73.身体強化魔法
新人たちに休養を取らせるため、ピクニックに来ていた俺たちだったが、狙いはそれだけではない。
子供たちが遊びに飽きたところを見計らって、新たな指示を出した。
「よし、それじゃあ少し、魔法の練習もしようか」
「えっ、今日は休養じゃなかったんすか?」
「まあ、それが主目的ではあるけど、それだけじゃどうせ、飽きるだろ?」
「う……そうかもしれないっす」
「たしかにちょっと……飽きてきたかも」
ザンテとバタルが言いよどんだところへ、すかさずたたみ込む。
「だろ? それに、ニケみたいな身体強化魔法、使ってみたくないか?」
「はいっ、使いたいです」
「お、俺も、やってみたいっす」
案の定、ニケを引き合いに出すと食いつきがいい。
年下の、しかも女の子にひけを取ってるなんて、悔しいだろうからな。
ちなみにニケは今、俺の横でドヤ顔をしている。
「うん、そうだろうそうだろう。すでに説明してあるように、今までは2人の体ができるのを、待ってたんだ。それもそろそろ、いい頃合いだと思ってね」
「うす、望むところっす」
「がんばります!」
身体強化魔法は、ただむやみに使えばいいというものではない。
特に小さい子供に使わせると、体を痛めやすいらしいのだ。
そこでバタルとザンテには、自身の力だけで戦闘をさせ、その動きに体をなじませた。
まだ短期間だが、育ち盛りの彼らは、いい感じに育っているように見える。
「それじゃあ、まずは魔力を体内に巡らせる練習からな。ニケやルーアンも見てやって」
「あい、まかせるでしゅ」
「おう、構わねえぜ」
その後はしばらく、身体強化魔法の練習をするう。
最初は魔力を体内に巡らせる練習をしてから、実際に魔法を発動するのだ。
『疾風迅雷』
何度か試しているうちに、バタルの魔法が発動した。
彼は矢のように加速し、20メートルほどを一瞬で駆け抜けてみせる。
「うわ~、いいなぁ、兄さん。やっぱ僕、才能ないのかな?」
「馬鹿いえ。俺だって成功するまでは、けっこう掛かったんだぞ。そんなに気にすんなよ」
「そうなんですか?」
「本当だって。ほら、もっと練習するぞ」
うらやましそうにバタルを見るザンテを、ルーアンが慰めている。
実際問題、ルーアンやメシャも、成功までには数日かかっていた。
いきなり成功させてしまうバタルの方が、異常なのだ。
その後もザンテは熱心に練習していたが、さすがにその日のうちは成功しなかった。
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2日も練習していると、ようやくザンテも身体強化魔法が使えるようになってきた。
バタルよりは遅いが、それでも相当な習得スピードだ。
それによってまた自信をつけた新人たちを、俺たちは迷宮の7層へ連れていく。
「昨日も言ったように、この階層には影狼という魔物が出る。集団で襲ってくるから、用心するようにな」
「うす、楽しみっす」
「がんばります」
「ウフフ~、怖いわね~」
あまり緊張感のない新人を連れて進むと、やがてシャドーウルフが現れた。
漆黒の毛皮を持つ5匹のオオカミが、こちらを威嚇してくる。
「さっそく行くっす。『疾風迅雷』」
「僕も。『疾風迅雷』」
「がんばってね~。『地草束縛』」
勢いよく飛び出していく2人の少年を、レーネリーアが精霊術で援護する。
いきなり足を植物に拘束されてうろたえるオオカミたちに、バタルたちが殴り込んだ。
敵は次々と倒されていき、気がつけば全て駆逐されていた。
「ほ~、大したもんだ。たった3人で、倒しちまったな」
「うす、いざとなれば、みんなが助けてくれると思って、思いきりできたっす」
「はい、魔法がうまくいって、嬉しいです」
謙虚なことを言う子供たちとは対照的に、レーネリーアは自慢げに話す。
「ウフフ、すごいでしょ~、アルトゥリアス。私も立派な冒険者ね~」
「はいはい、レーネリーアも見事でしたよ」
「……もうちょっとまじめに答えてくれても、いいのではないこと~」
軽く流すアルトゥリアスに、レーネリーアは不満顔だ。
しかしそれ以上は追求することもなく、俺たちは探索を続けた。
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結局、その日のうちに7層を縦断し、俺たちは8層で夜営をした。
「今日は順調だったな~」
「ほんとほんと~。やっぱり人数がいると、楽だよね~」
気楽そうに語るルーアンとメシャに、ザンテが訊ねる。
「たしかに兄さんたちは余裕そうでしたね。前はそんなに大変だったんですか?」
「そりゃもう、前衛は俺とメシャ、ニケにガルバッド、そしてゼロスぐらいだ。これだと、7匹ぐらいの相手がいいとこだな。単発なら10匹くらい、どうってことねえけど、あいつら次から次へと湧いてくるんだ」
「そうそう、短時間に何回も襲撃されて、ヘトヘトになったよね~」
ルーアンたちが遠い目で語る話を、俺は少し訂正する。
「いや、あれでもまだましな方なんだぜ。ルーアンたちが仲間になる前は、5人だけでやってたんだから」
「あのときは、たいへんだったでしゅ」
「そんな時もありましたね」
「うむ、大変じゃった」
「クエ~」
最も苦しかった時期を、古参メンバーが思い出し、疲れたような顔になる。
その話に新人たちが引いていると、ルーアンはこの先の魔物を列挙して、さらに危機感をあおる。
「俺たちが加わってからも、短刀猪や暴走牛が出てきて、心の休まる暇は無かったんだぜ。しかも9層では、守護者が外に出てきやがったからな」
「あ~、あの時はマジで、死んだと思ったな~」
「うむ、儂もじゃ」
するとニケがすっくと立ち上がり、拳を握って力説する。
「だけどあのときも、タケしゃま、たすけてくれたでしゅ。すごかったでしゅ」
「え、どうなったんですか?」
ザンテが不思議そうに訊けば、ニケやルーアンが当時の様子を語る。
彼らの迫真の説明に、バタルやザンテが顔をひきつらせていた。
「タケアキさん、すごかったんすね」
「うへ~、よく生きてますね、みんな」
そんな彼らの視線がこそばゆくて、俺は正直な気持ちを白状する。
「いや、俺もニケが傷つけられて、ブチ切れただけだからな。よく覚えてないんだ」
「エヘヘ、ニケのために、おこってくれたでしゅ」
ニケが嬉しそうに寄ってきたので、また頭を撫でてやると、彼女は表情をゆるめて、尻尾をフリフリする。
そんな彼女を見ていると、俺はニケのためなら、なんだってできると思えてくる。
するとレーネリーアが、俺たちをからかうように言う。
「ウフフ~、タケアキはニケちゃんが、本当に大事なのね~。でも今のタケアキだったら、もっとすごいことになっちゃうんじゃない~?」
「フフフ、そうですね。なにせ今は、上位精霊のテティスとも契約してますから。辺り一面が氷漬けになっても、不思議ではありません」
「あ~、そうだね。”精霊暴走”はコントロールできないから、否定はできないな」
アルトゥリアスにも物騒さを指摘されても、俺は苦笑いするしかなかった。
願わくば、あんな場面には2度と出会いたくないものだが。




