69.上級を目指して
レーネリーア、バタル、ザンテという新人をパーティーに加え、俺たちはベルデン迷宮の探索を再開した。
しかし10層以下に潜るには、3、6、9層の守護者を突破させねばならない。
そこで俺たちは新人の鍛錬を兼ねて、彼らのパワーレベリングをしていた。
『地草束縛』
「やあっ!」
「えいっ!」
まずレーネリーアが地面に種を撒き、それを起点に植物魔法を行使した。
植物の生えていないこの階層だが、植物魔法によって草が急成長し、敵に絡みついたのだ。
これによってゴブリンを足止めし、バタルとザンテがトドメを刺していた。
レーネリーアも強化度を上げるため、しばしば弓矢を使っている。
それでも彼らが倒しきれない数が出てくると、その相手は俺たちがする。
とはいえ、経験者にとってゴブリンは、腹ごなしにもならない相手なので、俺たちはすっかり見物気分だ。
「ザンテ、今のは悪くなかったぞ。だんだんと剣を振るのが、様になってきてる」
「本当ですか? ありがとうございます!」
朝から続けているので、だいぶ疲れているだろうに、ルーアンに褒められたザンテが、顔を輝かせる。
その横で、すでに戦闘経験の豊富なバタルは、少し物足りなそうな顔をしていた。
「物足りないか? バタル」
「いえ、そんなことないっす」
「別に隠さなくていいよ。狩りの経験があるバタルからすれば、こんなのどうってことないだろ?」
「そりゃまあ、そうっすけど……」
そう認めつつも、バタルはニケの方をチラッと見た。
それに気がついたニケが、問いを放つ。
「なんでしゅか?」
「いや……俺ってけっこう、歳のわりには強いと思ってたんすけど、上には上がいるなって」
「ふえ、あたしのことでしゅか?」
ニケはあまり自覚がないのか、不思議そうな顔をする。
俺はそんな彼女の頭をポンポンと叩きながら、バタルに教える。
「アハハ、たしかに。ニケの動きを見たら、自信をなくすかもしれないな。だけど彼女はまがりなりにも、11層まで行った上級冒険者だ。強くて当然だよ。逆にバタルも、彼女と同じ希少種かもしれないんだ。努力をすれば、すぐに追いつけるさ。いや、身体が大きいぶん、もっと強くなれるかもしれないな」
「その希少種って、よく分かんないんすけど、なんなんですか?」
「ああ。特に獣人種で、極端に毛色の違う人のことを言うんだ。過去にそういう人たちが、驚異的な働きをしたみたいだね。もっとも、成長が遅かったり、他人からいじめられるんで、早死にする場合が多いらしいんだけど」
「嫌な話っすね……」
身も蓋もない話をしたら、バタルが嫌そうな顔をした。
するとザンテがその話に、食いついてきた。
「それ、すっごい分かります。僕も生きてくの、大変でしたもん」
「アハハ、ザンテが言うと、説得力があるよな」
「そうなんですよ。あんまりひもじいんで、腐りかけの食べ物とか、毒かもしれないキノコとか、食べましたもん」
「よく生きてんなっ!」
大真面目な顔で悲惨な体験を語るザンテに、ルーアンが突っこんでいる。
本当によく生き残ったものである。
しかしそんなことを言いながらも、ひねくれた感じのないザンテはさすがだ。
このまま健全に育って欲しいものである。
そう思っていたら、バタルも重い話を始めた。
「あ、俺も毛色が違うんで、よくいじめられたっす。そして最後は親に森の中に置き去りにされて、死にかけてたのを姉さんに助けてもらったんすよね」
「おめえもかよっ!」
ルーアンが今度はバタルに突っこんでいた。
するとレーネリーアが、当時のことを回想する。
「そうなのよね~。あの時は私も驚いたわ~。だけど私と出会ったおかげで、その後はちゃんと食べれるようになったのよ~」
エヘンと胸を張るレーネリーアに、バタルがボソリと反論する。
「その代わり、家事はほとんど俺がやってたんすけどね」
「オホホホ、人には向き不向きがあるから~」
レーネリーアが都合よくごまかそうとすると、アルトゥリアスが先を促した。
「さあ、おしゃべりはそれくらいにして、探索に戻りましょう。まだまだ先は長いんですよ」
「ちげえねえ。みんな、行こうぜ」
こうして俺たちは探索を再開した。
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夕方までめいっぱい新人にゴブリンを狩らせてから、俺たちは家へ戻ってきた。
そして新人の働きをねぎらうため、その晩は腕によりをかけて、ガルバッドが料理を作る。
ちなみにメシャとニケも普段から手伝っているが、レーネリーアは全くやる気はなさそうだ。
「それじゃあ、新人諸君の奮闘に乾杯」
「「「かんぱ~い」」」
それぞれに酒やジュースを飲みながら、料理に手を伸ばす。
「ハグハグ……美味しいですっ!」
「あい、きょうもごきげんでしゅ。モグモグ」
ザンテとニケが、すごい勢いで料理をたいらげていく。
特に2人はお肉が大好きで、この身体のどこに入るんだというくらい、たくさん食う。
そんな彼らを見ながら、ルーアンが上機嫌で話しかけた。
「おう、今日もいい食いっぷりだな。おかげでザンテにも、少し肉が付いてきたな」
「はいっ、今までで最高に食べさせてもらえるので、本当に幸せです! ハグハグ」
元気よく答えるザンテは、たしかに肉づきが良くなってきた。
前はガリガリで張りの無い肌が、ふっくらと健康的になっている。
「ハハハ、そうか。ところで魔物狩りの方は、どうだった?」
「もうだいぶ慣れました! ハグハグ」
「ほう、そうか。それだったら、明日は2層へ行ってもいいかもな」
「はい、バタル兄さんにも申し訳ないので、下へ行きたいです。ハグハグ」
健気なことを言うザンテに、バタルが驚いた顔をする。
「……俺のことなんか、気にしなくていいぞ、ザンテ」
「いいえ、僕も早く強くなりたいんですよ、兄さん。ハグハグ」
その言い方は、決して無理をしている感じでは無かった。
すると珍しくニケが、頼もしいことを言う。
「いまのザンテなら、2そうでもやれるでしゅ。みんなで、カバーするでしゅ。モグモグ」
「ふむ、ニケも言うなら、やれそうか。どうせ2層の犬頭鬼なんて、ゴブリンに毛が生えたような奴らだからな」
「まあ、そうだな。よし、明日はとっとと2層へ行って、コボルドを狩ろう」
「はいっ、楽しみです。ハグハグ」
こうして翌日からは2層へ行くことが決まった。
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翌日は予定どおり、早々に2層まで行く。
そしてコボルドと戦わせたのだが、予想以上にザンテはがんばっていた。
「えいっ!」
「キャイン」
現れるコボルドに積極的に駆け寄って、1刀の元に切り捨てたのだ。
なんだか昨日よりも動きが良くなっている気がする。
「なんか、昨日よりもずっと動きがいいよね?」
「はいっ、なんだか体が軽いです!」
なんとなくつぶやいた俺の言葉に、ザンテが元気よく答える。
やはり体が軽いらしい。
「う~ん、昨日の今日で、変わりすぎじゃない?」
「そうだな。だけど調子がいいなら、いいんじゃねえか? たっぷり飯を食ったうえに、戦闘経験を重ねたんで、急成長してるとも考えられるし」
「まあ、そんなとこだろうね。やっぱりザンテも希少種だったってことか」
「ああ、それはありそうだな」
「早く早く、次へ行きましょう」
そんな話をルーアンとしていたら、ザンテにせかされた。
早く戦いたくて、仕方ないらしい。
「まったく、あまり先走りしねえよう、目を光らせないとな」
「そうだね。慎重に行こう」
俺たちは苦笑しながら、ザンテの後に続くのであった。




