70.まずは下級冒険者
新人を加えてからの迷宮探索は、順調に推移していた。
最初はひどく危なっかしかった猫人のザンテも、メキメキと実力をつけ、魔物と渡り合うようになった。
おかげで2,3層も数日でクリアして、とうとう守護者戦へ挑むこととなる。
「てしたは、まかせるでしゅ」
「お前たちは、リーダーだけに集中すればいいからな」
守護者の部屋へ踏み込んだ途端、ニケとルーアンが飛び出した。
そして彼らは全く危なげなく、リーダー以外のワーウルフを倒してしまう。
その間にレーネリーアは地面に種を撒き、古代語を唱えていた。
『地草束縛』
「ガウッ!」
超常の力によって瞬く間に成長した蔓草が、ワーウルフリーダーの足を絡め取った。
「うおーっ!」
「わーっ!」
今度はバタルとザンテが、自らを鼓舞するように叫びながら、敵に向かっていく。
まずバタルが胴体に斬りつけると、リーダーがひるんだ。
その隙にザンテがすれ違いざま、敵の太腿を斬りつけた。
「グアッ」
さすがに致命傷とはいかないが、それなりにダメージを受けたリーダーの動きが鈍る。
するとまたもやバタルが敵に襲いかかり、手傷を与えた。
その後もレーネリーアの支援を受けながら、バタルとザンテがヒット・アンド・アウェイを繰り返す。
やがて屈強なワーウルフリーダーも、哀れ地に崩れ落ちた。
「お疲れ、お疲れ。3人とも上出来だったよ」
「おう、敵の攻撃を受けなかったのも、合格だったな。この分ならザンテも、見習いを卒業できそうだ」
「エヘヘ、そうですか? なんか嬉しいです」
俺が彼らをねぎらえば、ルーアンはザンテを持ち上げる。
それだけではちょっとかわいそうだと思い、俺はバタルをフォローした。
「バタルもすごかったじゃないか。ザンテが攻撃しやすいように、間合いを取ってただろ?」
「うす、自分は先輩なんで、当然っす」
「まあ~、立派になったわね~、バタル」
「わぷっ、やめて欲しいっす、姉さん」
いっちょ前に謙遜してみせるバタルの頭を、レーネリーアが抱き寄せてかき回す。
予想外の行動にあせるバタルの姿がおかしくて、みんなで笑いあった。
やがてそんな興奮もおさまると、守護者の魔石を採ってから地上へ帰還した。
地上へ出るとすぐ冒険者ギルドへ寄り、新人たちの昇格と、ザンテの正規登録を申請した。
俺たちの信用もあってか、レーネリーアとバタルは下級冒険者に昇格し、ザンテも即座に実技試験を受けられた。
もちろんザンテは試験に合格し、正規の冒険者証を手に入れる。
しかも試験の結果を考慮され、一気に8等級だ。
鉛色のプレートを掲げるザンテの顔は、とても誇らしそうだった。
その晩はもちろん、自宅で昇格祝いをした。
「新人の昇格を祝って、乾杯!」
「「「かんぱ~い」」」
みんなでにこやかに乾杯をすると、それぞれに飲み物を干す。
「きゃ~、昇格後の1杯は格別ね~」
「うす、今までで、一番うまい酒かもしれないっす」
「僕もこんなに早く正規の冒険者になれて、感激です。ハグハグ」
それぞれに昇格を果たした新人が、喜びの声を上げる。
それを聞いた俺たちも、彼らにねぎらいの言葉を送った。
「うんうん、みんながんばったからね」
「だな。特にザンテなんて、びっくりするくらい、なじんでるもんな」
「そうそう~、あんなに弱々しかったのが、たくましくなったね~」
「バタルの立ち回りも、見事でしたよ。ザンテの戦いやすいように、サポートしていましたからね」
「うむ、それにレーネリーアの魔法も、地味に貢献しておるぞ。植物魔法というのも、侮れんのう」
「みんな、つよくなったでしゅ」
「クエ~」
その晩はみんなで楽しく歓談し、気持ちよく眠ることができた。
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翌日からは、さっそく4層へ潜った。
久しぶりに草木の茂る空間に足を踏み入れると、兵士蟻に出迎えられる。
「キシキシキシ」
「ソルジャーアントだ。3、4匹だけ残して、始末するぞ」
「おう、任せろ」
「ひさしぶりでしゅ」
「今なら、ちょろいもんじゃ」
まずはルーアン、ニケ、ガルバッドが先行し、アントの数を減らす。
やがて残った4匹のアントを相手に、新人の戦いが始まった。
『地草束縛』
「キシッ!」
ところどころに生えている草を操り、レーネリーアがアントの足を縛る。
たちまちに動けなくなった敵に、バタルとザンテが突進した。
「姉さん、感謝するっす」
「ありがとうございます!」
ちゃんとレーネリーアに礼を言いつつ、彼らがアントに斬りつける。
最初はその甲殻の硬さに驚いていたが、やがてその隙間を狙うようになる。
おかげでさして経たないうちに、ソルジャーアントは駆逐された。
「お疲れさん。どうだった? ソルジャーアントは?」
「最初は硬くて、驚いたっす。だけど落ち着いて隙間を狙えば、大したことないっすね」
「ちょっと手がしびれたけど、なんとかなりました」
けっこう余裕そうな2人に、レーネリーアが釘を刺す。
「それは私が敵を足止めしてたからよ~。油断はしないようにね~」
「それはもちろんっす」
「はい、レーネ姉さん、ありがとうございます」
珍しくまともなことを言うレーネリーアに苦笑しながら、アルトゥリアスが彼らをフォローする。
「フフフ、レーネリーアの言うとおりですね。しかしバタルとザンテの動きは悪くないので、徐々に補助を減らしましょうか。思う存分にやってみるといいですよ」
「うっす、がんばるっす」
「はい、がんばります!」
その後は4層を回りながら、ソルジャーアントを狩りまくった。
アルトゥリアスの方針どおり、少しずつ先輩の補助を減らし、新人たちに思うようにやらせてみる。
するとバタルとザンテは水を得た魚のように、迷宮を駆け巡っていた。
レーネリーアもそれをよくサポートし、5匹ぐらいなら新人だけでこなせるようになる。
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その晩はまた自宅で彼らをねぎらう。
「今日はみんな、がんばったな。身体の方は大丈夫か?」
「うす、平気っす」
「はい、疲れたけど、まだ大丈夫です。ハグハグ」
「私は疲れたわ~。明日はお休みにしない~?」
年少組は平気な顔をしているのに、レーネリーアが弱音を吐いている。
そんな彼女を、アルトゥリアスがたしなめた。
「レーネリーア、お疲れなのは分かりますが、もう少しつき合ってあげればどうですか?」
「え~っ、私だってけっこうがんばってるのよ~。働きすぎはよくないわ~」
年甲斐もなくだだをこねるレーネリーアに、俺がフォローを入れる。
「それなら明日の足止めの半分は、俺がやるよ。それならいいだろ?」
「う~ん……タケアキにそう言われては、断れませんね~。分かったわ~。私もがんばってみる~」
「面倒かけてすまないっす、姉さん」
「いいのよ~、バタル。私はおねえちゃんだから~」
すかさず謝るバタルに、笑顔を返すレーネリーア。
しかしレーネリーアはおねえちゃんどころではなく、バタルの10倍は生きているんだが。
幸いにも誰もそこには触れなかったため、夜は静かにふけていった。




