71.中級冒険者へ
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新人たちが兵士蟻の相手に慣れたので、いよいよ5層へ進む。
ここは毒を持つ殺人蜂が徘徊する場所で、通常ならとても危険な階層だ。
しかし魔導砲を持つ俺たちにとっては、さほど困難でもない。
――ズドンッ!
俺の撃った散弾に当たり、何匹かのキラービーが落ちてくる。
すると前衛陣がそこへ駆け寄り、武器でとどめを刺していた。
「相変わらず、便利な武器ですねぇ」
「まあ、ここぐらいの敵が相手ならね。あ、あの辺のハチをこっちに寄せてくれるかな」
「はいはい、『風流手腕』」
アルトゥリアスが精霊術を行使すると、風がキラービーに干渉して、あるポイントに集められた。
すかさず俺がそこへ散弾をぶち込めば、さっきよりも多くのキラービーが落ちてくる。
それにとどめを刺しながら、バタルがぼやいた。
「なんか、想像してたのと違うっす」
「そうぼやくな。以前はもうちょっと手間だったんだが、アルトゥリアスのおかげでまた楽になってやがる」
「こんなことができるようになったのも、タケアキのおかげですけどね」
「タケアキさん、アルトゥリアスさん、すごいです!」
「いやいや、アルトゥリアスの研鑽の賜物だって」
こんな感じで、キラービーの大群に遭遇しても、ほとんど危なげなく進めていた。
普通はここで多くの死傷者が出ると教えていたので、新人にとっては拍子抜けだ。
もっともそれは、アルトゥリアスが新しい術を開発したため、より楽になっていたのもある。
”風流手腕”は風を操って遠方の対象に圧力を掛ける術で、キラービーのような飛行体の位置を調整しやすい。
見えない手によって集められた敵に散弾をぶち込めば、より効率が良いのは当然だ。
結局その日のうちには5層を縦断し、6層で夜営することができた。
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翌日は朝から6層の探索だ。
手持ちの地図に従って進み、暗殺蟷螂の待ち受ける空間にたどり着く。
いつもどおりに地精霊に偵察を頼むと、敵の存在を教えてくれた。
以前はマンティスの存在を確認してもらうだけだったのが、今は敵のおおまかな位置まで把握できる。
親和度の上昇で、コミュニケーション能力が上がったおかげだろう。
「よし、敵は2匹で、こことこの辺にいるらしい。こっちはニケとルーアン、メシャに任せるから、新人はこっちを攻撃だ。ガルバッドとアルトゥリアス、そして俺は新人をサポートするね」
「よろしくお願いするっす」
「がんばります!」
俺の指示に従い、まずニケたちが突っこんだ。
彼らはまっすぐに目標地点へ走ると、ガイアがマンティスをあぶり出す。
「キシャーッ!」
「ハハハ、もうあんまり怖くねえな」
「さっさとたおす、でしゅ」
「ごめんね~」
彼らが果敢に戦闘に突入するのを横目に、新人たちも敵に接近する。
ここでまたガイアが、マンティスの偽装を暴いた。
「キシャッ!」
「うわ、本当に出てきた」
「全然わからなかったです」
「本当ね~。とりあえず動きを止めるわよ~。『地草束縛』」
レーネリーアの精霊術で地面に生えている草がニョキニョキと伸びて、マンティスの足を絡め取ろうとする。
しかしそれを察したマンティスが、カマを振り回して草を切断してしまった。
考えてみれば当たり前のことだが、レーネリーアが不満をもらす。
「え~、そんなのあり~? ずるいわよ~」
「たしかにずるいっす」
「フハハハッ、こういうこともあるわい。お前らは反対側から攻撃してくれんか」
「了解です!」
「うっす、姉さんには引き続き、足止めをお願いするっす」
バタルとザンテは元気に駆け出して、マンティスの反対側に回ろうとする。
こちら側では、ガルバッドが盾を構えて敵を牽制する後ろで、レーネリーアが術を行使していた。
「えいっ、『地草束縛』……あ、また切られちゃった。『地草束縛』」
マンティスはスパスパと草の蔓を切断していたが、レーネリーアもそれに負けない速度で術を繰りだす。
ここには豊富に草木が存在するため、植物魔法にはあまり魔力を必要としないのが幸いだ。
やがて蔓草を処理しきれなくなったマンティスの足が縛られ、徐々に動きが鈍ってきた。
「やあっ!」
「とうっ!」
そこへバタルとザンテが攻撃を加えれば、さすがのマンティスも防ぎきれない。
数分間の戦闘の結果、とうとうマンティスが地に崩れ落ちた。
「フウッ、思ったよりも手こずったっす」
「ハァッ、ハァッ……僕も疲れました」
「ウフフ、2人ともご苦労様~。でもよくがんばったわよ~」
肩で息をしながらも、満足そうな顔をするバタルとザンテ。
珍しくレーネリーアも、彼らをねぎらっている。
すると彼らを補佐していたガルバッドも、彼らを褒めた。
「うむ、2人ともよくやったぞ。特にザンテの伸び幅が大きいの」
「エヘヘ、本当ですか?」
「うむ、つい数週間前まで、狩りをしたことがなかったとは、とても思えんほどじゃ」
「ああ、ほんとだよね。体つきもずいぶん、ガッシリしてきたし」
「はい、いっぱい食べさせてもらってますから。今は最高に幸せです!」
ザンテはそう言いながら、力こぶを作ってみせる。
ついこの間までは、ヒョロヒョロのガリガリだったのに、ずいぶんと変わるものだ。
すると今度はアルトゥリアスが、バタルを褒める。
「バタルの動きもなかなかでしたよ。ザンテが動きやすくなるよう考えているのが、さすがですね」
「うす、俺は経験者っすから」
「兄さん、ありがとうございます!」
ちょっと顔を赤らめているバタルがかわいい。
そんな彼に素直に礼を言えるザンテも、気持ちのいい存在だ。
結局その日は一日中マンティスを狩り、守護者部屋の近くで夜営となった。
「今日の新人たちだけど、どう思う? 中級の認定、受けられるかな?」
「ああ、問題ないんじゃねえか? ちょっと前の俺より、強いくらいだぜ」
「アハハ、そうだね~」
「うむ、いけるんじゃないかのう」
「そうですね。おそらく大丈夫でしょう」
「たぶん、だいじょぶでしゅ」
どうやら先輩たちの見解は一致したようだ。
「それじゃあ明日は、守護者に挑戦だね。みんながんばるように」
「うす、がんばるっす」
「はい、がんばります」
「あらあら~、楽しみね~」
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一夜明けて朝食を済ませると、俺たちは守護者部屋の前に集合した。
「それじゃあ、俺たちは配下のマンティスを押さえるから、新人だけでクイーンを倒すこと。念のため、アルトゥリアスはサポートに回ってくれるかな」
「了解っす」
「はいっ!」
「よろしくね~、アルトゥリアス」
「ええ、よろしく」
いつものように扉を開けると、クイーンマンティスと共に、2匹の配下が現れた。
それをまずは、アルトゥリアスの”突風”で敵を牽制すると、ルーアンたちが配下に向かっていく。
すかさず前に出てこようとするクイーンには、レーネリーアの”地草束縛”がその足を鈍らせた。
当然、クイーンのカマにスパスパ切られているが、バタルとザンテがそこへ斬りかかる。
「えいっ!」
「やあっ!」
「キシャーッ!」
クイーンが威嚇してくるも、バタルたちはひるまない。
懸命に攻撃を繰り出し、それをレーネリーアが魔法でサポートする。
しばしば危ない場面もあったが、そこはアルトゥリアスが魔法と弓矢で補助していた。
やがて俺たちが配下を始末する頃には、すでにクイーンも息絶え絶えだ。
「これで最後っす」
「キシャッ……」
最後はバタルの一撃で、クイーンにとどめが刺された。
しばらくもがいていたクイーンは、2度と動かなくなった。
「やったっす」
「やりましたね、兄さん!」
「ウフフ~、これで私たちも、中級冒険者ね~」
そこにいるのは、すでに一端の冒険者たちだった。




