか俺が足止めしたブルに、ルーアンが先陣を切って走りだす。
それに呼応するように、バタル、ザンテも加速する。
もちろんニケやガルバッドも負けてはいない。
「えいっ、『鋭刃金剛』」
「ブフーッ」
「こっちも負けておれんぞ。『剛力無双』」
「モ”ーッ」
さらに俺たち後衛は、魔法で援護だ。
『石槍屹立』
『減圧回廊』
「私も負けてないわよ~、『茨棘締結』」
その辺の植物では効果がないと見たレーネリーアは、茨の種を地面にまき、それで敵を締めつけている。
さすがにそれだけで致命傷には至らないが、前衛の攻撃も交えると、それなりの戦力になっていた。
やがて10頭ものスタンピードブルが、全て殲滅される。
以前はずいぶんと苦労したのに、今回はずいぶんと楽だった。
それは人数が増えたことに加え、エルフの里で精霊術を磨いてきたのも大きいだろう。
ブルを殲滅した仲間たちが、集まってくる。
「フウッ、相変わらず手強いな、スタンピードブルは」
「だね~。だけど前よりずいぶん楽だよ~」
「うむ、そのとおりじゃな。パーティーの強化は、大成功じゃ」
「ええ、これほど楽になるとは、思いませんでした」
先輩連中が満足そうに感想を漏らせば、新人たちは呆れた顔を見せる。
「これで楽って、とんでもないわ~」
「うす、今までで一番、命の危険を感じたっす」
「ウシさん、怖いです」
レーネリーアやバタルは青ざめているし、ザンテなど涙目だ。
するとルーアンがおかしそうに、昔話をする。
「馬鹿いえ。俺たちは6人とゼロスだけで、この9層を突破したんだぞ。そこに頭数が3人も増えたんだから、余裕だってえの」
「そうそう~。あの時はほんと、生きた心地がしなかったよ~」
メシャもその話に乗ると、ガルバッドやアルトゥリアスもため息をつきながら、当時を回想する。
「まったくじゃ。おまけに最後は、守護者の登場じゃったからの」
「あれには本当にやられましたね。タケアキがいなければ、確実に全滅でしたよ」
「フフン、タケしゃま、すごかったでしゅ」
またまたニケがドヤ顔で自慢を始めたので、俺は笑って話をそらす。
「アハハ、でも今はみんなも強くなったから、よほど安心でしょ。いざとなっても、テティスがいるしね」
「ええ、なんといっても、我々の敵は11層のオーガですからね。ということでレーネリーア、あなたたちには、バリバリ戦ってもらいますよ」
俺の話に便乗しつつ、アルトゥリアスが新人に圧力を掛ける。
すると彼らは弱音を漏らしつつも、次の戦いへ向かうのだった。
「え~っ、今日はもうゆっくりしたいのに~」
「俺もそう言いたいとこだけど、がんばるっす」
「う~、僕もがんばります」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後、5日ほど掛けて、新人たちを9層で鍛えた。
最初は弱音を吐いていた彼らだが、今では見違えるほどたくましくなっている。
そしていよいよ俺たちは、守護者に挑むことにした。
「それじゃあ、みんな、行くよ」
「おう」
「了解です」
9層の最深部にある扉横の水晶に手を当てると、扉が横にスライドする。
ポッカリと開いた入り口に入ると、内部が明るくなり、3体のスタンピードブルが現れた。
もちろんそのうちの1体は、赤い角を持つ巨牛である。
「ブフーッ!」
「ンモーッ!」
敵が大きな声を上げ、威嚇してくるが、その程度でひるむような仲間はもういない。
『土壁防御』
『圧空障壁』
『茨棘締結』
「ブモーーーッッッ!」
いきなり精霊術の3連打で、まず赤角ブルの動きを止めた。
そしてその間に、前衛陣がその配下に斬りかかっていく。
『疾風迅雷』
『剛力無双』
『鋭刃金剛』
ニケの刃が、ルーアンの剣が、メシャの双剣が、ガルバッドの戦斧が敵に降り注ぐ。
敵も抵抗しているものの、すでに10層以下で戦う俺たちの前では、さほどの脅威でない。
あっという間に致命傷を与えると、2体の配下は早々に倒れた。
そして赤角ブルには、バタルとザンテが、果敢に立ち向かっていく。
彼らは小さいながらもすばやく動き、着実にダメージを与えていった。
レーネリーアも茨の棘で敵を締め上げ、要所要所で弓矢を撃っている。
やがて、力尽きた赤角ブルが、地響きを立てて崩れ落ちた。
「やった~!」
「フウッ、フウッ……やったっす」
「ハァッ……ハァッ……勝ち、ました」
ここにまた、新たな上級冒険者が生まれたのだ。




